- 更新日 : 2024年11月28日
上場企業とは?上場のメリットやプロセス、上場要件を解説
上場企業とは、証券取引所に株式を公開している企業で、誰でも自由にその株式を売買することができます。上場することによって資金調達力や信用力が向上する一方、コストの増加や敵対的買収リスクの増大などのデメリットもあります。本記事では、上場企業の定義やメリット・デメリットに加え、上場に至るプロセスや上場要件についても詳しく解説します。
目次
上場企業とは
はじめに、上場企業の定義や、上場企業が非上場企業と異なる点について解説します。
上場企業の定義
上場企業とは、証券取引所に株式を公開しており、一般の投資家が自由に株式を売買できる企業です。
非上場企業との違い
上場企業と非上場企業の違いは下表のとおりです。
| 上場企業 | 非上場企業 | |
|---|---|---|
| 株式公開 | 株式を公開しており、一般の投資家が自由に売買できる | 株式が非公開で、特定の関係者や主要取引先間のみで株式の売買が行われる |
| 資金調達 | 多くの投資家から広く資金を集めやすい | 銀行融資や出資など、資金調達手段が限定される |
| 情報開示 | 定期的に業績や財務状況などを公開する義務がある | 業績や財務情報を外部に詳しく公表する義務がない |
上場のメリット
ここでは、上場するメリットについて2点解説します。
メリット1.資金調達力の向上
株式が公開されているため、多くの投資家から幅広く資金調達することができます。銀行借入に依存せずに大規模な資金を短期間で集められることにより、事業拡大や設備投資に必要な資金を確保しやすくなります。
また、株式発行では負債が増えないため、財務体質を健全に保つこともできます。株式市場での評価が高まれば、株価の上昇を通じてさらに多くの資金を調達できるでしょう。
メリット2.企業の信用力向上
上場している企業は、証券取引所の厳しい基準を満たし、適正な財務状況や内部統制を維持する必要があります。このように上場企業は透明性や信頼性が高いため、上場によって取引先や金融機関からの信用度が向上するでしょう。
また、上場企業は定期的な情報開示が義務づけられているため、企業活動がより公正であると見なされ、信頼性の向上につながります。
上場のデメリット
続いて、上場するデメリットについて2点解説します。
デメリット1.上場維持コスト
上場後も四半期毎の決算開示や監査など、さまざまな規制に従う必要があります。
- 年間上場料(証券取引所)
- 情報開示費用
- 事務代行手数料(信託銀行)
- 法律顧問料(顧問弁護士)
- 会計監査費用(監査法人)
- 株主総会の運営費用
- 内部統制強化のコスト
特に中小企業には、これらのコストが負担になるかもしれません。
なお上場維持コストについては、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
デメリット2.買収リスクの増大
第三者が公開株式を大量に取得することによる、企業買収(M&A)のリスクが高まります。この際、敵対的買収によって経営権が外部に奪われる可能性もあります。
また、企業価値や株価が低迷すると、買収対象として狙われやすくなります。このため、買収防衛策を講じる必要があり、経営資源の消耗につながることがあります。
上場のプロセス
本章では、上場プロセスを解説します。
プロセス1.直前々々期前(N-3期)
上場に向けた基盤づくりを行います。
まずは株主構成や資金調達などの資本政策を決定し、監査法人と主幹事証券会社を選定します。
監査法人は財務状況に関するショートレビューを実施し、主幹事証券会社は上場時の株式公開や投資家との調整などを支援します。
これらと同時に、社内に上場準備プロジェクトチームを作っておきましょう。
プロセス2.直前々期(N-2期)
内部管理体制の整備や利益管理システムの構築を進める段階です。
内部管理体制の整備では、財務報告の正確性を確保できるプロセスの整備、社内でのコンプライアンス教育などを行います。
利益管理システムの構築では、予算管理や業績評価基準を設け、各部門が設定した目標に対する実績を測定します。
プロセス3.直前期(N-1期)
上場申請書類の作成と株式事務代行機関の選定を行います。
上場申請書類とは主に「新規上場申請のための有価証券報告書」を指し、事業内容、財務状況などが詳細に記載されます。これは、内閣府令に規定された有価証券届出書の様式に準じた内容です。
上場審査の形式要件である株式事務代行機関の選定は、信託銀行や証券会社など株主名簿の管理を行う機関を選定することを指します。
プロセス4.申請期(N期)
まず主幹事証券会社の引受審査が実施されます。上場審査前に証券会社が行う評価プロセスで、内部管理体制、事業内容と成長性、リスクなどについて証券会社の引受部門が評価します。
次に証券取引所による上場審査が実施されます。上場申請後に、企業が上場基準を満たしているかを確認するプロセスで、財務基準やガバナンスの要件、情報開示体制など総合的に審査されます。
プロセス5.上場後
上場後に求められる規制や義務に対応するための体制を整えます。
まず、四半期ごとに決算短信を提出し、年に一度、有価証券報告書を提出します。また年1回の株主総会を開催し、経営方針や業績、配当方針などを報告しなければなりません。
そして、業務プロセスの標準化、リスク管理体制の整備、内部監査部門の設置と定期的な監査など内部統制の強化を行います。
取締役会や監査役の設置など、経営体制の整備も重要です。
東証グロース市場の上場要件
東京証券取引所の市場区分は「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3つです。特にグロース市場は、成長段階にある企業の成長を促進することを目的としています。
この市場は、新興企業が上場しやすいように、上場要件が緩やかに設定されています。本章では、中小企業経営者向けにグロース市場の上場要件について説明します。
形式要件
グロース市場への上場には、以下の形式要件を満たす必要があります。
- 株主数が150人以上
- 流通株式数は1,000単位以上
- 時価総額は最低5億円以上
- 流通株式比率は25%以上
- 株式の公募を行う
- 事業が1年以上継続している
- 監査報告書は「無限定適正」である
- 登録監査人による監査を受けている
- 単元株式数は100株
- 全ての発行株式に議決権が付与されている
ただしプライム市場やスタンダード市場のような、収益基盤や財政状態に関する要件はありません。
実質審査基準
上記の形式要件のほか、企業の経営基盤や財務状況の健全性を審査する実質審査基準が設けられています。
| 基準① | 企業内容、リスク情報等の開示の適切性 | 情報を透明に開示し、リスクについても明確に説明できる |
|---|---|---|
| 基準② | 企業経営の健全性 | 財務状況や経営体制が健全であり、持続可能な成長が見込まれる |
| 基準③ | コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | 適切なガバナンス体制や内部統制が整備されている |
| 基準④ | 事業計画の合理性 | 事業計画が実行可能で、現実的な成長戦略を持っている |
| 基準⑤ | その他公益又は投資者保護の観点からの事項 | 投資者保護や公益の観点から、必要とされるその他の要件を満たす |
なお、上場審査基準については、以下の記事で証券取引所別に詳しく解説してるので、ご参照ください。
まとめ
上場企業とは、株式が公開されていて、一般の投資家が株式を売買できる企業のことで、透明性と信頼性が求められます。上場により資金調達力と信用力が向上し、銀行依存を低減することができますが、コスト負担や買収リスクが増加するといった側面もあります。
上場には事前準備や審査、規制適応が必要ですが、東証グロース市場では中小企業向けの基準が整えられています。上場は、企業の成長にとって重要な一歩です。
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※1 日本取引所グループの公表情報に基づき、2025年1月〜6月にグロース市場への上場が承認された企業のうち、上場時にマネーフォワード クラウドを有料で使用していたユーザーの割合(20社中10社)
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