- 更新日 : 2024年8月30日
責任限定契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
責任限定契約書は、非業務執行取締役等の賠償責任の範囲を限定する契約において交わす契約書です。この記事では、責任限定契約書とは何かについて基本的な知識を説明するほか、ひな形をもとに契約書の書き方や作成のポイントを解説します。
外部から非業務執行取締役等を迎える際、責任限定契約の締結を考えている場合は参考にしてください。
目次
責任限定契約とは
責任限定契約とは、株式会社の役員等が何かしらのミス(任務懈怠)によって会社に損害を出してしまった場合に、一定の要件を満たせば損害賠償責任の一部が免除される契約のことです。会社法第427条に契約主体や要件が規定されています。
責任限定契約は、優秀な人材を役員等として会社に呼び込みやすくすることを目的に締結することが多いです。なぜなら、役員等がミスをした際に課せられる責任があまりに重大だと、外部の人材はその企業に参画しにくくなるからです。
そこで、責任限定契約により損害賠償責任の一部を免除することで、多様な人材が企業に参画しやすくなります。ひいては、経済活動の活発化にもつながるのです。
責任限定契約を締結できるのは、会社法第427条により「非業務執行取締役等」「会計参与」「監査役」「監査法人」と4つのみと定められています。これらの役職は、客観的な立場から会社に対して率直な意見を言うことが求められるため、ミスやリスクを恐れずに発言してもらうことが必要です。
したがって、上記の役職者については、あらかじめ賠償責任の幅を限定しておく責任限定契約が非常に重要な意味をもつのです。
ただし、会社の定款に責任限定契約締結が可能であることを明示しておかなければ、会社と非業務執行取締役等が責任限定契約を結ぶことはできません。定款に定めがない場合は、株主総会での決議を得るなど、規定の手続を経た上で定款変更の手続を取る必要があります。
責任限定契約を結ぶケース
株式会社において責任限定契約を結んだ方が良いケースとしては、主に次の2つが挙げられます。
多様な人材を集めたいとき
多様な人材を広く集めたい場合に、役員等としての責任を限定することで自社に参画してもらいやすくするために、責任限定契約を結ぶケースです。上述したように、役員として重い責任が課されることが前提となると、いくら優秀な人材でも参画には二の足を踏んでしまうでしょう。
そうならないためにも、賠償責任の幅を限定することで外部の優秀な人材が経営に参画しやすい環境づくりをする必要があります。
事前に将来的な賠償責任範囲を限定したいとき
役員等のミスにより会社に損害が生じた後に賠償責任の範囲を決めるのではなく、役員等に就任するときなど、事前に契約で責任の範囲を限定してから参画してもらう場合です。
役員の賠償責任の範囲を限定する方法には、責任限定契約以外にも「株主全員の同意による免除」「責任追及等の訴えにおける訴訟上の和解による免除」などの方法が会社法で定められています。
もっとも、これらの方法はあくまで「役員等の賠償責任等が発生した場合の事後的な対処法」であることに注意が必要です。そうではなく、役員等に就任する段階で将来的な賠償責任の範囲を限定したいのであれば、責任限定契約を結ぶのが適切です。
責任限定契約書のひな形
責任限定契約を結ぶ際、契約書に何を書けば良いかわからないという方のために、責任限定契約書のひな形を紹介します。
以下のページから無料でダウンロードできるので、ぜひご活用ください。
責任限定契約書に記載すべき内容
責任限定契約書にはどのような条項を入れれば良いかについて、前章で紹介したひな形をもとに詳しく説明します。実際に損害賠償責任が生じた場合の最低責任限度額については、会社法425条第1項をもとに決める必要があります。
目的(第1条)
第1条には、本契約が誰のどの会社に対する責任限定契約であるかを明記します。役員等の損害賠償責任については会社法第423条1項に規定があるので、「会社法第423条第1項による損害賠償責任について、会社法第427条第1項その他関係法令…」などのように、法律の条文を記載しましょう。
また、会社の定款に関連規定がある場合はそれも記載します。
責任限度額(第2条)
第2条では、役員等の責任限度額について定めます。責任を限定できるといっても、一切の賠償責任を免除できるわけではありません。なぜなら、会社法第425条第1項が「最低責任限度額」を定めているからです。
したがって、「甲(役員等)は会社法第425条第1項に定める最低責任限度額を限度として乙(会社)に対し損害賠償責任を負うものとし、その損害賠償責任額を超える部分については、乙は甲を当然に免責するものとする」といった文言を入れることになります。
また、会社法425条第1項に定めるのはあくまで最低責任限度額のため、それよりも高額の責任は企業側が設定します。その場合は「金○万円又は会社法第425条第1項が定める乙の最低責任限度額のいずれか高い額を限度とする」などと記載すると良いでしょう。
有効期間(第3条)
責任限定契約の主体となれるのは、会社法第427条により「取締役(業務執行取締役等を除く)」「会計参与」「監査役」「監査法人」と4つのみと定められています。したがって、これらの役職から外れた場合は責任限定契約の効力がなくなることを明記しましょう。
なお、役職から外れると責任限定契約の効力が失効するため「業務を執行する取締役もしくは支配人その他の使用人となったときは、本契約は将来に向かってその効力を失う」との文言を入れるとわかりやすくなります。
その他の取り決め(第4条、第5条)
契約書を交わした後で、記載されていること以外の事柄について決める必要が出てきたときの対応方法について明記します。法令や慣習に従うこと、会社と役員とで互いに誠意をもって協議することなどを記載しましょう。
また、賠償責任の範囲や賠償額について話し合いをもってしても解決しない場合、裁判に発展するおそれもあります。その際はどの裁判所に訴え出れば良いかについて「○○地方裁判所第一審の専属的合意管轄裁判所とする」といったように明記しておきましょう。
責任限定契約書の作成ポイント
責任限定契約書を作成する際には、注意しておきたいポイントがあります。主なポイントは以下の通りです。
- 取締役会決議が必要
- 最低責任限度額が定められている
- 弁護士に相談した方が良い
まず、責任限定契約の締結は株式会社における「重要な業務執行の決定」に当たるため、取締役会決議が必要です。
また、上記でも述べた通り、責任限度額には会社法425条第1項で最低責任限度額が定められているため、「善意・無重過失の場合には、非業務執行取締役等の任務懈怠責任0円にする」という内容の契約は認められないので注意しましょう。
なお、会社法425条第1項第1号で定められている最低責任限度額は「1年当たりの報酬等の額×2」です。実際は、この最低責任限度額と会社が定めた額のいずれか高い額を限度とする旨を記載しましょう。
さらに、これまで責任限定契約締結の経験がない企業の場合は、一度会社法専門の弁護士に責任限定契約書の内容をチェックしてもらうのが望ましいです。なぜなら、責任限定契約には法律で定められたさまざまな要件があり、これらすべてを理解している必要があるからです。
要件が1つでも満たされていないと、当該役員等の責任範囲を限定できません。したがって、会社法に詳しい弁護士に相談の上、不備なく速やかに契約締結できるよう準備することが大切です。
責任限定契約書は会社法の規定に沿って作成を
責任限定契約は、優秀な人材を役員等として企業に参画させやすくするために重要な役割を担います。また、実際に損害賠償責任が発生してからではなく、事前に責任の範囲を限定できる点もメリットです。
責任限定契約書を作成する際は、会社法の規定に沿いながら作成する必要があります。この記事にあるひな形と書き方のポイントを参考にして、自社の状況や役員等に合った契約書を作成してください。
もし、責任限定契約書の作成に慣れていない場合や、少しでも不安がある場合は、会社法に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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