- 更新日 : 2024年8月29日
吸収分割契約書とは?雛形を基に記載事項など解説
M&A(Mergers and Acquisitions=合併・買収)は、事業の拡大や新規事業への参入などを目的に行われますが、その方法は合併や買収だけではありません。会社分割という方法もあり、その一つに吸収分割があります。
今回は、その際に締結される吸収分割契約書の雛形とともに、記載事項や承継する権利義務を示す承継権利義務明細表など、基本的な事項について解説します。吸収分割においては株式会社か持分会社かで手続きが異なりますが、この記事では株式会社を前提に解説していきます。
目次
吸収分割契約書とは?
M&Aを資本提携と捉えると、合併や買収の他に、株式の持ち合いや合弁会社の設立、会社分割といった方法があります。
このうち会社分割は、その会社が事業に関して有する権利義務の全部または一部を、他の会社に包括的に承継させる方法です。
ちなみに会社分割の1つである吸収分割について、会社法では、以下のように定義されています。
「株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させることをいう。」(会社法第2条29号)
会社分割のうち、事業を承継させる会社がすでにある場合には、吸収分割となります。会社分割には新設分割という方法もありますが、両者の違いについては後述します。
株式会社が吸収分割を行う場合、分割によって事業を切り出す会社(分割会社)が事業に関して有する権利義務の全部または一部について、事業を承継する会社(承継会社)との間で契約を締結しなければなりません(会社法757条)。これが吸収分割契約書です。
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吸収分割契約書の雛形
吸収分割契約書のテンプレートを紹介します。記載内容はあくまで例なので、利用する場合は事案によって編集してください。
吸収分割契約書に記載する事項
前項で吸収分割契約書のテンプレートを紹介しましたが、必ず記載しなければならない事項が法定記載事項として規定されています(会社法758条1項)。
法定記載事項
法定記載事項は、以下の8つです。
- 分割会社、承継会社の商号と住所
※テンプレートでは、3条に記載されています。 - 承継会社が分割会社から承継する資産や債務、雇用契約などの権利義務
※テンプレートでは、2条に記載されています。吸収分割契約で定められた権利義務が承継会社に一般承継されますが、別紙で具体的な内容を表記してもかまいません。 - 吸収分割により分割会社の株式または承継会社の株式(自己株式)を承継させる場合には、その株式に関する事項
※テンプレートでは、7条に記載されています。 - 承継会社が分割会社に対して事業に関する権利義務の全部または一部に代わる金銭等を交付するときは、次に掲げる事項
イ 承継会社の株式であるときは株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)またはその数の算定方法並びに承継会社の資本金及び準備金の額に関する事項
ロ 承継会社の社債であるときは、社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法
ハ 承継会社の新株予約権であるときは、新株予約権の内容及び数またはその算定方法ニ 承継会社の新株予約権付社債であるときは、新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項
ホ 承継会社の株式等以外の財産であるときは、財産の内容及び数若しくは額またはこれらの算定方法
※テンプレートでは、5条に記載されています。承継会社から分割会社に対して支払われる対価です。この事例では、株式等以外の財産である金銭が対価となっています。 - 承継会社が吸収分割に際して、分割会社の新株予約権の新株予約権者に対して新株予約権に代わる承継会社の新株予約権を交付するときは、次に掲げる事項
イ 承継会社の新株予約権の交付を受ける分割会社の新株予約権の新株予約権者の有する新株予約権の内容
ロ 分割会社の新株予約権者に対して交付する承継会社の新株予約権の内容及び数またはその算定方法
ハ 分割会社の新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権であるときは、承継会社がその社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法※テンプレートは新株予約権や社債を交付する契約内容ではないため、記載はありません。 - (5)のハの場合における分割会社の新株予約権者に対する承継会社の新株予約権の割当に関する事項
※(5)と同様にテンプレートには記載されていません。 - 吸収分割の効力発生日
※テンプレートでは、6条に記載されています。効力発生日に承継会社は分割会社の権利義務を承継し、分割会社は対価を取得することになります。 - 分割会社が効力発生日に次に掲げる行為をするときはその旨
イ 全部取得条項付種類株式の取得
ロ 剰余金の配当
※テンプレートはそのような契約内容になっていないため、記載はありません。
任意的記載事項
法的には義務づけられていないものの、上記の絶対的記載事項以外で吸収分割契約書に記載したほうがよい事項もあります。これを任意的記載事項といい、会社分割の本質など、公の秩序に違反しなければ契約内容に盛り込むことができます。例えば、以下のような事項が挙げられます。
- 会社分割契約締結後の財産管理についての善管注意義務
※テンプレートでは、9条に記載されています。 - 従業員の承継や役員の待遇
※テンプレートでは、2条の「権利義務の承継」において別紙での記載となっています。 - 競業避止義務
※テンプレートでは、10条に記載されています。 - 契約の解除や変更
※テンプレートでは、11条に記載されています。 - 秘密保持
※テンプレートでは、12条に記載されています。
承継権利義務明細表
吸収分割契約書のテンプレートの例のように、「承継会社が分割会社から承継する資産や債務、雇用契約などの権利義務」については、必ずしも契約書本体に記載する必要はなく、契約書の別紙として添付することができます。
これが「承継権利義務明細表」です。具体的に特定できる権利義務について、主要なものの内訳が記載されることになります。
項目としては、承継する資産・負債や知的財産権、契約、雇用契約、許認可・承認・登録・届出などが挙げられます。
吸収分割と新設分割の違い
前述のとおり、会社分割には新設分割という方法もあります。新設分割とは、1社または2社以上の株式会社または合同会社が、その事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割によって新設する会社に承継させることをいいます(会社法2条30号)。
新設分割は吸収分割と異なり、新しく会社を設立することになります。契約当事者が存在しないため、分割会社が新設分割計画を作成し、原則として株主総会で計画の承認を受けて分割するという手続を行います。
この新設分割計画(会社法762条)を証する文書が、新設分割計画書です。
吸収分割ではテンプレートの例のように対価として金銭も認められていますが、新設分割では原則として株式になります。これも吸収分割と異なる点です。
資本関係のない企業間では対価に金銭を用いる吸収分割が活用され、新設分割は資本関係がある企業グループにおいて活用されることが多いです。
会社分割では取引先との契約の再締結は不要
会社分割では、取引先との契約関係は承継会社が包括的に承継することになります。したがって新たに契約書を作成し、再契約を締結する必要はありません。雇用関係においては、従業員の理解が必要です。
ただし、資本拘束条項が契約書に付されている場合は、契約当事者のどちらか一方に経営権の変更が生じたときには、もう一方の当事者はそれを契約解除事由とすることができます。
いわゆる「チェンジオブコントロール条項(Change of Control)」(COC条項)と呼ばれるものです。
M&Aも経営権の変更に該当します。取引先がこれを理由に取引を解除した場合は本来包括承継できる取引ができなくなるため、M&Aの魅力が低下することになります。
M&Aが白紙になる可能性もあり、取引先企業の契約にCOC条項がないかを確認しておくことが大切です。
吸収分割契約書の基本を知っておこう!
M&Aの形態である吸収分割を行う際に不可欠な吸収分割契約書についてテンプレートを提示し、記載事項といった基本的な事項を中心に解説しました。
実際には事案によって記載事項が変わるので、専門家のアドバイスを受けながらM&Aを成功させましょう。
よくある質問
吸収分割契約書とは何ですか?
株式会社または合同会社が吸収分割を行う際に不可欠な契約書です。詳しくはこちらをご覧ください。
吸収分割と新設分割の違いは何ですか?
吸収分割は契約によって成立しますが、新設分割は分割会社が新設分割計画を作成して新たな株式会社を設立することで成立します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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