• 更新日 : 2025年4月30日

民法とは?基本原則や改正内容などを簡単にわかりやすく解説

民法とは、個人や法人といった人間の行動に対して適用される法律です。民法により私人の権利が保護され、経済活動を円滑に進めることが可能となります。

本記事では、民法の基本的な事項を見ていきます。事業者が押さえておくべき民法の概要や、2020年に改正された内容、勉強方法についてわかりやすく解説します。

民法とは

民法とは、私人間の権利や義務に対して適用される、全5編で構成された法律です。私人の権利を保護するために存在します。

「私人」とは、国や地方公共団体、行政以外の個人や法人のことです。私人は公人の反対語になります。「公人」は、国や地方公共団体、行政のことです。

民法の規定があることで私人間の権利義務関係が明確になり、契約や経済活動を円滑に進められるようになります。

民法の目的

民法は、シンプルにいうと「人や企業のための法律」で、人や企業を守るために存在します。物品を売買したりお金の貸し借りをしたりする場合や、故意や過失により損害賠償を請求する場合など、一定のルールがないと円滑に取引が進みません。円滑な取引を進めるために、民法というルールが必要になるのです。

民法の効力が及ぶ範囲は、取引や経済関係だけではありません。夫婦や家族についてもルールが定められています。たとえば、民法では結婚するときの条件や遺産を分割する際の割合などが決められています。

これら民法の規定により、私たちの生活上のルールが成り立っているのです。

私法としての民法の役割

民法は、私法上の権利を定めています。私法とは、法人を含む市民の間の権利義務関係について定める法です。契約や不法行為など、市民間の取引が公平なものとなるようさまざまなルールを規定します。

具体的には、「法の下の平等」「私的財産権の絶対性」「契約自由の原則(私的自治)」「過失責任主義」の4つを原則とし、市民の取引における自由を保障し、公平に責任を負うことを定めているのです。

また、民法は、私法の「一般法」とも呼ばれます。一般法とは、幅広く一般的なルールをカバーする法です。民事に関する一般的なルールだけでなく、会社法、労働法、民事訴訟法、さらには行政分野に関する法や刑事法分野にまで及ぶ基礎的な法でもあります。

民法が適用される行為

民法は私人対私人の関係で想定される問題について、ルールを定めた法律となります。したがって、民法の適用対象は個人と企業にかかわる行為全般です。個人対個人、個人対企業、企業対企業のケースが該当します。

具体的には、物品の売買、金銭の貸し借りに関するトラブルといった財産関係の規定や、結婚や相続、遺言といった家族間の問題などが、民法の適用される行為となります。

民法の基本原則

民法は、下記の3原則に沿って構成されています。

民法の基本原則
  1. 権利能力平等の原則
  2. 私的自治の原則
  3. 所有権絶対の原則

1. 権利能力平等の原則

権利能力平等の原則とは、人は誰でも同じ権利能力をもつということです。民法ではこの原則により、性別や地位に関係なく平等に権利をもつことが規定されています。

2. 私的自治の原則

私的自治の原則とは、私人間の権利義務は、各人の自由意思にもとづいて決定できるということです。同時に、国が私人に対して、強制的に権利や義務を決めるべきではないことも表されています。

3. 所有権絶対の原則

所有権絶対の原則は、物の所有権を有している人が、自由に所有物を使用したり処分したりできることを意味します。公人が私人の所有物を勝手に所有、処分することは、民法上認められません。

民法の構成

民法は5編で構成されています。具体的な構成は、次のとおりです。

民法の構成
  • 第1編:総則
  • 第2編:物権
  • 第3編:債権
  • 第4編:親族
  • 第5編:相続

さらに、第1編~第3編は「財産法」、第4編~第5編は「家族法」と呼ばれています。

企業の取引においては財産法の知識が必須です。ここからは、事業者にとって必要な財産法の概要について解説します。

総則(第1編)

総則は、民法全体に共通するルールを規定した項目です。具体的には、以下の事項が規定されています。

総則(第1編)
  • 権利能力
  • 意思能力
  • 行為能力
  • 意思表示
  • 代理
  • 時効 など

私人対公人(国や地方公共団体)、あるいは公人同士のルールを定めた法律である「公法」に対して、私人間のルールを定めた法律は「私法」と呼ばれます。また、対象が特定されず、広く適用される一般的な法律は「一般法」と呼ばれています。

つまり民法は、私人間のルールを定めた「私法」の「一般法」です。したがって、民法の総則で定められた規定が、私法全体のベースとなります。

物権(第2編)

物権では、物に対する権利に関するルールが定められています。物権について規定されていることから「物権法」とも呼ばれています。

物権の代表格は、物を所有する権利である「所有権」や、物を事実上支配する権利である「占有権」です。つまり物権とは、自分の所有物を自由に使用できるだけでなく、自身の判断で収益を得るための利用や売却もできる権利になります。

この他、物の使用価値を支配する地上権や地役権、物の交換価値を支配する抵当権も、物権法の対象となります。

債権(第3編)

債権は、人に対して行為の実行を請求する権利=「債権」について規定された部分です。「債権法」とも呼ばれ、下記のような行為について規定しています。

債権(第3編)
  • 金銭の支払いを要求する
  • 契約に基づき行為の実行を請求する
  • 物品の引き渡しを請求する

「債権」という用語は金銭貸借の際によく使われますが、法律上はサービスや物品など金銭貸借以外の請求でも使用されます。

民法では、権利を請求する債権をもっている者を「債権者」、債権により定められた行為を実施する義務がある者を「債務者」と呼びます。

なお、契約により労働義務を要求できる権利を有している場合も「債権者」です。

民法の条文一覧

民法の条文は、以下のサイトで閲覧できます。
民法(e-Gov ポータル)

e-Govポータルの法令検索は、総務省行政管理局が提供する検索システムで、日本の憲法や法律などの法令を検索できます。法令の名前や法令用語、条文番号などから検索できるので、民法にどのような決まりがあるか調べたい時や、根拠となる条文を探したい時に便利なシステムです。

また民法の中でも、特に改正民法(後段で詳述)について知りたい場合は、法務省のサイトが参考になります。改正条文だけでなく、新旧対照条文、改正の概要などがまとまっているため、 改正によって何がどのように変わったのかを調べる時に便利です。

民法の改正については、以下のサイトが参考になります。

民法の一部を改正する法律(債権法改正)について
民法等の一部を改正する法律について
民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について

民法の一部を改正する法律

民法は長らく大きな改正がありませんでしたが、近年は社会の変化に対応するため大規模な改正が行われています。特に2020年の債権法改正と2023年の相続・不動産分野の改正は押さえておきたい重要ポイントです。

2020年の民法改正(債権法改正)

2020年4月1日、民法の債権分野(債権法)が大きく改正されました。債権法は、明治29年の制定から約120年間、実質的な見直しがなかった分野です。今回の改正は、現在の社会情勢への対応と、裁判や取引の実務で採用されているルールの明文化のために実施されました。

今回の改正では、まず契約時に定められる「約款」についての定義が追加されています。約款とは、あらかじめ定められた詳細な契約条項です。今回の改正では、この約款を「定型約款」とし、どのような場合に契約条項として認められるのかが規定されました。

部屋の賃貸借が終了した際に、通常の使用で生じた汚れや経年劣化について、借主は現状復帰不要であることも明文化されています。こちらは、民法の規定がないことからトラブルの原因となっていた部分です。

さらに、時効についても大きく見直されました。「時効」とは、契約の効力が有効な期間です。今回の改正では、職業別に定められていた時効が5年間に統一されました。そして、元々あった「権利を行使できるときから起算して10年で債権は消滅する」旨に加えて「権利が使える事実を知ったときから5年間で債権は消滅する」旨の規定が加えられました。こちらについては、下記記事でも紹介しています。

また、保証すべき上限額(極度額)の定めがない個人の根保証契約も、今回の改正により無効となったのです。根保証契約については、下記記事で詳しく解説しています。

2023年の民法改正(相続)

2023年4月施行の改正民法では、相続制度について改正されました。近年、土地を相続したにもかかわらず、長期間相続登記をせずに放っておくなどして、所有者が不明な土地が増えています。所有者がわからない土地を放置することで、土地の有効活用の機会が害され、近隣の土地にも悪影響が及ぶなど社会問題に発展しています。

こうした問題を受け、所有者不明の土地を適切かつ円滑に利用できるようにするために、民法の相続制度が改正されました。
例えば、相続開始から10年を経過した後に遺産分割をする場合、分割の基準は法定相続分または指定相続分とし、個別の事情(被相続人の介護など)を考慮した相続分の基準は適用しないこととしました。

また、相続した土地を放置したまま相続開始から10年経過し、通常の共有物と遺産共有物が併存した場合は、相続人から特に異議が出なければ、有物分割訴訟のみで分割できるようになりました。

このように、改正民法では、相続財産の分割が長期間なされないことにより生じるさまざまな混乱を防ぐため、相続開始から10年を目安として、遺産分割がスムーズに進められるルールを策定したのです。

他にも、相続財産の管理や精算に関する規定も見直され、長期間が過ぎた後でも相続人がスムーズに遺産を管理でき、土地などについても有効活用がしやすくなっています。

2023年の民法改正(不動産)

2023年4月施行の改正民法では、不動産に関する規定も大きく変わりました。相続の場合と同様、所有者不明土地の増加という社会問題から生じる弊害に対応するため、ルールの変更や新設が行われたのです。

まず、相隣関係(隣り合う土地の所有する者同士が、互いの土地を利用しやすいよう調整し合う関係)についてのルールが改正されました。たとえば、土地の位置関係や形状の都合で隣地に設備を置かなければ、電気・ガス・水道などのライフラインの供給を受けられない場合、継続的給付を受けるために必要な範囲内で、隣地に設備を設置したり、他人が所有する設備を使用したりできるというルールが新設されました。

また、不動産の共有制度についても見直しがされています。改正前は、ある共有者が他の共有者に対してどのような義務を負うのかについては、民法で規定がありませんでした。この点、改正では「別段の合意」がある場合を除いて、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負うことが定められました。同時に、共有物を使用する際は「善良な管理者の注意」をもって使用する義務も定められたのです。

他にも、所有者不明土地や建物の管理命令の制度が新設されました。これにより、長年所有者が不明な土地や建物であっても、適切な管理がされることが期待されています。

2025年以降に予定されている改正内容

2025年以降、民法が改正される予定は、4月の時点ではありません。しかし、政府や国会では、「選択的夫婦別姓」の規定を設けるべきかについての議論が長年にわたり交わされています。

選択的夫婦別姓の導入については、約30年前の1996年に法制審議会が民法の改正案を国に答申したことがありました。しかし、国会議員の間で反対意見が出たため、法案が国会に提出されることはありませんでした。

現在に至るまで、選択的夫婦別姓については導入の是非についてさまざまな議論がされています。女性の社会進出やジェンダー平等の考え方が広く受け入れられている今の社会では、選択的夫婦別姓制度により、両者が自由に姓を選択できるようにすべきだとの考え方が増えています。一方で、伝統的な家族観を重視すべきとし、反対する意見も根強くあります。

選択的夫婦別姓制度をはじめ、女性の社会進出やジェンダー平等について、すぐに民法改正に反映されるというわけではないものの、今後も注視すべき重要な議論といえるでしょう。

民法における契約の成立要件

契約の成立には、民法上「申込み」と「承諾」という2つの要件が必要です。まず、契約をしたいという意思(申込み)を一方が示し、それに対して相手方が同意する意思(承諾)を示すことで契約は成立します(民法522条)。たとえば、「この商品を1,000円で売ります」という申込みに対して「買います」と言えば契約が成立します。

重要なのは、当事者の間に「合意(合致した意思表示)」があることです。たとえ契約書などの書面がなくても、口頭のやりとりだけでも契約は成立するのが原則です。ただし、一部契約の種類によっては書面の作成が法律で義務付けられているものもあります(例:更新の無い定期建物賃貸借契約など)。

また、当事者に契約を結ぶだけの「意思能力」や「行為能力」が必要です。たとえば、未成年者が単独で契約する場合には、原則として親の同意がないと契約は無効になることもあります。

このように、契約はただの約束ではなく、法的な効果を生む重要な行為であるため、成立の要件を正しく理解することが大切です。

民法における契約の成立要件については、以下ページでも詳しく解説しているため、ご参考ください。

民法により契約が無効となる場合

民法では、一定の場合に契約が無効とされます。契約の無効とは、最初から契約が法的に成立していなかったものとみなされる状態です。
代表的な無効のケースは次のとおりです。

公序良俗に反する契約

公序良俗に反する契約は無効です。これは社会の倫理や道徳に反する内容の契約で、たとえば報酬を支払って暴力行為を依頼するような契約は、そもそも法律で認められていません(民法90条)。

錯誤による契約

「錯誤(さくご)」による契約も無効となることがあります。たとえば、買ったつもりの商品が全く別物であった場合、重要な部分に誤解があった時は、契約そのものが無効とされる可能性があります(民法95条)。

このように、形式上は契約があっても、民法に照らしてその内容や当事者の状態に問題があれば、契約は無効となり、法的な効力を持ちません。

民法を学ぶ上で役立つコンテンツ

民法についての書籍やコンテンツは、豊富にあります。だからこそ、どれを選ぶべきかわからない方も多いのではないでしょうか。

ここからは、民法を学ぶ上で役立つコンテンツとして、民法の入門書と民法の改正内容について理解を深めるコンテンツをそれぞれ紹介します。

民法の入門書

社会人で初めて民法を学ぶ方におすすめする書籍は、次の3冊です。

  • 伊藤真の民法入門 第7版 講義再現版(日本評論社)
  • リーガルベイシス民法入門(日本経済新聞出版社)
  • 民法(全)<第3版>(有斐閣)

いずれも、民法全体をわかりやすく解説した書籍です。大学の法学部で教科書としても使われているため、民法の基本を押さえるために適した書籍といえるでしょう。

民法の改正内容について理解を深めるコンテンツ

2020年の民法改正についてより理解を深めたいなら、次の書籍がおすすめです。

  • 改正相続税・贈与税ガイドブック(大蔵財務協会)
  • Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響(日本加除出版)

どちらもQ&A形式で改正のポイントについて紹介しています。「改正相続・贈与税ガイドブック」は、相続税に関する改正が実際の場面でどのように働くのかについて、80に及ぶ事例をQ&A形式で紹介しています。

「Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響」は、不動産に関する民法の改正点を、不動産登記法改正と絡めつつ、110もの質問に答える形で解説しています。

また、2020年の債権分野の改正については、以下の入門書がおすすめです。

  • 図解ポケット 最新民法がよくわかる本[2020年民法改正対応版](秀和システム)

改正の要点がわかりやすく解説されているので、全体像をつかみたい人におすすめです。コンパクトなポケットサイズなので、持ち運びしやすく、好きな時に改正民法について学べます。

漫画で解説されている書籍やサイトで学習してもいいでしょう。

「マンガでやさしくわかる試験に出る民法改正」は、今回の改正で押さえたいポイントや参考条例が掲載されています。「桃太郎と学ぶ民法(債権法)改正後のルール」は、桃太郎がさまざまな法律トラブルに巻き込まれる中で、改正民法のポイントやトラブルの解決方法を学んでいく、漫画形式のコンテンツです。

なお、当サイトでも民法改正で規定された「定型約款」「根保証契約」「時効」についての解説記事を用意しています。詳しく知りたい方は、あわせてお読みください。



民法は私たちの日常生活や経済活動に必要な法律

民法は、私たちの生活に必要なルールを定めた法律です。民法のおかげで、私たちの生活の秩序が保たれています。企業が経済活動をするにあたっては、全5編からなる民法のうち、前半の総則、物権、債権分野の学びが必要です。

民法は2020年に、現状に即した形に大改正されました。具体的には、定型約款規定、部屋の賃貸借契約における原状復帰範囲の明確化、時効期間の変更、極度額がない根保証の無効化などです。

経済活動においても、民法の存在は必須となります。本記事を参考にさまざまな書籍やサイトを使って、積極的に民法を学んでいきましょう。


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