- 更新日 : 2025年6月19日
雇用契約書に変更があった場合の手続きは?変更時の注意点や拒否された際の対処法も解説
私たちが社会で働く際、一般的には使用者と労働者の立場で雇用契約を締結します。さまざまな理由で雇用契約を変更する場合、どのように手続きを進めればよいのでしょうか。
この記事では、雇用契約書の変更があった場合の手続きや変更時の注意点などを解説します。
雇用契約の途中変更は可能?
雇用契約の途中変更は、認められるケースと認められないケースがあります。それぞれのケースについて詳しく解説していきます。
双方の合意があれば変更できる
雇用契約は、労働者・使用者双方の合意があれば、内容を変更できます。労働契約法第8条には、以下のような記載があります。
労働契約法第8条
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
基本的には正社員・パート・アルバイトなど雇用形態にかかわらず、どの従業員であっても、労働契約を変更する際は労働者自身の同意が必要です。労働者にとって有益な変更であれば簡単に合意ができますが、不利な変更となる場合は丁寧な説明が求められます。
変更内容が合理的なら就業規則の変更により契約変更が可能
変更内容が合理的と認められるのであれば、就業規則の変更によって契約変更が可能です。
労働基準法第89条
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
就業規則には、始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、就業時転換、賃金、退職のことなどを記載する必要があります。就業規則は労働者の合意がなくとも変更ができるため、就業規則の変更により雇用契約の変更ができます。
ただし、労働者の反感を買う場合もあるため、できれば労働者との合意をとっておくと安心でしょう。また、変更後の労働条件が有効となるためには、変更後の就業規則を労働者に周知させることも必要です。
一方的な変更は原則認められない
使用者が労働者の合意を得ずに一方的に雇用契約を変更することは認められません。とくに勝手に勤務時間を減らしたり、賃金を下げたりと、労働者が不利益になるような内容は、労働者が合意しない限り認められません。
反対にいえば、労働者の合意が得られれば、多少不利な内容を提示しても変更できる可能性があります。
【ケース別】雇用契約書に変更があった場合の手続きの流れ
雇用契約書に変更があった場合の手続きの流れを、以下のパターン別に解説します。
- 賃金を変更する場合
- 勤務時間を変更する場合
- 有期雇用の労働者の契約を更新する場合
- その他労働条件(勤務地・業務内容)を変更する場合
基本的には、いずれの場合も以下の流れで進めます。
- 労働条件を明示する(労働条件変更の場合)
- 使用者・労働者で合意する
- 雇用契約書を作成し契約を交わす・就業規則の変更などを行う
また、基本的に変更の際は労働者の「自由な意思」にもとづき契約したかどうかがポイントになります。自由な意思とは、外的な強制や脅迫がなく、真に同意した状況のことです。この意思がないまま合意すると、書面上合意しても、その後裁判などに発展した際に効力が認められない場合があります。
雇用契約書の作成方法をおさえたい人は、こちらの記事を参考にしてください。
賃金を変更する場合
賃金の変更時は、まずは労働者と賃金の変更についてよく話し合い、双方で合意しなければなりません。賃金が上がる場合は合意しやすいですが、下がる際は丁寧な説明が必要です。また、経営状況の厳しさや就業時間の変更など、合理的な理由でなければ賃金減額の変更契約は認められません。
加えて、労働条件が変更されるため、労働条件の明示が必須となります。
労働基準法第15条
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
労働時間や業務内容なども、あらためて提示するようにしましょう。
勤務時間を変更する場合
勤務時間の変更時は、就業規則に業務の都合上による繰上げ・繰下げが自由にできる旨の記載があれば、別途同意なく変更ができます。ただし、勤務時間の変更にともない労働者の賃金や生活スタイルが変わるケースがあるため、結果的に労働者への丁寧な説明は必要となるでしょう。
また、無意味に勤務時間を少なくすることは認められません。勤務時間を少なくする際は、業務の責任が少なくなった、経営状況が厳しくなったといった合理的な理由が必要です。
有期雇用の労働者の契約を更新する場合
有期雇用の人は、契約満了が近づく際に更新が必要となります。使用者は以下の法令に注意しましょう。
労働契約法第19条
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
つまり、労働契約の更新なし(雇い止め)が、実質正社員の解雇と同等な不利益である場合や、労働者が契約更新を期待するのに合理的な理由がある場合は、労働者からの申し出があれば従前の契約を継続する必要があるのです。この際、賃金や勤務時間などの労働条件の変更がある際は、必ず労働者の合意をとらなければなりません。
労働者から契約更新の申し出があった場合は、基本的に応じる方向で考えるとよいでしょう。正当な理由のない雇い止めはトラブルの原因となる可能性があるため、慎重に対応してください。
その他労働条件(勤務地・業務内容)を変更する場合
賃金や労働時間以外の労働条件を変更する場合は、必要に応じて契約変更の手続きをとります。
勤務地や業務内容の変更については、現在の雇用契約書が転勤や業務の変更(異動)を想定したものであるならば、特段変更の必要はありません。雇用契約書に記載されている勤務地や業務内容は、あくまで当面のものと捉えられるためです。
ただし、転勤や変更を想定していない場合は、労働者の合意を得たうえで雇用契約を再締結する必要があります。とくに勤務地の変更は労働者にとって不利な内容になるケースがあるため、丁寧な説明や書面での適切な合意が必要です。
雇用契約書の変更を拒否された場合の対処法
労働者は雇用契約書に合意しない選択も認められています。そのため、雇用契約書の変更を拒否されてしまう可能性もあるでしょう。この場合は、労働者の不満点や不安点を解消できるよう、丁寧な説明や新たな条件の提示が必要になります。
ただし、合理的な理由があるなら就業規則による変更が可能です。
労働契約法第10条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。
なお、合意しないからといって不当な処分や解雇をすることは禁止されています。合意が得られないのであれば、再度合意できる条件の雇用契約書を作成する必要があります。また、労働者が退職するのであれば認めなければなりません。
雇用契約書を途中変更する際の注意点5つ
雇用契約書を途中変更する際は、以下の5点に注意しましょう。
- 労働者への変更内容の説明は丁寧に行う
- 労働条件通知書と内容の整合性をはかる
- 労働基準法や就業規則に満たない条件は認められない
- 無期雇用への転換ルールを遵守する
- 労働条件明示の改正ルールを遵守する
ルールの遵守に加えて、従業員への丁寧な対応が求められます。注意点をおさえて、トラブルなく変更手続きを進めましょう。
1. 労働者への変更内容の説明は丁寧に行う
労働者への変更内容の説明は、丁寧かつ時間をかけて行うことが大切です。
労働者にとって賃金や就業時間、勤務先といった労働条件の変更は、生活にかかわる重要な事項です。簡単な説明で合意を求めると、たとえ合意したとしても自由な意思にもとづいていないものとされ、あとでトラブルになります。もし裁判などに発展した場合は、自由な意思にもとづいていないと判断され、使用者側が不利になってしまいます。
労働者が本当に納得して合意できるまで「何がどのように変わるのか」「それによってどのようなことが起こる可能性があるか」といったことを丁寧に説明するのが重要です。
2. 労働条件通知書と内容の整合性をはかる
新たな労働条件を提示する際は、労働条件通知書との内容の整合性をはかることが必要です。労働条件通知書とは、使用者が労働者に交付する、労働条件を明示した書類です。
労働基準法施行規則第5条第2項
使用者は、法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない。
労働条件通知書と異なる業務内容や賃金、労働時間で働かせてはなりません。労働条件通知書に記載されていない内容で働くことがないよう、雇用契約書の内容は労働条件通知書と整合性をとる必要があります。
労働条件通知書と雇用契約書は、1枚の書類にまとめて作成することもできます。詳しくはこちらを参考にしてください。
3. 労働基準法や就業規則を満たした条件にする
労働基準法や就業規則を下回るような条件は認められません。たとえば、以下のような条件は法令や規則を下回ってしまいます。
- 就業規則では休日が完全週休2日となっているにもかかわらず、実際は週休2日制で休みがない週がある。
- 8時間勤務をしていて、本来1時間の休憩が必要にもかかわらず、休憩時間が40分と法定の休憩時間を下回っている。
労働条件は、基本的に労働基準法や就業規則のほか、労使間で締結する労働協約などを遵守したうえで提示する必要があります。そのため、法令や規則を満たす条件を労働者に提示しなければなりません。
4. 無期雇用への転換ルールを遵守する
有期雇用の人を長期間雇用している場合、無期雇用への転換が必要な場合があります。この際、雇用契約書を新たに交わすことになります。
無期雇用転換ルールとは、同一の使用者から有期労働契約が5年を超えて更新された場合に、労働者の申し出により、期間のない契約に変更するものです。
労働者の無期雇用への転換の申し出を拒否することはできません。申し出があった際は速やかに無期雇用となる条件の雇用契約へ変更する必要があります。
5. 労働条件明示の改正ルールを遵守する
労働条件明示については、2024年度にルールが改正されました。具体的には以下のとおりです。
明示のタイミング | 明示するもの |
---|---|
労働契約締結時・有期契約の更新時 | 就業場所や業務の変更範囲 |
有期労働契約の締結・更新時 | 更新上限の有無と内容(上限の新設・短縮時は理由もあわせて) |
無期雇用転換ルールの対象となる更新時 | 無期転換の申込機会・無期転換後の労働条件 |
就業場所や業務の変更範囲は、すべての労働者との労働契約締結・更新時に明示が義務付けられています。また、有期労働者は更新上限や無期雇用転換時の申込機会や労働条件などの明記も必要です。ルールを遵守し、無期雇用の転換や就業場所でトラブルにならないよう注意しましょう。
雇用契約書の変更に関するよくある質問
雇用契約書の変更に関する質問や疑問をまとめます。変更契約時や従業員から相談があった際の参考としてください。
会社都合による雇用契約の変更はできますか?
会社都合による雇用契約の変更は、使用者・労働者双方の合意があれば可能です。使用者が一方的に労働者に不利な変更をすることは認められません。
雇用契約を変更する際は、事前に同意を得たうえで手続きをしましょう。
雇用契約書の変更に覚書は有効ですか?
覚書は雇用契約書の変更で有効となります。覚書は、現行の雇用契約書に新たな条件や内容を追加する際に作成する書類です。法的拘束力があるため、雇用契約の変更でも効力があります。
労働条件の変更による退職は可能ですか?
労働条件の変更を理由に退職することは問題ありません。ただし、一方的に退職した場合は自己都合退職となり、雇用保険の給付で不利になる場合があります。
なお、使用者側に関しては、労働者が雇用契約の変更を拒否したことにより解雇するのは、その変更が会社の運営上不可欠であったり、変更の必要性が労働者の受ける不利益を上回っていたりするなど、要件を満たした場合にしか認められません。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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