- 更新日 : 2025年7月25日
休日出勤と代休の相殺は違法?割増賃金の仕組みと損しないための対処法を解説
「休日に働いた分、後で代休を取ったから給料はプラスマイナスゼロ」。もし、あなたの会社でこのような相殺の考え方がまかり通っているとしたら、注意が必要です。休日出勤の対価である割増賃金は、代休を取得したからといって消滅するものではありません。
この記事では、労働基準法のルールに基づき、休日出勤と代休の正しい関係性、そして給与が正しく支払われているかを確認するためのポイントを詳しく解説します。
目次
休日出勤の割増賃金は代休と相殺できない
結論から言うと、休日出勤に対して支払われるべき割増賃金を、後から取得する代休によって相殺し、支払わないことは労働基準法違反にあたります。労働と休暇は性質が異なるものであり、単純に相殺することはできません。
労働基準法の考え方
労働基準法第37条では、時間外労働、深夜労働、そして休日労働に対して、会社が割増賃金を支払うことを義務付けています。
休日労働という事実が発生した時点で、会社には割増賃金の支払い義務が生じます。後日、労働者が代休を取得したとしても、それはあくまで恩恵的な措置であり、既に行った休日労働の事実が消えるわけではありません。したがって、割増賃金の支払い義務はなくならないのです。
相殺が認められると労働者が損をする理由
もし相殺が認められてしまうと、労働者はどうなるでしょうか。例えば、法定休日に8時間働いて、後日に代休として8時間休んだとします。相殺されると、給料は普段通りです。しかし、法定休日の労働には35%以上の割増賃金が支払われるべきです。つまり、労働者は本来もらえるはずだった割増賃金分の給料を「損」してしまうことになるのです。これが法律で相殺が認められていない大きな理由です。
間違いやすい!代休と振替休日の違い
代休と混同されやすい制度に振替休日があります。振替休日の場合は、代休と違って割増賃金が発生しないため、この違いを理解しておくことが重要です。
- 振替休日とは
事前に休日と労働日を入れ替える制度です。 例えば、もともと休日だった日曜日を出勤日にし、代わりに次の火曜日を休日にすると事前に決めた場合、日曜日は「労働日」に、火曜日は「休日」になります。そのため、日曜日の出勤は休日労働とはならず、割増賃金の支払い義務は発生しません。 - 代休とは
休日労働が行われた後に、その代償として別の労働日を休みとする制度です。休日労働の事実は変わらないため、割増賃金の支払い義務は残ります。
項目 | 代休 | 振替休日 |
---|---|---|
タイミング | 休日労働が行われた後に休みを取得 | 事前に休日と労働日を入れ替える |
休日労働の扱い | 休日労働になる | 通常の労働日になる |
割増賃金 | 必要(休日労働の事実があるため) | 原則不要(休日労働にならないため) |
事前の手続き | 就業規則等での定めは必要だが、事前の振替指定は不要 | 休日を振り替えることを事前に労働者に通知し特定する必要がある |
※ただし、振替休日を週をまたいで設定した結果、その週の労働時間が40時間を超えた場合は、超えた分に対して25%以上の時間外割増賃金が必要になります。
休日出勤と代休の正しい給与計算
では、実際に休日出勤をして代休を取得した場合、給与はどのように計算されるのでしょうか。ここでは、法定休日と所定休日のケースに分けて、具体的な計算方法を解説します。
ケース1. 法定休日に出勤し、代休を取得した場合
法定休日に労働した場合、会社は35%以上の割増賃金を支払わなければなりません。たとえ後で代休を取得したとしても、この割増分の支払い義務は残ります。
休日出勤日は、通常の賃金(100%)に加え、割増賃金(35%)が支払われます。代休を取得した日は、その日分の労働義務が消滅するため給与は発生しません。給与から差し引かれるのではなく、あくまで代休の日に働かない分の給与が支払われない、ということです。
結果として、割増賃金(35%分)が手元に残ることになります。
ケース2. 所定休日(法定外休日)に出勤し、代休を取得した場合
法定休日とは異なり、所定休日の労働は法律上「休日労働」には該当しません。そのため、法定休日に義務付けられる35%の割増賃金は発生しません。
ただし、多くの企業では36協定に基づいて、所定休日の労働を「時間外労働(残業)」として25%以上の割増賃金を適用しています。実際の扱いは会社の就業規則や36協定を確認することが必要です。
このケースでも代休を取得した場合は、代休の日の給与は発生しませんが、時間外労働分の割増賃金(25%)は支払われます。
休日出勤で損しないために確認すべきポイント
ここでは、自身の権利を守るために確認すべきことや、疑問があった場合の対処法について具体的に解説します。
1. 会社のルール(就業規則・36協定)を確認する
まずは、ご自身の会社のルールを確認しましょう。休日出勤や代休に関する規定は、通常就業規則に定められています。
また、法定休日に労働させるためには、会社と労働者の間で「36協定(時間外労働・休日労働に関する協定届)」を締結し、労働基準監督署に届け出ている必要があります。36協定がなければ、そもそも法定休日に労働させること自体が違法です。
2. 給与明細で手当を確認する
休日出勤をした月の給与明細は、必ず詳細にチェックしましょう。具体的には、休日手当や時間外手当の割増率が正しく記載されているか、代休の日の給与が適切に処理されているかを確認することをおすすめします。 疑問点があれば早めに会社に問い合わせるようにしましょう。
3. 違法な状態なら専門機関に相談する
会社に確認しても改善されない、または相談しづらい場合は、以下の専門機関に相談しましょう。
- 労働基準監督署
全国に設置されている厚生労働省の出先機関です。労働基準法違反の疑いがある場合、会社への調査や指導を行ってくれます。相談は無料で、匿名でも可能です。相談の際は、給与明細やタイムカード、就業規則のコピーなど、証拠となるものを持参するとスムーズです。 - 弁護士
未払いの割増賃金(残業代)請求を代理で行ってもらうことができます。労働問題に強い弁護士事務所では、無料相談を実施している場合も多いです。
休日出勤と代休に関してよくある質問
最後に、休日出勤と代休の運用に関して、多くの人が抱きがちな疑問についてQ&A形式でお答えします。細かい点まで理解を深め、いざという時に備えましょう。
休日出勤は何時間以上から割増賃金の対象?
「ほんの数分だけだから」「キリが悪いから」などを理由に、短時間の休日労働に対して賃金を支払わないことは許されません。
労働基準法第24条では「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と規定されており、一部の端数処理の例外を除き、きちんと支払われる必要があります。 給与明細を確認して疑問があれば、速やかに会社や労働基準監督署などに相談しましょう。
休日出勤が手当なしだった場合の罰則は?
休日労働に対する割増賃金を支払わないことは、労働基準法第37条違反です。これには罰則が定められており、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります(労働基準法第119条)。
代休取得は会社から強制される?
労働基準法には、代休の取得について具体的な規定はありません。そのため、会社の就業規則で「会社が代休を指定して取得させる」旨の規定があれば、労働者の同意なく代休の取得を指示することも可能です。ただし、就業規則にそのような定めがない場合は、原則として労働者の同意が必要となります。 ご自身の会社のルールをよく確認しましょう。
休日出勤の正しい知識で自分の働き方を守りましょう
今回は、休日出勤と代休の相殺というテーマで、労働基準法のルールを基に詳しく解説しました。
休日出勤は、会社にとっても労働者にとってもイレギュラーな事態です。だからこそ、その対価である賃金については、法律に基づいた正しいルールで運用されなければなりません。この記事で得た知識を元に、ご自身の給与明細や会社のルールを改めて確認し、疑問があれば適切な行動を起こしましょう。それが、あなたの正当な権利と健康を守ることにつながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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