- 更新日 : 2025年11月25日
法人登記しないとどうなる?過料や解散リスクまで徹底解説
法人登記を怠ると、会社としての活動が制限されるだけでなく、代表者個人に100万円以下の過料が科される可能性があります。そのため、登記懈怠は信用の失墜に加え、最終登記から12年経過した株式会社では「みなし解散」の告知対象となり得ます。
日々の業務に追われ、設立後の登記や役員の変更登記を後回しにしがちでも、そのリスクは決して小さくありません。
この記事では、法人登記の重要性から、登記をしない場合に生じる具体的な不利益、過料の相場、そして登記期限までをわかりやすく解説します。
目次
法人登記はなぜ重要なのか?
法人登記とは、会社の基本的な情報を法務局の登記簿に記録し、社会に公示するための手続きです。この手続きによってはじめて、会社は法律上の「法人」として認められ、権利義務の主体となります。また、登記簿は誰でも閲覧できるため、取引先や金融機関に対して会社の実在性や信用を示す基盤にもなります。
法人登記の法的根拠と目的
法人登記は、会社法という法律で定められた義務です。登記の主な目的は、商号(会社名)、本店所在地、事業目的、役員構成、資本金の額といった会社の重要事項を誰でも確認できるようにし、取引の安全性を確保することにあります。登記情報が公開されているからこそ、取引先や金融機関は安心してその会社と契約を結ぶことができるのです。
会社設立登記と変更登記が必要なケース
法人登記には、主に以下の種類があります。
- 設立登記:会社を新たに設立する際に行う、最初の登記です。
- 変更登記:設立後に登記事項に変更があった場合に行う登記です。
- 役員変更登記:役員の就任、退任、重任、氏名や住所の変更など。
- 本店移転登記:会社の本店所在地を移転した場合。
- 商号変更登記:会社名を変更した場合。
- 目的変更登記:事業内容を変更した場合。
- 増資・減資の登記:資本金の額を変更した場合。
これらの変更があったにもかかわらず、所定の期間内に登記を行わないことを「登記懈怠(とうきけたい)」と呼び、過料などさまざまなペナルティの対象となります。
法人登記をしないとどうなる?
法人登記をしない、あるいは変更登記を怠ると、金銭的な罰則から会社の存続に関わる事態まで、複数の深刻な不利益が生じます。
100万円以下の過料(かりょう)が科される可能性
正当な理由なく登記を怠った場合、会社の代表者個人に対して、裁判所から100万円以下の過料が科されることがあります(会社法第976条)。過料は行政罰であり、刑事罰のような前科はつきませんが、会社の代表者として法律上の義務を果たしていないことへの制裁です。金額は、登記を怠った期間の長さや事情などをふまえて裁判所が個別に判断します。
参照: 会社法 第九百七十六条 過料に処すべき行為|e-Gov法令検索
社会的信用の低下や取引上の不利益が生じる
登記は「会社の顔」ともいえる公的な証明です。登記情報が最新でない、あるいは登記そのものが存在しない会社は、取引先から不信感を持たれる要因となります。特に、契約や融資の場面では「履歴事項全部証明書(登記簿謄本)」の提出を求められるのが一般的です。これが用意できない、あるいは内容が古いままであれば、取引を断られたり、審査が不利に働いたりすることもあります。
法人口座の開設や融資が受けられない
金融機関は、法人口座の開設や融資の審査において、履歴事項全部証明書で会社の存在や基本情報を必ず確認します。設立登記が完了していなければ、法人口座を開設できず、事業用の資金管理が困難になります。また、変更登記を怠って情報が最新でない場合も、審査が不利に働くことがあります。結果として、融資が受けられず、事業拡大の機会を逃すことにつながるおそれがあります。
「みなし解散」で会社が消滅する恐れ
株式会社の場合、最後の登記から12年間、役員変更などの登記が一切行われていないと「休眠会社」として扱われます。法務局から通知を受けても応答しない場合、職権で「みなし解散」の登記がされ、会社は解散したものとみなされます。
一度解散登記がされると、会社を継続させるためには株主総会の特別決議など複雑な手続きが必要となり、期限内に対応できなければ会社が消滅してしまうおそれがあります。
法人登記はいつまでに行う必要がある?
法人登記の申請には、会社法で定められた明確な期限があります。会社設立時だけでなく、役員の変更や本店の移転といった登記事項に変更が生じた場合も、その事由が発生してから原則2週間以内に申請しなければなりません。この期限を過ぎると「登記懈怠」の状態になります。
会社設立登記の期限は「2週間以内」
会社設立の登記は、会社が成立した日から2週間以内に申請しなければならないと定められています。会社成立の日とは、定款の認証や資本金の払い込みなど必要な手続きが完了し、設立が確定した日を指します。ただし、実務上は会社設立日(登記申請日)を特定の日付に設定することが多いため、司法書士など専門家と相談のうえでスケジュールを組むのが一般的です。
役員変更など変更登記の期限も「2週間以内」
役員の交代や本店の移転など、登記事項に変更が生じた場合も同様に、変更が生じた日から2週間以内に登記申請を行う義務があります(会社法第915条)。特に、役員には任期があり、同じ人が再任(重任)する場合でも登記が必要なため、失念しないよう注意が必要です。
| 登記の種類 | 期限の起算日 | 申請期限 |
|---|---|---|
| 設立登記 | 会社が成立した日 | 2週間以内 |
| 役員変更登記 | 役員の就任・退任・重任日 | 2週間以内 |
| 本店移転登記 | 実際に本店を移転した日 | 2週間以内 |
期限を過ぎた場合(登記懈怠)の対処法
もし登記期限を過ぎてしまったことに気づいたら、一日でも早く登記申請を行いましょう。登記懈怠の状態が長く続くほど、裁判所から科される過料の金額が大きくなる可能性があります。
手続きがわからない場合は、速やかに司法書士など専門家へ相談することをおすすめします。
登記を怠った場合の過料はいくらくらい?
登記懈怠のペナルティとして、最も気になるのが過料の金額ではないでしょうか。ここでは、過料の相場や手続きについて解説します。
過料の金額は裁判所が決定する
過料の金額は会社法で「100万円以下」と定められています(会社法第976条)。ただし、一律で決まっているわけではありません。登記懈怠の期間、会社の規模、過去の懈怠歴などを総合的に考慮して、管轄の地方裁判所が最終的な金額を決定します。
過料の相場と実際に科された事例
インターネット上の情報や専門家の見解を総合すると、数万円から10万円程度が科されるケースが多いようです。これはあくまで目安であり、懈怠の期間が5年、10年と長期間に及ぶと、30万円以上の高額な過料が科された事例も報告されています。
過料の通知と支払い手続きの流れ
登記懈怠の状態で登記申請を行うと、その事実が法務局から管轄の地方裁判所に通知されます。その後、裁判所から会社の代表者個人の住所宛てに「過料決定」の通知書が送付されるのが一般的な流れです。通知書には金額と納付期限が記載されており、それに従って検察庁を通じて指定金融機関に納付することになります。
「会社は作ったけど…」法人登記手続き放置の危険性
「仲間と事業を始めるために会社設立の話は進めたが、登記手続きは後回しになっている」というケースは、実は非常に危険な状態です。
法人番号が発行されず税務申告ができない
法人登記が完了すると、国税庁から13桁の法人番号が指定されます。この法人番号がなければ、法人税の申告や社会保険の手続きなど、会社として必要な公的手続きを進めることができません。結果として、税務上のペナルティや社会保険への未加入といった問題に発展する可能性があります。
参照: 法人番号とは|国税庁
許認可の申請が通らない
建設業や飲食業、古物商など、事業によっては行政からの「許認可」が必要です。許認可の申請には、履歴事項全部証明書の提出が必須です。登記をしていなければ、この証明書を取得できないため、事業を開始するために必要な許認可を得ることができず、事業計画そのものが頓挫してしまいます。
個人事業主のままとなり法人のメリットを享受できない
登記が完了するまで、法律上は「法人」として認められません。そのため、事業活動で得た利益や負債は、すべて代表者個人のものとして扱われます。節税効果や社会的信用といった法人化のメリットを享受できないばかりか、事業上のトラブルが発生した場合に個人資産で責任を負う「無限責任」の状態が続くことになり、リスク管理の観点からも望ましくありません。
法人登記に関するよくある質問(FAQ)
法人登記に関してよく寄せられる質問にお答えします。
Q1. 個人事業主には法人登記は必要ですか?
個人事業主の場合、法人登記は不要です。 法人登記は、株式会社や合同会社といった「法人」を設立する場合に必要な手続きです。個人事業主は、税務署へ「開業届」を提出することで事業を開始できます。
Q2. 支店の登記をしない場合も罰則はありますか?
支店を設置した場合も、会社法で定められた期限内に登記を行う義務があります。本店所在地を管轄する法務局では2週間以内に、支店所在地を管轄する法務局では3週間以内に登記を申請しなければなりません。これを怠ると、本店登記の懈怠と同様に過料の対象となる可能性があります。
Q3. 登記懈怠は誰かに通報されることがあるのでしょうか?
登記懈怠は、登記申請が行われた際に法務局が把握し、その事実を裁判所に通知するのが一般的です。第三者が直接「通報」する制度はありませんが、取引先や金融機関などが登記事項証明書を確認した際に懈怠の事実が発覚し、信用問題に発展するケースは十分に考えられます。
法人登記を怠るリスクを理解し、適切な手続きを
法人登記をしない、または変更登記を怠ることは、100万円以下の過料という直接的な罰則だけでなく、社会的信用の失墜、事業活動の制限、そして最悪の場合は「みなし解散」という形で会社そのものを失うリスクを伴います。
会社法で定められた登記義務は、安全で円滑な経済活動の基盤を支える重要なルールです。会社の設立時はもちろん、役員交代や本店移転など登記事項に変更があった際には、必ず期限内に手続きを行いましょう。
もし手続きに不安があれば、速やかに司法書士などの専門家へ相談することをおすすめします。常に登記を正しい状態に保つことが、会社を守り、成長させるための第一歩となるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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