- 作成日 : 2025年2月12日
個人事業主の法人化で合同会社を選ぶメリットは?手続きの流れをまとめて解説
合同会社を選択して法人化すれば設立費用を抑えられ、比較的自由度の高い経営が実現できるでしょう。個人事業主が法人化で合同会社を選ぶことには、このようにいくつかのメリットがありますが、その一方で注意点もあります。本記事で詳しく解説しますので、法人化を検討している方はぜひチェックしてみてください。
目次
個人事業主が法人化する際に合同会社を選ぶメリット
合同会社としての法人化は、小規模事業での起業や個人事業主の法人化を目指す場面において魅力的な選択肢です。その最大の理由は、株式会社と比較して設立・運営コストが低いこと、柔軟な経営が可能なことにあります。以下、主要なメリットについて詳しく説明します。
設立の費用や手間がかからない
合同会社の設立にかかる費用は、株式会社を設立する場合と比べて低額です。第一に、定款の認証が合同会社だと不要です。そのため公証人手数料として3万~5万円の支払いが発生せず、そのための手続きにかかる手間もかかりません。
また、設立時の登録免許税も、最低額が株式会社の半額以下(株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円)で済みます。
さらに、株式会社で起業者以外の出資者が設立に参画するときは、創立総会と呼ばれる会議を開かなければなりません。
これらさまざまなコストや手続きが合同会社では発生しない、あるいは発生してもその負担が小さく済ませられることが多いようです。一般的に、合同会社の設立費用は10万円以内で済むケースも多く、これに対し株式会社は20万円以上かかることが多いとされています。
(※どちらの会社でも別途資本金の準備は必要です)
利益配分を自由に決定できる
合同会社の大きな特徴として、「出資比率と利益分配比率を別々に設定できる」という点が挙げられます。
(※株式会社の場合、出資比率に応じて株式を保有することになり、利益の配当割合もこれに対応する。ただし、種類株式の発行により配当の方法を調整することは可能)
これにより、事業に対する貢献度、役割に応じて柔軟に利益を配分することが可能です。例えば、出資額は少なくても事業に大きく貢献しているメンバーに対して、その貢献度に見合った報酬を設定することも可能です。
また、新規メンバーが参画する際も、既存メンバーの権利を維持しながら、適切な利益配分を設定できるため、事業拡大時の人材確保がスムーズになります。特に、専門性の高いスキルを持つメンバーとの協業や成果報酬型の事業形態において、この柔軟な利益配分の仕組みは大きな強みとなります。
経営の自由度が高い
株式会社だと、機関設計によっては取締役会や監査役の設置が義務付けられるなど、出資者などの利益を守るために経営者を監視する仕組みが厳格に定められています。
一方、合同会社では出資者と経営者が原則として一致しており、株式会社のように厳しく経営の方法について規制が設けられていません。
そのため、意思決定のプロセスを事業の実態に合わせて柔軟に設計することが可能です。定款で別段の定めをしない限り、原則として社員全員の同意で意思決定をする必要があるため、会社にとって重大な決断をするときも株主総会のような形式的な手続きが不要です。
この自由度の高さは、特に小規模事業者にとって大きなメリットとなるでしょう。市場の変化に迅速に対応する必要がある場合や、機動的な経営判断が求められる場面で、この利点が活きてきます。また、経営者の意向を直接的に事業運営に反映させやすい点も、個人事業主からの移行を考えるうえで重要なポイントとなります。
ランニングコストが低い
設立コストのみならず、合同会社の場合は運営にかかるランニングコストも比較的低めです。株式会社の場合、定期的に株主総会や取締役会を実施する必要があり、規模が大きくなるほど運営にかかるコストも大きくなってしまいます。また、役員に対する規制が厳しいことと関連して、法律によって任期が決められています。同じ人物が経営を続けるとしても、一定期間ごとに取締役の再任手続きが必要です。そのたびに登記の手数料も発生しますので、忘れないようにしましょう。
合同会社の場合はこのような再任にかかるコストが不要で、株主総会にかかるような運営コストも不要です。
これらの簡素化された要件により、特に小規模事業者は本業に集中しやすく、経営リソースを効率的に配分することができるでしょう。固定費を抑えることで事業の安定性を高め、成長のための投資余力を確保しやすくなるのも大きな利点です。
決算書の公表義務がない
合同会社には、株式会社に課されている「決算公告義務」がありません。これに伴い、公告のための手間とコストが不要となり、さらに経営情報の機密性が保持できるという利点も得られます。ただし、決算業務自体は必須であり、決算にかかる一切の負担がなくなるというわけではありません。
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個人事業主が法人化する際に合同会社を選ぶ注意点
株式会社ではなく合同会社を選択するとき、設立をする前に以下の注意点については理解しておく必要があります。
| 資金調達に対する制限 | 合同会社は株式を発行できないため資金調達の方法が限られる。上場して大規模な資金を集めるという手段を選択できない。 |
|---|---|
| 事業展開に対する制限 | 合同会社は上場ができないため、将来的に上場をきっかけとする大規模な事業展開をすることはできない。 |
| 社員間での対立 | 合同会社では、定款で別段の定めをしない限り、原則として社員の全員一致で意思決定を行うため、対立が生じてしまったときに経営が停滞するおそれがある。 |
ただし、合同会社だからといって規模を大きくできないということはなく、定款によって経営の方法を工夫することも可能です。
合同会社から株式会社への移行はできる?
法人化の際、どの会社形態を選択するのか慎重な検討を進める必要がありますが、後で合同会社から株式会社へ移行することも不可能ではありません。この移行を「組織変更」と呼びます。初めは合同会社として法人化し、その後の状況を見ながら株式会社への組織変更も視野に入れるといった選択肢もあります。
ただし、組織変更をするには総社員の同意が必要です。債権者に異議申し立ての機会を与えることが必要です。さらに登記申請も行うため、組織変更は手間のかかる作業です。そのため「後で変えられるから、とりあえず合同会社にしておこう」などと安易に決断すべきではありません。
合同会社としての法人化がおすすめな業種・ケース
合同会社は、とりわけ個人の専門性を活かしたビジネスや、少人数での柔軟な経営を望む場合に適しています。
具体的にどのようなケースで合同会社が効果的なのか見ていきましょう。
スモールスタートで段階的に成長を目指す
小規模からスタートし、徐々に事業を成長させていきたい個人事業主には、合同会社が合っているといえます。事業の将来性を見極めながら慎重に成長させたい場合や、副業から始めて徐々に本格化を目指すような場合も同様です。
また、「初めから大きなコストをかけられない」「法人化のコストはできるだけ抑えたい」といった場合にも株式会社より合同会社が適しています。
少人数での共同経営を予定している
株式会社は複雑な機関設計が可能で、役員の数が多い場合にも適しています。株式会社が少人数経営に適していないわけではありませんが、少人数のチームで経営をしていくのであれば合同会社も適しています。
合同会社では、定款で別段の定めをしない限り、原則として社員全員の同意で意思決定を行う必要があるため、社員の数が多い場合、意見が分かれると意思決定に時間がかかる可能性があります。
経営の自由度を保ちたい
経営の自由度を重視するのなら、合同会社の選択を前向きに検討するとよいでしょう。株式会社だと直接的な経営は行わない投資家が関与することもあり、その場合、会社運営について口出しを受けることもあります。その反面、出資を広く募ることができるという利点もあるのですが、外部の出資者を必要としないのであれば合同会社の設立で問題ありません。
また、合同会社として法人化するときは、上述の通り決算公告義務がなく会計にかかる管理コストを抑えることができます。役員変更などにかかる登記などの手間も省けるため、自由度の高い経営を実現しやすくなります。
個人の専門性が重視される業種
個人の専門性が重視される業種、特にコンサルタントやクリエイターなどの分野で活動している個人事業主にとって、合同会社としての法人化は魅力的な選択肢となるでしょう。
合同会社では個人の能力や貢献度に応じた柔軟な報酬設計が可能で、業務内容が社員の個性に依存するときでもその実情に合わせて運営しやすいのです。
個人事業主のように各人の個性を活かしつつも法人格を得ることで対外的な信用力を高めることができるため、その結果、より大規模な案件や新たな取引先を獲得しやすくなります。
個人事業主から合同会社として法人化する流れ
現在、個人事業主として活動中の方が合同会社として法人化する場合、次の手続きを進めていくことになります。
- 資本金の確保
- 1円以上あればいいが信用力に関わるため金額には注意。
- 金額が大きいと税負担も大きくなるためバランスを考慮することが大事。
- 定款の作成
- 商号や本店所在地など会社の基本事項を決める。
- そのほか会社経営に関わる重要事項なども決める。
- 登記申請書類の準備
- 定款、資本金の払込みを証する書面、代表社員の就任承諾書、本人確認書類などを一式そろえる。
- 設立登記申請書を作成し、添付書類をとじる。
- 登記申請
- 管轄の法務局で申請書その他必要書類を提出する。
- 登録免許税を納付する(資本金の0.7%で計算、最低6万円)。
株式会社とは異なり、作成した原始定款に対し公証人から認証を受ける必要はありません。また、合同会社の設立とは独立した手続きですが、後述するように個人事業主としての廃業手続きも必要です。
設立登記が完了した後に行う手続き
設立登記したあとも、事務的な作業でやるべきことがいくつか残されています。法人名義の口座を作ること、税務・社会保険関連での届け出、そして個人事業を廃止したことの届け出などです。
法人名義の口座開設
法人として事業活動を始めるなら、それまで使っていた個人名義の口座をそのまま使うわけにはいきません。法律上の義務ではありませんが、実務上、法人名義の口座の開設が推奨されます。
屋号付きの口座にしていた場合でも、名義人が個人であることに変わりはないため、新たに法人名義の口座を作らなくてはなりません。
なお、開設の手続きでは登記事項証明書や印鑑証明書などの書類が求められます。口座開設の審査自体は厳しいものではありませんが、個人事業主時代の取引実績が考慮される可能性もあるため、現在のメインバンクでの開設を検討するとよいでしょう。
各機関への届け出の提出
登記申請を済ませることで法人格が得られ、合同会社が設立されます。しかし、実際に事業活動を始めるためには、さらに必要な公的な手続きがいくつかあります。
一つは税務署や都道府県税事務所・市区町村役場に対する「法人設立届出書」の提出です。会社設立から2カ月以内に届け出しなければなりません。会社を立ち上げたことをこの書類により知らせる必要があるのです。
ほかにも、税務関連や社会保険関連でしないといけない手続きがあります。例えば、青色申告承認申請書の提出、給与支払事務所などの開設届出書の提出、健康保険・厚生年金保険新規適用届の提出、労働保険関係成立届の提出などの手続きです。
ただし、従業員をすぐに雇用しないのであれば、雇用保険や労災保険の手続きを急いで始める必要はありません。
資産移行
個人事業を法人へ引き継いで事業を継続するときは、資産を個人名義から法人名義に移行する必要があります。
資産を移行する方法にもいくつかあり、個人から法人へ有償での「売却」をするという方法、個人を賃貸人とする「賃貸」の契約を交わす、設立時に「現物出資」とする、法人へ無償での「贈与」をする方法などがあります。
ただし、債権や債務については取引先に対する通知などのやり取りが必要です。とりわけ債務は、取引先からの承諾を得ないと債務者の変更ができないため注意しましょう。
個人事業の廃業届出書の提出
個人事業の法人化に伴い、個人事業を廃止したことについて「廃業届」を提出する必要があります。事業を止めたときから1カ月以内に廃業届を作成し、税務署に提出しましょう。
なお、廃業届は開業届と同じ様式の書面であり、「廃業の事由」が法人化に伴うものであるときは、その旨を記載する欄があります。設立する法人名や代表者名、法人の納税地、設立登記日を記入しますので、合同会社を設立した後で作成・提出を行いましょう。
自分の事業に合った会社形態を選択しよう
個人事業主が法人化を検討するときは、事業規模や将来の展望、取引先との関係性など、さまざまな要素を考慮して会社の種類を選びましょう。一般的には株式会社を選ぶ方が多いですが、合同会社にも多くの利点があります。その利点が活きるのか、それともマイナスに働くのかといった、自分の事業特性をしっかりと見極めて最適な形で法人化できるように分析しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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