• 更新日 : 2025年12月10日

開業費はいつまでさかのぼれる?開業前の経費の仕訳や何年前まで計上できるかを解説

個人事業主として開業する際、「開業準備にかかった費用はいつまでさかのぼれるのか?」と悩む方は多いでしょう。開業費として計上できる期間に法律上の明確な制限はありませんが、実務上は開業日の数ヵ月前から1年前程度の支出が妥当とされています。

この記事では、個人事業主の開業費の取り扱い、具体的な仕訳や帳簿の付け方、領収書がない場合の対処法などについて詳しく解説します。

開業費はいつまでさかのぼれる?

法律において、開業費として計上できる期間が「何年前まで」といった明確な制限は設けられていません。そのため、数年前の支出であっても、開業準備と直接関係があることを客観的に証明できれば、開業費として認められる可能性があります。

開業日の数ヵ月~1年程度前が目安

実務上の目安としては、開業日の数ヵ月前からおおむね1年程度前の支出を開業費として計上するのが一般的です。これは、税務署に対しても「開業準備に直接関連する支出」と説明しやすく、税務署においても合理的と判断される範囲だからです。一方で、あまりにも古い時期の支出は、開業との関連性を証明する資料の提示を求められる場合があり、税務調査などで認められない可能性があるため注意が必要です。

1年以上前の支出でも開業費として計上できるケース

1年以上前の支出であっても、それが明らかに開業準備のためと客観的に説明できるものであれば、開業費として計上できる可能性があります。

例えば、Webデザイナーとして独立するために専門的なデザインソフト(例:Adobe Creative Cloud)のライセンスを3年前に契約し、その利用記録や独立準備として使用したポートフォリオ(制作実績)が明確に残っているようなケースです。これらの資料によって、支出が開業準備と直接関連していると説明できれば、開業費として認められる余地があります。

ただし、これは例外的な取り扱いであり、認められるハードルは高いと考えておくべきです。開業費として計上する際は、その支出が開業と直接関連していることを明確にし、領収書や契約書などの証拠書類を確実に保存しておく必要があります。

開業費として認められる費用の例

開業費として認められるかどうかの最も重要なポイントは、その支出が開業準備に直接関係していることを明確に示せるかどうかです。以下に、一般的に開業費として認められることが多い支出の例を挙げます。

  • 広告宣伝費:店舗のオープン前に作成するチラシやポスター、ウェブサイトの制作費、看板設置費など
  • 備品購入費:事業用のパソコン、プリンター、机、椅子などの備品(※ただし、10万円以上の資産は原則として固定資産扱い)
  • 事務用品費:名刺作成費、印鑑作成費、文房具代など
  • 賃借料:開業前に借りたオフィスや店舗の賃料、駐車場代(開業日までの期間分)
  • 打ち合わせ費用:開業準備に関連する取引先や専門家との打ち合わせに要した飲食代、会議室利用料など
  • 調査・研究費:市場調査のための書籍・資料の購入費、セミナー参加費、コンサルティング費用など
  • 交通費:開業準備や備品購入のための移動交通費、打ち合わせ先への往復費用など

開業費として認められない費用の例

開業前の支出であっても、開業費として認められない、または注意が必要な経費があります。これらは税務調査でも特に確認されやすいポイントです。

開業後も継続的に発生する経費

水道光熱費通信費など、開業後も継続的に発生する「経常的な費用」は、たとえ開業前に支払っていても開業費には含めないのが原則です。

これらは事業を継続するために毎月発生する通常の経費であり、開業準備の特別な支出とは区別されます。そのため、こうした費用は開業後の最初の経費として処理します。(※開業前の家賃のように、開業準備に特化した支出であることを説明できる場合は、開業費として計上できます。)

もちろん、開業後に購入・支出したものは開業費には含まれません。開業後の経費は、経費が発生した会計期間の費用として計上しなければなりません。

事業と直接的に関係のない費用

個人の生活費や趣味の出費、家族の衣食住に関連する支出(家事関連費)などは、開業前・開業後を問わず事業と直接関係がないため、必要経費には算入できません。これらは「生活上の支出」とみなされ、税務上は経費として扱えない点に注意が必要です。

特に注意すべきなのが、プライベートと事業を兼ねる支出です。例えば、開業前に借りた自宅兼事務所の家賃や通信費などは、事業で使用する割合(床面積や使用時間などの合理的な基準)で「家事按分」し、事業用部分のみを必要経費として処理します。

ただし、このような家事関連費は生活と事業の双方に関わる経常的な支出であり、「開業準備のために特別に支出した費用」ではないため、開業費には含められません。

開業費として認められるのは、開業準備に特化して一時的に発生した支出(例:開業準備期間のオフィス賃料や広告宣伝費など)に限られます。

10万円以上の備品(パソコンなど)

1つ(または1セット)の取得価額が10万円以上の備品(例:パソコン、業務用の機械)は、開業費に含めるのではなく「固定資産」として計上するのが一般的です。

  • 10万円未満の備品:開業費(消耗品費)として計上できます。
  • 10万円以上の備品:開業費ではなく、固定資産(備品など)として資産計上し、開業後に減価償却で費用化します。

開業費は繰延資産として計上したうえで、任意償却により未償却残高の範囲でいつでも・任意の金額を経費化できるという特徴があります。一方、固定資産は開業費とは異なり法定耐用年数(例:パソコンなら4年)に基づいて減価償却を行います。ただし、青色申告をしている個人事業主や中小企業の法人であれば、特例を活用して、30万円未満の資産を取得した年に全額の経費計上も可能です。

参考:No.2100 減価償却のあらまし|国税庁

仕入・棚卸資産

販売を目的として仕入れた商品(棚卸資産・在庫)は、開業費に含めることはできません。これらは開業準備のための支出ではなく、販売活動に直接関わる事業用資産とみなされるためです。

会計処理としては、開業費(繰延資産)ではなく、「仕入高」または「棚卸資産(商品)」として扱います。開業日の時点でまだ販売していない商品は「棚卸資産」として資産計上し、実際に販売された時点、または期末の棚卸で在庫から減った時点で「売上原価」として費用に計上します。

開業時に私物を事業用に使う場合(現物出資に準ずる処理)

開業前にプライベートで購入したパソコンなどを、開業時に事業用として使用する場合は、「現物出資」ではなく、「事業への振替」として処理します。この場合、開業日の時価(中古価格など)を基準に、「固定資産」または「消耗品費」として計上します。

過去の購入金額を開業費として計上することはできません。開業時点で事業に使用を開始したものとして扱われるため、その時価をもとに減価償却や経費計上を行います。

参考:現物出資について|法務局

開業費の仕訳方法・帳簿の付け方

開業費の仕訳(帳簿の付け方)について、具体的な仕訳例を挙げながら順を追って見ていきましょう。

1. 開業費となる支出があったとき

例)開業の2ヵ月前に、店舗オープンのチラシを作成した。費用は開業費とし、支払いは個人のプライベート口座から引き落とされた。

この時点では、会計ソフトへの入力(仕訳)は行いません。開業前の支出は、開業費としてまとめて計上するタイミングが後日になるためです。支払日、金額、支払先を記録し、領収書や請求書などの証拠書類を確実に保管しておきます。

2. 開業したとき

例)開業日を迎えたため、開業前に支出した開業費を仕訳する。

借方貸方
開業費xxx,xxx円事業主借xxx,xxx円

この時点では、開業費は貸借対照表の「繰延資産」に計上されるのみで、まだ費用化されていません。いつ費用化(償却)するかは、決算時に判断します。

3. 決算時

決算時には、開業費をどう扱うかによって仕訳が異なります。

1. 開業費を来期以降の経費とする場合

開業年度では償却せず、来期以降に費用化することにした場合、決算時の仕訳は不要です。貸借対照表上に「開業費」として資産に残したまま決算をします。

2. 開業費を償却計算する場合

開業費をその年の経費として処理する場合は、「開業費償却」という勘定科目を使って費用化します。

借方貸方
開業費償却yy,yyy円開業費yy,yyy円

開業費を5年で均等償却することとした場合には、期間の月数に応じて次のように償却額を計算します。

開業費償却 = 開業費の額 ÷ 5年 × ( 月数 ÷ 12ヵ月 )

例えば、第1期が10月始まりで3ヵ月間の場合は、当期3ヵ月分を計上します。開業費は「任意償却資産」に分類されるため、毎期の償却額を自由に設定できます。

開業費の任意償却による節税メリット

開業費の最大のメリットは、任意償却を活用して節税効果を得られる点です。任意償却とは、開業費の未償却残高の範囲内であれば、「0円」から全額まで、好きな金額を好きな年度に経費計上できるという仕組みです。

開業費は、開業準備のために発生した支出をいったん資産として計上し、後から費用化する「繰延資産」に該当します。そのため、償却する際に新たな支出は発生せず、「支出のない経費」となります。この仕組みを活用すると、事業が軌道に乗って利益が多く出た年度に開業費を償却し、所得を圧縮して節税対策を得ることが可能です。

開業初年度は赤字になることも多いため、あえて償却せず(0円)、黒字が見込まれる数年後にまとめて費用化するという戦略的な運用も行えます。

参考:償却期間経過後における開業費の任意償却|国税庁

開業費を正しく計上し、税務調査にも耐えられるようにするためには、支出の根拠となる領収書や契約書などの証拠書類を適切に保存しておくことが不可欠です。

開業費を税務調査で指摘されるリスク

開業費は、どこまでを開業準備とみなすか、いつまでさかのぼれるかといった判断があいまいになりやすく、税務調査で指摘を受けやすい項目の一つです。

税務調査で指摘されやすい点
  • 開業費の範囲:事業と直接関係のない支出(個人の飲食代、趣味や生活に関する費用など)が含まれていないか。
  • さかのぼれる期間:あまりにも古い時期の支出が開業費として計上されていないか。
  • 金額の妥当性:10万円以上の備品や設備など、本来は固定資産に計上すべき支出が開業費に含まれていないか。家事関連費については、開業費ではなく必要経費として適切に家事按分されているか。
  • 証拠の有無:領収書やレシート、請求書などの支出を裏づける証拠書類が保存されておらず、支出の事実や開業との関連性を確認できない。

税務調査で指摘されないための対策はシンプルです。

  • 証拠の徹底保管:領収書や請求書、振込明細、契約書など、支出を裏づける書類を必ず保存します。
  • 説明準備:それぞれの支出がなぜ開業準備に必要だったのかを、第三者にも説明できるように、メモや一覧表を作成しておきます。

開業費の管理と証拠保管のポイント

開業費を正しく計上し、税務調査にも耐えられるようにするためには、証拠書類の管理が不可欠です。

領収書・証拠書類を必ず保管する

開業前であっても、事業に必要と思われる領収書や請求書類は、日付や種類別に分類して、捨てずに保存しておくようにしましょう。領収書などは一度破棄すると、再発行が難しいケースも多く、後で困ることになります。

領収書がない(もらい忘れた、紛失した)場合、「レシート」「銀行振込の控え」「クレジットカードの利用明細」「出金伝票(日付、金額、支払先、支払内容を自分で記載したもの)」「招待状や案内メール(セミナー参加費など)」で代用できる場合があります。ただし、これらの資料は領収書に比べると証拠能力としては弱まるため、できる限り正式な領収書を受け取るようにしましょう。

仕訳帳や台帳で管理する

会計ソフトを導入済みであれば、開業日を迎えた時点で「開業費」として仕訳を起票しましょう。これにより、開業準備中の支出が繰延資産として帳簿上で明確に管理され、任意のタイミングで費用化(償却)できるようになります。

また、会計ソフトとは別に、Excelなどで「開業費リスト(日付、内容、金額、支払先)」を作成しておくと、税務調査の際に説明しやすくなります。

開業費に関してよくある質問

開業費に関して、個人事業主の方が特に疑問に思う点をQ&A形式で解説します。

領収書がない場合はどうすればいいですか?

原則として領収書は必要ですが、ない場合はレシート、銀行振込の控え、クレジットカード明細、出金伝票、案内メールなどで代用できる場合があります。ただし、証拠能力は領収書よりも劣るため、税務調査で認められないリスクもあります。公共交通機関の交通費など、領収書が発行されにくい支出を除き、領収書やレシートをもらい、確実に保管しておきましょう。

スキルアップのためのスクール代は開業費になりますか?

その事業に直接関連するスキルであれば、開業費として認められる可能性があります。

例えば、飲食店を開業するために通った調理専門学校の費用や、Webデザイナーとして独立するために受講したデザインスクール(スクール代)の費用などは、事業に直接必要な知識・技術を身につけるための支出として、開業準備の一環とみなされる場合があります。

一方で、一般的なビジネスマナー講座や、事業と関連が薄い趣味・教養目的のスクール代は、開業準備とは認められにくく、開業費として計上することは難しいでしょう。

3年前に買ったパソコンは開業費にできますか?

3年前に購入したパソコンの購入金額を開業費として計上することはできません。開業費は「開業準備のために特別に支出した費用」に限られるため、3年前の支出を開業費に含めるのは期間として長すぎ、税務調査で否認される可能性が高いでしょう。

ただし、そのパソコンを開業後に事業で使用する場合は、私物(非業務用資産)を事業用に転用したものとして資産計上することができます。この場合は、開業日時点でのパソコンの時価(中古価格など)や未償却残高相当額を基準に評価し、「固定資産(備品)」または「消耗品費」として計上します。

開業費として認められるには客観的な証拠が重要

本記事では、個人事業主の開業費について、「いつまでさかのぼれるか」という疑問を中心に、仕訳の方法から税務調査への備えまで解説しました。

開業費として認められるかは、さかのぼれる期間よりも、支出の事実と事業との関連性を客観的な証拠(領収書や記録など)をもって証明できるかどうかに左右されます。

これから開業準備を始める方、またはすでに準備を進めている方は、本記事を活用し、証拠書類を確実に保存しておきましょう。開業前の経費を正しく開業費として資産計上し、任意償却の仕組みを活用することが、開業を成功させる第一歩となります。


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