• 更新日 : 2025年12月1日

個人事業主も扶養に入れる!自営業の妻を扶養に入れ配偶者控除を受ける際のポイントを解説

個人事業主として開業しても、条件を満たせば配偶者や親族の扶養に入ることが可能です。しかし、「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」では基準が異なり、知らずに損をしてしまうケースも少なくありません。

この記事では、個人事業主が扶養に入るための具体的な条件やメリット、自営業の妻(または夫)を扶養に入れる側が受けられる配偶者控除のポイントなどを令和7年度税制改正に基づき詳しく解説します。

個人事業主・自営業でも扶養に入れる!

個人事業主や自営業者であっても、一定の条件を満たせば配偶者や親族の扶養に入ることが可能です。ここでいう「扶養」には、税法上の扶養(所得控除)と社会保険上の扶養(健康保険の被扶養者等)があり、判定の仕組みと基準が異なります。

税法上は所得で判定

個人事業主が扶養家族となる可否は、売上ではなく合計所得金額(=収入-必要経費等)で見ます。青色申告の承認を受けていれば、青色申告特別控除も適用でき、合計所得金額の判定に影響します。したがって、青色申告をしていても、合計所得金額が58万円以下なら配偶者控除の枠内に収まるケースがあります。

社会保険上は収入で判定

健康保険の被扶養者認定は、原則として年間収入130万円未満であり、今後も継続してその範囲内と見込まれることが条件です。判定方法などは加入先により異なる場合があります。

扶養に入ったままでも個人事業主として開業可能

扶養家族の状態であっても、新たに事業を開始することは可能です。主婦や主夫、学生など、どのような人でも自由に職業を選ぶことができます。

扶養と開業は制度上関係ありませんので、扶養に入っていても開業届は提出できます。事業所得、不動産所得、山林所得のいずれかが生じる事業を開始したときは、開業から1カ月以内に開業届を提出しましょう。

ただし、開業後に所得や収入が増加し、基準を超えると扶養から外れる可能性があります。ここでの基準は税法上と社会保険上で異なるため、次章でその違いを詳しく見ていきましょう。

個人事業主・自営業が理解しておきたい扶養の種類

個人事業主・自営業が理解しておきたい扶養の種類

扶養には、「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2種類があり、それぞれ適用される基準や目的が異なります。これらの違いを理解することは、税金の申告や社会保険の手続きを正しく行うために重要です。

1. 税法上の扶養とは

「税法上の扶養」は、所得税・住民税の負担を軽減するための制度を指し、趣旨としては家族の生計を主に維持している納税者に所得控除を認める仕組みです。

ここで区別したいのは、配偶者は「配偶者控除・配偶者特別控除」で取り扱い、配偶者以外の親族は「扶養控除」で取り扱う点です。いずれも基本は「生計を一にする」関係と、合計所得金額の基準を満たすことが要件になります。

参考:No.1180 扶養控除|国税庁

配偶者控除の対象となる人の範囲・条件(令和7年分から適用)
  • 民法の規定による配偶者(内縁関係は除く)
  • 納税者と生計を一にしている
  • 年間の合計所得金額が58万円以下(給与のみの場合は給与収入が123万円以下)
  • 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていない、もしくは、白色申告者の事業専従者でない

参考:No.1191 配偶者控除|国税庁

2. 社会保険上の扶養とは

社会保険でいう「扶養」は、主に健康保険の被扶養者のことを指し、要件を満たして認定されると、被扶養者本人の健康保険料負担は発生せずに医療給付等を受けられます。

一方で年金は別制度で、会社員や公務員など厚生年金加入者(第2号被保険者)の配偶者が条件を満たす場合に国民年金の第3号被保険者となり、本人の年金保険料負担は生じません。

協会けんぽの被扶養者となる人の範囲・要件は、以下の通りです。

認定対象者が被保険者と同一世帯に属している場合
  • 認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)
  • かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満
認定対象者が被保険者と同一世帯に属していない場合(仕送りなど)
  • 認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)
  • 被保険者からの援助による収入額より少ない

参考:被扶養者とは?|協会けんぽ

個人事業主・自営業が税法上の扶養に入れるケース

個人事業主が、税法上の扶養に入れるケースについて、扶養者が誰であるかによってパターンを分けて解説します。

ケース1. 配偶者の扶養に入れるケース

夫の扶養に入っていて、妻が個人事業主として開業した場合、所得合計額の条件を満たせば、所得税と住民税については、配偶者控除または配偶者特別控除の適用があります。

  • 開業した人(妻)の年間合計所得が58万円以下
    配偶者(=夫)は「配偶者控除」を受けられます。
  • 開業した人(妻)の年間合計所得が58万円超~133万円以下
    配偶者(=夫)は「配偶者特別控除」を受けられます。

なお、配偶者控除と配偶者特別控除を同時に受けることはできません。また、夫婦がお互いに控除を受け合うこともできません。そして、配偶者(控除を受ける側)の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、配偶者控除・配偶者特別控除ともに適用できません。

参考:No.1191 配偶者控除|国税庁No.1195 配偶者特別控除|国税庁

ケース2. 親族(親など)の扶養に入れるケース

親族(6親等内の血族、3親等内の姻族)の扶養に入っていた人の場合、個人事業主になったあとも、年間所得合計額が58万円以下であれば、引き続き、その親族の扶養控除の対象に含まれます。

扶養控除については、配偶者控除とは異なり、扶養者(扶養する側)の所得制限はないため、扶養者の年間合計所得が1,000万円を超えていても適用できます。

個人事業主・自営業の妻を扶養に入れ配偶者控除を受ける際のポイント

自営業の妻が配偶者控除の対象になるかどうかを判断する際、最も重要なのが「合計所得金額」の計算です。パートの「年収の壁」とは異なる、個人事業主特有の計算方法が最大のポイントです。

ポイント1. 合計所得金額58万円は売上ではない

自営業や個人事業主の場合、配偶者控除の基準となる「合計所得金額58万円」は、パートやアルバイトの「給与収入123万円(給与所得控除65万円を引くと所得58万円)」とは計算方法が異なります。

個人事業主の所得は、年間の「売上(収入)」から「必要経費」を差し引いた金額(事業所得)を指します。

事業所得 = 売上(収入) ー 必要経費

例えば、年間の売上が100万円あっても、事業に必要な経費(仕入れ費、交通費通信費など)が60万円かかっていれば、事業所得は40万円です。この場合、「合計所得金額58万円以下」の条件を満たすため、配偶者控除の対象となります。

ポイント2. 青色申告特別控除も活用できる

さらに、青色申告の承認を受けている場合、計算した事業所得から「青色申告特別控除(最大65万円・55万円または10万円)」を差し引くことができます。

合計所得金額 = 売上 ー 必要経費 ー 青色申告特別控除

例えば、売上が150万円、経費が60万円の場合、事業所得は90万円です。しかし、65万円の青色申告特別控除を受ければ、合計所得金額は25万円(90万円 – 65万円)となり、この場合も配偶者控除の対象になります。

このように、自営業の妻は、パートよりも多くの売上を得ながらでも、経費を正しく計上し、青色申告特別控除を活用することによって、税法上の扶養(配偶者控除)の範囲に収まる可能性があります。

参考:No.2072 青色申告特別控除|国税庁

個人事業主・自営業が社会保険の扶養に入れるケース

社会保険では、年間収入が130万円を超えるかどうかが被扶養者認定の大きな基準です。ここでいう年間収入は、税法上の「合計所得金額」ではなく、将来にわたり継続して得られる見込みの収入額で判定します。

したがって、所得税の配偶者特別控除に使う「合計所得金額133万円」とは基準が異なります。

個人事業主の場合、年間収入130万円未満とは、収入(売上)から必要経費を差し引いた額が130万円未満と解釈されることが一般的です。

ここで注意したいのは、税法上の青色申告特別控除は、社会保険の扶養判定における経費として認められないケースが多い点です。加入する健康保険組合によって判断が異なるため、詳細は扶養者(夫や妻)の勤務先や健康保険組合に確認するのが確実です。また、同一世帯と別世帯で確認事項が変わる点にも注意しましょう。

130万円を超える収入が継続する見込みとなれば、被扶養者から外れることになり、健康保険や年金保険を自身で支払わなければならないため、社会保険の負担も考慮した計画が必要です。

個人事業主・自営業が扶養に入るメリット

ここでは、個人事業主が扶養に入るメリットを、税制面と社会保険面に分けて解説します。

メリット1. 扶養者の所得税・住民税が軽減される

個人事業主が扶養に入る最大のメリットは、扶養者(扶養する側)の税負担が減ることです。

妻が配偶者の扶養に入る場合

夫の所得税や住民税計算時に、「配偶者控除」などが適用され、所得税や住民税の負担が減ります。配偶者控除は、妻の年間の所得合計額58万円以下、かつ夫の所得合計額1,000万円以下のときに適用できます。妻の年間所得合計額が58万円を超えた場合でも、133万円以下のときまで、所得額に応じて「配偶者特別控除」を適用できます。

配偶者控除の額

控除の種類夫の所得合計額一般の配偶者70歳以上の配偶者
所得税900万円以下38万円48万円
900万円超950万円以下26万円32万円
950万円超1000万円以下13万円16万円
住民税900万円以下33万円38万円
900万円超950万円以下22万円26万円
950万円超1000万円以下11万円13万円

出典:No.1191 配偶者控除|国税庁

子どもが親の扶養に入る場合

子どもが親と生計を一にしており、その年の合計所得金額が58万円以下(給与収入のみは123万円以下)などの条件を満たすと、親は扶養控除の適用を受けられます。控除額は、対象年度の12月31日時点の年齢で決まります。

  • 一般の扶養親族(16歳以上):38万円(住民税は33万円)
  • 特定扶養親族(19歳以上23歳未満):63万円(住民税は45万円)

この控除により、親の所得税や住民税の負担を減らせます。

親が子どもの扶養に入る場合

親と生計を一にしており、その年の合計所得金額が58万円以下(給与収入のみは123万円以下)などの条件を満たすと、子は扶養控除を適用できます。

基本的な控除額は38万円(住民税は33万円)です。対象年度の12月31日時点で親が70歳以上の場合、同居で58万円(住民税は45万円)、別居で48万円(住民税は38万円)の控除が受けられます。これにより、 子は所得税や住民税の負担を減らせます。

メリット2. 健康保険や年金の保険料負担がなくなる

税金面だけでなく、健康保険や年金などの社会保険の面でもメリットがあります。

健康保険については、要件を満たして「被扶養者」に認定されると、扶養に入る人(個人事業主本人)は追加の保険料負担なしに、保険の給付(医療サービス)が受けられます。

年金についても、扶養する側が厚生年金加入者(第2号被保険者)で、扶養される側が要件を満たす場合、扶養される人は国民年金の「第3号被保険者」となります。この場合、本人の国民年金保険料はかからず、保険料相当は厚生年金制度側が負担します。

ただし、扶養者が自営業者などで国民年金や国民健康保険に加入している場合、その配偶者の扶養(第3号被保険者など)に入る制度はありません。

個人事業主・自営業が扶養に入る場合の注意点

個人事業主が扶養に入る場合、いくつか注意点が存在します。

注意点1. 配偶者控除と青色事業専従者給与は選択が必要

配偶者控除(または配偶者特別控除)と青色事業専従者給与は、どちらか一方しか適用できません。 夫が青色申告者で、妻がその事業を手伝っている場合、妻を「青色事業専従者」として給与を支払う選択肢もあります。この場合、妻に支払った給与は必要経費に算入できますが、妻は夫の控除対象配偶者から外れるため、夫は配偶者控除を受けられなくなります。

青色事業専従者給与のメリット
  • 妻への給与を必要経費として計上できるため、夫の所得税を抑えられます。
  • 世帯全体で所得を分散させる効果があります。
配偶者控除のメリット
  • 妻の所得を一定以下に抑えることで、夫が税制上の控除を受けられます。

どちらが世帯全体として有利になるかは、夫の所得額、妻に支払う給与額、事業の状況によって異なります。具体的な状況に応じて検討する必要があります。

参考:No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除|国税庁

注意点2. 扶養に入っていても住民税が発生することがある

所得税で配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除の対象となる合計所得金額と、住民税の非課税基準は一致しません。そのため、所得税の計算上は「扶養に入っている」状態でも、本人に住民税が課税されることがあります。

住民税は、自治体ごとに定められた均等割・所得割の非課税基準で判定されます。多くの自治体では、合計所得金額が45万円以下、または、給与収入のみで100万円以下などの場合に非課税とされます。

個人事業主・自営業が扶養を外れた場合の手取りシミュレーション

開業前、扶養者の立場にあった配偶者(夫)の給与所得が500万円で社会保険料控除が100万円だったとします。このケースで、開業した人(妻)が配偶者控除内の50万円に所得を抑えた場合と、事業所得が150万円だった場合とで夫婦の手取り額の変化を比較してみましょう。

例1. 配偶者控除内に所得を抑えた場合

【所得税の計算】

  • 500万円(給与所得)-{100万円(社会保険料控除)+38万円(配偶者控除)+63万円(基礎控除)}=299万円(課税所得金額)
  • 299万円×10%(所得税率)-97,500円(控除額)=201,500円

【住民税の計算】

  • 500万円-(100万円+33万円+43万円)=324万円(課税所得金額)
  • 324万円×10%=324,000円

【所得税と住民税、社会保険料を差し引いた手取り】

(500万円+50万円)-(20.2万円+32.4万円)-100万円=4,024,500円

例2. 事業所得が150万円で配偶者控除を外れた場合

扶養から外れたことで社会保険料20万円を妻が支払ったとする。

【所得税の計算】

  • 500万円-(100万円+63万円)=337万円
  • 337万円×20%-427,500円=246,500円
  • 150万円-(20万円+88万円)=42万円
  • 42万円×5%=21,000円
  • 所得税額の合計 246,500円+21,000円=267,500円

【住民税の計算】

  • 500万円-(100万円+43万円)=357万円
  • 150万円-(20万円+43万円)=87万円
  • (357万円+87万円)×10%=444,000円

【所得税と住民税、社会保険料を差し引いた手取り】

(500万円+150万円)-(26.75万円+44.4万円)-(100万円+20万円)=4,588,500円

※そのほかの所得や所得控除なし、住民税額は10%、復興特別所得税、均等割りや調整控除などは考慮しない、簡易的な計算で比較しています。

このように、「世帯の所得が100万円増えたから、そのまま世帯の手取りも100万円増える」というわけではなく、税金と社会保険料を差し引いた後の実質的な手取りは、想定ほど増えないケースが多いのが現実です。

個人事業主として収入を伸ばすことは重要ですが、扶養の条件や税金・社会保険料の変化も踏まえ、シミュレーションで比較しておくことが賢明です。

個人事業主・自営業の税金と社会保険のバランスを考えよう

個人事業主として開業した場合、扶養から外れなければならないのではと考える人もいるかもしれませんが、扶養を外れるかどうかは、開業した人(個人事業主)の合計所得額次第です。

重要なのは、税法上の扶養と社会保険上の扶養の基準が異なることです。扶養のメリットだけにとらわれず、世帯全体の手取り額や社会保険の負担など、バランスを考えて扶養内で働くかどうか選択しましょう。


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