- 作成日 : 2025年1月14日
ROEとROICを解説!それぞれの違いやROICの活用方法について
会社経営において、売上や利益だけを追求しているという方もいらっしゃるかもしれません。もちろんこれらも重要な要素ですが、同時に「どれだけ効率的に資金を活用して利益を上げているか」という点も重要なポイントです。そこで注目したいのが、ROEやROICという指標です。
あまり耳慣れない用語かもしれませんが、この指標を理解することで、会社が本当に儲かっているのか、また、どのように資金を使えばより効率的に成長できるかが明らかになります。
本記事では、ROEとROICの基本的な概念から、経営においてどのように活用できるかまでをわかりやすく解説していきます。
目次
ROEとROICとは
ROEとROICは、企業の経営効率や収益性を評価するための重要な指標です。
投資家や経営者が企業の収益性を測るために広く活用されており、企業がどれだけ効率的に資本を運用しているかを示します。
ROEとは
ROEは株主の視点から企業の収益性を評価する指標で、自己資本(=株主資本+評価・換算差額等(*1))に対して企業がどれだけの最終利益(当期純利益)を生み出しているかを示します。
ROE=当期純利益÷自己資本×100
(*1)評価・換算差額等:当期の損益に影響を与えない資産や負債の評価差額(例:為替差損益や保有資産の評価額変動)を純資産に計上するために設けられた項目
ROICとは
ROICは経営者の視点で企業の収益性を測る指標で、自己資本に加えて、金融機関からの借入れ(有利子負債)を含めた全ての投下資本に対する利益(営業利益)を表します。
ROIC=(営業利益×(1-実効税率))÷(自己資本+有利子負債)
実効税率とは法人税、住民税、事業税などについて企業が実質的に負担する税率のことです。
それぞれの違い
ROEは株主目線で、ROICは経営者の目線で収益性を測るという点が異なります。
いずれもP/L(損益計算書)項目(当期純利益や営業利益)だけでなく、B/S(貸借対照表)項目(自己資本や有利子負債)も含んだ経営指標です。
同様にP/L項目とB/S項目を含む指標には、「ROA(総資産利益率)」も挙げられます。
ROA=利益÷総資産
こちらは企業の全資産に対する収益性を測る指標です。ROAについては以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
ROICを活用するメリット
ROICを活用することで、主に3つのメリットがあります。
メリット1:各セグメント単位で管理が可能
ROICを使用するメリットの一つは、セグメントごとに管理できる点です。
セグメントとは、ビジネスにおいて特定の基準で分けられたグループを指します。例えばある会社が鉄道業・ホテル業・不動産業など複数の事業を営んでいる場合に、事業毎に分けてそれぞれをセグメントとするケースが考えられます。
ROICはセグメントごとに数値を計算できるため、企業全体だけでなく、各事業や部署ごとの詳細な目標設定が可能です。
メリット2:ROAの課題を克服できる
ROICのもう一つのメリットは、ROAが抱える課題を克服できる点です。
ROAは総資本を基準に計算されるため、仮に取引先との交渉で支払いを遅らせることができた場合でも、買掛金がそのまま総資本に含まれて支払サイトの長短に関わらず同じ数値となってしまうという課題があります。
しかしROICは投下資本を基準に計算するため、上記の課題を克服できるというメリットがあります。
メリット3:資金調達が容易になる
ROICを活用することで資金調達がしやすくなる点も大きなメリットです。
ROICを使えば、投下資本をどれだけ効率的に利益に変えているかを、投資家や金融機関に具体的に示すことができるからです。
ROICの数値が良好であれば、投資家からの出資や金融機関からの融資が受けやすくなるでしょう。
ROICの活用について
ここでは、ROICのメリットを活かした活用シーンなどについて説明します。
ROICとWACCの関連性
資金調達の観点では、ROICは有利子負債と株主資本に対してどれだけ利益を生み出しているかを示す指標だといえます。
有利子負債や株主資本は、資金提供者から見返りを求められるため、企業側にはそれらに対する調達コストが発生します。したがって、事業の価値を生み出すには、そのコストを上回る収益を上げる必要があります。
この基準値を「ハードル・レート」といい、株主資本コストと有利子負債コストの加重平均で計算される「WACC」(加重平均資本コスト)で表されます。
つまり、ROICは最低でもWACCを上回ることが求められます。
ROICは業績評価に役立つ
ROEは企業全体の業績を示す指標である一方で、ROICは各ビジネスユニットの収益性を示すこともできます。このためROICを活用した分析は、経営判断の補助として、各カンパニーや事業部の適切な業績評価に役立つと考えられます。
日本においてROICが軽視されがちな理由
ROICはROEに比べ、よりセグメントごとの業績評価に適しているという面があるにも関わらず、日本において浸透しているとはいえない状況です。
日本においてROICが軽視されがちな理由は、以下のとおりです。
- 経営層が資本コストや資本効率の重要性について十分理解していない
- ROEやROAに比べて計算が複雑である
- 事業別のB/Sが作成されておらず、ROICを計算するために必要な投下資本を把握できない
特に3番目については、一部の勘定科目(仕入債務や共通の固定資産など)に対して按分計算を行うことが望ましいとされています。
ROICを推進するための重要なポイント
ROICを推進する上で押さえておきたいポイントは、以下のとおりです。
トップダウンでの推進
経営トップが、ROICの内容や必要性、導入によって期待される効果を十分に理解し、トップダウンで推進することが重要です。
仕組みの構築
ROICの評価期間を、単年度ではなく3~5年の中期に設定し、事業部門が投資を抑制しにくい環境を整えることが必要です。
この場合には評価期間と製品ライフサイクル(製品が発売されてから市場で販売されなくなるまでの期間を指す。消費者がその製品を購入できる期間のこと)との整合性に留意することが求められます。
ROICの活用における注意点
ROICを活用する際には、いくつかの注意点を理解しておくことが重要です。注意すべき落とし穴や、誤解を避けるための視点について解説します。
ROICは現場レベルでの理解が難しい
ROICには有利子負債といった馴染みのない用語が含まれており、貸借対照表の項目に焦点が当たるため、現場への浸透が難しいというデメリットがあります。
投下資本の把握には事業用の資産・負債への着目が重要
銀行から借り入れた金額は有利子負債として計上され、株主からの資金は株主資本(または純資産)として貸借対照表の貸方に記載されます。
貸借対照表から見ると、非事業用資産が存在しない場合、投下資本である「有利子負債と株主資本」は「事業用資産から事業用負債を引いたもの」と一致します。この関係性は、ROIC経営を各部門に浸透させる上で非常に重要です。
事業部や各部門にアクションプランを落とし込む際には、投下資本を有利子負債と株主資本の合計としてではなく、事業用資産から事業用負債を引いた形で捉えることが重要です。
これにより、投下資本を減少させるために製造工程にある棚卸資産を削減するといった具体的なアクションを考えることが可能になります。
まとめ
ROEは株主の視点から企業の収益性を評価する指標であり、ROICは企業が事業活動のために投入した資金(投下資本)をもとに、どれほど効率よく利益を生み出しているかを測る指標です。
ROICを上手く活用すれば、収益を上げるための改革やビジネスのスピードの向上につながると考えられます。
ROICを用いることで、より緻密な目標設定・業績評価が可能になります。
今回の記事をきかっけに、ROICという新たな視点から、事業について再度検討してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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