- 更新日 : 2025年11月13日
先行発注とは?下請法違反リスクと安全な進め方を解説
企業の担当者として、納期を少しでも縮めたい、あるいは人気商品の欠品を防ぎたいと考える場面は多いでしょう。 その手段として、正式な注文の前に見込みで手配を進める先行発注があります。
これは納品スピードを上げるメリットがある一方、もし需要予測が外れたり、キャンセルが発生したりすると大きな損失につながるデメリットも抱えています。 特に実務では、発注書をいつ出すべきか、口頭で先に作業を頼むことが下請法にふれないか、といった悩みがつきものです。
この記事では、先行発注の基本的な意味から、法的なリスクを避けて安全に進める方法までを詳しく解説します。
目次
先行発注とは?
先行発注(せんこうはっちゅう)とは、顧客からの正式な注文(発注)が確定する前に、将来の需要を見越して、あらかじめ部品や資材の調達、あるいは生産の手配を行うことを指します。
先行発注の基本的な定義
企業活動において、通常は顧客からの正式な発注書(注文書)を受け取ってから、必要な部材の調達や生産を開始します。しかし、先行発注では、この正式なステップを踏む前に「先行」して手配を進めます。
これは、需要予測(内示)や過去の実績に基づき、「おそらくこのくらいの注文が入るだろう」という見込みのもとで行われる経営判断になります。
先行発注を行う主な目的
先行発注の主な目的は、リードタイム(発注から納品までの期間)を短くすることと、供給のリスクを減らす点にあります。
- 工期・納期の短縮
納品までにとても時間がかかる部品や、特注の資材が必要な場合、正式な発注を待っていては納期に間に合わないことがあります。あらかじめ手配を進めることで、顧客への納品スピードを上げ、競争力を高めます。 - リスクの軽減
供給が不安定な部材や、手配に時間がかかる部品を事前に確保することで、「いざ必要になった時に手に入らない」という供給リスク(欠品リスク)を避けることにつながります。 - コストを安定させる
価格変動が激しい資材や原材料を、価格が高騰する前に調達しておく目的で使われることもあります。
先行発注の英語表現
英語で「先行発注」を表現する場合、文脈に応じていくつかの表現が使われることがあります。
- Advance Order:一般的な「先行注文」や「予約注文」
- Pre-order:発売前の製品の「予約注文」
- Long-lead Procurement:建設や製造業における「リードタイムの長い部材の先行調達」
先行発注はどのような流れで行われる?
先行発注は、正式な発注書(3条書面)の交付前に、内示や仮発注といった形で進められるのが一般的です。
ただし、商慣習は業界によって異なり、特に製造業、建設業、自動車業界などで特徴的な流れが見られます。ここでは代表的な3つの業界のケースを見ていきましょう。
製造業のケース(リードタイムの長い部品)
製造業では、製品の設計がすべて完了する前から、特に納入までに時間がかかる主要部品(例:半導体、特殊な金属部品)や資材を「先行手配」することがあります。
正式な注文(本発注)の前に、サプライヤー(仕入れ先)に対して「内示(ないじ)」と呼ばれる需要予測情報を示し、それに基づいて部材を確保してもらうのが一般的な流れです。
建設業界のケース(資材価格高騰対策)
建設プロジェクト、特に設計と施工を一括して請け負う「設計施工一括発注方式(DB方式)」などでは、資材の先行発注が活用されます。
設計が完了する前の段階で、鉄骨や杭、エレベーターといった主要な資材を発注します。これにより、プロジェクトの早い段階で資材を確保し、資材価格の変動リスクを抑えつつ、工期全体を短くすることを目指します。
自動車業界のケース(人気車種の確保)
自動車業界では、ディーラーが顧客からの注文(オーダー)が確定する前に、メーカーに対して人気車種や売れ筋の特定グレードをあらかじめ発注しておくことがあります。
これにより、顧客が希望する車種を通常よりも早く納車できるようになり、販売のチャンスを逃さないようにします。
先行発注の主なメリットは?
先行発注は、納期の短縮やコスト変動リスクの低減といったメリットがあり、生産計画やサプライチェーン全体の安定化にもつながります。
納期の短縮と機会損失の防止
最大のメリットは、納期を大幅に短縮できる点でしょう。事前に商品や部品を確保しておくことで、顧客からの注文に対しすばやく対応できます。
また、需要が高い商品が品切れ(欠品)になる事態を防ぎ、販売のチャンスを逃さない(機会損失を防ぐ)ことにもつながります。
コストとサプライチェーンの安定化
資材や原材料の価格は、市場の状況によって変動します。価格が高騰する前に調達を完了させることで、コスト変動のリスクを減らせます。
あわせて、必要な部品や資材を早期に確保することは、自社の生産計画を安定させるだけでなく、取引先も含めたサプライチェーン全体の安定にもつながります。
先行発注のデメリットやリスクは?
先行発注はメリットが大きい反面、見込みが外れた場合には在庫リスクや、キャンセルリスクといった損失が伴います。また、納期を優先するあまり、価格交渉が不十分になったり、契約上のトラブルに発展したりする危険性もはらんでいます。
在庫リスクとキャンセルリスク
最も大きなリスクは「在庫リスク」です。需要予測が外れ、先行発注した分が売れ残った場合、それはすべて過剰在庫(デッドストック)になってしまいます。
また、顧客からの「キャンセルリスク」も需要予測が外れ、先行発注した分が売れ残った場合、それはすべて過剰在庫(デッドストック)になってしまいます。
価格の不透明性と契約上のリスク
先行発注は、納期を優先するために「いつもの取引先」に依頼することが多くなりがちです。複数の業者へ相見積もり(あいみつもり)を取る時間が省かれるため、提示された価格が妥当かどうかを検証しにくくなるという側面があります。
さらに、正式な契約書や発注書を交わす前に作業が進行するため、後になって「仕様が違う」「金額が聞いていたものと異なる」といった、発注者と受注者の間で見解の相違が生じ、トラブルに発展するリスクも抱えることになります。
先行発注は下請法違反になる?発注書なしは違法?
先行発注を検討する際、特に中小企業の担当者が気になるのが「下請法(したうけほう)」との関係ではないでしょうか。
先行発注そのものは違法ではありませんが、発注書なしで口頭やメールのみで依頼する行為は、下請法違反(3条書面の交付義務違反)にあたる可能性が非常に高いです。
なぜなら、下請法では、親事業者が下請事業者に作業を依頼する際、作業開始前に「直ちに」発注内容や金額を明記した書面を交付することが義務付けられているためです。
先行発注自体は違法ではない
まず前提として、「先行発注」という行為そのものがすぐさま違法になるわけではありません。将来の需要を見越して手配すること自体は、通常の経済活動の一環といえるでしょう。
問題となるのは、その「進め方」です。
なぜ「発注書なし」が問題になるのか(下請法第3条)
下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)は、親事業者(発注側)が下請事業者(受注側)に対し、不当な取り扱いをすることを防ぐ法律です。
下請法の第3条では、親事業者は下請事業者に業務を委託する際、「直ちに」以下の内容を記載した書面(3条書面=発注書)を交付する義務を定めています。
- 発注(委託)した内容
- 下請代金(金額)
- 支払期日と支払方法
- 納品場所 など
「直ちに」とは、原則として下請事業者が作業を開始する前までを意味します。
参照:下請取引の公正化・下請事業者の利益保護のために | 公正取引委員会
参照:下請代金支払遅延等防止法 第三条(書面の交付等) | e-Gov法令検索
口頭発注や事後発注の危険性
先行発注の現場では、「とりあえず口頭やメールで作業を依頼し、正式な発注書は後から(=事後発注)出す」というケースが少なくないでしょう。
この「発注書なし(口頭発注)」や「事後発注」が、下請法の「書面交付義務違反」にあたる可能性が高いといえます。
口頭での依頼は、後になって「言った・言わない」のトラブルの原因となり、下請事業者が不当に低い金額を提示されたり、仕様変更の費用を認めてもらえなかったりする温床となります。先行発注であっても、下請法が適用される取引(資本金区分や取引内容による)の場合は、必ず作業開始前に書面を交付する必要があります。
先行発注のリスクを管理し安全に進める方法は?
先行発注のリスクを管理し安全に進めるには、万が一のキャンセル時の取り決めを事前に行い、法的に有効な書面(内示書や仮発注書)を活用することが実務的です。納期とリスクのトレードオフを管理し、下請法違反を避けるための具体的な方法となります。
キャンセル時の取り決め(清算方法)
キャンセル時の取り決めは、最も考えておきたいリスク対策です。先行発注を依頼する段階(まだ正式な発注書が出せない段階)で、万が一キャンセルになった場合の取り扱いを、発注者と受注者の双方ではっきりと合意しておく必要があります。
- 「どの時点までのキャンセルなら無償か」
- 「キャンセルした場合、すでにかかった実費(材料費、加工費)はどちらが負担するか」
- 「清算する場合の金額算定方法」
これらの合意内容は、メールや覚書など、かならず書面(記録)として残しておきましょう。
内示書や仮発注書の活用
下請法が適用される取引で、正式な発注金額や仕様が確定しないものの、作業(部材の手配など)を開始してもらう必要がある場合は、「仮発注書」や「内示書」を活用するとよいでしょう。
ただし、これらの書類を交付する場合でも、下請法で定められた記載事項(特に発注内容や単価など、その時点で確定している情報)はできる限り明記し、未確定の事項(例:最終数量)については「未定」または「概算」であることを示しつつ、確定した後は、すみやかに正式な発注書(3条書面)を交付することが求められます。
発注内容の明確化と正式書面の早期交付
口頭での「よろしく頼む」といったあいまいな依頼は避けるべきです。先行発注を依頼する際は、最低限「何を」「どれだけ」「いつまでに」必要なのかを明確にし、正式な発注書(3条書面)をできる限り早く交付することが、法的なリスクと実務上のトラブルを避ける最善の方法といえるでしょう。
先行発注と関連用語(先行手配・仮発注)の違いは?
先行発注には、似たような意味で使われる用語がいくつかありますね。
先行発注と「先行手配」はほぼ同義で使われますが、「仮発注」や「内示」は、発注の確定度合いや法的な拘束力が異なる場合があります。
用語の意味比較
先行発注と関連する用語の違いを以下の表にまとめました。
| 用語 | 意味合い |
|---|---|
| 先行発注 | 正式な注文確定前に、需要予測に基づき「発注」や「生産手配」を行うこと。 |
| 先行手配 | 正式な注文前に、部品や資材をあらかじめ「調達(手配)」しておく行為。先行発注とほぼ同義で使われることが多い。 |
| 仮発注 | 正式な発注数量などが未確定な段階で、サプライヤーに生産枠や部材を暫定的に確保してもらうための注文。 |
| 内示(ないじ) | 正式な発注ではないが、将来の需要予測数量(見込み)をサプライヤーに伝える情報。 |
| 先付け発注 | 翌日以降の未来の日付を指定して、前もって行う注文方法。(先行発注とは意味合いが異なる) |
先行発注のリスクを理解し、適切な運用で納期を守る
先行発注は、納期を短くしたり、売るチャンスを逃さないために役立つやり方ですが、その実行には在庫リスクやキャンセルリスクが常について回ります。
特に、下請事業者に先行手配を依頼する場合、発注書なしの口頭依頼や事後発注は下請法違反(書面交付義務違反)となる危険性があります。
先行発注を行う際は、まず万が一のキャンセル時の清算方法を事前に明確に取り決めておきましょう。そのうえで、内示書や仮発注書を活用しつつ、できる限り速やかに正式な発注書(3条書面)を交付するプロセスをしっかり行うことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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