- 更新日 : 2025年4月4日
外国人労働者=犯罪の多発は誤解?外国人労働者の犯罪内容や内訳を解説
外国人労働者による犯罪は、とくにニュースとして取り上げられることが多いため、外国人労働者の増加=治安の悪化と考える人もいるでしょう。
しかし、実際は外国人労働者数が増加しているにもかかわらず犯罪検挙率は低下しており、必ずしも治安悪化につながるわけではありません。また、犯罪が起こる背景には悪質な労働環境や仲介業者などが関係しているケースがあります。
国内の外国人労働者による犯罪件数や推移、犯罪が起こる理由や背景について解説します。
目次
日本国内で受け入れている外国人労働者数の推移と人数
外国人労働者の人数は年々増加傾向にあり、令和6年10月時点において、日本で働く外国人労働者の数は過去最多の約230万人を超えました。
【外国人労働者の人数の推移と対前年増加率】
令和2年 | 令和3年 | 令和4年 | 令和5年 | 令和6年10月 | |
---|---|---|---|---|---|
外国人労働者数 | 172万4,328人 | 172万7,221人 | 182万2,725人 | 204万8,675人 | 230万2,587人 |
対前年増加率 | 4.0% | 0.2% | 5.5% | 12.4% | 12.4% |
引用:厚生労働省「外国人雇用状況」 の届出状況表一覧(令和6年10月末時点)
前年度と比較すると、約26万人も増加し、増加率は12.4%です。近年、外国人労働者の雇用に関する制度が整備されており、中小企業から大手企業まで幅広い現場で雇用されています。
日本では少子高齢化に伴う労働力不足が深刻化しており、今後も外国人労働者による労働力が、日本を支える重要な役割を果たします。
外国人労働者による犯罪に関するデータ
外国人労働者による犯罪は、残念ながらまったく起きていないわけではありません。とはいえ、実は外国人労働者が増えているにもかかわらず、検挙数はそれほど多くはないといえるのです。
外国人労働者による犯罪の実態を理解するためにも、犯罪数の推移や犯罪内容、検挙された外国人労働者の国籍について解説します。
来日外国人による検挙人数と検挙率の推移
法務省が公開している犯罪白書 令和5年版によると、来日外国人による検挙件数は以下のとおりです。
引用:法務省 令和5年版 犯罪白書 第4編/第9章/第2節/1 刑法犯
平成17年をピークに、来日外国人の検挙人数と検挙率はともに減少していることがわかります。
つまり、観光や就労目的で訪日した外国人を含め、来日外国人が増加しているにもかかわらず、犯罪件数が減少しているのです。
犯罪件数が減少している背景には、不法入国者取り締まりの強化や新型コロナウイルスの感染拡大による訪日外国人の減少などがあります。
来日外国人による犯罪内容の内訳
令和4年時における来日外国人による犯罪の内訳は、以下のとおりです。
引用:法務省 令和5年版 犯罪白書 第4編/第9章/第2節/1 刑法犯
万引きを含む窃盗が最も多く、約6割を占めています。ついで傷害・暴行、詐欺が続き、金銭を目的とした犯罪が大きな割合を占めていることがわかります。
犯罪が起きる背景には、多額の借金の返済や生活苦により職場から失踪した外国人労働者や、ほかの在日外国人によるトラブルに巻き込まれるケースなどが考えられるでしょう。
国籍別の検挙数と割合
令和5年6月末時点で、検挙された訪日外国人の国籍は、以下のとおりです。
【総検挙人員】 | 1万1,534人 |
---|---|
ベトナム | 4,229人 |
中国 | 2,008人 |
フィリピン | 637人 |
タイ | 585人 |
ブラジル | 532人 |
引用:警察庁組織犯罪対策部 令和5年における組織犯罪の情勢 令和6年3月
ベトナムが最も多く、構成比率のうち約36.7%を占めています。実際に、日本で受け入れている外国人労働者ではベトナム人が最も多く、ついで中国、フィリピンの順です。
来日外国人による検挙数と検挙人数は減少傾向にありますが、ベトナム人にのみフォーカスすると、検挙率と検挙人数が年々増加傾向にあることがわかります。
平成30年 | 令和元年 | 令和2年 | 令和3年 | 令和4年 | 令和5年 |
---|---|---|---|---|---|
2,924人 | 3,365人 | 4,219人 | 4,007人 | 3,432人 | 4,229人 |
引用:警察庁組織犯罪対策部 令和5年における組織犯罪の情勢 令和6年3月
ベトナム国籍者の検挙人数は、令和2年から令和3年、4年と減少が続いていましたが、令和5年には再び増加に転じ、令和2年を上回る4,229人となっています。
外国人が犯罪を犯す理由
外国人労働者は、慣れない言葉や文化のなか業務に就く方がほとんどです。
そのため、トラブルに遭遇したり環境に耐えられず犯罪に手を染めたりする外国人労働者もいます。外国人労働者が犯罪を犯す理由について、とくに多い2つの理由を紹介します。
渡航する際に負った借金が返せなくなったため
外国人労働者の多くは、日本に渡航する際に莫大な借金を抱えることがあります。
とくに技能実習生の場合、送り出し機関から渡航費や手数料として100万円以上の費用を請求されることもあるのです。
このため多くの技能実習生は、家族や友人から多額の借金をして日本に来ており、借金返済のプレッシャーを抱えています。受け入れ企業での収入が低い場合や労働条件が悪いために思うように稼げなくなると、返済に苦しむあまり、不法残留や窃盗などの犯罪に手を染めるケースが見受けられます。
借金の返済という切迫した状況が、犯罪行為に至る一因となるのです。
悪質な労働環境に耐えられなくなったため
日本で働く外国人労働者は、しばしば過酷な労働環境におかれることがあります。
違法な労働条件のもと、長時間労働や最低賃金以下の給与で働かせている企業や職場があり、職場によっては暴力や差別的な扱いが横行している場合もあります。
非人道的な環境に耐えかねた労働者は、転職の自由がないため、職場を出て逃げるしか選択肢がありません。
結果、不法就労を行ったり、逃亡のため犯罪を犯したりするケースがあります。
雇用主として知っておきたい外国人労働者による犯罪が起きる背景
外国人労働者が犯罪を犯してしまう背景には、外国人が安心して適切な環境で業務に就けていないことが挙げられます。
外国人労働者の雇用を検討している企業や職場には、信頼できないルートや業者は決して利用しない姿勢が必要です。
悪質な仲介業者や職場により搾取されている外国人労働者がいる
外国人労働者のなかには、悪質な仲介業者により仲介料や賃金が搾取されている人がいます。
悪質な業者は、過剰な手数料や不当な契約条件を提示し、労働者から高額な金銭を要求します。技能実習生の場合、渡航費や手数料を前借りさせ、大きな借金を負わせるのです。
本国の家族への仕送りや借金返済のため、逃げ場がない状況で働かざるを得ない従業員が後を絶ちません。
外国人労働者を雇用して安心して働いてもらうには、適切な手続きが必要です。外国人の入社手続きについて、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてお読みください。
悪質な労働環境で働かされている外国人労働者がいる
外国人労働者のなかには、悪質な労働環境での労働を強いられている人もおり、環境に耐えられず脱走し、犯罪を犯さざるを得ないケースがあります。
違法な長時間労働や低賃金を定め、労働基準法が無視されるケースが起きています。さらに、雇用契約書が存在しない、または約束通りの賃金が支払われないこともあるのです。
不当な扱いを受けた場合、多くの外国人労働者は、言語の壁や文化の違いから自分の権利を主張しにくく、精神的な圧力に悩まされるケースがほとんどです。
過酷な労働条件から逃れるために、不法行為に手を染めてしまうこともあるでしょう。
外国人労働者を雇用する際の注意点
外国人労働者も、日本人の従業員と同等の人権や労働における権利が認められています。
外国人労働者が保有している在留資格によっては就けない業務があるため、制限はあるものの、すべての従業員が安心して働ける環境づくりが大切です。
外国人労働者を雇用する際の注意点について解説します。
同一賃金同一労働が適用される
外国人労働者に対しても、同一賃金同一労働の原則が適用されます。
同一賃金同一労働とは、正規雇用や非正規雇用にかかわらず、同じ業務を行う労働者には同一の賃金を支払うことが求められる制度です。
したがって、外国人労働者が日本人と同様の業務を行う場合、業務内容や賃金において差別的な扱いをしている場合、不当とみなされる場合があります。
企業や職場には、賃金の透明性を高め、同一労働に対して公平な賃金を保障する姿勢が求められます。
最低賃金が適用される
日本では都道府県ごとに最低賃金が定められており、すべての労働者に対して最低賃金以上の給与を支払うことが義務付けられています。
外国人労働者も例外ではなく、労働契約において最低賃金を下回る給与で働かせることは違法です。
企業がルールを守らなかった場合、罰則を受ける可能性があり、さらに労働者の不満や離職を招く原因にもなります。したがって、企業は事前に事業所所在地の最低賃金を確認し、適切な賃金設定が必要です。
任せる業務の目的・内容・賃金を明確にする
外国人労働者を雇用する際は、任せる業務の目的や内容、賃金について明確に説明することが重要です。
具体性がない場合、求められる結果がわからずトラブルの原因になる場合があります。また外国人労働者は保有している在留資格により、就ける業務が異なります。そのため、業務内容が明確でない場合、対象の業務に就けない可能性がある点に注意が必要です。
労働契約書には、業務内容や賃金を詳細に記載することで、後々の誤解やトラブル防止に役立ちます。
在留資格を確認する
外国人労働者を雇用する際は、必ず労働者が持っている在留資格を確認しましょう。
在留資格には、労働可能な業務が限られている場合もあるため、適切な資格を持っていない場合、違法就労とみなされることがあります。
企業は雇用前に在留カードを確認し、就労が許可されている業務かどうかを見極めます。確認を怠ると、企業自身が法的な問題に直面する可能性があるため注意が必要です。
外国人を雇用する際の手順や採用方法について、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてお読みください。
外国人労働者による犯罪を防ぐには?
外国人労働者が犯罪を犯す理由や背景には、違法な業者や職場の存在も挙げられます。
そのため、外国人労働者の犯罪を防ぐには、企業や職場の取り組みや周囲からの理解が重要です。
文化や考え方の違いにおいて相互理解を深める
外国人労働者に安心して働いてもらうことで、犯罪の防止につながります。
まず外国人労働者との相互理解が不可欠で、文化や価値観の違いを理解し受け入れることが必要です。
日本の職場環境には、日本人特有のコミュニケーションスタイルや労働倫理がありますが、外国人労働者も同様に、各国の文化的背景を持っています。文化の違いを踏まえて企業が教育プログラムや研修を実施し、外国人労働者が日本の習慣やマナーを学ぶ機会を提供する必要があるでしょう。
また日本人従業員も、異文化理解を深めるための研修を受けることで、外国人労働者とコミュニケーションが取りやすくなります。
具体的に、外国人労働者と協力して業務を進めるためには、どのような異文化理解が必要なのでしょうか?以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてお読みください。
信頼できる仲介業者から人材を紹介してもらう
外国人労働者を雇用する際は、信頼できる仲介業者を通じて人材を紹介してもらいましょう。
外国人労働者の仲介業者は、外国人労働者の適性を評価し、企業のニーズに合った人材を紹介するサービスを提供しています。
しかし、すべての仲介業者が正規の手続きを行っているわけではなく、なかには不適切な業者も存在します。信頼できる業者を選ぶには、国からの認定を受けた業者や、評判および実績を確認し、過去の顧客の声をもとに判断しましょう。
また仲介業者と外国人労働者同士の契約内容を明確にし、外国人労働者が就労可能な条件や権利についても明確にしておきます。
外国人労働者の増加=治安の悪化は必ずしも当てはまるわけではない
日本での外国人労働者による犯罪は、平成17年をピークに年々減少傾向にあります。そのため、外国人労働者の増加と治安の悪化は、必ずしも結び付くわけではありません。
外国人労働者を雇用する際は、言語や文化の違いにおける相互理解や教育が不可欠です。
外国人労働者に安心して働いてもらえる職場の環境づくりと、信頼できる人材紹介サービスの利用を心がけましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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