- 更新日 : 2025年6月19日
入社手続きはどのようなものがある?社会保険加入の手続きなどを解説
社会保険の入社手続きは、企業として必ず押さえておきたい重要な業務です。
本記事では、手続きの期限や必要書類、加入の基準などをわかりやすく解説します。万が一、手続きが遅れた場合の対応策についてもまとめました。スムーズな対応によって、会社と従業員の信頼関係を守るポイントを紹介します。
社会保険とは?入社手続きでいつまでに加入すべき?
社会保険とは、健康保険と厚生年金保険を一体化した制度のことです。両者は同一の加入基準にもとづいており、原則として同時に加入する必要があります。正社員に限らず、一定の条件を満たせばパートや契約社員などの雇用形態に関係なく加入が義務づけられています。加えて、40歳以上65歳未満の従業員については介護保険の加入も必要です。
社会保険の手続きは、入社後に実施します。手続きとしては、雇用開始日から5日以内に「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」を年金事務所または事務センターへ提出する流れです。基礎年金番号やマイナンバーの記載も求められるため、準備しておきましょう。協会けんぽ以外の健康保険組合を利用する場合は別途、組合への手続きも必要です。
社会保険の加入後は、企業と従業員が保険料を折半で負担する仕組みとなっています。社会保険の定時決定や随時改定について詳しく知りたい方は、あわせて下記の記事もご覧ください。
社会保険の適用基準は?
社会保険に加入する際には、企業側と従業員側の双方に適用基準が設けられています。ここでは、会社が社会保険の適用事業所となる条件と、従業員が被保険者として加入対象となる基準について見ていきましょう。社会保険の加入条件を年齢別に確認したい方は、下記の記事もあわせてご参照ください。
会社の社会保険適用基準
社会保険の適用を受ける企業は、規模や形態に応じて4つの区分に分けられます。まず「強制適用事業所」は、事業主や従業員の意思にかかわらず加入が義務づけられるもので、以下のようなケースが該当します。
- 法人の事業所
- 常時5人以上の従業員を使用する個人経営の事業所(※飲食店や理美容業、農林漁業などの場合を除く、※2022年10月から「法律・会計にかかる業務を行う士業」も追加)
- 事業主を含む従業員ひとり以上の国、地方公共団体または法人の事業所
(参考:日本年金機構|適用事業所と被保険者)
次に「任意適用事業所」は、事業所の申請により厚生労働大臣の認可を受けて加入する形で、健康保険または厚生年金保険のいずれか一方の加入も可能です。
「特定適用事業所」は、従業員数が51人以上の企業が対象です。一般労働者(正社員、フルタイムパート)に加え、短時間労働者(正社員の3/4以上のパートなど)も適用対象となります。特定適用事業所に対応する「任意特定適用事業所」も存在し、特定適用の任意版として位置づけられています。
従業員の社会保険適用基準
従業員が社会保険に加入するかどうかは、雇用形態や労働条件によって異なります。基準は「一般労働者」「短時間就労者」「短時間労働者」の3区分に分かれ、それぞれに適用条件があります。以下の表に要件をまとめました。
区分 | 社会保険適用基準 |
---|---|
一般労働者(正社員、フルタイムパートなど) | もれなく加入 |
短時間「就労者」(正社員の3/4以上のパートなど) | 正社員の4分の3以上の勤務 上記と同様に原則加入対象 |
短時間「労働者」 (51人以上の会社に勤める週20時間以上かつ月8.8万円以上のパートなど) | 下記すべてを満たす場合に対象(2024年10月から51人以上の事業所が対象)
|
2024年10月からは、短時間労働者の適用範囲が「従業員51人以上の事業所」まで拡大されました。
社会保険以外の入社手続きについて
社会保険の手続きに加え、入社時にはほかにも必要な対応があります。ここでは、雇用保険や労働契約書の作成、給与関連の手続きなど、社会保険以外の入社手続きについても整理してご紹介します。
雇用保険
雇用保険は、主に退職や失業時に失業給付を受けるための制度で、ひとつの事業所でのみ加入できます。そのため、複数の会社で働いている場合は、本業の勤務先で加入します。従業員をひとりでも雇用する事業所は、雇用保険の適用対象です。加入の条件は、下記の3つです。
- 31日以上の雇用見込みがあること
- 所定労働時間が週20時間以上であること
- 昼間学生でないこと(休学中などは例外あり)
新たに従業員を雇用した場合は、翌月10日までに「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークへ提出する必要があります。
労災保険
労災保険(正式名称:労働者災害補償保険)は、通勤や業務中のけが・病気に対して補償する保険です。雇用保険とあわせて「労働保険」と呼ばれます。従業員をひとりでも雇用していれば事業所は加入対象となりますが、労働者が対象のため事業主は加入できません。
ただし中小企業の経営者など、条件を満たせば特別加入が認められる場合もあります。手続きは労働基準監督署で「保険関係成立届」を提出し、概算保険料申告書にもとづき金融機関で保険料を納めます。雇用保険対象者がいる場合は、別途ハローワークへの届出も必要です。
所得税
従業員の所得税は、会社が給与から差し引いて国へ納付する「源泉徴収」の仕組みで処理されます。入社時に提出される「給与所得者の扶養控除等申告書」にもとづいて作成される、源泉徴収簿をもとに実施します。
正社員だけでなく、パートやアルバイトでも月収が8万8,000円を超える場合には、源泉徴収の対象です。
住民税
住民税は、前年の所得にもとづいて課税されます。納付方法には、「普通徴収」と「特別徴収」の2種類があります。普通徴収は、納税者自身が市区町村に納める方法です。一方、特別徴収は会社が給与から住民税を差し引き、市区町村に納める仕組みです。
従業員が入社後に普通徴収から特別徴収へ切り替える場合は、「特別徴収切替届出(依頼)書」と本人の普通徴収用納税通知書を市区町村に提出します。前職で特別徴収されていた場合、前職の会社が特別徴収継続の異動届を提出済なら手続きは不要です。
特別徴収継続の手続きがされていない場合、新たな勤務先で特別徴収への切替届を市区町村に提出する必要があります。
会社側で必要な入社手続き対応
新しく従業員を迎える際、会社としては適切な入社手続きを実施する必要があります。ここでは、法令にもとづき企業側が対応すべき入社手続きについて紹介します。円滑に進めるため、必要書類の準備や各種届出のポイントを押さえておきましょう。
法定四帳簿の作成
法定四帳簿とは、ひとりでも従業員を雇用した場合に必ず作成しなければならない「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」「年次有給休暇管理簿」の4つの帳簿を指します。
法定四帳簿には所定の記載事項があり、法令で定められた期間の保存が義務づけられています。新たに社員を迎える際は、速やかにこれらの帳簿を整備・作成しましょう。作成したものは、会社で適切に管理することが求められます。
労働者名簿
労働者名簿は、従業員の氏名や生年月日、住所などの基本情報を記録する帳簿で、労働基準法第107条により作成が義務づけられています。法定の記載項目に加え、企業が管理上必要とする情報を任意で追加することも可能です。
退職・解雇・死亡といった事由が発生した場合には、労働基準法第109条により、対象日から5年間の保存が必要とされています。従業員管理の基本資料として、正確に整備・保管することが重要です。
出勤簿
出勤簿は、従業員の勤務実態を記録するための帳簿です。出勤日や労働日数、始業・終業時刻、休憩時間、残業の有無や時間などを記載します。
正社員やパート・アルバイトといった雇用形態にかかわらず、すべての従業員に対して作成・管理が必要です。勤怠の正確な記録は、労働時間の把握や給与計算、法令順守の観点からも重要であり、企業として適切な管理体制を整えることが求められます。
(参考:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン」)
賃金台帳
賃金台帳は、従業員ごとの給与支払い内容を記録する帳簿で、労働基準法第108条により作成が義務づけられています。氏名や性別・賃金計算期間・労働時間・日数に加え、基本給や手当の内訳と金額を都度記載します。
正社員はもちろん、パートやアルバイト、契約社員、短期雇用者も対象です。企業が複数の事業所をもつ場合は、それぞれの事業所で個別に賃金台帳を作成し、適切に管理する必要があります。
(参考:e-Gov 労働基準法第108条)
給与計算・人事システムへの追加
従業員を採用すると、入社日から給与計算の対象となります。そのため、給与計算システムや勤怠管理システム、人事システムに、従業員情報を登録する必要があります。
入社時に提出された「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」をもとに、氏名や住所、扶養親族の有無などを正確に入力してください。通勤手当や家族手当など、各種手当がある場合も、同時にシステムへ反映させましょう。
貸与品・備品の提供準備
入社した従業員がスムーズに仕事をはじめられるよう、執務環境や貸与品を準備しておきましょう。具体的には机や椅子、パソコン、事務用品、名刺や社員証などが必要です。ほかにも、メールアドレスや社内ネットワークのID・パスワードなど環境設定しましょう。
制服がある場合は、事前にサイズを確認し、入社日に渡せるよう準備しておくことが大切です。入社日の前に準備しておくことで、新しい従業員が早期に業務を開始できます。
入社手続きが遅れた場合は?
万が一、社会保険や雇用保険、税金の入社手続きが遅れた場合はどのように対応すればよいのでしょうか。影響やトラブル、適切な対処法について解説します。
社会保険の入社手続きが遅れた場合
社会保険の手続きが遅れると、事業主は加入期間の保険料をさかのぼって請求されることがあります。また、ケースによっては取得届とともに遅延理由書を提出しなければならなない場合もあります。
手続き完了前に医療機関を受診すると、全額自己負担となるためご注意ください。後日、医療費の一部は医療機関での精算や「療養費支給申請書」の提出により払い戻されますが、迅速な手続きが望まれます。
雇用保険の入社手続きが遅れた場合
雇用保険の手続きが遅れると、事業主に罰金や懲役などの罰則が科されるおそれがあります。保険料をさかのぼって請求され、追徴金が発生することもあります。
遅延が判明した際は、速やかに資格取得届を提出することが重要です。被保険者番号がわからない場合は、雇用保険被保険者証の写しで確認が可能です。なるべく迅速な対応を心がけましょう。
税金(所得税・住民税)の手続きが遅れた場合
源泉所得税や住民税の手続きが遅れると、給与からの控除ができず、後からまとめて控除しなければなりません。手取り額が大きく変動し、余計な手間が増えるだけでなく、計算ミスの可能性も高まるため注意が必要です。
とくに扶養控除等申告書の提出が遅れると、提出済みのケースよりも源泉徴収額が高くなり、一時的に従業員の税金の負担が増加するおそれがあります。
入社手続きに関するよくある質問
ここでは、入社手続きについて企業や従業員からよく寄せられる疑問や質問をまとめて紹介します。手続きの流れや注意点を理解するための参考にしてください。
社会保険の手続きは入社前にできますか?
労働者は、社会保険適用事業所に雇用された日から健康保険や厚生年金の被保険者となることが法律で定められています。そのため社会保険の資格取得日は、必ず入社初日としなければなりません。
入社前の社会保険の手続きは認められていないため、手続きは入社日以降にする必要があります。入社時の社会保険手続きにより、当面の社会保険料が決定されます。社会保険の随時改定はいつから反映されるのか、タイミングや手続き方法を知りたい方は下記の記事もあわせてご覧ください。
国民健康保険から社会保険への切り替えは会社にやってもらえますか?
入社後の社会保険加入手続きは、勤務先の会社が実施します。しかし、国民健康保険の脱退手続きは本人が実施する必要があります。
国民健康保険の脱退は、社会保険の資格取得日から14日以内に行うことが基本とされているため、忘れずに期限内に手続きを済ませることが重要です。保険の二重加入を防ぎ、スムーズに社会保険へ移行できます。
入社時に会社に提出する書類はどのようなものがありますか?
入社時に会社へ提出する主な書類は、以下のとおりです。
必要書類 | 用途 | 新卒 | 中途 |
---|---|---|---|
雇用保険被保険証 | 雇用保険の加入手続き | ─ | 〇 |
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除申告書) | 所得税などの税金手続き (扶養家族や配偶者控除の確認) | 〇 | 〇 |
源泉徴収票 | 年末調整 | △ | 〇 |
マイナンバー(個人番号)が確認できる書類
| 社会保険や雇用保険、税金 (被扶養者がいる場合には、被扶養者分も用意する) | 〇 | 〇 |
年金手帳もしくは基礎年金番号通知書 (マイナンバーを提出しない場合) | 社会保険や雇用保険、税金 (被扶養者がいる場合には、被扶養者分も用意する) | 〇 | 〇 |
給与振込届出書 | 給与の振込手続き | 〇 | 〇 |
健康保険被扶養者(異動)届・国民年金第3号被保険者関係届 | 健康保険や厚生年金保険の手続き (扶養家族がいる従業員のみ) | △ | △ |
入社手続きに必要な書類は、きちんと準備しておきましょう。
社会保険の5日以内の手続き期限には土日も含まれますか?
社会保険の手続き期限である5日以内には、土日や祝日も含まれます。
ただし、提出期限が土日や祝日にあたる場合は例外です。役所や年金事務所が閉庁しているため、実際には翌営業日が提出期限となることがあります。手続きは余裕をもって進めることが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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