- 更新日 : 2025年12月5日
コンコルド効果とは?発生する心理的要因や防止方法を解説
コンコルド効果とは、損失が出るとわかっていても、過去の投資を惜しむあまり、合理的な撤退判断ができなくなる心理現象です。ビジネスの現場や人間関係、日常生活において誰にでも起こり得る現象であるため、コンコルド効果を無視すると、感情に流されてさらなる損失を招いてしまいます。
本記事では、コンコルド効果の概要や発生要因、対策について、わかりやすく解説します。
目次
コンコルド効果とは?
コンコルド効果とは、過去に引きずられて、損失が予測されていても継続してしまう心理的傾向を指します。本来は撤退すべきとわかっていても、ここまでやったのだからという思いから、非合理ながらも継続してしまう状態です。
コンコルド効果は、認知バイアスと呼ばれる思考の偏りの一種に分類されます。とくに損失回避バイアスとの関連が深く、損を避けたい心理が合理的判断を妨げる要因です。
ビジネスの現場でも、プロジェクトの進行や人材配置の見直しを妨げる背景には、コンコルド効果が影響している場面が多く見られます。感情に流されずに冷静な経営判断を行ううえで、どのような場面で影響するかを押さえておく必要があります。
コンコルド効果の名前の由来
コンコルド効果の名称は、英仏が共同開発した超音速旅客機コンコルドに由来します。コンコルドは当初、マッハ2を超える画期的な旅客機として注目されました。しかし、開発途中で採算が取れないことや、燃費効率の悪さが判明します。
コンコルドの開発は、採算が取れないにもかかわらず、すでに膨大な費用と時間を投じた事実が中止の判断を鈍らせました。最終的に運航は実現したものの、騒音・環境問題・オイルショックなどの影響が重なり、商業的には失敗に終わります。開発元は巨額の損失を出して倒産し、事業は終了しました。
超音速旅客機コンコルドの失敗事例にちなんで、損するとわかっていてもやめられない心理傾向を「コンコルド効果」と呼ぶようになりました。過去の投資が意思決定を左右する危険性を象徴する実例として、今もビジネスや経済学の中で活用されています。
コンコルド効果を引き起こす心理的要因
コンコルド効果を引き起こす要因には、損失回避バイアスやサンクコストなどがあります。損をしたくないという心理が働くと合理的な判断ができなくなり、損失を拡大させます。
損失回避バイアス
損失回避バイアスとは、人が得ることよりも失うことに対して強く反応する心理的傾向を指します。同じ金額でも、1万円を得る喜びより1万円を失う痛みのほうが、心理的インパクトが大きくなります。
損失回避バイアスにより、人はすでに損失が出ている状況でも、今以上の損を避けたい気持ちから撤退をためらいがちです。損を確定させたくないという感情が、非合理な継続判断を引き起こす要因となるからです。
損失回避バイアスはコンコルド効果を誘発する代表的な心理的傾向として、ビジネスで赤字の事業や成果が見込めないプロジェクトの撤退を妨げる原因となり得るでしょう。損失回避バイアスを理解すると、感情に左右されず、合理的な判断を下す手助けになります。
楽観主義バイアス
楽観主義バイアスとは、自分だけは悪い結果に直面しないと過信する心理的傾向であり、コンコルド効果を後押しする代表的な要因です。「自分はうまくいくだろう」「今度こそ成功するはず」といった根拠のない期待を抱きやすい状態です。楽観主義バイアスにより、損失が続いていても「もう少しで回収できる」と判断を先延ばしにしてしまいます。
楽観主義バイアスによる心理は、本来は撤退すべき赤字プロジェクトでも、自分たちは例外と考えて継続を選ぶケースの多さが特徴です。現実的なリスクを過小評価し、ポジティブな展開を過大評価することが、判断ミスにつながります。
楽観主義バイアスが働くと、事業や投資に対して、冷静な撤退判断ができなくなる恐れがあります。
サンクコストへの執着
サンクコストとは、すでに支払ってしまい、将来的に回収できない費用や労力、時間などのコストです。人は「ここまで投資してきたのだから無駄にしたくない」という感情から、回収の見込みがなくても継続を選ぶ傾向があります。
サンクコストへの執着により、採算の合わないプロジェクトや施策でも中止をためらいます。とくに責任ある立場の人ほど、過去の判断への責任感から、サンクコストへの執着が強くなりやすい傾向です。サンクコストへの執着が強くなると、客観的な視点を持たない限り、損失を拡大させるリスクへとつながります。
そのため、サンクコストを切り離して意思決定をすることが、持続可能な経営判断をするうえで重要です。
自己正当化
自己正当化とは、自分の過去の判断や行動が正しかったと思い込み、証明しようとする心理的傾向です。自己正当化は自尊心を守るための防衛反応として無意識のうちに働き、コンコルド効果を強める要因になります。
たとえ失敗が明らかでも、自分の判断は間違っていなかったと思いたい気持ちが、行動の軌道修正を妨げるでしょう。自己正当化の心理が強く働くと高額な設備投資や誤った人材配置、非効率な施策・失敗したプロジェクトを継続してしまうなど、ビジネスにおいて悪影響を与えます。
自己正当化を防ぐには、過去の判断に固執せず、現在の状況を客観的に見直すことが重要です。
コンコルド効果が働きやすい場面
コンコルド効果はビジネスだけでなく、ギャンブルや恋愛などさまざまな場面で無意識のうちに働きます。どのような場面で働きやすいかを把握することでコンコルド効果を自覚でき、対策を取りやすくなります。
ビジネス
ビジネスにおけるコンコルド効果は、採算が見込めない事業やプロジェクトを継続してしまう心理状態です。たとえば、新規事業の立ち上げや大規模プロジェクトでは、初期投資や人的資源への執着が撤退判断を鈍らせます。
「ここまでやってきたのだから」「あと少しで成果が出るはず」といった思い込みが、合理的な判断を妨げます。とくに社内で関係者が多い場合、撤退による責任や影響を恐れ、決断を先延ばしにしてしまうでしょう。
すでに採算が見込めない場面では、感情よりも客観的な収支や将来性をもとに判断する姿勢が重要です。ビジネスにおいてはサンクコストへの執着を意識的に切り離し、客観的に判断することで、持続可能性と成長性を高められます。
ギャンブル
ここからは、コンコルド効果をよりイメージしやすいよう、日常生活におけるコンコルド効果の例を紹介します。
ギャンブルは、コンコルド効果が最も顕著に表れる行動のひとつです。ギャンブル中のコンコルド効果は「次は当たるかもしれない」という根拠のない期待を生み、さらに資金を投入させる原因となります。損失を確定させたくない心理により、撤退のタイミングを見失いやすくなるためです。
ギャンブルでコンコルド効果が働くと、本来なら3万円で済んだ損失が4万円、5万円と雪だるま式に膨らんでいきます。一発逆転を狙う気持ちがコンコルド効果を強め、損失から抜け出せない悪循環につながりかねません。回収の可能性が極めて低くても、過去の投資を無駄にしたくないという感情が、合理的な判断を鈍らせてしまいます。
恋愛
恋愛においては、関係を続けるべきではないと理解していても、今までの時間や感情を理由に、関係を断ち切れない場面でコンコルド効果が働きます。別れを決断できない状態では、新しい出会いや可能性に目を向けられず、結果的に自身の成長や幸福を妨げます。
恋愛においても、過去ではなく、現在と未来の価値で判断する視点が重要です。感情だけでなく冷静な視点を持つと、自分にとって本当に必要な関係かどうかを見極めやすくなります。
課金ゲーム
課金ゲームでは、これまで課金したのだからやめたくないという心理が働き、コンコルド効果が生まれやすくなります。
とくに確率要素がある場合、「次こそ当たるはず」といった根拠のない期待や、これまでの投資が無駄になる心理から、さらに課金を続けてしまいます。
また、興味が薄れてきているにもかかわらず、今さらやめるのはもったいないと感じて続けてしまうことも、コンコルド効果による現象です。一度やめたら損をするという思い込みが合理的判断を妨げ、課金ゲームを継続する悪循環につながります。
コンコルド効果を防ぐための方法
コンコルド効果を防ぐには、撤退基準を決めておいたり、数字をもとに損益を把握したりすることが重要です。過去の投資に引きずられないためには、思考法・判断基準・客観的な視点を整理しましょう。
ゼロベース思考を取り入れる
ゼロベース思考とは、過去の投資や既存の枠組みにとらわれず、現状を白紙から見直す思考法を指します。サンクコストを切り離し、今ここから始めるとしたらどう判断するかという視点を持つと、再評価できます。
たとえば、事業継続か撤退かを判断する場面では、従来の努力や投資額を一度リセットして考えることが重要です。せっかく立ち上げたから続けるのではなく、今の状況にこの事業は必要かという原点への立ち返りが効果的です。
ゼロベース思考では感情ではなく論理的な判断を重視できるため、冷静で柔軟な意思決定ができます。コンコルド効果に陥らないためには、現状と向き合い、最適解をゼロから探る姿勢が重要です。
撤退基準を決めておく
コンコルド効果を避けるためには、あらかじめ撤退基準を明確に決めておくことが有効です。投資や事業、プロジェクトに取り組む前に、以下のようにどこまで損失を許容するかを数値で設定すると効果的です。
- 金額が◯円を超えたら中止
- ◯か月以内に成果が出なければ撤退
あらかじめ設定されたルールがあれば、損切りの判断を感情と切り分けて行えます。基準を超えてしまった場合は、早めの損切りによって被害の最小化が可能です。損失が出ても今以上の被害を避けられるなら、合理的な選択といえます。
また、ビジネスでも予算や納期の上限を事前に設けておくと、際限のないリソースの投入を防げます。上限に達した時点で自動的に見直すフローを組み込むことで、客観的な判断がしやすくなるからです。撤退基準はもしものときの判断材料となり、コンコルド効果のリスクを最小限に抑える効果があります。
第三者からの客観的意見をもらう
コンコルド効果に陥りそうなときは、第三者からの客観的な意見が有効です。自分自身では冷静なつもりでも、感情に引きずられて判断が偏ることは珍しくありません。客観的な視点を持つ相手に相談すると、主観的な思い込みから抜け出しやすくなります。
ビジネスでは、プロジェクトに関与していない部署の社員や、社外コンサルタントなどが相談相手として適任です。ひとりで悩まずに相談することで、自分の立場や感情に左右されない相手の意見が判断材料となり、損切りや撤退といった判断にも自信を持てます。
数字をもとに損益を把握する
コンコルド効果を避けるには、感情ではなく数字にもとづいた損益の把握が重要です。損益計算を行うと、継続した場合にどれほどの損失が出るかを具体的に可視化できます。
試算結果を見れば、損失がどこまで膨らむか、どの時点で見切るべきかが明確になり、コンコルド効果に惑わされない冷静な選択へとつながります。ビジネスにおいては、収益・コスト・人件費などを洗い出し、事業の健全性を定量的に評価することが重要です。
定期的に数値を更新すると、現状を客観的に見直す習慣が身につき、判断の精度も向上します。主観ではなく、損益の実態にもとづく判断によって、コンコルド効果を抑制でき、損失拡大の防止が可能です。
コンコルド効果が発生する可能性を考慮しておく
コンコルド効果は誰にでも起こり得る心理現象である、とあらかじめ理解しておくことが重要です。自分は冷静に判断できると思っていても、感情や過去の努力に判断が左右されることは少なくありません。とくにサンクコストが大きい場面では、合理性よりも、もったいないという感情が優先されがちです。
一方で、コンコルド効果が起きやすい状況を事前に想定しておくと、迷った際に立ち止まって考える余裕が生まれます。また、事業や投資などの大きな意思決定をする際は、コンコルド効果の影響を受けていないかを確認する習慣が有効です。自覚を持つことで、損失を未然に防ぎ、合理的な判断へとつなげられます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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