- 作成日 : 2023年8月4日
労務提供とは?労働者と交わす契約の種類や労務の内容、労働契約違反について解説
従業員を雇うことで、会社は賃金を支払う代わりに、事業のために必要な業務を従業員に行ってもらうことができます。雇われている会社のために従業員が働くことを「労務提供」といいます。当記事では労務提供について詳しく解説します。
目次
労務提供とは?
「労務提供」とは、雇われている会社のために従業員が働くことをいいます。
「労務」は、使用される文脈により2つの意味に分かれます。1つは「労働に付随して生じる労使関係管理などの業務」です。労務管理などと表現されることもあり、バックオフィスの部分を指しています。
一方、「賃金を得ることを目的とし、労働契約(雇用契約)に従い労働者が提供する労働そのもの」を指して労務と呼ぶこともあります。「労務提供」と表現する場合は、この後者の意味で「労務」が用いられています。
「労務提供」の定義
「労務提供」は、法令上定義された用語ではありません。一般的には、労働契約に基づいて労働者(従業員)が使用者(会社)のために働くことを意味します。
従業員による労務提供の内容や条件は、個々の労働契約で定められる場合と、就業規則など全労働者に適用される社内規程で定められる場合があります。
労働契約における労務提供の位置付け
労務の提供について定める労働契約は、一方的に労働者に対して負担を課すわけではありません。会社側も労働者に対して賃金を支払う義務を負います。
したがって、使用者(会社)-労働者間の労働契約において、労務提供は労働者による義務の履行と位置付けられます。労働者は賃金を受け取ることの見返りとして、使用者のために労務を提供します。
ただし、労働者に対しては労務の提供義務が課されるのみならず、通常は「業務命令遵守」や「職務専念」「職場環境維持」「競業避止」「秘密保持」などの義務も課されます。たとえば、勤務時間中は与えられた職務に専念すること、職場での規律や秩序維持に努めること、営業秘密を漏らさないことなどが必要です。これらの服務規律は、就業規則などで定められます。
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労務提供に関連する契約の種類
労務提供が問題になるのは「労働契約」ですが、「会社のために作業をする」という点では、「請負契約」や「委任契約」も労働契約と共通しています。
- 労働契約
- 請負契約
- 委任契約
それぞれどのような契約なのか、簡単に紹介していきます。
労働契約
労働契約は会社が従業員を雇うときに交わす契約で、民法では次のように規定が置かれています。
(雇用)
第六百二十三条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
労働契約を交わした労働者は、会社の指揮命令に従って労働します。後述する請負契約や委任契約とは、指揮命令関係がある点が異なっています。単独で、独立して判断をするのではなく、会社の支配下で労務を提供します。
また、労働契約は継続的な契約であることも特徴の1つです。期間の定めのある契約・期間の定めのない契約に分けられますが、1つの仕事を依頼するために交わすというより、今後継続的に仕事をして欲しいという場合に労働契約を締結します。
請負契約
請負契約は社外の者に仕事を依頼したいときに交わす契約で、民法では次のように規定が置かれています。
(請負)
第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
労働契約は「使用者」「労働者」と呼ばれていましたが、請負契約の当事者は「注文者」と「請負人」と呼ばれます。仕事の発注をするのが注文者、発注された仕事を請け負うのが請負人です。
請負契約では、請負人が仕事を完成し、注文者がそれに対して報酬を支払います。請負人が注文者のために作業をする点では、労働契約における労働者と使用者の関係に似ていますが、作業の方法が異なります。請負契約に基づく場合、請負人は注文者の指揮命令に服しません。契約で定められた仕事を完成するまでの過程における作業の進め方や時間配分などは、請負人に裁量があります。
労働契約と請負契約を区別するには、指揮命令関係の有無について実態を判断する必要があります。契約書の表題に「請負契約」とあっても、実質的に指揮命令関係があるのなら労働契約に該当し、労働基準法などの労働法令が適用されます。
委任契約
委任契約も請負契約と同じく、社外の者に仕事を依頼したいときに交わす契約で、民法では次のように規定が置かれています。
(委任)
第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
請負契約と異なるのは、「仕事を完成すること」を約するのではなく、「法律行為をすること」の約束を交わしている点にあります。法律行為を委託する側を「委任者」、法律行為をする側を「受任者」と呼びます。相手方の指揮命令に服さない点では労働契約と異なり、請負契約とは共通しています。委任契約の受任者も請負契約の請負人同様、独立して事務の処理を行います。
一方、労働契約と請負契約のいずれとも異なるのが「原則として無報酬である」という点です。契約時に報酬の定めを置かない場合は、委任者は報酬を支払う必要がありません。ただし実務上は、委任契約において報酬が定められるケースが大半です。
「委任契約」という表題で契約書を作成しても、実質的な指揮命令関係が認められるならば、労働基準法などの労働法令が適用されます。なお、委託の対象が法律行為ではない事務の場合は「準委任契約」となり、委任に関する民法の規定が準用されます(民法第656条)。
労働契約で定められる労務提供
労働契約で定められる労務提供の内容は、強硬法規(公序良俗など)に反する場合を除き、当事者間で自由に定めることができます。労働者は、労働契約の定めに従って労務を提供しないといけません。
労働契約に関しては下記記事も参照ください。
ただし、労働契約で労働条件が詳細に定められることは少なく、就業規則で詳細に定められるケースが多いです。就業規則で定められる労働条件は①合理的あること、②就業規則を労働者に周知していることが欠かせません。また、雇い入れ後に就業規則を改定する場合、改定後の規定を適用するためには一定の条件を満たす必要があります(労働契約法第9条、第10条)。
労働契約に違反するとどうなる?
労働者には使用者である会社側の指示に従い労務提供をしないといけないところ、労務の提供がない場合は、会社が解雇やその他ペナルティを検討することになるでしょう。遅刻や欠勤も労働契約違反にあたります。
ただし「解雇権濫用法理」というものがあり、労働契約や就業規則で定めた懲戒事由や解雇理由に該当するからといって簡単に解雇ができるわけではありません。客観的に見ても解雇が合理的かつ相当といえるだけの理由が必要です。
会社も労働契約の当事者ですので、労働者が労務の提供を適切に行うことと同じように、会社も労働契約から生じる義務を果たさなければなりません。契約に沿って報酬の支払いを行うことはもちろん、労働基準法などの法令に準拠することも必要です。
会社側が労働契約違反をした場合、労働者は会社に対して損害賠償を請求できます。また、会社が労働基準法違反を犯した場合には、労働基準監督署による行政指導などを受ける場合があります。
労務提供の意味を理解して労働契約を交わそう
労働者に何を求めるのか、どのように労務を提供して欲しいのか、労働契約や就業規則を使って定めましょう。ただし労働基準法等に反する方法で労務提供を求めることはできませんし、事業内容に合わせて労働条件の詳細を検討することが大事です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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