- 作成日 : 2024年12月3日
下請法3条書面とは?記載事項、サンプル、書き方やメール交付、5条との違いを解説
「下請法3条書面」とは、下請法に基づいて親事業者に交付義務が課されている書面です。3条書面には、下請法および公正取引委員会規則に定められた事項を、漏れなく記載する必要がありますが、具体的な書き方がわからずに困っている方もいるでしょう。
そこで本記事では、下請法3条書面について、記載すべき項目や記載例などを紹介します。併せて、比較されることが多い5条書面との違いも解説するので、参考にしてください。
目次
下請法3条書面とは?
「下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)」とは、比較的規模の大きい事業者(=親事業者)が小規模事業者(=下請事業者)に対して業務を発注する際、親事業者が遵守すべきルールを定めた法律です。親事業者による搾取を防ぎ、下請事業者を保護することを目的としています。
下請法3条では、親事業者が下請事業者に対して業務を発注するにあたり、発注条件などを記載した書面の交付を義務付けています。この書面は「3条書面」と呼ばれることがあり、下請法および公正取引委員会規則に定められた事項を漏れなく記載しなければなりません。
3条書面(発注書面)を交付すべきタイミング
親事業者が下請事業者に対して3条書面を交付すべきタイミングは、「製造委託等」をしたときです。製造委託等とは、下請法の対象となる製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託の4つの取引をいいます(それぞれの意義は後述します)。
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに3条書面を交付しなければなりません。「直ちに」は時間的遅延を許さないことを意味しており、いかなる事情があろうとも、製造委託等を行ったらすぐに3条書面を交付することが求められます。
下請法の対象となる取引
下請法の対象となる取引は、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託の4種類です。発注者(=親事業者)の資本金等が基準額を上回っており、かつ受注者(=下請事業者)の資本金等が基準額を下回っている場合に限り、下請法が適用されます。
対象取引の種類|製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託
下請法の対象取引は、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託の4種類です。これらを総称して「製造委託等」といいます。
①製造委託
以下の物の製造を、下請事業者に対して委託する取引です。
- 親事業者が業として行う販売、または業として請け負う製造の目的物である物品
- 親事業者が自ら使用・消費する物品
- a,bの物品の半製品・部品・附属品・原材料、またはこれらの製造に用いる金型
- 親事業者が業として行う物品の修理に必要な部品・原材料
②修理委託
以下の物品に関する修理行為の全部または一部を、下請事業者に対して委託する取引です。
- 親事業者が業として修理を請け負う物品
- 親事業者が自ら使用する物品
③情報成果物作成委託
以下の情報成果物の作成行為の全部または一部を、下請事業者に対して委託する取引です。
- 親事業者が業として提供する、または業として作成を請け負う情報成果物
- 親事業者が自ら使用する情報成果物
④役務提供委託
親事業者が業として行う役務(サービス)の提供行為を、下請事業者に対して委託する取引です。ただし、建設工事の再委託を除きます。
親事業者と下請事業者の資本金要件
下請法は、製造委託等をする側(=親事業者)と受ける側(=下請事業者)の資本金の額または出資の総額が、いずれも下表の要件を満たす場合に適用されます。
製造委託等の種類 | 親事業者の資本金の額または出資の総額 | 下請事業者の資本金の額または出資の総額 |
---|---|---|
| 3億円超 | 3億円以下 |
1,000万円超3億円以下 | 1,000万円以下 | |
| 5,000万円超 | 5,000万円以下 |
1,000万円超5,000万円以下 | 1,000万円以下 |
下請法3条書面に記載すべき項目
下請法が適用される製造委託等を行った場合、親事業者は下請事業者に対して、以下の事項を記載した書面を直ちに交付する必要があります(下請法3条、下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則1条1項)。
- 親事業者および下請事業者を識別できる符号(商号や名称など)
- 製造委託等をした日
- 下請事業者の給付または役務の内容
- 納品または役務提供の期日および場所
- 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日(検収期日)
- 下請代金の額および支払期日(手形を交付する場合は、その手形の金額および満期も記載)
- 下請代金の支払いに債権譲渡担保方式、ファクタリング方式または併存的債務引受方式を用いる場合は、次に掲げる事項
- 金融機関の名称
- 金融機関から貸付けまたは支払いを受けられる金額
- 下請代金相当額を金融機関に支払う期日
- 下請代金の支払いに電子記録債権を用いる場合は、次に掲げる事項
- 電子記録債権の金額
- 電子記録債権の支払期日
- 製造委託等に関し、原材料等を親事業者から購入させる場合は、次に掲げる事項
- 原材料等の品名、数量、対価、引渡しの期日
- 決済の期日および方法
下請法3条書面のサンプル
下請法3条書面のサンプルは、公正取引委員会と中小企業庁が共同で公表している「下請取引適正化推進講習会テキスト」の92ページ以降に掲載されています。必要に応じてご利用ください。
参考:下請取引適正化推進講習会テキスト|公正取引委員会・中小企業庁
下請法3条書面の下請代金の額の記載が困難な場合の対処法
3条書面には下請代金の額を記載する必要がありますが、具体的な金額の記載が困難な場合は、下請代金の算定方法を記載することも認められています。
(例)
下請代金については、別添の単価表に基づき算定された金額に、作業に要した交通費、○○費、○○費の実費を加えた額を支払います。
<別添:単価表>
作業の内容等 | 単価 |
---|---|
基本作業 | ○円 |
…… | …… |
下請代金の算定方法を記載する場合は、想定内容が適切に計算式や単価表に表現されているかどうかをよくチェックしましょう。
下請法3条書面の委託内容のすべてを記載できない場合の対処法
情報成果物の作成委託など、作業の大部分を下請事業者が裁量的に行う場合は、親事業者が下請事業者の給付または役務の内容をすべて記載することは困難なケースもあります。
委託内容のすべてを記載することが困難な場合でも、下請事業者が3条書面を見て委託内容を理解でき、親事業者の指示に即した納品や役務提供ができる程度の情報を記載しなければなりません。
委託内容の記載は、親事業者が下請事業者に対してやり直しなどを求める根拠となるため、できる限り明確に記載することが望ましいです。
下請法3条書面の交付をメールで行ってもよいか?
3条書面は書面(紙)で交付するのが原則ですが、あらかじめ下請事業者から書面または電磁的方法による承諾を得ていれば、メールで交付することも認められています(下請法3条2項、下請法施行令2条1項)。
ただし、メールによって3条書面を交付する場合は、そのメールを下請事業者が自己で使用する電子計算機(PCなど)に記録することが必要です。
携帯電話に電子メールを送信しても、メールが下請事業者のファイルに記録されないので、3条書面を交付したことにはなりません。
また、下請事業者はいつでも、3条書面のメール交付を受けない旨を申し出ることができます。下請事業者の申出があった場合、親事業者はメール交付をやめ、書面(紙)で3条書面を交付しなければなりません(下請法施行令2条2項)。
参考:下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項|公正取引委員会
下請法3条書面の保管期間、保管方法
3条書面は、親事業者と下請事業者のそれぞれにおいて、確定申告期限の翌日から起算して下表の期間保存しなければなりません。
個人事業主 | 5年 |
---|---|
法人 | 7年 ※以下のいずれかに該当する事業年度については10年(2018年3月31日以前に開始した事業年度については9年) |
また、電子データで送受信した3条書面は、電子帳簿保存法の要件に従って保存する必要があります。電子帳簿保存法の詳細については、以下の記事をご参照ください。
電子帳簿保存法とは?2024年からの改正内容・対象書類を簡単に解説
下請法3条書面を交付しない場合はどうなる?
親事業者が製造委託等を行った際、下請事業者に対して直ちに3条書面を交付しないと、公正取引委員会によって違反を指摘される可能性があるため、注意が必要です。
単に違反を指摘されるだけでなく、3条書面の交付義務に違反した者および法人に対して「50万円以下の罰金」が科されます(下請法10条1号・下請法12条)。
このようなリスクを避けるため、親事業者は下請事業者に対して、3条書面を確実に交付するようにしましょう。
下請法5条とは?3条との違い
下請法5条では、親事業者に対して下請事業者との取引の記録を作成し、保存することを義務付けています。
3条書面は下請事業者に交付するものですが、下請法5条によって作成が義務付けられている記録は、親事業者が保存するものです。
また、3条書面には発注条件が記載されていますが、下請法5条に基づく取引記録には、発注から下請代金の支払い等に至るまで、取引全体の経過を記録することが求められています。
下請法5条に基づく取引記録に記載すべき事項については、公正取引委員会規則をご参照ください。
参考:下請代金支払遅延等防止法第5条の書類又は電磁的記録の作成及び保存に関する規則|公正取引委員会
個人や小規模企業に業務を発注する場合は、3条書面の交付など下請法を遵守しましょう
資本金の額または出資の総額が1,000万円を超える事業者が、他社に対して業務を発注する際には、下請法が適用されることがあります。この場合は親事業者として、下請法の規定を遵守しなければなりません。
下請法には、下請事業者に対する3条書面の交付をはじめとして、親事業者に求められるさまざまな対応が定められています。
3条書面を交付しない、または交付が遅れるなど親事業者としての義務を怠ると、公正取引委員会から是正勧告を受けることがあります。さらに、刑事罰が科されることもあり得るので注意が必要です。
下請法を遵守することは、コンプライアンスの徹底を図る観点から、一定規模以上の企業に強く求められています。3条書面の記載内容や交付・保存の方法などを含めて、下請法のルールを正しく理解し、その遵守に努めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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