- 作成日 : 2026年3月3日
取適法の対象取引はどこまで?ガイドラインに基づく具体的範囲と対象外ケースを解説
取適法の対象取引は、従業員を使用しないフリーランスに対する事業としての業務委託全般です。
- IT、建設、運送、エンタメなど全業種が対象
- 週20時間未満のアルバイト雇用ならフリーランス扱い
- 資本金要件はなく「従業員の有無」で判断
雇用契約や個人的な発注(BtoC)は対象外ですが、一人親方や一人社長への発注は全て規制対象となります。
「フリーランス新法」の対象範囲は非常に広く、判断に迷うケースが少なくありません。結論から言うと、対象取引は事業者が事業のためにフリーランスへ行う「業務委託」全般です。ITやデザインに限らず、建設、運送、実演なども含まれます。
本記事では、公正取引委員会のガイドラインに基づき、対象となる取引の定義や業種別の具体例、対象外となるケースについて詳しく解説します。
目次
フリーランス新法の対象となる「取引」とは何か?
フリーランス新法の規制対象となるのは、事業者が特定受託事業者(フリーランス)に対して行う「業務委託」です。
「業務委託」という言葉はビジネスで頻繁に使われますが、この法律においては取適法と同様に明確な定義があり、以下の3つの類型に分類されます。取適法と比較しても適用範囲が広く設定されています。
1. 物品の製造(加工を含む)の委託
事業者が、販売する物品や自社で使用する物品の製造・加工を他の事業者に委託することです。
- 販売用製品の製造:アパレルメーカーが個人縫製職人に服の縫製を依頼する、機械メーカーが個人の旋盤工に部品加工を依頼するなど。
- 自社使用物品の製造:自社で使用する販促グッズのデザイン・製作を依頼する、社内用備品の製作を依頼するなど。
- 修理委託:自社製品の修理業務を個人の修理業者に委託する場合も含まれます。
取適法では「修理委託」は独立した類型ですが、フリーランス新法では物品の製造等に関連して整理されることが一般的です。重要なのは「物品」を作り出したり、価値を加えたりする行為全般が含まれる点です。
2. 情報成果物の作成の委託
情報成果物とは、ソフトウェア、映像、音声、デザイン、設計図、原稿などを指します。これらを作成・提供することを委託する場合です。
- IT関連:プログラムの作成、システム開発、Webサイトの制作、データベースの構築。
- クリエイティブ:ロゴデザイン、イラスト作成、写真撮影、動画編集、アニメーション作画。
- コンテンツ:記事の執筆(ライティング)、翻訳、楽曲の作曲・編曲、脚本の作成。
- その他:建築設計図の作成、市場調査レポートの作成など。
形のないデジタルデータや知的財産としての成果物を作成する業務は、ほぼすべてこの類型に含まれます。
3. 役務の提供の委託
事業者が請け負ったサービス(役務)を第三者に再委託する場合や、自社の事業のために必要なサービスを委託する場合です。
- 再委託(下請け):ビルメンテナンス会社が清掃業務を個人事業主に再委託する、運送会社が配送業務を個人ドライバーに委託する。
- 自家利用:社内研修の講師をフリーランスに依頼する、自社工場の保守点検を個人エンジニアに依頼する。
- エンタメ・実演:俳優、声優、モデル、ミュージシャン等が、出演や演奏などのパフォーマンス(実演)を行うこと。
特に「役務の提供」は範囲が広く、建設工事や運送、イベント出演など、多種多様なサービス業が含まれます。
「事業者が事業として」行う委託という条件
重要なのは、発注者が「事業として」委託する場合に限られるという点です。これを「BtoB」の取引と言います。
- 対象になる例:
- 会社の社長が、会社のWebサイト制作をフリーランスに依頼する。
- 個人事業主の飲食店オーナーが、お店のチラシデザインをフリーランスのデザイナーに依頼する。
- 対象にならない例(BtoC):
- 会社の社長が、プライベートで自宅の清掃をフリーランスに依頼する。
- 会社員が、個人の趣味である結婚式の余興ムービー編集をフリーランスに依頼する。
「消費者」としての立場で依頼する場合は、フリーランス新法の対象外となります。
参考:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方|公正取引委員会
この記事をお読みの方におすすめのガイド4選
この記事をお読みの方によく活用いただいている人気の資料・ガイドを紹介します。すべて無料ですので、ぜひお気軽にご活用ください。
※記事の内容は、この後のセクションでも続きますのでぜひ併せてご覧ください。
電子契約にも使える!契約書ひな形まとめ45選
業務委託契約書や工事請負契約書…など各種契約書や、誓約書、念書・覚書、承諾書・通知書…など、使用頻度の高い45個のテンプレートをまとめた、無料で使えるひな形パックです。
実際の契約に合わせてカスタマイズしていただきながら、ご利用くださいませ。
【弁護士監修】チェックリスト付き 改正下請法 1から簡単解説ガイド
下請法の改正内容を基礎からわかりやすく解説した「改正下請法 1から簡単解説ガイド」をご用意しました。
本資料では、2025年改正の背景や主要ポイントを、弁護士監修のもと図解や具体例を交えて解説しています。さらに、委託事業者・受託事業者それぞれのチェックリストを収録しており、実務対応の抜け漏れを防ぐことができます。
2026年1月の施行に向けて、社内説明や取引先対応の準備に役立つ情報がギュッと詰まった1冊です。
【弁護士監修】法務担当者向け!よく使う法令11選
法務担当者がよく参照する法令・法律をまとめた資料を無料で提供しています。
法令・法律の概要だけではなく、実務の中で参照するケースや違反・ペナルティ、過去事例を調べる方法が一目でわかるようになっています。
自社の利益を守るための16項目 契約書レビューのチェックポイント
契約書レビューでチェックするべきポイントをまとめた資料を無料で提供しています。
契約書のレビューを行う企業法務担当者や中小企業経営者の方にもご活用いただけます。
どのような「事業者」間の取引が対象になるか?
取引の内容だけでなく、取引する「相手(受注者)」と「自分(発注者)」が法律上の定義に当てはまるかどうかが重要な判断基準です。フリーランス新法では、取適法のような「資本金要件」が一切ありません。その代わり、「従業員の有無」によって適用が決まります。
特定受託事業者(フリーランス)の定義詳細
保護される側である「特定受託事業者」とは、以下のいずれかに該当する者を指します。
- 個人:従業員を使用しない個人(個人事業主)。
- 法人:代表者以外に役員がおらず、かつ従業員を使用しない法人(いわゆる一人社長のマイクロ法人)。
「従業員を使用しない」の具体的基準
ガイドライン(運用基準)では、この「従業員を使用しない」という定義について、以下のような明確な基準を設けています。
- 対象外(従業員ありとみなす):
「週所定労働時間が20時間以上」かつ「31日以上の雇用見込みがある」労働者を雇用している場合。 - 対象(従業員なしとみなす):
- 週20時間未満の短時間アルバイトのみを雇っている場合。
- 30日以内の短期雇用のみを行っている場合。
- 派遣労働者を受け入れている場合(自社で雇用しているわけではないため)。
つまり、アシスタントやアルバイトを雇っていても、それが短時間や短期であれば、法律上は「フリーランス」として扱われ、保護の対象となります。
特定業務委託事業者(発注者)の定義詳細
規制を受ける側である「特定業務委託事業者」とは、フリーランスに業務委託を行う事業者全般を指します。発注者に「従業員がいるかどうか(役員のみの場合は役員が2名以上か)」で、課される義務の重さが異なります。
| 区分 | 定義(従業員の有無) | 課される義務の内容 |
|---|---|---|
| 全義務適用 | 従業員を使用している (または役員が2名以上いる) | すべての義務
|
| 一部義務適用 | 従業員を使用していない (個人・一人社長) | 一部の義務のみ
※支払期日、禁止行為、ハラスメント対策等は免除 |
自身もフリーランスである個人事業主が、他のフリーランスに外注する場合(フリーランス間取引)は、発注書面の交付は必要ですが、60日以内の支払いや買いたたきの禁止といった重い規制は適用されません。
業種別の具体的な対象取引事例と注意点
ガイドラインやQ&Aでは、具体的な業種ごとの対象事例が紹介されています。自身の業界がどのように当てはまるか、よくある誤解も含めて確認しましょう。
IT・クリエイティブ業界
最もフリーランスとの取引が多い業界です。
- 対象取引:エンジニアへの開発委託、Webデザイナーへのサイト制作、ライターへの記事執筆、動画クリエイターへの編集依頼など。
- 注意点:
- 準委任と請負:IT業界では「準委任契約(SES等)」と「請負契約」が混在しますが、どちらも「業務委託」に含まれるため、フリーランス新法の対象です。「完成責任がないから対象外」という理屈は通りません。
- 仕様変更:アジャイル開発などで仕様が頻繁に変わる場合でも、その都度、変更内容や追加費用を書面(チャット等可)で明示する必要があります。
建設・運送・物流業界
多重下請け構造が常態化している業界でも、この法律の影響は甚大です。
- 対象取引:
- 建設:工務店が一人親方(大工、左官、電気工事士等)に工事を発注する。
- 運送:運送会社が個人事業主のドライバー(軽貨物運送等)に配送を委託する。
- 注意点:
- 他法令との関係:「建設業法を守っているから大丈夫」「物流二法があるから関係ない」という誤解が多いですが、相手が特定受託事業者(一人親方等)であれば、フリーランス新法も重ねて適用されます。特に「手形サイト60日以内」や「ハラスメント対策」は、建設業法にはない厳しいルールです。
エンタメ・サービス業界
芸能界や教育・サービス分野も対象です。
- 対象取引:
- 芸能:芸能事務所が所属タレント(個人事業主)に出演を依頼する。映画制作会社がカメラマンや照明スタッフに依頼する。
- 教育:英会話スクールがフリーランスの講師にレッスンを委託する。
- その他:通訳、翻訳、ヨガインストラクター、美容師(面貸し)など。
- 注意点:
- 専属契約:専属契約であっても、雇用契約でない限りはフリーランス新法の対象です。他社での活動を不当に制限することは、独占禁止法やフリーランス新法の問題になる可能性があります。
取適法の対象外となる取引やグレーゾーンは?
すべての取引が対象になるわけではありません。法的な契約形態の違いや、取引の性質によっては対象外となるものがあります。
1. 雇用契約(労働者としての契約)
フリーランス新法は「業務委託」を対象としているため、会社と「雇用契約」を結んでいる労働者(アルバイト、パート、正社員)に対する指揮命令や給与支払いは対象外です。これらは労働基準法で保護されます。
【重要】偽装請負のリスク
形式上は「業務委託契約」であっても、実態として指揮命令を行っていたり、勤務場所・時間を拘束していたりする場合は、「偽装請負(実質的な雇用)」とみなされます。この場合、フリーランス新法ではなく労働基準法が適用され、残業代の支払いや社会保険の加入義務が発生する可能性があります。
2. 「ポイ活」や懸賞などの軽微なタスク
ガイドラインでは、インターネットを通じて不特定多数の者に委託される、いわゆる「ポイ活」のようなタスクについて言及されています。
- アンケート回答
- モニター調査
- 簡単なデータ入力(タスク形式)
これらが、その対価の額や内容からみて、受託者の事業として行われるものとは認められない場合(お小遣い稼ぎ程度の場合)は、フリーランス新法の対象となる「業務委託」には該当しないと考えられます。ただし、クラウドソーシングサイト等を通じて、プロとして継続的に受注しているような場合は対象となります。
3. 定型的な約款に基づく契約(運送・寄託等)
- 運送契約:単発のタクシー利用、郵便、宅配便の利用など。
- 寄託契約:ホテルのクロークに荷物を預ける、倉庫に物品を預けるなど。
これらは、不特定多数に向けて定型的な約款に基づいて提供されるサービスであり、個別の取引条件の交渉(発注内容の変更など)が想定されていないため、一部の義務(3条の条件明示など)の対象外となるケースがあります。
引用:フリーランス・事業者間取引適正化等法 Q&A|厚生労働省
判断に迷った時のガイドライン・Q&A活用法
フリーランス新法の対象かどうかを最終的に判断するには、公正取引委員会や各省庁が発行している公式資料を確認するのが確実です。
ガイドライン(運用基準)の確認
公正取引委員会の「フリーランス法特設サイト」には、法律の解釈を詳細に記した「運用基準(ガイドライン)」が掲載されています。
ここには、「従業員を使用しない」の定義における労働時間の計算方法や、対象となる委託の具体例が細かく書かれており、実務上の判断基準となります。
リーフレットとガイドブック
社内周知や取引先への説明には、わかりやすく要約された「リーフレット」や「ガイドブック」が役立ちます。これらも特設サイトからPDF形式でダウンロード可能です。
特にガイドブックには、発注書の記載例や違反事例の漫画なども掲載されており、法律の専門知識がない人でも理解しやすい内容になっています。
公正取引委員会・厚生労働省の役割
- 公正取引委員会:取引適正化(発注書、支払い、禁止行為)に関すること。
- 厚生労働省:就業環境整備(ハラスメント、育児介護、募集情報)に関すること。
- 中小企業庁:取適法との関連や相談窓口(下請かけこみ寺)。
疑問の内容によって、参照すべき省庁のページや問い合わせ先が異なる点も覚えておきましょう。
正しく対象を見極め法令遵守を徹底する
フリーランス新法の対象取引は、建設、IT、エンタメなどを含むほぼすべての「業務委託」です。対象の定義は「従業員を使用しないフリーランス」であり、資本金は関係ありません。経営者や担当者は、自社の取引先に該当者がいないか洗い出し、ガイドラインを活用して適切な発注体制を早急に整えましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
手形保証とは?保証人は誰を選べばよい?
お金を借りる際に保証人を求められることがありますが、手形にも手形債務を保証する手形保証という制度があります。この手形保証をする人を手形保証人と呼ぶことがあります。手形保証は、民事保…
詳しくみる取適法の条文には何が書かれている?2026年改正の重要条項とガイドラインを完全解説
Point取適法(改正下請法)条文の重要変更点 取適法の条文は、2026年施行の改正で従業員基準の導入や手形払いの原則禁止を定めています。 第2条で従業員数基準や運送委託を追加 第…
詳しくみる建設工事紛争審査会とは?役割から申請方法まで解説
建設工事は請負契約をもとに行われますが、工事を巡って契約当事者間でトラブルが発生することがあります。 建設業法では、建設工事紛争審査会という組織についての規定があります。 今回は、…
詳しくみる民法94条2項とは?第三者の範囲や類推適用についてわかりやすく解説
民法94条2項は、1項で無効になる虚偽の意思表示を善意の第三者に対抗できないとする規定です。虚偽の外観を信じて取引をした第三者を保護することが目的です。裁判所では民法94条1項の「…
詳しくみる改正障害者総合支援法とは?改正による事業者への影響まで解説
障害者総合支援法等の障害者支援関連の法律が、2022年4月、厚生労働省により改正が決定され、2024年4月(一部は2023年4月ないし10月)から施行されます。障害者総合支援法とは…
詳しくみる権利濫用の禁止とは?濫用にあたる行為や事業者が注意すべき点を紹介
「権利濫用」とは、権利の行使ではあるものの、社会常識や道徳に基づいて判断すると無効にするのが妥当な行為のことをいいます。 企業も法律遵守のもと事業活動を行うべきですが、条文の内容に…
詳しくみる


