- 更新日 : 2025年4月3日
捨印とは?押し方や印鑑の選び方、押さなくてもいいのかなどを解説
契約書に捨印を押すことで、契約内容を後から簡単に修正することができます。しかし捨印にはリスクもありますので、安易に利用すべきではありません。
ここで、捨印が求められるケースや利用のメリット・デメリット、さらに捨印を押すことによるリスクや注意点まで詳しく解説していきますので、「捨印は本当に必要?」「どんな時に押すもの?」など疑問をお持ちの方はぜひ参考にしてください。
目次
捨印とは
「捨印(すていん)」とは、契約書などの文書にあらかじめ押しておき、内容の修正に備えるためにする押印のことです。
この捨印を押しておくことで、文書作成後に誤字脱字などが発覚して修正が必要になった場合でも、相手方に再び押印をしてもらうことなく効率的に訂正を行うことができます。
捨印を押す意味
契約書の作成でも、記載に間違いがないか細心の注意を払って確認を行います。しかし、どうしても見落としが生じてしまうことはあります。また、契約を締結した後で一部の条項を修正する必要が生じるケースもあります。
このような場合に、逐一相手方に連絡を取り訂正箇所に押印をしてもらうとなれば、双方にとって手間が大きく、時間的な負担も大きくなってしまいます。このような問題を回避したい時に利用されるのです。
捨印と訂正印の違い
契約書の修正で使用されるものに「訂正印」もあります。こちらは捨印同様に文書の誤字脱字などを修正する時の押印を指していますので、用途は共通しています。ただし、修正や押印の仕方が異なっており、訂正印の場合は修正の必要性が生じた後に押されるものです。
捨印が必要とされる場面
ここでは、具体的にどのような場面で捨印を求められるのかを解説していきます。
銀行取引
銀行との取引では、融資の契約や新規口座開設など、さまざまな場面で文書のやり取りが発生します。これらの文書に捨印を求められるケースがあります。
例えば、新規で事業用の口座を開設する際、口座開設申込書に記入ミスがあったとします。担当者が不在ですぐに訂正印をもらえない場合でも、あらかじめ捨印が押してあれば、銀行側で訂正して手続きを進めることができるようになります。
また、融資の契約書を作成する際、金利や返済期間、担保物件など、複雑な条件を記載する必要があります。もし、これらの数値や条件に誤りがあった場合でも、捨印があれば迅速に訂正を行い、承認のプロセスをスムーズに進められるようになります。
役所など公的書類
助成金や補助金の申請、許認可の申請など、さまざまな場面で役所との文書のやり取りが発生します。この時の提出書類に捨印を求められることがあります。
裁判所での手続きで求められることもあります。例えば、債権差押命令の申し立てに関して説明したこちらのページでは、「申立書表紙には申立印及び捨印を,各目録の余白には捨印を押印してください。」とあります。
一方でこちらのように、「捨印は原則不要ですが、委任状の内容に誤りがあった場合、委任者の印鑑がなければ、訂正の上、再度、提出願う場合があります。」と任意での捨印を求めているケースもあります。
契約書の訂正
他社との取引においても、売買契約書や業務委託契約書など、さまざまな契約書を交わすことがあります。その文書の作成時に求められることも珍しくありません。
もし、納品日を誤って記載してしまった場合でも捨印があればその場ですぐに訂正をすることができますので、事業者双方の契約業務にかかる負担を軽くすることができます。
不動産取引
事務所や店舗などの不動産取引を行う際にも、捨印を求められることがあります。
例えば、賃貸借契約書において賃料の支払期日を誤って記載してしまった場合でも、捨印があれば不動産会社が訂正して契約手続きを進めることができます。
ただし、不動産取引は高額な取引となることも多いため、利用には慎重になるべきです。
捨印の法的効力
捨印は、単純なミスや簡易な訂正を行う際に手間が省略できるメリットがありますが、捨印の法的効力は限定的です。
捨印の法的効力について、最高裁の判決では、捨印を押しているからといってすべての条項を訂正することができるというわけではなく、重要な項目については法的効力が認められず、誤字脱字などの軽微な修正に限定して効力がある、との見解が示されています。
いわゆる捨印が押捺されていても,捨印がある限り債権者においていかなる条項をも記入できるというものではなく,その記入を債権者に委ねたような特段の事情のない限り,債権者がこれに加入の形式で補充したからといって当然にその補充にかかる条項について当事者間に合意が成立したとみることはできない
(最高裁昭和53年10月6日判決)
契約は当事者の合意によるものが原則です。合意内容の重要な部分である金額や納期、契約期間などの重要な部分の変更を行う場合には、捨印による訂正ではなく、当事者間で改めて交渉をし、契約書の内容を変更するか、契約を締結し直すなどの方法も検討する必要があるでしょう。
捨印の押し方
捨印を使って文書を訂正するときは、以下のポイントを押さえておくとよいです。
- 基本的に文書の上部の空欄に押す。
- 文書で使った印鑑と同じものを使う。
- 署名者が複数いる時は全員で押す。
捨印を押した後、訂正箇所が見つかった時は、誤りのある箇所に二重線を引いてその近くに正しい内容を書き込みましょう。そして、印影の近くに「○文字削除 ○文字追加」などと修正内容をわかりやすく記載します。
契約書が2枚以上の場合
契約書が2枚以上の場合は、それぞれのページに捨印を押す必要があります。
捨印はすべてのページで同じ位置に押します。訂正の必要が生じた場合には、訂正箇所と捨印が同一ページにあることが明確でなければなりません。また契約書の綴じ目に割印を押す場合は、割印の近くに捨印を押すのが一般的です。
捨印に使う印鑑の選び方
捨印として使う印鑑は、当該文書で使ってある印鑑と同じものを使用します。
そのため、契約書に代表者印を押している場合は、その代表者印を使います。文書で認印を使っているのなら、その認印を使います。
なお、捨印に使用する印鑑に決まったサイズや規格などはありません。一般的に使用されている印鑑で問題ありません。
捨印はシャチハタでもよい?
「シャチハタを捨印に使ってはいけない」などと公にルールが定められているわけではありません。そのためシャチハタを使った場合も有効です。
しかしながら、シャチハタは印影が変形しやすく、改ざんのリスクも高い印鑑です。そのため、そもそも契約書などの重要文書にシャチハタを使用すべきではありません。
捨印と実印は同じ?
「実印」は、市区町村で登録されている印鑑のことです。法人の場合は「会社実印」「法人実印」「代表者印」などと呼ばれることもあります。 特定の目的(修正)で使用される場合を指す捨印とは異なり、実印は印鑑そのものの種類を指していますので、区別の仕方が違います。
捨印のメリット
捨印を押すことで、次のメリットがあります。
- 迅速に修正ができる
文書に誤りがあった場合でも、迅速に修正することができ、取引が円滑になる。 - 手間やコストを削減できる
訂正のために再度書類を郵送したり、相手方に訪問したりする手間やコストを削減することができる。
捨印のデメリット
ただし、メリットだけではありません。デメリットも存在していますのでこちらにも目を通しておいてください。
- 悪用されるおそれがある
悪意のある相手方に、捨印を悪用して文章を改ざんされる危険性がある。 - トラブル発生時のリスクが大きい
契約上のトラブルが発生した時、捨印による修正が原因で不利な立場に立たされる可能性がある。
捨印を押すかどうかは、これらのメリットとデメリットを比較検討し、状況に応じて判断する必要があります。特に、高額な取引や重要な契約の場合はできるだけ利用しないようにしましょう。
捨印が押された書類の訂正方法
捨印が押された書類を訂正するには、以下の手順で行います。
- 訂正する箇所に二重線を引く
- 正しい内容を記載する
- 捨印の近くに削除・追加した文字数をそれぞれ記入する
例:◯文字削除、◯文字追加など
捨印は契約書の右上部に押すことが一般的です。右上の捨印の横に削除・追加した文字数を記入することで、訂正箇所と捨印との関係が明確になります。複数のページにわたる書類を訂正する場合は、訂正するページに押されている捨印を使用します。
いずれの場合もどの箇所を訂正したのか、追加した内容や文字数などが明確になるようにしておくことが重要です。
なお、内容を追加する場合は、二重線による訂正ではなく当該箇所に「V」を記し、その上に追加内容を記入することで、文字の挿入を示す方法もあります。この場合も捨印の近くに追加した文字数を記入する流れは同じです。
捨印を押さなくてもいい?
捨印を押す法的義務はありません。契約自体、当事者間の合意に基づいて成立するものですし、相手方が求めてきたとしても無理にこれに応じなくてかまいません。
ただし、相手方にも交渉に応じるかどうかを選ぶ権利がありますので、捨印を断ることで取引が思うように進まなくなる可能性はあります。この点も踏まえて丁寧な対応を心掛け、代替案を示すなどして交渉を進めていくことが大事です。
なお、近年ではビジネスシーンにおいて、紙を使わず電子文書を利用するケースも増えています。電子文書であれば捨印を押す必要もなく、修正作業も迅速かつ安全に行うことができます。そのため捨印の利用など契約業務に不安がある方こそ電子契約ができる環境を整えておくとよいでしょう。
捨印を押す際の注意点
捨印は文書の訂正をスムーズに行うための便利な手法ですが、相手方に訂正の権限を付与することを意味しますので、以下の点に注意してください。
信頼できる相手方との取引に限定する
相手方が信頼できるかどうかを慎重に見極めましょう。過去の取引実績や評判などを参考に、信頼できる相手方との取引に限定するのがおすすめです。
訂正内容を明確にする
どのような訂正を行う可能性があるのか、相手方と事前に確認し、合意しておくことも重要です。口頭だけでなく書面で残しておくとよいでしょう。
訂正箇所を限定する
捨印の有効範囲について、誤字脱字などの軽微な訂正に限定する旨を明記しておくとよいでしょう。
捨印以外の方法も視野に契約書を管理しましょう
ここで解説したように、捨印を使えば簡易に記載内容の修正を行うことができます。しかし白紙委任と同じでリスクも大きいため、できれば使用を避けたいところです。文書の修正方法はほかにもありますので、電子契約の導入などの方法も視野に入れて、安全に契約業務に対応できるよう備えましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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