- 作成日 : 2025年6月20日
訪問看護の創業融資を成功させるには?自己資金の目安や失敗を避けるポイントも解説
訪問看護事業を軌道に乗せるためには、事務所の確保、人材採用、車両の準備、運転資金など、開業初期にまとまった資金が必要となります。そこで重要になるのが創業融資です。
この記事では、訪問看護事業での独立開業を目指す方が、創業融資をスムーズに受け、事業を成功させるためのノウハウを網羅的に解説します。
目次
訪問看護の創業融資とは
創業融資は、新たに事業を始める方や事業開始後間もない方(おおむね7年以内)対象の融資制度です。政府系金融機関や自治体の公的融資と金融機関の民間融資があります。訪問看護の創業期は実績がないため民間からの直接融資は難しく、主に日本政策金融公庫や自治体の制度融資の活用をまずは検討してみるのが良いでしょう。
訪問看護事業を開業する場合、主な初期費用としては以下のようなものが挙げられます。
これらに加え、運転資金が最も重要です。介護保険・医療保険報酬は入金までに2ヶ月程度のタイムラグがあり、この間の人件費や家賃等を賄うため数ヶ月分の運転資金確保が不可欠です。不足すると黒字倒産リスクも生じます。
訪問看護の経費は上記に加え、医薬品・衛生材料費、事務消耗品費、通信費、水道光熱費、リース料、保険料、専門家顧問料などです。これらを的確に見積もり融資希望額に含めましょう。
訪問看護事業に必要な自己資金の目安
自己資金とは、借入金ではなく、ご自身で準備した開業資金のことです。一般的には、創業資金総額の1/3~1/2程度の自己資金があると審査に有利とされていますが、日本政策金融公庫などでは、一定の要件を満たせば自己資金要件が緩和される場合もあります。
しかし、自己資金が多いほど融資を受けやすくなるのは事実であり、自己資金なしでは厳しい審査となるでしょう。開業を決意したら計画的に準備しましょう。
訪問看護の創業融資の種類
訪問看護事業の創業時に活用できる代表的な融資制度について、それぞれの特徴を比較しながら解説します。
日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」
日本政策金融公庫は100%政府出資の政策金融機関で、「新規開業・スタートアップ支援資金」は新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方を対象にした代表的な制度です。
- 資金用途:新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金
- 対象者:新たに事業を開始しようとする方、または事業開始からおおむね7年以内の方が対象です。ただし、「開始予定の事業に対して適切な事業計画を立てており、その計画を実行するための十分な能力を有すると認められる方」に限ります。
- 融資限度額:7,200万円(うち運転資金4,800万円)金利:固定金利で、融資期間や担保の有無などにより異なります。最新の金利は日本政策金融公庫のウェブサイトで確認できます
- 返済期間:設備資金・運転資金ともに所定の期間内(例:設備資金20年以内、運転資金10年以内)。
訪問看護事業は社会貢献性が高く、事業計画の妥当性や経営者の経験・能力が重視され、積極的な支援が期待できます。看護師経験や管理者経験は強みです。審査期間は申し込みから約1ヶ月で、事業計画書の提出が必要となります。
日本政策金融公庫の「中小企業経営力強化資金」
中小企業経営力強化資金も、日本政策金融公庫の融資制度の一つで、税理士、公認会計士、中小企業診断士などの認定経営革新等支援機関による指導や助言を受けて事業を行う方が対象です。
- 資金用途:事業計画の実施のために必要な資金、経営課題の解決に取り組むために必要な資金、経営改革に取り組むために必要な資金など
- 対象者: 認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて事業を行う方など
- 融資限度額: 直接貸付 7億2千万円
- 金利: 固定金利で、融資期間や担保の有無などにより異なります。最新の金利は日本政策金融公庫のウェブサイトで確認できます。
- 返済期間: 設備資金20年以内、運転資金7年以内(いずれも据置期間2年以内)
中小企業経営力強化資金では、専門家のアドバイスを受けながら質の高い事業計画を作成できるため、融資審査の通過率向上も期待できます。訪問看護事業の立ち上げに詳しい認定支援機関を見つけることが重要です。
地方自治体の制度融資(信用保証協会付き融資)
多くの都道府県や市区町村では、地域の創業者を支援するため、金融機関および信用保証協会と連携して制度融資を提供しています。制度融資の大きなメリットは、自治体による金利や信用保証料の補助を受けられる場合があり、比較的、低金利での資金調達が期待できることです。また、地域の金融機関との取引実績を作るきっかけにもなります。
一方で、日本政策金融公庫の融資に比べると手続きがやや煩雑で、融資実行までに時間を要する傾向があるほか、原則として信用保証料の負担が生じます。ご自身の事業所がある地域の具体的な制度内容や条件については、各自治体のウェブサイト等で確認することが重要です。
その他(民間金融機関のプロパー融資など)
民間金融機関が自己の責任で直接行う融資(プロパー融資)は、創業初期には事業実績がないため、非常にハードルが高いのが実情です。日本政策金融公庫や信用保証協会付き融資を通じて取引実績を作り、事業が軌道に乗ってきた段階で、プロパー融資の相談をしてみると良いでしょう。
訪問看護の創業融資を申請する流れと必要書類
創業融資の申請から実際に融資が実行されるまでの一般的な流れと必要書類を解説します。
一般的な融資申請の流れ
- 相談・情報収集:日本政策金融公庫の窓口、地方自治体の担当窓口、取引を検討している金融機関などに相談し、利用できる制度や必要書類について情報を収集します。
- 事業計画書の作成・必要書類の準備:事業計画書を練り上げるとともに、その他必要な書類を準備します。
- 申込:金融機関の窓口や郵送、オンラインなどで融資を申し込みます。
- 面談:融資担当者と面談を行います。事業計画書の内容や創業者の経験、事業への熱意などを直接伝える重要な機会です。
- 審査:提出書類や面談内容に基づき、金融機関内部で審査が行われます。信用保証協会付き融資の場合は、信用保証協会の審査も行われます。
- 契約:審査に通れば、融資契約(金銭消費貸借契約)の手続きを行います。
- 融資実行: 契約手続き完了後、指定した口座に融資金が振り込まれます。
創業融資に必要な書類
創業融資に必要な書類には、以下のようなものがあります。詳細は申込先の機関にご確認ください。
訪問看護の創業融資実行までの期間の目安
訪問看護の創業融資申請から実行までの期間の目安は、以下の通りです。
- 日本政策金融公庫: 申し込みから融資実行まで、通常3週間〜1ヶ月半程度が目安です。書類の不備や審査状況によっては、さらに時間がかかることもあります。
- 制度融資: 金融機関、信用保証協会、自治体の審査が関わるため、日本政策金融公庫よりも時間がかかる傾向があり、1ヶ月半〜3ヶ月程度が目安です。
融資実行が遅れると開業スケジュール全体に影響が出ます。早めに準備を開始することが非常に重要です。
訪問看護の創業融資での事業計画書の作成方法
創業融資の審査において、事業計画書は最も重要な書類の一つです。一般的な事業計画書の構成要素に加え、訪問看護事業ならではのポイントを押さえることが重要です。
創業の動機・理念
ご自身の看護師経験や、訪問看護事業を通し実現したい社会貢献などを具体的に記載しましょう。地域医療への熱い想いや、どのような看護を提供したいのかというビジョンを明確に伝えましょう。
経営者の経歴・経験
看護師としての臨床経験(診療科、年数、役職など)、訪問看護の経験、管理職やリーダーとしての経験などを具体的に記載します。これらの経験が、訪問看護ステーションの運営にどう活かせるのかをアピールします。
提供するサービス内容
医療保険対応の訪問看護、介護保険対応の訪問看護、24時間対応、精神科訪問看護、小児訪問看護、難病ケア、リハビリテーションなど、提供するサービスを具体的に記載します。また、もし他のステーションとの差別化を図れる特色あるサービスがあれば、それを強調しましょう。
ターゲット顧客とエリア分析
主なサービス提供エリア、その地域の高齢化率、要介護・要支援認定者数、在宅療養患者数などのデータを基に、訪問看護の潜在的なニーズを分析します。近隣の競合ステーションの数、規模、提供サービス、強み・弱みなどを調査し、自社のポジショニングを明確にします。
集客方法・営業戦略
地域の病院、クリニック、居宅介護支援事業所(ケアマネージャー)、地域包括支援センターなど、どのような連携先に対して、どのように営業活動を行うのかを具体的に計画します。パンフレット作成、説明会の実施、個別訪問など、具体的なアクションプランを示しましょう。
人員計画
常勤換算で2.5名以上の看護職員(保健師、看護師、准看護師)の配置が必要です(うち1名は常勤の管理者)。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などを採用する場合はその計画も記載します。求人媒体、紹介などの採用方法、採用後の研修・教育体制についても触れ、質の高い人材を確保・育成できることを示します。
設備計画
事務所の所在地、広さ、賃料。訪問用車両の種類、台数、購入かリースか。必要な医療機器、事務機器、記録や請求に使うITシステム(電子カルテなど)の具体的な内容と費用を記載します。
必要な資金額と調達方法
上記の設備計画や初期費用、そして数ヶ月分の運転資金(特に人件費、家賃)を具体的に積み上げ、総額でいくら必要なのかを明確にします。そのうち、自己資金でいくら、融資希望額でいくら賄うのかの内訳を示します。資金使途は曖昧にせず、一つひとつ具体的に記載することが重要です。
収支計画・資金繰り計画
- 売上予測:訪問件数(1日あたり、1ヶ月あたり)、1件あたりの単価(介護報酬・診療報酬)、利用者数の増加見込みなどを基に、現実的な売上を予測します。開設当初、数ヶ月後、1年後、3年後といったスパンで作成します。
- 経費予測:人件費(経営者の役員報酬含む)、家賃、車両維持費、消耗品費、その他固定費・変動費を具体的に算出します。特に、訪問看護の経費として見落としがちな項目がないか確認しましょう。
- 損益分岐点:どれくらいの売上があれば赤字にならないか、利益がゼロになる点を把握します。
- 資金繰り計画:介護保険・医療保険の入金サイクル(サービス提供から2〜3ヶ月後)を考慮し、毎月の現金の出入りを予測します。これにより、運転資金がショートしないかを確認できます。
- 返済計画:融資を受けた場合の毎月の返済額を算出し、収支計画・資金繰り計画に無理なく組み込めることを示します。
将来のビジョン・事業展開
将来的にはスタッフを増員したい、対応エリアを拡大したい、新たなサービスを展開したいなど、3〜5年後の中長期的な目標や展望を示します。
訪問看護の創業融資を成功させるためのポイント
訪問看護ステーションの創業融資を成功させるためには、金融機関の審査ポイントを正確に理解し、陥りがちな失敗を回避することが不可欠です。
経営者の経験や熱意のアピール
融資審査では、経営者自身の看護師としての臨床経験や管理職経験といった専門性と、訪問看護事業への明確なビジョンや熱意が総合的に評価されます。これまでの経験が事業にどう活かせるのか、なぜこの事業を始めたいのか、地域にどう貢献したいのかを具体的に伝えましょう。
資金使途と返済計画の明示
融資希望額の具体的な使い道、つまり資金使途を明確かつ妥当に示すことが重要です。何にいくら必要かを詳細に説明し、事業規模に見合った計画であることを示しましょう。特に訪問看護事業は、保険請求から入金までのタイムラグがあるため、これを考慮した現実的な資金繰り計画と、無理のない返済計画を策定し、安定的な事業運営と返済能力を具体的に示す必要があります。
許認可取得の見通し
訪問看護ステーション運営には行政の指定が不可欠であり、人員・設備・運営基準の理解と許認可取得に向けた準備状況を融資審査で示すことが重要です。また、地域医療機関やケアマネージャーとの連携は事業の安定に直結するため、開業準備段階からの積極的な関係構築とその見込みを具体的に伝えましょう。
専門家の活用
事業計画作成や融資申請、法人設立、許認可といった創業期の専門的な手続きは、訪問看護事業に詳しい中小企業診断士や行政書士などの専門家の支援を得ることでスムーズに進み、融資成功率も高まります。費用はかかりますが、時間と労力を大幅に削減できるでしょう。
訪問看護の創業時に使える補助金・助成金
国や地方自治体は、新規創業や特定分野の事業者を支援するために、様々な補助金・助成金制度を設けています。
- 創業者向けの補助金等:各都道府県や市区町村が独自に設けている創業者向けの補助金です。
- 人材採用・育成に関する助成金:トライアル雇用助成金、キャリアアップ助成金など、厚生労働省が管轄するものが多くあります。質の高い人材確保や教育訓練にかかる費用の一部が助成される場合があります。
- IT導入補助金等: 業務効率化のためのITツール導入費用の一部を補助する制度です。
補助金・助成金の最新情報は、以下の方法で確認できます。
- 中小企業庁の「ミラサポplus」や「J-Net21」:全国の補助金・助成金情報が集約されています。
- 厚生労働省のウェブサイト:雇用関連の助成金情報が掲載されています。
- 各都道府県・市区町村のウェブサイト:地域独自の支援制度を確認できます。
- 商工会議所・商工会:地域の支援制度について相談できます。
補助金・助成金は公募期間が限定されていたり、要件が複雑だったりすることが多いので、こまめに情報をチェックし、専門家に相談することをおすすめします。
訪問看護の創業融資を成功させ、地域医療に貢献する第一歩を
本記事では、訪問看護事業における日本政策金融公庫や制度融資の活用法、審査で重視されるポイント、資金繰りの注意点、さらには補助金・助成金の活用に至るまで具体的に解説しました。
訪問看護事業は、これからの地域包括ケアを支える重要な役割を担います。この記事が、皆様の熱意ある一歩を力強く後押しし、地域に貢献する訪問看護ステーション設立の成功に繋がることを心より願っています。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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