- 更新日 : 2026年4月2日
人事データ分析とは?メリットや進め方を徹底解説
客観的な数値で組織の課題を解決すれば、離職を防ぎ採用の精度を高めることにつながります。
- 評価の偏りを防げる
- 退職の兆候がわかる
- 理想の採用像がわかる
人事データ分析には、散在する勤怠や評価の情報を一つにまとめ、自社の課題に合わせた活用目的をはっきりさせることが重要です。
人事データ分析(ピープルアナリティクス)とは、従業員の勤怠・評価・スキルなどのデータを客観的に分析し、数値を根拠に人事意思決定を行う手法です。正しく進めれば、離職防止や採用精度の向上、適材適所の配置などの成果を実現できます。本記事では人事データ分析のメリットと具体的な進め方、法令上の注意点を解説します。
人事データ分析とは?
人事データ分析とは、従業員のスキルや勤怠などの情報を数値化・可視化し、感覚や経験則ではなくデータを根拠として人事上の意思決定を行う手法です。少子高齢化による人手不足が深刻化する中、限られた人材のパフォーマンスを最大化するため、多くの企業がデータに基づく組織運営にシフトしています。
従業員のスキルや行動履歴を客観的に評価する
人事データ分析を導入すると、評価の主観的なブレをなくし、従業員の納得感を高められます。従来の評価制度は上司の主観や経験則に依存しがちで、「声が大きい人が評価されやすい」「地道なサポート業務が評価されない」といった不満は中小企業を中心に多く見られます。
事業規模が拡大し経営者の目が届かなくなると、評価への不満から優秀な人材が流出するリスクも高まります。
人事データ分析では、定量的な実績・勤怠パターン・研修履歴・社内コミュニケーション頻度などを数値化して評価します。例えば「成約率が高い社員の初回返信時間は平均30分以内」といった共通点を発見し、客観的な評価基準として設定することで従業員の納得感が高まります。スキルマップで現状を可視化すれば、不足スキルを補う教育計画も立てやすくなります。
数値を根拠にした人事戦略で組織課題を解決する
人事データ分析を活用すると、勘や経験則では見落としがちな離職リスクや配置ミスを、数値を根拠として早期に察知・対処できます。「なぜ若手社員が次々と退職するのか」「誰を管理職に登用すべきか」といった問いを経験則だけで解決しようとすると、的外れな施策になりかねません。
残業時間の急増・有給取得率の低下・パルスサーベイ(従業員意識の簡易アンケート)スコアの悪化が重なった場合に自動アラートを発する仕組みを構築でき、退職意思が固まる前に面談を実施するなど予防策を講じられます。過去の活躍社員データから自社にマッチする人材要件を定義することで、面接官の評価ブレをなくし採用ミスマッチも防げます。
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人事データ分析を始める具体的な手順は?
人事データ分析は、①課題と目的の設定→②データの収集→③施策への落とし込みの3ステップで進めます。この順番を守ることが重要で、目的が不明確なままデータを集めても施策に結びつかず、ツール導入費用の無駄に終わるケースが多いからです。
1. 解決したい組織の課題と目的を明確にする
分析する際は「何を解決したいか」を数値目標として言語化することです。「他社がやっているから」「AIを使えば何か分かりそうだから」という曖昧な動機では分析の方向性が定まりません。
実際には、経営陣や各部門の責任者にヒアリングを行い、現場の悩みを抽出します。
よくある課題と目的の設定例は以下の通りです。
- 営業部の離職率が高い:退職の予兆を検知し、離職率を前年比で10%低下させる
- 中途採用の定着率が悪い:自社で活躍しやすい人材の要件を定義し、採用基準を見直す
- 残業時間が特定部署に偏っている:業務量と人員配置のバランスを可視化し、残業を平準化する
- 管理職の育成が遅れている:優秀なマネージャーの行動特性を特定し、研修プログラムに反映する
目的を明確かつ定量的な数値で設定することで、分析後に効果測定を行いやすくなります。売上目標の達成やコスト削減といった事業戦略と連動させることも、経営層の理解を得る上で大切なポイントです。
2. 勤怠や評価などの必要なデータを収集する
社内には様々な情報がありますが、目的に沿ったデータだけを収集します。
収集すべき主なデータ分類は以下の通りです。
| データ分類 | 主な項目例 | 用途 |
|---|---|---|
| 基本情報 | 年齢、勤続年数、所属部署、役職 | 属性ごとの傾向把握 |
| 勤怠データ | 労働時間、残業時間、有給取得率 | 労働環境の可視化と離職防止 |
| 評価データ | 人事評価スコア、目標達成率 | ハイパフォーマーの分析 |
| スキル情報 | 保有資格、研修受講歴、語学力 | 適材適所の配置検討 |
中小企業の場合、これらの情報がExcelや紙の書類、別々のシステムに分散していることがよくあります。まずは各データをCSV形式などで出力し、一つのデータベースに統合する作業が必要です。
Excelのマクロ機能やデータ統合ツールを活用して効率化を図るとよいでしょう。
3.分析担当者のアクセス権限を設計する
データ収集と並行して、誰がどのデータにアクセスできるかの権限設計を行います。人事データには給与・評価・健康状態など機微な個人情報が含まれており、必要以上に閲覧できる状態は情報漏洩リスクと個人情報保護法違反のリスクを高めます。
アクセス権限は「知る必要のある人だけが見られる」原則(need-to-know原則)に基づき設計します。具体的には以下の観点で整理してください。
- 経営層:全社集計データの閲覧のみ(個人特定データは原則非表示)
- 人事部門:全従業員の個別データへのアクセス(目的外利用禁止を就業規則に明記)
- 部門長:自部署の従業員データのみ閲覧可(他部署のデータは制限)
- 分析ベンダー・外部委託先:匿名加工済みデータのみ提供し、原則として生データは渡さない
権限設計の内容は個人情報取扱規程に明記し、従業員への周知が必要です。アクセスログを取得し、不正アクセスの検知体制を整えることも推奨されます。
参照:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)|個人情報保護委員会
4. 分析結果を現場の施策に落とし込む
データを分析したら得られた知見を現場のルールに変換しましょう。データを集めて傾向を把握するだけでは組織は変わりません。
例えば「残業月40時間超かつ上司との面談が2ヶ月以上なし」の社員に離職リスクが高いという分析結果が出たなら、1週間以内に1on1ミーティングを実施するルールを設けます。施策実行後は定期的に効果を検証し、データを更新しながら組織改善のサイクルを回し続けることが重要です。
人事データの取り扱いや労務の注意点は?
人事データ分析を適法に運用するには、個人情報の利用目的の明示と、分析結果を不利益変更に使わないことが最重要です。個人情報保護法や労働契約法に違反すると、損害賠償請求や企業の信用失墜といった深刻なリスクを招きます。
従業員の個人情報取得時は利用目的を明示する
人事データを新たな目的で使い始める前に、必ず従業員へ利用目的を通知・公表することが個人情報保護法上の義務です。給与計算や社会保険手続きのためだけに収集していたデータを「退職予測」や「最適配置の分析」にも使う場合、就業規則やプライバシーポリシーの改定が必要になります。
実際の対応手順は下記になります。
- 既存の就業規則や個人情報取扱規程を確認する
- 「人事データ分析を通じた適正な配置や育成のため」といった新しい利用目的を追記する
- 従業員説明会や社内掲示板などで、変更内容を周知徹底する
従業員に人事分析の目的が「労働環境の改善」や「キャリア支援」であることを丁寧に説明し、納得を得ることが求められます。
ストレスチェック結果の利用には個別同意が必須
労働安全衛生法に基づくストレスチェック結果は、「要配慮個人情報」に該当し、通常の個人情報より厳格な取り扱いが求められます。就業規則への利用目的の追記だけでは不十分であり、本人から個別に同意を取得しなければ、人事データ分析に組み込むことはできません。
特に以下の点には注意が必要です。
- ストレスチェックの結果は、実施者(医師・保健師など)から事業者への提供も、本人の同意なしには行えない
- 集団分析(部署単位での傾向把握)は原則として本人同意不要だが、個人を特定できる形での利用は同意が必要
- 同意取得は書面または電磁的記録で行い、同意撤回の手続きも整備しておく
ストレスチェック結果を無断で人事評価や配置転換の判断に使用した場合、労働安全衛生法第104条違反となるリスクがあります。活用する場合は顧問社労士への事前確認を強く推奨します。
参照:労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度に関する検討会報告書|厚生労働省
参照:労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル|厚生労働省
分析結果に基づく不利益変更を避ける
データ分析の結果を労働条件の不利益変更につなげるのは、労働契約法上の重大なリスクを伴います。分析結果を人事評価や賃金制度の見直しに活かすこと自体は有効ですが、従業員の個別同意なしに就業規則の変更によって、不利益な労働条件に変更する場合には労働契約法に基づく厳格な手続きが必要です。
原則として賃金の引き下げや降格など、労働条件を不利益に変更する場合には、従業員の同意が必要です。しかし、合理的な理由があれば就業規則の変更によって労働条件の不利益変更が可能となります。
例えば、経営危機による倒産回避など、急迫した事情があれば給与の引き下げも認められやすくなります。一方で、単にデータ上の人件費が高いという理由のみでは、給与の引き下げが認められることはないでしょう。
労働条件を不利益に変更する場合には、根拠となるデータを提示し、合理的な理由があると認められなくてはなりません。合理的な理由のない不利益変更は、労働審判や訴訟に発展し、無効とされる恐れがあります。
| 項目 | 注意点と対応方法 |
|---|---|
| 評価基準の変更 | 事前に新しい基準を公開し、一定の周知期間を設ける |
| 配置転換 | データだけでなく本人の意向や家庭の事情も考慮して決定する |
| 賃金制度の改定 | 労働組合や過半数代表者と協議し、十分な経過措置を用意する |
データはあくまで意思決定のサポートツールです。「システムがそう判断したから」と機械的に処遇を決めるのではなく、最終的には人間が総合的に判断する体制を残しておくことが重要です。
参考:労働条件の引き下げ 具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性|厚生労働省
労働時間データと36協定の整合性を確認する
勤怠データを分析する際には、収集した労働時間データが36協定(時間外・休日労働に関する協定)の上限規制と整合しているかを必ず確認する必要があります。2019年の働き方改革関連法施行により、時間外労働の上限規制は罰則付きで義務化されており、データ分析によって超過が発覚した場合は速やかに是正対応が求められます。
具体的に確認すべきポイントは以下の通りです。
- 月45時間・年360時間の通常上限を超えていないか(特別条項を締結している場合でも年720時間が上限)
- 特別条項を適用した月が年6回を超えていないか
- 2〜6ヶ月の平均残業時間が月80時間を超えていないか(過労死ライン)
- 管理監督者として扱っている社員の労働時間管理が適切かどうか
分析ツールが算出する「労働時間」の定義が、労基法上の「労働時間」と一致しているかも重要な確認事項です。システム上のログオン時間と実際の労働時間が乖離している場合は、現場へのヒアリングで実態を把握してください。
データの保管期間と廃棄ルールを定める
人事データ分析のために収集した個人情報は、利用目的を達成した後は速やかに削除することが個人情報保護法の原則です。しかし実務では「念のため残しておく」という運用が続き、退職者のデータが無期限に蓄積されているケースが少なくありません。これは情報漏洩リスクを高めるだけでなく、法的リスクにもなります。
保管期間の目安は以下の通りです。ただし、労働基準法などの個別法令が定める保存義務期間が優先されます。
| データ種別 | 法令上の保存義務期間 | 根拠法令 |
|---|---|---|
| 労働者名簿・賃金台帳・雇入れ・退職に関する書類 | 5年間(経過措置として当面3年) | 労働基準法第109条 |
| 健康診断個人票 | 5年間 | 労働安全衛生規則第51条 |
| ストレスチェック結果(事業者保管分) | 5年間 | 労働安全衛生規則第52条の13 |
| 採用選考書類(不採用者分) | 法令上の定めなし(個人情報保護の観点から6ヶ月〜1年が目安) | 個人情報保護法(実務慣行) |
保管期間が到来したデータは、完全消去(物理的破棄またはデジタルデータの復元不能な削除)を行い、その記録を残してください。クラウド型の人事データ分析ツールを利用している場合は、ベンダーへの削除依頼と削除完了の確認も必要です。
参照:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
参照:労働基準法の規定による記録の保存(第109条)|e-GOV
人事データ分析を成功させるためのポイントは?
人事データ分析の効果を最大化するには、採用ミスマッチの防止と適材適所の配置です。この二点を優先することで、採用コストの削減と組織生産性の向上を実現できます。
採用ミスマッチを防ぎ定着率が向上する
人事データ分析で採用基準を客観化すると、面接官の主観によるブレがなくなり、早期離職を大幅に減らせます。「面接での印象は良かったのに入社後に活躍できない」という採用ミスマッチは、広告費・紹介料・教育コストを含めると社員1人の早期離職で数百万円の損失につながります。
活躍社員の適性検査結果や行動特性から自社にフィットする人材要件を定義し、入社後の活躍度を追跡して採用基準を定期的に検証することで、定着率の継続的な向上が見込めます。
最適な人材配置で組織の生産性が上がる
スキルマップと業務量データを組み合わせることで、人材配置のミスマッチを即座に可視化し、解消できます。例えば「ある部署ではExcel操作スキルを持つ人材が不足して業務が滞り、別の部署では同スキルを持つ社員が単純作業に追われている」といった状況がデータで初めて把握できます。従業員のキャリア志向データも組み合わせることで本人の希望と会社のニーズを一致させ、貢献意欲を高められます。
まずは小規模な部門からテスト導入し、成功事例を積み重ねながら全社へ展開するアプローチが定着への近道です。
人事データ分析の目的を把握しメリットを最大化しよう
人事データ分析は客観的な数値に基づき公平な評価制度を整え、離職防止や採用精度を高めるために役立ちます。まずは解決したい組織課題を絞り込み、散在している勤怠やスキルの情報を一元化することから始めましょう。データに基づく意思決定を行うことで評価への不満を解消し、組織の活力を引き出せます。
なお、人事データを活用する際は、個人情報保護法・労働基準法・労働安全衛生法などの関連法令を遵守することが前提となります。特にストレスチェック結果の利用や不利益変更を伴う制度改定については、事前に社会保険労務士へご相談ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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