• 作成日 : 2025年12月23日

合同会社の一人社長は給料をどう決める?役員報酬の基礎と節税対策を解説

合同会社を設立し、一人で経営を担う「一人社長」にとって、自身の給料をどのように設定するかは、会社の財務や税金、そして個人の生活設計に大きく影響する重要なテーマです。一人社長が受け取る給料は、一般的な「給与」とは異なり、税務上は「役員報酬」として取り扱われるため、支給方法や金額の決め方には特有のルールが存在します。

本記事では、役員報酬の基本から決め方、支払い方法、節税との関係などを解説します。

一人社長の給料はどのように支払われる?

法人化した一人社長の報酬は、「給与」ではなく「役員報酬」として扱われます。ここでは、報酬の支払いに関する仕組みを解説します。

役員報酬として支払われる

一人社長の給料は、労働に対する対価ではなく、経営に対する責任に応じた「役員報酬」として支給されます。従業員のような時間給や手当はなく、報酬は基本的に一定額で構成されます。報酬額は事業年度開始から3か月以内に決定する必要があり、決定後は原則として毎月同額を継続して支払うことが求められます。これは法人税法上の「定期同額給与」の要件であり、このルールを守らない場合、その事業年度の役員報酬は損金として認められず、結果的に法人税負担が増える可能性があります。

雇用保険は対象外、社会保険は加入義務

一人社長は、一般的な労働者には該当しないため、原則として雇用保険や労災保険の適用対象外となります。一方で、法人の代表者としては健康保険と厚生年金への加入義務があり、社会保険料は会社と社長本人がそれぞれ負担します。また、役員報酬を支給する際には所得税の源泉徴収が必要であり、年末には会社が年末調整を行うか、他に所得がある場合には社長本人が確定申告で税金を精算することになります。

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一人社長の役員報酬の決め方は?

一人社長の役員報酬は、法人の利益状況と社長自身の生活費を踏まえて、合理的に決める必要があります。報酬額は税務や社会保険の負担、会社の財務体質にも影響するため、制度上のルールと金額設定の考え方を理解しておきましょう。

経営を圧迫しない水準で設定する

役員報酬を決める際は、まず会社の年間売上や利益の見通し、今後の投資計画、資金繰りなどを踏まえ、会社に十分な利益と現金が残る範囲で設定することが大切です。報酬が高すぎると会社に利益が残らず、財務基盤が弱くなったり、税務上「過大」と判断されるリスクがあります。一方で、報酬が低すぎると社長自身の生活資金に支障が出たり、法人に利益が過度に残って法人税負担が増えることもあります。

自社の実態に合わせて決定する

国税庁が公表している「民間給与実態統計調査」には、資本金規模ごとに役員(常勤・非常勤を含む)の平均給与が示されており、役員報酬の相場を知るための参考資料として活用できます。たとえば、資本金2,000万円未満の法人では、役員報酬の平均は665万円とされています。

以下は、令和6年分調査に基づく資本金別の平均役員給与です。

資本金区分平均役員給与(年間)
2,000万円未満6,650千円
2,000万円以上〜5,000万円未満9,066千円
5,000万円以上〜1億円未満11,969千円
1億円以上〜10億円未満14,251千円
10億円以上16,657千円
全体平均8,232千円

参考:令和6年分 民間給与実態統計調査|国税庁

これらの数値からは、企業規模が大きくなるほど役員給与も高くなる傾向が読み取れます。ただし、この統計は合同会社や一人社長のみを対象としたものではなく、ほかの役員なども含まれているため、一般的な「一人社長の役員報酬」と完全に一致するわけではありません。

そのため、上記の統計はあくまで「世の中の相場感」をつかむための参考情報にとどめ、実際の役員報酬は次の観点を総合的に考えて設定することが望ましいといえます。

  • 自社の事業規模・利益水準
  • 将来の資金繰りや投資計画
  • 社長本人および家族の生活費
  • 同業他社・同規模企業の水準
  • 税務上の適正性(過大役員報酬に該当しないか)

特に合同会社や設立間もない小規模企業では、上記統計よりも低い水準が適切となるケースも多く、自社の実態に合わせて柔軟に検討することが不可欠です。

一人社長の役員報酬の決定時期と支払い方法は?

一人社長の役員報酬は、法人税法上のルールに基づき、決められた時期に設定し、毎月同じ金額を継続して支給する必要があります。このルールを守ることで、役員報酬を損金(経費)として計上することができ、法人税の適正な算定につながります。

報酬額は事業年度開始から3ヶ月以内に決定

法人の役員報酬は、原則として事業年度開始日から3か月以内に金額を決定する必要があります。これは法人税法上、「定期同額給与」として損金(経費)算入が認められるための要件のひとつです。一人社長の合同会社であっても同様で、報酬を支給する場合はこのルールが適用され、毎月同額を継続して支払うことが求められます。年度途中で増額や減額を行った場合、変更部分は損金算入が認められず、法人税の負担が増える可能性があります。

参考:No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)|国税庁

決定内容は議事録で記録しておく

報酬額の決定は、たとえ一人社長であっても、形式的に社員総会や持ち回り決議という形で記録を作成しておくことが推奨されます。決定内容を議事録に残しておくことで、税務調査などで「いつ、誰が、どのように決定したのか」の証拠となります。特に、報酬の変更や未払いが発生した場合に備え、報酬決定に関する文書は整備・保管しておくことが重要です。

支払いは毎月一定日に振込・税金と保険料も処理

支払い方法は、通常、毎月決まった日に法人の口座から社長個人の銀行口座へ役員報酬を振り込みます。その際、所得税の源泉徴収が必要となり、会社は預かった税金を税務署へ納付します。また、住民税については自治体から送付される特別徴収通知に基づき、会社が毎月の給与から控除して納付します。さらに、社会保険の加入義務があるため、健康保険・厚生年金の保険料を会社と個人がそれぞれ折半して負担します。これらの計算や支払処理は、一般従業員の給与計算とほぼ同様の手続きが必要になります。

役員報酬は経費にできる?

法人税法上、役員報酬は一定の要件を満たせば会社の「損金」、つまり経費として扱うことができます。ただし、従業員給与とは異なり、役員報酬は自由に金額を変更できる性質があるため、税務上は損金算入に関していくつかの制限が設けられています。

経費にできるのは「定期同額給与」の場合

役員報酬が経費として認められるには、原則として「定期同額給与」として支給されていることが求められます。これは、事業年度の開始から3ヶ月以内に報酬額を決定し、その後は毎月同額で支給する形式を指します。この要件を守ることで、報酬額全体を損金として計上でき、会社の課税所得を圧縮することが可能となります。

なお、年の途中で報酬額を増減させた場合、その変更分は損金に認められず、税務上不利となる可能性がありますので注意が必要です。

不定期支給や業績連動型は損金にできない

業績に応じて支払額を変えたり、賞与のように臨時で支給したりする役員報酬は、原則として損金に算入できません。これは、役員は会社の意思決定権を持つため、報酬を自由に操作して利益の調整を行うことが可能と見なされ、法人税法では厳しく制限されています。ただし、賞与であっても「事前確定届出給与」として、支給額と支給時期をあらかじめ決め、所定の期限までに税務署へ届け出た場合には損金算入が認められます。

一方で、制度上は「利益連動給与」も損金算入の対象となりますが、要件が非常に厳格で、主に上場企業の業績連動報酬を想定した仕組みであるため、中小企業や一人社長の法人が利用するケースはほとんどありません。いずれの場合も、損金算入を認めてもらうためには、定期同額給与以外では事前確定届出や詳細な算定根拠の作成など、煩雑な手続きや要件があります。

高額報酬でも上限はないが注意が必要

法律上、役員報酬の金額には明確な上限はありません。しかし、あまりに高額である場合には、税務調査で「不相当に高額」と判断され、その一部が損金不算入とされる可能性があります。

一人社長のように報酬決定が自己判断に近い場合、会社の収益状況や同規模企業の相場に照らして妥当な金額であることが求められます。形式的な手続きだけでなく、どのような理由でその金額に設定したのかを合理的な根拠として文書化しておくことが、節税や税務リスク対策としても重要です。

役員報酬と節税の関係は?

一人社長の会社において、役員報酬の設定は法人税の節税効果を大きく左右します。役員報酬として支払えば会社の利益は圧縮され、法人税が軽減されますが、同時に社長個人では所得税や住民税、社会保険料の負担が発生します。

役員報酬の支給で法人税を抑えられる

役員報酬は、一定の要件(定期同額給与など)を満たせば、会社の損金として処理できます。これにより課税所得を圧縮でき、法人税の負担を軽くすることが可能です。報酬額を大きくすればするほど会社の利益は減るため、節税につながるように見えますが、実際には報酬額はそのまま社長個人の所得となり、次の段階で個人に対する課税が発生します。

個人側の税・保険料が増える点に注意

役員報酬が増えると、個人にかかる所得税・住民税に加えて、社会保険料の負担も増加します。社会保険料は標準報酬月額に応じて段階的に上がりますが、一方で所得税は累進課税により、収入が増えるほど税率が高くなるため、報酬を上げた際の負担増は、社会保険料よりも所得税の影響が大きくなる場合があります。その結果、年収を上げても手取りが思ったより残らず、報酬を引き上げすぎると逆に損をする可能性があります。

節税額よりも総合的な資金効率で判断する

節税だけに目を向けて高額な役員報酬を設定すると、手元資金が減り、会社にも個人にも余裕がなくなる場合があります。一方で、報酬を低くしすぎると、生活資金の確保が困難になるほか、法人に利益が残りすぎて法人税が増えるという逆効果も生じます。節税とはあくまで手段であり、法人と個人のキャッシュフロー全体を踏まえ、どの水準が最も資金効率がよいかを総合的に判断することが大切です。

一人社長の役員報酬をゼロにできる?

一人社長であっても、役員報酬をゼロに設定することは制度上可能です。ただし、その選択には税務・社会保険・経営面のリスクも伴うため、慎重な判断が求められます。

報酬ゼロは制度上認められている

法人を設立しても、必ず役員報酬を支払わなければならないわけではありません。創業初期や赤字が見込まれる場合には、報酬をゼロにして法人の負担を軽減するという判断も制度上認められています。税務署への届け出も不要で、定款にも違反しなければ問題はありません。

法人税は増えるが社会保険は軽減される

報酬を支払わなければ人件費が発生しないため、法人の利益はその分大きくなります。その結果、法人税の課税対象額が増える可能性があります。一方、他に従業員がいない一人社長の会社で役員報酬をゼロにした場合、健康保険・厚生年金の被保険者要件を満たさなくなるため、実務上は社会保険に加入できず、会社と社長個人の保険料負担は発生しません。ただし、社長自身は国民健康保険・国民年金に個人で加入する必要があり、保険料は全額自己負担となります。

資金移動や信用力への影響も考慮する

報酬ゼロの場合、会社から社長個人への資金移動がないため、生活費の確保が難しくなるだけでなく、個人としての所得証明が提出できず、住宅ローンや各種融資で不利になる可能性があります。また、会社としても役員に報酬を支払っていないことが対外的な信用力に影響する場合があり、長期的に続ける選択肢としては慎重な検討が必要です。利益が出始めた段階で、事業規模や資金繰りに応じて適正な役員報酬へ見直すことが望ましいでしょう。

一人社長が報酬以外に資金を受け取る方法は?

一人社長には、役員報酬以外にも法人から資金を受け取る方法が存在します。これらは役員報酬とは異なる性質を持ち、税務や社会保険の取り扱いもそれぞれ異なります。各方法の仕組みを正しく理解し、適切に処理することで、法人・個人の資金管理に活用できる場合があります。

立替経費の精算として受け取る

社長が会社業務のために支出した費用(交通費通信費交際費など)を一時的に個人で立て替えた場合、法人がその金額を後日返金する取扱いは、支出が業務に必要なものであり、かつ実費相当額である限り「実費弁償」に該当します。これは立替金の清算であり、役員報酬や給与には該当しません。そのため、原則として税務上の所得とはみなされず、社会保険料の算定基礎にも含まれません。

ただし、この取扱いが認められるには、領収書などの証憑を確実に保存し、支出の内容・日付・支払先・業務関連性を明確に記録しておくことが不可欠です。 私的支出と区別できない場合や、実費を超えた金額を精算している場合には、給与(役員報酬)として課税されるおそれがあります。

なお、出張時に日当を支給する場合は、実費精算とは別の制度となるため、あらかじめ旅費規程を整備しておくことが望ましいといえます。旅費規程がないまま日当を支給すると、金額や支給実態によっては給与認定される可能性があるため、制度の違いを理解したうえで適切に運用しましょう。

社長からの貸付金の返済を受ける

法人設立時や資金繰りの都合で、社長が会社に資金を貸し付けている場合、その返済を受け取っても役員報酬には該当しません。これは、会社から社長への「借入金の返済」であり、返済金は元本の戻りにすぎないため、税務上の所得にもならず、社会保険料の算定基礎にも含まれません。

ただし、会社と社長の間で金銭消費貸借契約書を作成し、貸付日・金額・返済方法・返済期限・利率(利息を設定する場合)などを明確にしておくことが望ましいです。また、利息を設定している場合、社長が受け取る利息は一般的に雑所得として課税対象となります。

配当や利益分配を通じて受け取る

株式会社では株主への配当、合同会社では利益分配という形で、役員報酬とは別に社長個人が出資者として利益を受け取る方法があります。合同会社では、定款や社員間契約で出資比率以外の分配ルールを定めることもでき、株式会社よりも柔軟な利益配分が可能です。ただし、分配はあくまで「利益処分」であり、給与のように業績に応じて毎回変動させることは税務上問題となる可能性があります。

これらの配当・利益分配は役員報酬とは異なり、法人側では損金として扱われないため、支給時点で法人所得に影響しません。一方で、受け取った個人側には「配当所得」として課税されます。また、社会保険料の算定基礎に含まれない点も特徴です。なお、会社に利益が出ていないと配当はできないため、あくまで黒字が前提となります。

一人社長の役員報酬はバランス感覚を持って決定しよう

一人社長の役員報酬は、会社の経営状況と社長個人の生活どちらにも密接に関わります。特に合同会社のような小規模法人では、報酬額の設定ひとつで法人税・所得税・社会保険料といった全体の負担が大きく変わります。

適正な給料(役員報酬)を決める際は、会社と個人双方の手元資金が最も効率よく確保できる水準を見極めつつ、無理のない範囲で節税を図ることが大切です。毎年の利益見込みを踏まえて金額を見直しながら、会社の成長段階に合わせて柔軟に調整していきましょう。


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