- 更新日 : 2024年12月13日
交通費は社会保険の課税対象に含まれる?
多くの企業では、通勤のための交通費を通勤手当として従業員に支払っていますが、法律上の扱いは意外と知られていません。
交通費は給与に含まれるのでしょうか。これによって、社会保険料や所得税額が変わります。
この記事では、交通費の社会保険と税法上の扱いについて解説します。
目次
交通費(通勤手当)は社会保険の課税対象に含まれる?
交通費は法律上、支給が義務付けられているものではありません。労働基準法の扱いでは、会社の服務規律である就業規則の相対的必要記載事項に該当し、会社に交通費を支給するルールがある場合は就業規則に記載しなければならず、支給義務が生じます。
では、交通費は社会保険料を算定する際に基準となる給与に該当するのでしょうか。
交通費(通勤手当)は標準報酬月額の算出のための所得に含まれる
広義の社会保険には、狭義の社会保険である健康保険や介護保険、厚生年金保険、国民年金の他、労働保険である労災保険や雇用保険があります。
国民年金保険料は自営業者などの第1号被保険者だけが納付し、会社員などの被用者には納付義務がありません。
健康保険や介護保険、厚生年金保険では給与を報酬と称し、保険料を算定する際、事業主から支払われる月額報酬を標準報酬月額表で定める所定の等級(健康保険・介護保険は第1等級の5万8,000円から第50等級の139万円、厚生年金保険は第1等級の8万8,000円から第32等級の65万円)に当てはめ、等級に応じて保険料が決まり、会社との折半になります。
また、労災保険や雇用保険では給与は賃金と称し、保険料は会社が従業員に支払う賃金に業種によって定められている保険料率を乗じて計算します。
ただし、労災保険料は事業主が全額を負担する義務があり、従業員が負担することはありません。
雇用保険では給与を賃金と称していますが、3つある業種ごとに所定の保険料率を乗じて保険料が決まり、従業員と会社で負担します。
以上のことから、会社員などの被用者が給与から源泉徴収される社会保険料は健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料ということになります。
交通費(通勤手当)は、これらの社会保険料の源泉徴収の対象となる給与として扱われます。
年金事務所や労働基準監督署・労働局では、保険料が適切に申告されているかどうかを確認するために、定期・不定期で算定基礎調査を行っています。
その際、交通費が報酬・賃金に算入されているかどうかは重要なチェックポイントの一つとなります。
交通費(通勤手当)は所得税においては非課税の限度額がある
税法上は、交通費の全額が所得扱いとなるわけではなく、上限額を超えなければ非課税扱いです。
所得税における交通費の限度額
交通費が非課税となる上限額は、通勤手段によって異なります。具体的には、以下のようになっています。
①マイカー・自転車
- 片道2km未満:全額課税
- 片道2㎞以上10㎞未満:4,200円
- 片道10㎞以上15㎞未満:7,100円
- 片道15㎞以上25㎞未満:1万2,900円
- 片道25㎞以上35㎞未満:1万8,700円
- 片道35㎞以上45㎞未満:2万4,400円
- 片道45㎞以上55㎞未満:2万8,000円
- 片道55㎞以上:3万1,600円
②電車・バス
- 15万円
電車・バスなどの公共交通機関だけを利用する場合は、1ヵ月当たりの運賃・時間・距離等の事情に照らして、最も経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額です。
新幹線や特急列車を利用した場合も、その通勤方法や経路が「最も経済的かつ合理的な経路および方法」に該当する場合は非課税の交通費とされます。
しかし、グリーン料金については「最も経済的かつ合理的な経路および方法」とは認められず、対象外となります。
なお、①のマイカー・自動車と②の電車・バスなどの公共交通機関を併用する場合は、マイカー・自動車通勤の片道で決まっている1ヵ月当たりの非課税限度額と電車・バスなどを利用する場合の1ヵ月間の通勤定期券などの金額を合算した金額が上限額となりますが、認められるのは1ヵ月当たり15万円までです。
上限額を超える金額が、給与額に上乗せされて課税されることになります。
なお、パートタイマーやアルバイトなどの短時間労働者についても、上限額は正社員と同様に月を単位として計算します。
年末調整で103万円や130万円など、控除額を気にする方は注意が必要
所得税と社会保険には扶養控除の仕組みがあり、配偶者や配偶者以外の扶養親族がいる場合に適用されます。
所得税法上の扶養控除は、年間の給与収入が103万円以下の配偶者や扶養親族に適用され、納税者である会社員などが一定金額の所得控除を受けることができます。
いわゆる「103万円の壁」と呼ばれるものです。
配偶者は、その年間給与収入が103万円以下の場合、配偶者控除の額は最大で38万円(その年12月31日現在の配偶者の年齢が70歳以上の場合には最大48万円)になります。
配偶者以外の扶養親族は、納税者と生計を一にしていて年間の給与収入が103万円以下であること、青色申告者の事業専従者として給与の支払を受けていない、または白色申告者の事業専従者でないこと、という要件を満たしている人が該当し、一般の扶養親族であれば38万円、老人扶養親族(同居)で58万円などの控除が認められています。
一方で社会保険の扶養控除では、配偶者・扶養親族が要件を満たした場合、会社員などの被保険者本人だけが保険に加入すればよく、配偶者などは加入する必要がありません。当然、健康保険や厚生年金保険などの社会保険料の納付義務もありません。
この社会保険の扶養控除の対象となるか、外れるかの境界線が「130万円の壁」と呼ばれるものです。
所得税の103万円の壁、社会保険の130万円の壁において、交通費の扱いは異なることに注意する必要があります。
所得税法上は、交通費が非課税限度額以内であれば103万円に含まれません。しかし、非課税の上限額を超えた場合には課税対象となるため103万円の計算に含まれ、扶養控除が受けられなくなります。
社会保険では、年収は交通費を含めて計算するため、配偶者などの給与収入が130万円以下であったとしても交通費の金額によっては壁を超えてしまい、扶養から外れる可能性があります。
年末調整では、勤務先に扶養親族などの給与所得を記載する扶養控除申告書を提出しますが、こうしたことをよく理解しておくことが大切です。
交通費(通勤手当)を標準報酬月額に含めるときの注意点
交通費は、標準報酬月額の算定において報酬に含まれます。
標準報酬月額は社会保険料の計算基礎となる数値です。そのため、社会保険料は交通費も含めて計算されます。
標準報酬月額計算時における、交通費の取り扱いの注意点について説明します。
支給方法を問わず報酬月額に含めなければならない
交通費の支払方法はいくつかありますが、どのように支給していても標準報酬月額の計算に含める必要があります。
給料で手当として支払う場合はもちろん、従業員からの請求に応じる形で現金で支払ったり、定期券を支給したりする場合も報酬に含めなければなりません。
1ヵ月あたりの支給額を報酬月額に含める
報酬月額に含めるのは1ヵ月分の通勤費です。そのため、次のような場合は1ヵ月分を計算して報酬に含めなければなりません。
6ヵ月分の定期代をまとめて支給する場合→1/6の金額を計算して報酬に含める
2ヵ月分をまとめて支給する場合→1/2の金額を計算して報酬に含める
社会保険料と所得税における交通費の扱いの違いを知っておこう!
交通費の法的な扱いについて解説しました。会社の担当者としては、社会保険料や所得税を適切に源泉徴収し、納付するために違いをよく知っておく必要があります。
また、配偶者などがパートタイマーで働いている従業員については103万円の壁、130万円の壁を踏まえて、社会保険料と所得税における交通費の扱いの違いを知っておきましょう。
よくある質問
交通費は社会保険の課税対象に含まれる?
含まれます。詳しくはこちらをご覧ください。
交通費が課税対象にならない税金はありますか?
非課税限度額までであれば、所得税はかかりません。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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