- 作成日 : 2025年5月7日
建築設計の業務委託契約書を作るには?例文・テンプレートを紹介
建築設計の業務委託契約書は、建築主(施主、建築会社など)が設計事務所や建築士へ建物の設計を外注する際に締結する契約書です。この契約を締結して、建物の設計が実際に進んでいきます。この記事では建築設計業務委託契約書の書き方を項目ごとに具体例に紹介し、トラブルを防ぐポイントについてもご紹介します。
目次
建築設計の業務委託契約とは?
建築設計の業務委託契約は、建物の基本設計・実施設計を外部の設計事務所や建築士に委託する際に締結する契約です。業務範囲や報酬、著作権帰属、責任範囲を契約書で定義し、両者が署名押印することで法的効力を確保します。
建築設計の業務を委託するケース
建築設計の業務委託契約が必要となるケースは、企業が自社内に専門の設計部署を持たない場合や、特定の建築工事において外部の設計士に依頼する際などが挙げられます。
建築設計業務委託契約書は特に大きな建物の設計を委託する際には必ず締結しなければなりません。建築士法第22条の3の3では、延べ面積が300㎡を超える建築物を設計する際には、契約内容を書面で交付しなければならないと定められています。なお、300㎡以下の建物であっても、後々のトラブルを防ぐためには書面でしっかりと契約を締結するのが望ましいです。
第二十二条の三の三 延べ面積が三百平方メートルを超える建築物の新築に係る設計受託契約又は工事監理受託契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
一 設計受託契約にあつては、作成する設計図書の種類
二 工事監理受託契約にあつては、工事と設計図書との照合の方法及び工事監理の実施の状況に関する報告の方法
三 当該設計又は工事監理に従事することとなる建築士の氏名及びその者の一級建築士、二級建築士又は木造建築士の別並びにその者が構造設計一級建築士又は設備設計一級建築士である場合にあつては、その旨
四 報酬の額及び支払の時期
五 契約の解除に関する事項
六 前各号に掲げるもののほか、国土交通省令で定める事項
業務委託契約と正社員との違い
正社員の社内設計者は就業規則に従い設計業務を行い、成果物の知財は会社に帰属します。一方、外部設計者との業務委託は、その設計者が作成した成果物を納品することとなり、著作権の帰属や再利用制限を条文で定めなければ、設計者に権利が残ると見なされる可能性があります。
また、正社員は雇用主の指揮命令下で働きますが、外部の設計事務所や建築士は独立した存在です。委託先に就業時間を指定したり、業務手順を細かく指示したりするなど、指揮命令が強過ぎると偽装請負と判断される恐れがあります。
業務委託契約の種類
業務委託契約には成果物の提出を約束する請負契約、業務の遂行を委託する準委任契約、法律行為を委任する委任契約という3種類の形態があります。
例えば実施設計図の納品を求める場合は請負契約、法規調査や概算見積作成などプロセスが重視される業務を委託する場合は準委任契約、役所協議代行や公的手続きの代行など法律行為に近い業務を依頼する場合は委任契約というように、委託する業務に応じて契約の形態を選びましょう。
業務委託契約書はどちらが作成する?
発注者が契約書の内容を起案し、設計事務所がそれに合意するのが一般的ですが、公共工事では国土交通省標準約款をベースに設計者側がドラフトを作成・提示することもあります。どちらが作成しても、契約書を双方が確認のうえ、署名(電子契約であれば電子署名)し、紙の契約書の場合は収入印紙を貼付すれば法的効力が確保できます。
建築設計の業務委託契約をするメリット・デメリット
設計業務を外部の設計事務所や設計士に依頼することで、依頼者・設計者側双方にさまざまなメリット・デメリットがあります。以下で立場ごとに見ていきましょう。
業務委託をする側のメリット・デメリット
発注者側の一番のメリットは、やはり社内に設計部門を持たずとも高い専門性を持った人材を活用できることです。人件費を最適化でき、必要なときだけ設計士の力を借りることができます。また、BIMや省エネ解析など最新ツールを活用できる点も大きな魅力です。
デメリットとしては経費がかさむ可能性がある点が挙げられます。特に設計変更が頻繁にあると、そのたびに追加報酬が発生し総額が膨らむ可能性があります。また、正社員の設計士であれば進捗管理がしやすいですが、外部の設計士は独立した存在であるため、連携を緊密にとらないと納期遅延や設計間違いにつながるリスクが高くなります。
設計を請負う側のメリット・デメリット
受注側のメリットは多様な案件を請け負えることです。設計士としてさまざまな経験が積め、実績が増えてスキルやノウハウが身につけば新しい受注にもつながり、収入がアップする可能性もあります。自由な働き方ができるのも大きなメリットです。正社員のように場所や時間にとらわれず働くことができるうえ、仕事のスタイルや進め方も自分で決められるため、独自のクリエイティビティーが発揮しやすいでしょう。
デメリットは経済的リスクが高いことです。独立した設計会社や設計士は当然のことながら仕事がもらえないと収入を得ることができません。また、重大なミスを犯した場合、瑕疵担保責任や損害賠償責任を負わなければならないというリスクもあります。また、発注者から追加要望が多いと工数超過で利益率が低下する可能性があります。やはり建築主としっかりと連携を取って、ニーズを汲み取ることが重要です。
建築設計の業務委託契約書を締結する流れ
建築設計業務委託契約を締結して設計業務がスタートするまでには、大まかに以下のような流れがあります。
- 要件定義:建物用途・延床面積・スケジュールなどを発注者が提示
- 見積・提案:設計者が構想を提案し、業務範囲と報酬を見積り
- ドラフト作成:発注者がひな形をもとに起案し、業務範囲や報酬などの条件や著作権・損害賠償・検査方法を条文化
- レビュー協議:設計者が契約書のドラフトを確認し、必要に応じて条件交渉を行う
- 正式締結:双方代表が署名押印または電子署名をし、必要額の印紙を貼付
- キックオフ:設計条件確認書、工程表、情報共有クラウドなどを設定して業務を開始
建築設計の業務委託契約書のひな形・テンプレート
建築設計の業務委託契約書をスムーズに作成するためには、ひな形(テンプレート)を利用するのが効果的です。契約書を1から作る必要がなくなり、契約手続きをスムーズに進められるでしょう。
ひな形は、そのまま使うのではなく、内容を確認して案件ごとにカスタマイズしましょう。内容を簡単に変更できるワード形式のひな形を選ぶのがおすすめです。
マネーフォワード クラウドでは、契約書のひな形・テンプレートを無料でダウンロードできます。適宜加筆修正して活用してください。
建築設計の業務委託契約書に記載すべき内容
建築設計業務委託契約書には以下のような内容を盛り込みましょう。項目ごとに詳しくご紹介します。
基本情報
建築主、設計者双方の会社名、屋号、もしくは氏名を記載し、両者が設計業務委託契約書を締結する旨を記載します。
業務内容
基本設計・実施設計の範囲、作業方法、提出すべき成果物(設計図、模型、記録など)を具体的に記載し、資料提供の条件についても明記します。
契約期間
「令和〇年○月〇日から令和〇年○月〇日まで」というように、契約期間の開始日と終了日を具体的に明示します。
報酬・支払い
報酬や支払い方法について、金額、支払い時期、振込手数料の負担、請求方法を具体的に記載します。報酬の支払いタイミングごとに金額を記載しましょう。
守秘義務
プロジェクト情報・クライアント名・コストを第三者へ漏洩しない条項を契約終了後も存続させる旨を定めます。
再委託・下請け
設計者側が業務の全部または一部を第三者へ再委託できるかどうかを定め、再委託する場合の承認手続きについて記載します。
著作権・知的財産
設計業務における成果物の著作権の扱いについて記載します。設計者が発注者に無償で譲渡するのが一般的です。
報告義務
建築主が設計者側に対して業務の進捗状況について報告を求めることができる旨を記載します。
契約解除
両当事者が契約解除できる条件について定めます。相手方が不正行為や契約違反行為をしたときなどを条件とするのが一般的です。また、相手方の行為によって損害が発生した際の賠償請求に関しても記載します。
協議
契約書に定めた取り決めでは解決できないような問題が発生した際に、両者が話し合って解決を目指す旨を記載します。
合意管轄
紛争が発生した際に訴えを起こす裁判所を指定します。
署名押印欄
契約書の最後に契約成立日を記載し、両当事者の住所、会社名・代表者名もしくは氏名を記載し、押印します。ここに署名押印した時点で、契約に同意したと見なされます。
建築設計の業務委託契約で確認したいこと
契約締結前には、各項目を再確認し、誤解や後々のトラブル防止のために、以下のポイントを重点的にチェックしましょう。
業務内容の範囲
業務委託契約書においては、基本設計や実施設計の具体的な範囲、業務の進め方、納品物の形式、検収基準などについて明確に記載する必要があります。これにより、依頼内容に対する双方の認識のズレを防ぎ、後のトラブルリスクを低減させることにつながります。
報酬や支払い
報酬に関する項目では、金額や支払いのタイミング、振込手数料の負担、請求方法などを明記します。具体例や記入例を参考にして、契約当初から支払い条件を明確にし、万が一の未払いを防ぐ仕組みが不可欠です。
偽装請負ではないか
契約内容が偽装請負とならないよう、委託業務の内容、業務の遂行方法、労働者派遣法に抵触しない表現など、法的なチェックポイントをしっかりと盛り込み、双方の権利と責任が明確になるよう配慮する必要があります。
損害賠償責任
業務不備による損害発生時の対応策として、損害賠償責任の範囲、賠償の計算方法、免責事項などを具体的に検討しておき、契約違反や品質不足が原因で生じるトラブルのリスク軽減に努めましょう。
収入印紙・印紙税
建築設計業務委託契約書は、印紙税法上の第2号文書(請負に関する契約書)に該当します。従って、記載されている契約金額に応じた印紙税が課されます。契約金額に応じた区分の収入印紙を購入し、契約書に貼付しましょう。
契約金額 | 貼付すべき収入印紙の額 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
1万円以上100万円以下 | 200円 |
100万円を超え200万円以下 | 400円 |
200万円を超え300万円以下 | 1,000円 |
300万円を超え500万円以下 | 2,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 1万円 |
1,000万円を超え5,000万円以下 | 2万円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
参考:印紙税額|国税庁
建築設計の業務委託契約書の保管について
建築士法施行規則第21条の5項では、建築士事務所の業務に関する図書は15年間保管しなければならないと定められています。従って、建築設計業務委託契約書に関しても最低15年間は保管しましょう。紙媒体での保管はもちろん、電子データとしても保存することで、必要時に迅速な確認が可能となり、将来の監査やトラブル対策に役立ちます。
建築設計の業務委託契約書の電子化はできる?
近年はペーパーレス化の流れに伴い、建築設計の業務委託契約書も電子化が進んでいます。電子契約システムを利用することで、契約締結のスピードや効率が向上し、保管や検索が容易になるメリットがあります。
電子化に当たっては、電子署名法や各種法令の基準に沿って行う必要があり、セキュリティ対策にも十分配慮することが重要です。最新の電子契約サービスの導入例や国土交通省のガイドラインと照らし合わせながら、実務に合った運用を検討しましょう。
失敗が許されない建築設計は業務委託契約書を持って依頼しよう
今回は建築設計の業務委託契約書の書き方やポイント、実務上のメリット・デメリット、注意すべき点を詳述しました。契約書はプロジェクトの基盤となる重要な書類です。
特に建築設計は建物のデザインや性能を大きく左右し、設計に基づいて工事が進められるため、建築においては特に重要な要素です。当事者間でしっかりと協議をし、取り決めを契約書に明記し、双方で認識のズレがないようにしておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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