- 更新日 : 2025年6月19日
勤怠管理の電子化とは?メリット・デメリットや導入時のポイントを解説
「打刻ミスが多い」「勤怠データの集計に時間がかかる」「残業時間が正確に把握できていない」
こうした勤怠管理の悩みを抱える企業も少なくないでしょう。
近年では、ICカードやスマートフォン、クラウドを活用した勤怠管理の電子化が進み、紙やExcel管理から脱却する企業が増えています。
しかし、電子化にはコストや運用面の不安もつきもので、「どのシステムを選べばよいのか」「導入時に何を注意すべきか」がわからないという声も少なくありません。
本記事では、勤怠管理の電子化に関する基本知識や注意点、導入時のルールを網羅的に解説します。
目次
勤怠管理の電子化とはITを用いてデジタル化すること
勤怠管理の電子化とは、従来の紙のタイムカードやExcel管理から、ICカード・スマートフォン・クラウド型システムなどを活用したデジタルな勤怠管理方法へ移行することです。
電子化により、出退勤の打刻が自動化され、リアルタイムでの勤怠集計や勤務状況の可視化が可能になります。
さらに、シフトの調整や有給休暇の申請・承認をオンライン上で完結できるなど、業務の効率化に直結します。
ただし、勤怠管理の電子化はあくまで「手段」であり、本来の目的は次の3つです。
- 業務効率化(人事・労務担当者の負担軽減)
- 法令対応(労働時間管理の適正化)
- データ精度の向上(記録ミスや改ざん防止)
企業にとって、信頼性の高い労働時間の把握体制を構築するうえで、電子化は重要な選択肢のひとつとなっています。
勤怠管理の電子化は法律で義務化されていない
勤怠管理を電子化すること自体は、2025年現在の法令では義務化されていません。紙やExcelでの管理を継続することも、法的には認められています。
しかし、厚生労働省が定める「労働時間の適正把握ガイドライン」においては、企業にはすべての従業員の労働時間を「客観的な方法で把握する義務」があると明記されています。労働時間の未把握は法令違反となり、是正勧告の対象となるため注意が必要です。ただし、罰則規定はありません。厚生労働省のガイドラインの根拠となる法令は以下の通りです。
労働安全衛生法第66条の8の3
事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第一項及び前項ただし書の規定による面接指導の結果を記録しておかなければならない。
労働安全衛生規則第52条の7の3
第1項 法第66条の8の3の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。
第2項 事業者は前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じなければならない。
客観的な方法として、ICカードやパソコンのログイン履歴、クラウド勤怠システムなどが推奨されており、口頭報告だけでは不十分とされるケースもあります。
そのため、法的義務ではないものの、コンプライアンス強化や労務リスク回避の観点から電子化を進める企業が増えているのが現状です。
勤怠管理を電子化する4つのメリット
勤怠管理の電子化には、業務効率だけでなく法令対応やコスト削減の面でも多くのメリットがあります。
ここでは、勤怠管理を電子化する4つの利点について詳しく解説します。
1. 労働時間の正確な把握と不正打刻の防止ができる
電子的な勤怠管理では、打刻データがシステム上で自動的かつ客観的に記録されるため、手書きや口頭申告に比べて記録の信頼性が大幅に向上します。
不正打刻や改ざんのリスクも低減され、公平な労働時間管理が可能になります。
さらに、GPS機能付きのスマートフォン打刻やパソコンのログイン・ログオフ情報との連携などを活用することで、在宅勤務や外出先での勤務も正確な記録が可能です。
テレワーク環境でも労働時間の可視化が実現し、企業と従業員双方の安心感にもつながります。
2. 紙・資料で保管する必要がなくなる
電子化によって、タイムカードや出勤簿などの紙書類を物理的に保管する必要がなくなります。
その結果、保管スペースや管理にかかるコストが削減され、オフィス環境の効率化にもつながります。
また、紙書類は紛失・劣化・期限切れなどのリスクがありますが、電子データであればセキュリティを確保したうえでの一元管理が可能です。
必要なときにすぐ検索や閲覧・出力ができるため、業務スピードも向上します。
保管義務のある勤怠情報も、クラウド上で安全に保管でき、監査対応や労働基準監督署からの調査にもスムーズに対応できる点も大きなメリットです。
関連記事:打刻のペーパーレス化で勤怠管理を効率化|ペーパーレスのメリットも
3. 業務効率化・人的ミス削減につながる
勤怠管理を電子化することで、勤怠データの集計作業が自動化され、月末の締め作業や給与計算の準備にかかる時間が短縮されます。
これまで手作業で行っていた集計や確認・転記といった作業が不要となり、担当者の業務負担が軽減されます。
また、人の手による処理では避けられなかった入力ミスや集計ミスといったヒューマンエラーのリスクも減少するでしょう。
確認作業の工数も削減できるため、業務の正確性とスピードがともに向上します。
さらに、勤怠システムと給与計算・人事管理システムを連携させることで、データの一元管理と業務の自動化にもつながります。
勤怠管理の電子化が、バックオフィス全体の効率化にもつながる点が大きなメリットといえるでしょう。
4. 柔軟な働き方ができる
クラウド型の勤怠管理システムを導入することで、在宅勤務や外出先・サテライトオフィスなど、場所を問わず出退勤の打刻や勤怠申請が可能になります。
フレックスタイム制や時差出勤、変形労働時間制など、多様な勤務体系への対応がしやすくなるのも電子化の特徴です。
勤務ルールに応じた設定ができるため、従業員ごとの勤務状況を正確に管理できます。
勤怠データがリアルタイムで可視化されるため、管理者もチームの勤務状況を即座に把握でき、マネジメントや勤怠異常への対応もスムーズになります。
クラウド型の勤怠管理システムは、働き方改革やハイブリッドワーク時代に対応するうえで、欠かせない仕組みといえるでしょう。
勤怠管理を電子化する3つのデメリット
勤怠管理の電子化は多くのメリットをもたらしますが、導入や運用の際に注意すべき点もあります。
ここでは、電子化に伴う3つの主なデメリットを解説します。
1. 導入時にコストがかかる
勤怠管理システムの導入には、初期費用や運用コストが発生する点が大きなデメリットです。
たとえば、システム設定や導入支援にかかる初期費用、毎月発生するサブスクリプション型の利用料などが挙げられます。
中小企業の場合、「これまでの紙やExcelによる管理と比べて割高」と感じることも少なくありません。
また、ICカードリーダーやタブレット端末といった打刻機器の購入費用や、従業員向けの操作研修やマニュアル整備にかかる時間と労力も考慮する必要があります。
勤怠管理システムを導入する際は、費用対効果を事前に試算したうえで導入を検討することが重要です。
2. システムがミスマッチを生じる可能性がある
勤怠管理システムには多種多様な製品がありますが、自社の勤務形態やルールとシステムの仕様が合わないケースも少なくありません。
たとえば、変形労働制やシフト制、複雑な残業ルールを採用している企業では、一部機能が不足していたり設定が難しいと感じる場合があります。
インターフェースが直感的でなかったり、運用フローと噛み合わず業務が煩雑になったりして、現場の負担が増えるリスクもあるでしょう。
事態を避けるには、導入前に自社の要件を明確に整理し、無料トライアルでの検証や複数社の比較検討を行うことが不可欠です。
選定の段階から丁寧に準備することで、導入後のトラブルを最小限に抑えられます。
3. セキュリティ面でのリスクがある
勤怠管理システムには、従業員の氏名や勤務時間、勤務地、休暇履歴などの個人情報が含まれているため、情報漏洩リスクへの対策が不可欠です。
万が一個人の情報が外部に流出すれば、プライバシー侵害や企業の信頼失墜、法的トラブルにつながる可能性があります。
そのため、システムを導入・運用するうえでは以下のような基本的なセキュリティ対策が求められます。
- 通信の暗号化(SSL/TLS対応)
- ログイン時のアクセス制限や認証強化
- 操作履歴のログ管理
- 特定IPアドレスからのアクセス制限
必要な機能が備わっているかどうかを、システム選定時に必ず確認する必要があります。
さらに、安全に運用を続けるためには、信頼性の高いベンダーを選ぶことも重要です。
情報管理に関する社内ポリシーを明文化し、従業員にも周知徹底することで、ヒューマンエラーによる事故も防止できます。
セキュリティリスクはゼロにはできませんが、適切な対策と運用ルールによってリスクを最小限に抑えることが可能です。
勤怠管理を電子化する際に気をつけるべき3つのポイント
勤怠管理の電子化は多くのメリットをもたらしますが、導入前の準備や確認が不十分だと、運用トラブルや現場の混乱を招く原因にもなります。
ここでは、勤怠管理システムの導入を成功させるために押さえておきたい3つの重要なポイントを解説します。
1. 自社に適したシステムを導入する
勤怠管理システムは、自社の勤務形態や運用ルールに適したものを選ぶことが基本です。
たとえば、固定時間制やシフト制・フレックスタイム制・在宅勤務など、勤務形態は企業によってさまざまです。
システムによっては、業種特化型の設計や、機能制限のあるプランなどが用意されている場合があります。
そのため、「自社の現場に合った機能があるか」「必要な作業がスムーズにできるか」といった視点で、機能や価格・UI(画面の見やすさ、操作性)のバランスを見て慎重に選定することが重要です。
関連記事:勤怠管理を効率化するならシステムの導入が鍵!選び方やメリットを解説 | 給与計算ソフト マネーフォワード クラウド
2. 他システムと連携できるか確認する
勤怠データは、給与計算や人事管理、会計などの業務と連動して使用されるケースが大半です。
そのため、システム選定時には、他の業務システムとスムーズに連携できるかどうかを必ず確認しましょう。
単純なCSV出力だけでなく、API連携(ネット上での自動連携)やクラウド同士のリアルタイム同期など、運用負荷を軽減できる仕組みがあるかどうかもチェックポイントです。
連携性が高いシステムを選べば、転記作業の削減や業務ミスの防止、業務全体の自動化にもつながります。
3. 操作方法について従業員に伝える
どんなに高機能なシステムでも、現場で使われなければ意味がありません。
導入後には、従業員が「どの端末で」「どのように」打刻・申請を行うかを明確に伝えることが必要です。
PCやスマートフォンの操作に不慣れなスタッフや高齢者が多い職場では、操作教育やマニュアルの整備が重要になります。
システムを円滑に使ってもらうためにも、直感的なUI(画面の見やすさ、操作性)やチャットサポートの有無などを、導入前に確認しておくと安心です。
勤怠管理を電子化するための3つのステップ
勤怠管理を電子化する際には、単にシステムを導入するだけでは不十分です。
自社の状況を正しく把握し、適切なシステムを選定・導入するまでのプロセス設計が成功の鍵となります。
ここでは、電子化をスムーズに進めるための3つのステップを解説します。
1. 現状の勤怠管理方法を棚卸し・課題を洗い出す
まずは、自社が現在どのように勤怠管理を行っているかを正確に棚卸ししましょう。
紙のタイムカードやExcelシート、口頭での報告など、部門や拠点によって異なる運用が混在しているケースも少なくありません。
そのため、「集計作業に時間がかかっている」「打刻漏れや修正依頼が頻発している」「労働時間の把握が曖昧」といった、現場で発生している具体的な課題も洗い出すことが重要です。
ポイントとしては以下の通りです。
- 現在の勤怠管理手法を確認する
- 管理業務の流れを把握する
- 現場で発生している具体的な課題を洗い出す
棚卸し結果が、次のステップで行う要件定義やシステム選定の土台となり、ムダのない導入計画につながります。
2. システムに求める機能・要件を明確化する
続いて、勤怠管理システムに求める機能や要件を明確に整理します。
「あったら便利な機能」と「最低限必要な機能」とをしっかり区別することです。
自社特有の条件も加味しながら要件を具体化しておくと、後の比較検討がスムーズになります。
たとえば、以下の条件をもつケースもあるでしょう。
- 対象従業員の人数(100人以上対応が必要か)
- 勤務体系の複雑さ(フレックス、夜勤、時短など)
- 給与システムとの連携の可否
- 打刻方法の選択肢(スマートフォン/ICカード/PCなど)
システムへ求める要件と自社の条件を照らし合わせておきましょう。
3. 複数のシステムを比較検討しテスト運用する
要件が定まったら、すぐに1社に決めてしまわず、複数の勤怠管理システムを比較検討することが重要です。
短絡的な選定は、後々のトラブルや運用ミスにつながるリスクがあります。
比較する際は、以下のポイントを複数軸で評価しましょう。
- 料金体系(初期費用・月額費用)
- 操作性・画面の見やすさ
- サポート体制(電話・チャット・訪問など)
- 導入実績や口コミ評価
- 他システム(給与・人事・会計)との連携性
可能であれば無料トライアルやテスト導入を行い、実際の使用感を確認することで、現場にフィットするかどうかを判断しやすくなります。
勤怠管理を電子化するのにおすすめの企業
勤怠管理が属人化していたり、非効率な手作業が多かったりする企業には、勤怠管理の電子化が効果的です。
ここでは、勤怠管理の電子化によって業務改善が期待できる企業の特徴を解説します。
勤怠管理が属人化・非効率になっている
勤怠管理が属人化・非効率になっている企業には、勤怠管理の電子化が重要です。
タイムカードの回収やExcel転記といった手作業中心の勤怠管理では、担当者に業務が集中しがちです。
また、拠点や部署ごとに勤怠ルールが異なる場合、管理が煩雑化し、標準化が難しくなりやすいでしょう。
万が一、業務が属人化していると、担当者の休職・退職により運用が止まるリスクもあります。
勤怠管理を電子化することによって業務フローを仕組み化し、誰でも対応できる体制を整えることが可能です。
とくにクラウド型勤怠管理システムでは、自動集計やルールの一元管理が可能となり、効率化と業務継続性が両立できます。
多様な雇用形態・働き方に対応する必要がある
多様な雇用形態・働き方に対応する必要がある企業にも勤怠管理の電子化がおすすめです。
正社員に限らず、アルバイト・パートなど、複数の雇用形態が混在している企業では、勤怠管理の複雑化が避けられません。
さらに、フレックスタイム制やシフト制、リモートワークなど、働き方が多様化している職場では、従来の手動管理では対応しきれない場面も増えるでしょう。
インターネット環境があれば、場所や時間を問わず打刻・申請が可能なため、現場ごとの柔軟な勤怠管理が可能です。
勤怠管理の電子化は、多様な雇用形態・勤務形態を一元管理できるため、組織全体の生産性向上につながるでしょう。
法令遵守や内部統制を重視している
働き方改革関連法や労働基準法への対応を強化したい企業にとって、勤怠管理の電子化は有効です。
36協定の遵守や残業時間の上限、有休取得義務など、適正な労働時間管理をシステム上で担保できるため、法令違反のリスクを軽減できます。
さらに、クラウド型勤怠システムであれば、打刻履歴や勤怠データの改ざんを防止しつつ、記録を自動で保存できるため、労基署の調査や社内監査にも対応しやすくなります。
エビデンス管理を徹底できることは、コンプライアンス強化と内部統制の実現につながるでしょう。
法令遵守や内部統制を重視している企業は、勤怠管理の電子化を検討してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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