- 更新日 : 2025年1月24日
年次有給休暇の取得義務化~企業がとるべき対応策~
目次
現行の年次有給休暇の概要と取得義務について
年次有給休暇とは、労働者の心身疲労回復や労働力の維持はもちろん、ゆとりのある生活を目指して所定休日以外に一定の休みを付与する制度です。年次有給休暇は労働基準法第39条で定められた労働者の権利であり、所定労働日の8割以上、雇い入れ日から継続して6か月勤務した場合に付与されます。
勤続6ヶ月で10日間の付与、その後1年ごとに付与日数は増えていきます。勤続6年6ヶ月で20日間の付与、その後は毎年20日間の付与となり、付与日から2年以内に取得しないと時効により消滅してしまいます。
現行の制度では、「従業員側から取得希望があったのに取得を認めないこと」は違法ですが、従業員側から取得希望がない場合、「企業側から自発的に有給休暇を取得させなくても違法ではない」、つまり取得義務はありませんでした。
また、労働者が取得を希望した指定した時季に対し、繁忙期などで業務が滞る可能性があれば、企業側が取得時季を変更できる時季変更権や、あらかじめ労使協定によって定めている場合、年次有給休暇のうち5日を超える日数分について企業が計画的に取得日を割り振ることができる計画的付与も認められています。
年次有給休暇の取得義務化の概要とその背景
働き方改革法案の成立によって、2019年4月から年10日以上の有給休暇が付与される者に対し、年5日の年次有給休暇の取得が義務化されます。
これまでは「業務量の多さ」や「取りづらさ」から、労働者が有給休暇を消化できずにいたケースが多くありました。今回の法改正により、これまで通りの労働者からの希望による年休取得や計画的付与で取得した日数を合算して5日に満たない場合、不足日数分について年次有給休暇を取得させることが義務化されます。不足日数分については、労働者に取得時季の希望を聞き取りし、希望を踏まえたうえで、企業側が時季を指定して取得させることになります。
なお、今回の法改正の背景として、世界最低レベルの日本の有給休暇の取得取得率が挙げられます。
エクスペディアジャパン「有給休暇・国際比較調査2017」によると、調査対象の30か国中、日本人の有給取得率は50%と、2年連続最下位となっています。(ブラジル・フランス・スペイン・オーストリア・香港は取得率100%)
政府はワーク・ライフ・バランスの充実を目指し、2020年までに有給休暇の取得率を70%にするという目標を立てています。2019年の法改正により、現状よりも年次有給休暇の取得率はアップすることが想定されるでしょう。
年次有給休暇の取得義務化に対応することで企業へもたらす効果とは
年次有給休暇の取得義務化が施行されることにより、企業が最も懸念しているのは「業務時間の縮小によって経営自体に影響が出るのでは?」ということです。しかし、実際には有給取得率がアップするのに比例して、効率が上がり売上もアップした・退職者数が減少したという企業もあります。
また、有給休暇取得率がアップすると、従業員満足度もアップするという調査結果も。労働基準局がまとめた「長時間労働の抑制と年次有給休暇取得の必要性」によれば、有給休暇の取得率0%の企業では休暇に対する満足度29.6%に対し、取得率100%の企業では満足度73.0%と格段にアップしています。従業員がモチベーション高く働くには、企業が積極的に有給休暇の取得を推進することも重要だと言えます。
この他には、売上面だけでなく、費用面でも大きな影響を受けます。たとえ1人でも人材が定着すれば、求人広告費など各種経費も削減することが可能です。結果的には労働者が気持ちよく働けるだけでなく、企業へ好影響をもたらすことにつながります。
年次有給休暇の取得義務化へ向けて企業がすべき対策
年次有給休暇の取得義務化に伴い、義務を果たさない事業主に対しては「対象となる労働者一人あたり30万円以下の罰金」が科される予定です。これにより、対象者全員が年5日以上の有給休暇を取得できるような社内環境・業務体制を整備することは必至でしょう。
対応策としてまず検討したいのは、現行の労働基準法第39条第6項にある「年次有給休暇の計画的付与制度」の導入です。年次有給休暇のうち5日を超える日数について、労使協定に基づきあらかじめ有給休暇を計画的に付与することができます。
この他の対応策としては、現在の業務内容を洗い出して不要な業務をなくす、個人で行う仕事を部署全体でできるよう整備することなども効果的です。特に人員が少ない部署では、1人の欠員によって業務が円滑に進まなくなるリスクも高まります。法改正を迎える前に、企業内で有給休暇の計画的付与や業務改善を積極的に行う流れを作っていきましょう。
年次有給休暇の取得義務化への対応とともに働きやすい環境づくりを
企業にとって年次有給休暇の取得義務化とは、法改正への対策だけが目的ではありません。優秀な人材確保のため、モチベーションや生産性向上のためにも、従業員が働きやすい社内環境を整備することが企業に求められています。年次有給休暇の取得義務化について熟知し、来たる改正施行日までに企業内に周知させておくことが必要です。
<参考>
「労働基準法等の一部を改正する法律案」について
年次有給休暇の時間単位付与
有休消化率2年連続最下位に!有給休暇国際比較調査2017
平成 29 年就労条件総合調査の概況
年次有給休暇の計画的付与について【労働基準法第39条関係】
<関連記事>
「有給休暇の義務化」で予想されるトラブルは? 労務担当者が準備すべきこと
パートの有給休暇の取得条件とその申請方法とは?
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
育児による時短勤務はいつまで取得できる?制度や法律もあわせて解説!
育児・介護休業法では、育児や介護をする必要がある労働者を支援し、仕事と家庭を両立し、労働の継続ができるように様々な仕組みを設けています。 育児については子が1歳になるまでの育児休業がよく知られていますが、それ以外にも所定労働時間の短縮措置が…
詳しくみる夏季休暇は有給扱いできるのか?休暇の違いや運用方法、注意点を解説
企業における夏季休暇の扱いについては、働き方改革関連法案を正しく理解すると、適切な制度運用が可能になります。 本記事では、夏季休暇を有給扱いにする際の準備や具体的な運用方法、注意点について解説します。従業員の働きやすさと企業の生産性向上の両…
詳しくみる勤怠管理を効率化するならシステムの導入が鍵!選び方やメリットを解説
勤怠管理は従業員の労働状況を把握するための大切な業務ですが、手作業では時間がかかりミスも発生しがちです。 また、計算を間違うようなことは許されないため、正確性を維持しながらも業務の効率化を図ることが重要です。 この記事では、勤怠管理をより効…
詳しくみる自宅待機とは?給与は発生する?出勤停止との違いも解説!
自宅待機とは、会社が従業員の出勤を禁止し自宅で待機させることです。自宅待機は従業員の働く権利を制限することになるため指示するときは注意が必要です。 本記事では、自宅待機の意味と具体的なケースについて解説します。待機中に給与が発生するかどうか…
詳しくみる労働施策総合推進法とは?概要と2022年施行のポイントを解説!
労働施策総合推進法は別名「パワハラ防止法」と呼ばれ、働く人にとって身近な法律です。2022年4月1日からは中小企業もこの法律の対象となるため、内容を把握しておきましょう。ここでは改正の背景や目的、企業が取るべき対応、気になる罰則について解説…
詳しくみる出張中の残業に残業代は出ない?移動時間や休日の扱いについて解説!
出張中に所定時間外の労働を行った場合、残業代が支給されるにはいくつかの条件があり、出張に伴う移動時間も労働時間にはカウントされません。労働者としては、出張中でも残業をしたら残業代を請求したいと考えるでしょう。 そこで本記事では、出張中におけ…
詳しくみる