• 作成日 : 2026年3月3日

取適法で振込手数料は誰負担?発注者負担が義務化?違法ケースと実務対応を解説

Point取適法における振込手数料の負担ルール

振込手数料は原則発注者負担であり、合意なき天引きは違法な「報酬減額」とみなされます。

  • 事前の書面合意と実費額のみ控除が可能
  • 一律定額の差し引きは差額が違法リスクに
  • 経理設定を見直し発注者負担への統一を推奨

受注者負担とするには契約書等での明記と実費管理が必須ですが、インボイス対応も含め事務負担が増大します。

2026年施行の「取適法(改正下請法)」において、振込手数料をこれまで通り受注者(下請)負担にすることは、「下請代金の不当な減額」として違法になるリスクが急増しています。

本記事では、振込手数料はどちらが負担すべきかという法的ルールと、違法となる具体的ケース、そしてリスクを回避するための実務対応について解説します。

取適法において振込手数料は誰が負担すべきか?

法律上の明文規定で「発注者負担」と書かれているわけではありませんが、民法の原則および行政の指導方針に基づき、「振込手数料は発注事業者が負担する」のが原則とされています。

特に取適法(改正下請法)の下では、事前の書面合意なしに手数料を差し引く行為は、直ちに「下請代金の減額」として違法認定される可能性が高いため注意が必要です。

民法の原則:持参債務

法律の基本原則として、金銭債務は「持参債務」です。つまり、支払う側(債務者=発注者)が、受け取る側(債権者=受注者)の元へ現金を届けるのが原則であり、そのための費用(振込手数料)は、特約がない限り支払う側が全額負担すべきものと解釈されます。

「商慣習だから」は通用しなくなった

これまで多くの企業が「振込手数料は差し引くのが当たり前」という商慣習で運用してきました。しかし、取適法やフリーランス新法のガイドライン、および公正取引委員会の運用強化により、「商慣習を理由とした一方的な手数料転嫁」は明確に否定されています。

行政側は「発注者が手数料を負担することが、価格転嫁の円滑化や取引適正化の第一歩である」というスタンスを明確に示しており、手数料をケチる企業は「買いたたき」のリスクが高い企業としてマークされる傾向にあります。

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振込手数料の差し引きが「違法(減額)」になるケース

契約書や発注書で明確に合意していないのに勝手に差し引くケースや、合意があっても「実費以上」の金額を定額で差し引くケースは、取適法における「下請代金の減額」として違法となります。

ケース1:書面での合意なく、勝手に差し引いた場合(違反)

発注書(4条書面)や契約書に「報酬:10,000円(税別)」とだけ記載し、支払いの際に「9,500円(500円は手数料として控除)」を振り込む行為です。

これは、発注時に約束した10,000円を全額支払っていないことになるため、取適法第5条の禁止事項である「下請代金の減額」に該当し、明確な違反となります。たとえ「これまでずっとそうしてきた(黙示の合意があった)」と主張しても、行政指導では認められないケースがほとんどです。

ケース2:定額の手数料を差し引いている場合(違反リスク大)

契約書に「振込手数料は受注者負担とする」とあっても、一律で「事務手数料 500円」や「振込手数料 800円」を差し引いている場合は違反のリスクがあります。

もし、実際にかかった銀行の振込手数料が「150円(ネットバンキング利用など)」だった場合、差額の「350円」は、手数料の名目を借りた不当な減額とみなされるからです。差し引いて良いのは、あくまで「銀行に支払う実費分」のみです。

ケース3:消費税計算のミスによる減額

手数料を内税・外税のどちらで処理するか認識がずれ、結果的に支払総額が不足してしまうケースです。

インボイス制度導入以降、消費税の計算は厳格化されており、手数料差し引きによって1円でも不足が生じれば、やはり「減額」として指導対象となります。

出典:下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準|公正取引委員会

受注者負担(差し引き)が認められる条件とは?

振込手数料を受注者負担にすること自体が完全に禁止されているわけではありません。適法に処理するためには、「書面での事前の明示と合意」および「実費のみの控除」という2つの条件をクリアする必要があります。

条件1:書面での事前の明示と合意

発注書(4条書面)や基本契約書において、以下の文言を明記し、双方が合意している必要があります。

「下請代金の支払いに係る振込手数料は、特定受託者(受注者)の負担とする。この場合、特定委託者(発注者)は代金から振込手数料の実費相当額を控除して支払うものとする。」

口頭での合意や、「請求書に『手数料引いてください』と書いてあったから」という事後的な処理では、証拠として不十分とみなされるリスクがあります。必ず発注段階(契約締結時)で書面に残す必要があります。

条件2:差し引く金額が「実費」であること

受注者が負担する場合でも、差し引けるのは「発注者が銀行に実際に支払う手数料額」に限られます。

  • NG例:一律550円を差し引く。
  • OK例:三菱UFJ銀行宛てなら110円、他行宛てなら160円を、それぞれの送金ごとに正確に差し引く。

これを徹底しようとすると、振込先の銀行や金額(3万円以上か未満か)によって控除額をいちいち変える必要があり、経理実務の負担は激増します。

なぜ今、振込手数料の規制が厳しくなっているのか?

政府が推進する「価格転嫁の円滑化」において、発注者が手数料すら負担しない姿勢は「買いたたき」の象徴と見なされているからです。また、インボイス制度により実費計算が複雑化したことも要因です。

2024年の下請法運用基準改正の影響

取適法の前身である下請法において、2024年に運用基準が改正されました。そこで「振込手数料を親事業者が負担すること」が強く推奨され、下請事業者の負担とする場合は「当事者間の合意」と「実費の範囲内」であることが厳格に求められるようになりました。

取適法はこの基準を引き継いでおり、さらに罰則規定も強化されているため、手数料問題は決して軽視できないコンプライアンス項目となっています。

インボイス制度との関連(事務コストの増大)

インボイス制度の下では、振込手数料を差し引く場合、その手数料についての「返還インボイス(適格返還請求書)」の交付が必要になるケースや、仕訳処理が複雑になるケースがあります。ただし、振込手数料相当額の差し引きが1万円未満であれば、「少額な返還インボイスの交付義務免除」により、返還インボイスの発行は不要です。

返還インボイスにより、複雑な税務処理と法的リスクを負うことは、企業にとって合理的ではありません。そのため、大手企業を中心に「振込手数料は発注者(自社)負担」に切り替える動きが加速しています。

取適法とフリーランス新法の違いは?

取適法(対象:中小企業)とフリーランス新法(対象:個人)、どちらの法律が適用される場合でも、振込手数料に関するリスクと対応策は同じです。「発注者負担」が最も安全な選択肢です。

どちらの法律でも「減額」は禁止

  • 取適法:第5条で「製造委託等代金の減額」を禁止。
  • フリーランス新法:第5条で「報酬の減額」を禁止。

条文番号や用語は異なりますが、「合意なしの手数料差し引き=違法」という解釈は共通しています。相手が法人であれ個人であれ、手数料を一方的に転嫁することは許されません。

違反した場合の罰則とリスク

手数料の差し引きが違法と認定された場合、差額の返還はもちろん、是正勧告や社名公表の対象となります。

行政指導・勧告と返還命令

公正取引委員会や中小企業庁の調査が入った場合、過去に遡って「不当に差し引いた手数料の総額」を計算し、受注者に返還するよう命じられます。数百件、数千件の取引がある場合、その返金事務作業は膨大なものとなります。

社名公表によるレピュテーションリスク

勧告に従わない、あるいは悪質な違反(組織的な買いたたき等)とみなされた場合、取適法に基づき事業者名が公表されます。

「数百円の手数料すらケチって法令違反をする企業」という評判が立てば、優秀なフリーランスや協力会社は離れていき、ESG経営の観点からも大きなマイナスとなります。

発注事業者が今すぐ行うべき実務対応

法令違反を確実に防ぎ、事務コストを削減するためには、全社的に「振込手数料は発注者負担」へ切り替えることを強く推奨します。

ステップ1:振込手数料の設定変更(全社統一)

現在の経理システムやインターネットバンキングの設定を確認してください。デフォルトで「先方負担(差し引き)」になっていないでしょうか?

最も安全なのは、システム設定を「当方負担(発注者負担)」に一括変更することです。これにより、入力ミスによる誤った差し引きも防げます。

ステップ2:契約書・発注書のひな形修正

今後もやむを得ず受注者負担とする場合のみ、3条書面(発注書)や契約書に以下の文言を追加してください。

「(例外条項)報酬の支払いに係る振込手数料は、受託者の負担とする。この場合、委託者は報酬から振込手数料の実費相当額を控除して支払うものとする。」

しかし、実費管理の手間を考えると、基本契約書のひな形自体を「振込手数料は甲(発注者)の負担とする」と修正するのがベストです。

ステップ3:過去の取引の見直し

すでに「合意なし・一律減額」で支払ってしまった案件がないか確認します。もし常習的に行っていた場合、法務部門と相談の上、リスク評価を行う必要があります。

手数料は「発注者負担」への切り替えが最適解

取適法(改正下請法)の施行により、振込手数料を受注者に負担させるハードルは非常に高くなりました。

  1. 原則:発注者負担。
  2. 例外(受注者負担):書面での事前合意+実費のみ控除なら可。
  3. リスク:合意なしや定額控除は「減額」として違法。社名公表リスクあり。

「書面での合意」と「実費管理」にかかる膨大な事務コスト、そして万が一の法令違反リスクを天秤にかければ、振込手数料は全額発注者負担に切り替えるのが経済合理的です。

わずかなコスト削減のためにコンプライアンス違反のリスクを負うのではなく、クリーンな取引条件を提示することで、取引先と良好な関係を築きましょう。


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