- 作成日 : 2025年4月8日
時効の援用とは? やり方や費用、デメリット、失敗例などをわかりやすく解説
時効の援用は、借金の債務者などが、時効の成立により借金の返済義務などの債務が消滅していることを主張することです。書類を作成して債権者に送付するだけなので、簡単に手続きできます。ただし、時効期間が経過していないのに援用してしまい、失敗するケースも多いため、時効の援用をする際は、時効期間が確実に経過していることを調査することが必須です。
目次
時効の援用とは
時効の援用は、時効期間が経過したことで利益を受ける人が、時効の完成を主張し、その効果を発生させようとすることを指します。時効の援用が成功すれば、債務を帳消しにすることも可能です。また、手続きが比較的簡単である点がメリットです。
時効は、当事者が援用することで初めて裁判所が判断を開始できます(民法第145条)。以下では、時効の援用をするための要件について説明します。
時効の援用の要件は?
時効の援用をするための要件は、次の3つです。
- 時効期間が過ぎるまで返済・請求の事実がない
- 債務の承認をしていない
- 裁判手続きをされていない
第一に、債務の時効期間になんら返済しておらず、債権者からも請求を受けていない事実が必要です。例えば、銀行や消費者金融などからの借金の時効は5年です(民法第166条1項1号)。この間、借金を一部でも返済していたり、債権者から請求を受けたりしていた場合は、時効の援用ができません。
次の「債務の承認」とは、時効期間中に債務者が債権者に対して債務の存在を認めることを指します。返済を待つようお願いしたり、少額でも返済したりすると、債務の承認に当たる可能性が高いといえます。
3つ目の「裁判手続き」は、財産の差し押さえや催告など、裁判所を介した手続きが該当します。
時効の援用をしないとどうなる?
当事者が時効の援用をしないと、時効期間が過ぎていても借金返済などの債務は消滅しません。
民法第145条に「当事者が援用しなければ」と要件が定められていることからもわかるように、必ず当事者が援用の意思表示をしなければ効果は発生しません。時効期間が経過したからといって、自然に債務が消滅するわけではないのです。
借金をしてから20年、30年と長い年月を経ていることから「時効で借金はとっくに消滅しているだろう」と考える人もいるかもしれませんが、それは誤解です。消滅時効期間が過ぎても、何もしていなければ債務は存続しているため注意しましょう。
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時効の援用のやり方
時効の援用は、時効期間経過の確認後、通知書を作成して相手に送付するのが主な流れです。以下で詳しく説明します。
時効期間を経過しているか確認する
最初に、時効期間が経過しているかを確認することが必須です。時効期間が経過していないと時効の援用はできないため、必ず最初に確認してください。
例えば、銀行や消費者金融からお金を借りている場合は、返済期日、直近の返済日から時効期間を計算します。確認方法としては、借入先から送付された通知書や信用情報機関の信用情報などから計算する方法があります。
銀行や消費者金融からの借金の場合、返済期日から5年以上経過していれば時効の援用ができる可能性が高いでしょう。ただし、通知書や信用情報に明確に時効期間の経過が記載しているわけではないため、正確に判断できないこともあります。そのような場合は、弁護士など専門家に確認を依頼することもできます。
時効の援用通知書を作成する
時効期間経過の確認ができたら、「時効援用通知書」を作成します。これは、債務者が債権者に対し、時効の援用を行うことを通知するための書類です。
時効の援用通知書に所定の様式はありませんが、どの債権債務についての時効援用なのかが特定できる書類にする必要があります。具体的に記載すべき内容については後述します。
もし、記述方法に迷う場合や、作成に自信がない場合は、専門家に相談・依頼することも検討しましょう。
内容証明郵便で送付する
時効援用通知書を作成したら、内容証明郵便で債権者に送付します。内容証明郵便は、差出日や文書の内容、差出人と受取人といった内容を郵便局が証明してくれるサービスです。郵便局が謄本を保管することで、誰から誰宛にいつどのような内容の文書が送付されたかを証明できます。時効援用通知書の原本と、謄本(原本のコピー)2通を用意し、送付します。
内容証明郵便の送付は、郵便局の窓口から送る他に、インターネットから「電子内容証明(e内容証明)」を通じて送付することも可能です。24時間受け付けており、謄本や封筒を用意する必要もないため、急いでいる時などに便利です。
時効の援用通知書を自分で作成する方法
時効援用通知書は、自分で作成することが可能です。自分で作成すれば、専門家に依頼する報酬が不要となり、費用を安く抑えられます。借金の総額が少額にすぎない場合や、時効期間が完成していることが明らかな場合、内容証明の作成経験がある場合などは、自分で通知書を作成してもよいでしょう。
時効援用通知書に決まった書式はないため、必要事項さえ記載していれば自由に作成できます。必要記載事項は以下の通りです。
- 日付(作成日または発送日)
- 相手の住所・氏名
- 自分の住所・名前・生年月日
- 時効を援用する意思表示
- 契約内容
通知書の作成にあたっては、誰の誰に対する、どの債務について時効を援用するのかを明確にすることが重要です。請求書などに記載の「契約番号」や「管理番号」があれば、相手がどの契約について時効の援用をしようとしているかが特定できます。信用情報機関の信用情報をもとに特定する場合は、「契約年月日」と「契約内容」で特定可能です。
自分の住所・名前を記載する際は、念のため同姓同名の契約者と混同しないよう、生年月日も書いておきます。電話番号まで書く必要はありません。
通知書(時効の援用)のWordテンプレートを無料で提供しています。ぜひ自由にダウンロードしてご活用ください。
時効の援用にかかる費用
時効の援用にかかる費用は、自分だけで行う場合は書類のコピー代、郵便料金などの実費1,500〜2,000円程度です。
謄本(内容文書を謄写した書面)2枚の内容証明郵便にかかる費用は1710円となり、その内訳は以下の通りです。
- 基本料金(定形郵便物50gまで)110円
- 一般書留の加算料金480円
- 内容証明の加算料金770円
- 配達証明350円
複数の債権者に対して時効の援用を主張する場合は、人数分の実費がかかります。
時効の援用を専門家に依頼する場合は、実費に加えて報酬を支払う必要があります。相場は弁護士の場合4〜10万円、司法書士の場合2〜8万円、行政書士の場合1〜3万円程度です。
ただし、司法書士に依頼する場合、依頼できるのは簡裁代理の資格を有する司法書士で、債務者の借金が140万円以下の場合に限ります。また、行政書士が対応可能なのは書類作成のサポートのみです。
報酬額は少し高くなりますが、法律相談もしたい場合や、訴訟に発展する可能性がある場合は弁護士に相談するのがおすすめです。
時効の援用のメリット
時効の援用には、借金などの債務の消滅や、自己破産よりも手続きが簡単なことなどがメリットとして挙げられます。以下で詳しく解説します。
債務が消滅する
時効の援用をすれば、債権者からの債務を免れることができるため、借金などの債務を帳消しにできる点が大きなメリットです。
借金がある場合、任意整理や個人再生をしても、返済義務は残ります。この点、時効の援用が認められれば返済義務は残りません。
また、債務者が時効の援用をすると、連帯保証人の債務も消滅します。信用情報機関の事故情報を削除してもらえるケースもあります。
さらに、裁判所の手続きを経ないため、裁判所から書面が届くことがなく、借金があった事実を家族や職場に知られずに消滅させられる点もメリットです。
ブラックリストから削除される
時効の援用をすることで、「ブラックリスト」から削除されるメリットがあります。
金融機関からの借入情報は、信用情報機関に登録されます。返済が滞ると「異動情報」が登録され、信用情報にもとづいて審査が行われる借入やローン契約ができなくなります(いわゆるブラックリスト状態)。たとえ債権者からの請求がしばらくなかったとしても、信用情報機関ではブラックリスト状態となっています。
自己破産などの債務整理手続きを行っても、債務整理の異動情報が登録されるため、ブラックリスト状態は続きます。しかし、時効の援用をすれば債務そのものが消滅するため、異動情報も消え、ブラックリスト状態も解消されます。
時効の援用のデメリット
時効の援用にはメリットがある一方、失敗すればデメリットが生じるのも事実です。ここでは、時効の援用のデメリットを2つ紹介します。
債権の請求が再開する
時効の援用が成功すれば問題ありませんが、時効の援用に失敗した場合、債権者からの請求が再開する可能性があります。
債権者は、債務や債務者の存在を忘れていたなど、なんらかの理由で請求をしていなかったにすぎないかもしれません。その場合、時効援用通知書が届いたことで思い出し、請求を再開する可能性が高くなります。債権の請求を再開されると、時効期間が更新され、時効の援用はかなり難しくなります。
返済額に遅延損害金が加算される
時効の援用が成功すれば借金の返済義務は消えますが、時効の成立が認められなかった場合は長期間滞納していた分の遅延損害金が加算された上で請求をされます。
遅延損害金は、借金の債務者が返済期日に遅れた場合に、損害を賠償するために支払われる金銭のことです。遅延損害金は、通常、金銭債務の額に対して、一定の料率にもとづいて、遅滞した期間に比例する方法で計算されます。遅延損害金の利率は借入先によって異なりますが、借入利率よりも高く設定されていることがほとんどです。
時効期間が経過するのを待つということは、その期間は遅延損害金が発生しており、時効の援用が失敗すると、その分の返済をしなければならなくなることは理解しておく必要があります。
時効の援用に失敗するリスクがある
時効の援用は、時効期間が経過していることをきちんと確認できていないと、失敗するリスクがあります。
時効の成立が認められなければ、借金を帳消しにできないどころか、上記で述べたように遅延損害金が加算されて返済額が大幅に増加するケースもあります。
手続きが比較的簡単だからといって、時効期間について正確に把握せずに時効の援用をすると、失敗のリスクが高まります。
時効の援用に不安がある場合は、一度専門家に相談してみましょう。
時効の援用の失敗例
時効の援用で失敗しないためには、どのような場合に失敗してしまうのかを押さえておくことが大切です。そこで、時効の援用の失敗例を3つ紹介します。
時効期間の起算日を間違えているケース
時効の援用が認められるためには、時効期間がすでに経過していなければなりません。しかし、時効期間の起算日を間違えて計算してしまったために、時効の援用に失敗するケースがあります。
まだ期間中であるにもかかわらず、起算日をよく確認しないまま、すでに時効期間が経過していると思い込んで援用手続きをしてしまい、時効が成立しないことがあります。
したがって、起算日を間違えないよう契約書類などをしっかり確認することが重要です。
時効が中断・停止しているケース
起算日を正しく確認できたとしても、時効の更新や完成猶予があると、時効期間が経過していない可能性があります。
時効の更新とは、時効期間のカウントがゼロに戻ることを意味します。例えば、債務者が「返済します」などと意思表明をしてしまうと「債務の承認」に当たり、その時点から時効期間のカウントがあらためて始まることになってしまうのです。
時効の完成猶予とは、一時的に時効が完成しないことを意味します。例えば、債権者から内容証明郵便で「催告書」が届いていた場合、時効の経過が6ヶ月止まってしまいます。
時効の更新・完成猶予を意識せずに「時効が完成した」と思い込み、援用手続きを行うと失敗してしまうため、要注意です。
債務の更新・完成猶予されているケース
債務の承認とは、時効の完成で利益を受ける債務者が、債権者に対して債権の存在について認めることです。例えば、債務者が債権者に対し「分割払いにしてほしい」「返済を少し待ってほしい」などと発言すれば、債務を承認したことになります。口頭で発言しただけでも債務の承認に該当するため注意しましょう。
債務の承認をすると時効が更新されるため(民法第152条1項)、援用手続きをしようとしても失敗します。また、時効の更新の後、あらためて時効期間の進行が始まっても、再び債務の承認などの更新事由があれば、また時効期間がリセットされてしまうことにも注意が必要です。
時効の援用に失敗した場合の対応方法
時効の援用の失敗とは、時効の成立が認められなかったことを意味します。したがって、時効が失敗すれば借金返済義務などの債務は存続します。また、一度時効の援用に失敗すると、債務を承認したことになるため、次に時効の援用をする場合は、あらためて時効期間が経過するのを待たなければなりません。
したがって、時効の援用に失敗してしまったら、まずは借金の返済義務を果たすことを考えましょう。債権者と交渉し、一括払いや分割払いの条件を決めます。一括払いを選択した場合、債権者によっては減額に応じてくれるケースもあります。ただし、一括払いを選択しても必ずしも減額に応じてくれるわけではなく、交渉次第といえるでしょう。
支払いが困難な場合は、自己破産や個人再生も視野に入れた方がよい場合もあります。
再度時効期間が経過するのを待つ考えもありますが、さらに金利や遅延損害金が加算されることに注意しましょう。また、債権者に住所が特定されていると請求や督促が行われる可能性が非常に高く、時効の成立は難しくなります。
時効の援用は時効期間が確実に経過してから手続きを
時効の援用は、時効期間の経過によって利益を受ける債務者が意思表示をすることで初めて効力をもちます。時効の援用は手続きが簡単で、成功すれば借金などの債務が帳消しになる大きなメリットがあります。
ただし、時効の援用は、時効期間が経過していないまま主張すると成立しません。時効の援用に失敗すれば債務を認めたことになり、遅延損害金を加算した分の返済義務が残ります。
したがって、時効の援用は、時効期間が確実に経過していることをしっかり調べてから行う必要があります。自分で調べるのが難しい場合は、専門家に相談することも検討しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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