- 更新日 : 2025年6月23日
“残業違反”に罰則!「時間外労働の上限規制」を解説
2019年4月1日から働き方改革関連法案が順次施行されました。この法改正で、「有給休暇の取得義務化」「同一労働同一賃金の導入」と並んで、大きな焦点となるのが「時間外労働の上限規制の導入」です。
これまで時間外労働の上限は法律で定められておらず、罰則もなかったため、企業は労働者に青天井で残業させることが可能でした。しかし、今回の法改正で、時間外労働の上限が罰則付きで法律に規定されました。人事・労務担当者が押さえておきたいポイントと、企業が取るべき対応を、社会保険労務士の佐藤律子さんとチェックしましょう。
目次
現行の「36協定」が定める時間外労働
「36協定」とは
そもそも労働基準法では、労働時間は原則1日8時間・1週40時間と定められています。これを「法定労働時間」といいます。
「あれ? 自分の会社はもっと働いているなぁ」と思った方もいらっしゃるでしょう。そのように法定労働時間を超えて労働者が働くには、雇用者と労働者が「36(サブロク)協定」を締結し、労基署に届け出ることで可能となります。つまり、残業をするためには、36協定の締結が必要なのです。36協定を締結せずに残業や休日労働させると、罰則の対象となります。
※厚生労働省のリーフレットを参考にBizpedia編集部が作成(以下同)
長時間労働を助長させてしまう「36協定」
では、36協定を締結すれば上限なく残業できるのかというとそうではなく、締結しても時間外労働は月45時間・年360時間が原則となります。
ただし、“特別条項付き”の36協定を締結すれば、年間で6カ月は、この上限を超えて残業させることができました。つまり、1年のうち6カ月は青天井で残業させることが可能だったのです。この特別条項付きの36協定は、長時間労働を助長させてしまう恐れがありました。
現行のルールでは時間外労働に法的拘束力がない
また、もうひとつ大きな問題点があります。月45時間・年360時間という時間外労働の上限は、実は労働基準法が定めたものではありません。法律で定められたものではなく、厚生労働大臣の「告示」により定めたものです。
そのため、現行のルールでは法的拘束力がなく、上限を超えて労働者を働かせても罰則が科せられることはありませんでした。結果として、社員に青天井で残業させる企業が許されていたのです。
「日本では2013年に『過労死等防止対策推進法』が定められましたが、慢性的な長時間労働はなくならず、不幸にも過労死がなくなることはありませんでした。電通社員の過労自殺は記憶に新しいと思います」(佐藤律子さん)
・現行の時間外労働の上限は、法律で定められたものではなく罰則もなかった
・特別条項付きの36協定を締結すれば、年間6カ月は青天井で残業させることができた
時間外労働を罰則付きで法規定
今回の法改正で、時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間と法律に定められました。特別条項付きの36協定を締結している場合でも、次の条件を守らなければ違反となる恐れがあります。
【原則】
月45時間・年360時間
【特別条項付きの36協定を締結している場合の上限】
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月が限度
・時間外労働と休日労働の合計について、「2カ月平均」「3カ月平均」「4カ月平均」「5カ月平均」「6カ月平均」が全て1月当たり80時間以内
「ここの時間外労働は、所定労働時間でなく法定労働時間を超えた時間を指します。所定労働時間とは会社で定める就業時間、法定労働時間は1日8時間・週40時間のことです。
就業時間が9時~17時で、1時間休憩の会社の場合、18時以降の残業時間数を積み重ねて、その時間数が上限を超えていないかを確認します。
月間の残業時間が常に45時間を行き来している場合は注意が必要です。残業時間のチェックが月末のみの場合、気づいたら45時間を超えていることもあるかもしれません。日々、残業時間をチェックしましょう」(佐藤さん)
違反企業には罰則も
前出の時間外労働の上限を守らなかった企業は、罰則として「6カ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」が科される恐れがあります。
「罰則を受けた場合、懲役や罰金があるばかりでなく、程度によっては、厚生労働省によって企業名を公表されます。そうなってしまうと企業の取引などにも影響しかねません。労働基準法を守るということは事業継続に不可欠なことです」(佐藤さん)
6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
中小企業は1年猶予、2020年4月から施行
働き方改革関連法案は2019年4月1日に施行されました。中小企業に関しては1年間の猶予期間が設けられ、2020年4月1日から適用されています。
中小企業の定義は、次の表のうち、「資本金の額または出資の総額」あるいは「常時使用する労働者数」のいずれかが当てはまる場合としています。
※厚生労働省のリーフレットから引用
「中小企業は特に、限られた人材と時間で業務をすることが今まで以上に求められます。今から、仕事の棚卸をして無駄を見直し、システム化などで業務効率化を図って、残業時間を減らす準備をしていきましょう。
まずは、週に1日、定時で帰宅する定時間日を設けて、働く時間と休む時間のメリハリをつけていくことも有効かもしれません。
勤務時間とは、指揮命令されて業務を行うよう会社から指揮命令を受けた時間です。会社が業務量を配慮することはもとより、社員側もメリハリをつけて効率よく仕事をする姿勢が求められます。会社と社員双方の協力があってはじめて勤務時間の短縮は図れます。事業の発展のために、双方がどのようなことができるのか、常日頃からのコミュニケーションから大切にしましょう」(佐藤さん)
上限規制の適用が猶予・除外される場合
時間外労働の上限規制が猶予される場合があります。建設事業、自動車運転業務、医師、鹿児島県・沖縄県における砂糖製造業に従事している方は、上限規制の適用が2024年3月31日までの5年間猶予されます。
※厚生労働省のリーフレットから引用
さらに新技術・新商品等の研究開発業務については、上限規制の適用が除外されます。ただし、1週間で40時間を超えた分の残業時間が、合計で月100時間超になると、罰則付きで医師の面接指導が義務付けられます。
例えば1カ月のうち1週目に70時間、2週目に70時間、3週目に70時間、4週目に70時間働くと、それぞれ1週間のうち40時間を超えた分の残業時間が30時間となります。30時間×4週分=120時間となり、この場合は医師の面接指導を受けなければなりません。
1カ月のうち、各週の残業時間が…
1週目:70時間 ⇒ 40時間を超えた残業時間が30時間
2週目:70時間 ⇒ 40時間を超えた残業時間が30時間
3週目:70時間 ⇒ 40時間を超えた残業時間が30時間
4週目:70時間 ⇒ 40時間を超えた残業時間が30時間
その結果、1カ月の残業時間が…
30時間×4週分=120時間
残業時間が月100時間超となり罰則付きで医師の面接指導が義務付けられる。
36協定に関する協定書のテンプレート(無料)
以下より無料のテンプレートをダウンロードしていただけますので、ご活用ください。
まとめ
働き方改革が急ピッチで進む中、制度だけが先行してしまわぬよう企業と労働者の意識変革も求められます。
「今回定められた特別条項の上限は、労災認定で、過労死・過労自殺と労働の因果関係を判定する“過労死ライン”にあわせて設定されています。過労死・過労自殺が後を絶たない今、働く人の命を守るべく、尊い命の犠牲の上に今回の改正があります。日々無事に出社して無事に帰宅するという、労働者にとって当たり前の日常を守るための法改正です。
慢性的でなくメリハリをつけて働く意識を会社・社員の双方が持ち、双方の大事な資源と時間とお金を有効に使えるようにしましょう」(佐藤さん)
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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