• 更新日 : 2025年12月19日

扶養者とは誰のこと?税金と社会保険での違いや条件を解説

従業員の入社手続きや年末調整の際に、「扶養者」や「被扶養者」という言葉を聞いて迷うことはないでしょうか。「扶養者」とは、家族や親族を経済的に養っている人のことを指し、「被扶養者」とは扶養者から養われている人のことを指します。扶養者は被扶養者がいる場合に、税金(所得税や住民税)の控除や、社会保険(健康保険・年金)の面で手続きが必要になります。

なお「扶養」には税法上と社会保険上の2種類があり、それぞれ条件が異なるため、「配偶者はどちらに該当するのか」「子どもに収入がある場合はどう扱うのか」といった疑問に直面しがちです。

この記事では、「扶養者」と「被扶養者」の違いから、混同しやすい「税法上」と「社会保険上」の2つの制度における条件や対象範囲について、わかりやすく解説します。

扶養者と被扶養者の違いは?

扶養者とは「家族を経済的に養う人」、被扶養者とは「その扶養者に養われている人」を指します。

一般的に、世帯の中で主に収入を得て生計を支えている側(例:会社員の夫や妻)が扶養者となり、その収入によって生活している配偶者や子ども、親などが被扶養者(または扶養親族)となります。

年末調整や社会保険の手続きで「あなたは扶養者ですか?」「被扶養者はいますか?」と確認されるのは、この関係性にもとづいて、納める税額や社会保険料の計算が変わるためです。

扶養者(ふようしゃ)とは

扶養者とは、自らの収入で、配偶者、子ども、親、兄弟姉妹などの生活費を主に負担している人です。

たとえば、会社員のAさんが、パートタイムで働く配偶者Bさんと、学生の子どもCさんの生活費をAさんの給与で支えている場合、Aさんが「扶養者」となります。

被扶養者(ひふようしゃ)とは

被扶養者とは、扶養者によって経済的に養われている(扶養されている)家族や親族のことです。

上記の例でいえば、Aさんに養われている配偶者Bさんや子どもCさんが「被扶養者」に該当します。ただし、被扶養者として認められるには、収入や続柄などの一定の条件を満たす必要があります。

扶養には2種類ある!税金と社会保険の違い

扶養と一言でいっても、「税法(所得税・住民税)」と「社会保険(健康保険・年金)」の2つの制度で使われており、それぞれ目的、条件、対象者の呼び方が異なります。

この2つはまったく別の制度ですので、「税法上は扶養の対象だが、社会保険上は扶養の対象外」といったケースも発生します。人事労務担当者の方は、この違いを正確に理解し、従業員に適切に案内しましょう。

税法上の扶養とは?

税法上の扶養とは、所得税や住民税の計算に関わる制度です。税法上は扶養者に経済的に養われている親族のことを「扶養親族」と呼びます。

扶養者が、一定の条件を満たす扶養親族を養っている場合に、「扶養控除」や「配偶者控除」といった所得控除を受けられます。

この控除の目的は、扶養親族がいる人の税負担を軽くすることです。控除額が大きいほど、課税対象となる所得が減り、結果として納める税金が少なくなります。

この手続きは、主に年末調整の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」によって行われます。

参照: No.1180 扶養控除|国税庁

社会保険上の扶養(被扶養者)とは?

社会保険上の扶養とは、健康保険や年金(国民年金第3号被保険者)に関わる制度です。

扶養者(会社員や公務員など、健康保険や厚生年金の被保険者)が養っている家族が、一定の条件を満たす場合、その家族は「被扶養者」として認定されます。

被扶養者として認定されると、その家族は自身で健康保険料を納めることなく、扶養者と同じ健康保険に加入できます。また、配偶者の場合は「国民年金第3号被保険者」となり、国民年金保険料の負担もなくなります。

こちらの目的は、家族の医療保険や年金を保障することです。

参照: 被扶養者とは?|全国健康保険協会 協会けんぽ

税法上の扶養親族になれる条件は?

税法上の扶養親族として「扶養控除」の対象になるには、その年の12月31日時点で、以下のすべての条件を満たす必要があります。

税法上の扶養親族になる主な条件は、「配偶者以外の親族であること」「生計を一にしていること」「所得の要件」の3つです。

対象となる親族の範囲

扶養控除の対象となるのは、配偶者以外の親族で、以下のいずれかに該当する人です。

  • 6親等内の血族(例:子、孫、親、祖父母、兄弟姉妹、甥姪など)
  • 3親等内の姻族(例:配偶者の親、配偶者の祖父母、配偶者の兄弟姉妹など)

配偶者については、「扶養控除」ではなく、「配偶者控除」または「配偶者特別控除」という別の制度が適用されます。

参照:「親族」の範囲|厚生労働省

所得の要件

養われる側(扶養親族)の、その年の年間合計所得金額が58万円以下である必要があります。なお、後述の「特定親族」に該当する場合、この要件は「58万円超123万円以下」になります。

この所得58万円は給与収入の場合、年収123万円となります。これが、いわゆる「123万円の壁」です。

※対象者が公的年金受給者の場合は、65歳未満なら年金収入118万円以下、65歳以上なら年金収入168万円以下が目安です。
※あくまで「所得」で判定するため、個人事業主の場合は「売上」ではなく「売上から経費を引いた所得」で判断します。

「生計を一(せいけいをいつ)にする」とは?

「生計を一にする」とは、扶養者と扶養親族が同じ財布で生活している状態を指します。

必ずしも同居している必要はありません。たとえば、扶養者(親)が、一人暮らしをしている学生の子どもに毎月仕送りをしている場合や、別居している親に生活費を送金している場合も、「生計を一にしている」と認められます。

社会保険上の被扶養者になれる条件は?

社会保険の被扶養者として認定されるには、税法上の扶養とは異なる基準が設けられています。

社会保険上の被扶養者としての主な条件は、「被保険者との関係」「収入の要件」「生計維持関係」の3つです。

被扶養者の範囲

社会保険上の被扶養者は、被保険者との関係(続柄)に加え、同居しているか否かによって、対象範囲が変わります。

対象者範囲
同居・別居を問わず
認定可能な者
  • 配偶者(事実婚含む)
  • 子、孫、兄弟姉妹
  • 父母、祖父母などの直系尊属
同居していること
条件となる者
  • 上記以外の3親等内の親族

例:義父母、義兄弟姉妹、おじ・おば、甥・姪など

  • 事実婚関係の配偶者の父母、子 など

収入の要件(130万円の壁)

社会保険上の扶養では、収入要件を満たしているかどうかについて「過去の収入額」「現在の収入額」「将来の収入の見込み額」に基づく今後1年間の収入見込みで判断されます。なお、2026年4月以降、この判断基準は「労働契約等に定められた賃金から見込まれる年間収入額等」に変更されます。

  • 年間収入見込みが130万円未満であること
    19歳以上23歳未満(配偶者を除く)の場合は、150万円未満
    60歳以上、または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は、180万円未満
  • かつ、扶養者(被保険者)の年間収入の2分の1未満であること(原則)

これが「130万円の壁」と呼ばれるものです。この収入には、給与収入のほか、年金収入、失業給付、傷病手当金なども含まれるため注意が必要です。

「106万円の壁」とは?

130万円未満であっても、パート・アルバイト先で以下の条件を満たすと、勤務先の社会保険に加入することになり、扶養からは外れます。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
  2. 月額賃金が8.8万円(年収約106万円)以上
  3. 勤務期間が2ヶ月を超える見込み
  4. 学生ではない
  5. 従業員51人以上の企業に勤務

生計維持関係の基準

「扶養者(被保険者)によって、主に生計が立てられている」ことが必要です。

具体的には、収入要件(130万円未満など)を満たしたうえで、同居・別居の状況に応じて以下のような基準があります。

  • 同居の場合:
    被扶養者の収入が、扶養者の収入の2分の1未満であること(扶養者の収入を上回らない場合は、状況により認められることもあります)。
  • 別居の場合:
    被扶養者の収入が、扶養者からの仕送り額より少ないこと。

家族の扶養についてのよくある質問

ここでは、家族や親、子ども、妻(配偶者)など扶養についてのよくある質問について解説します。

妻(配偶者)は扶養に入れる?

配偶者(妻または夫)が扶養に入れるかどうかは、その配偶者の収入によって決まります。

  • 税法上の扶養(配偶者控除):
    配偶者の年収(給与収入のみの場合)が123万円以下の場合、「配偶者控除」が適用されます。また、同じく年収123万円を超えても201万円程度までは、「配偶者特別控除」が適用されます。なお、配偶者控除、配偶者特別控除のいずれも扶養者の合計所得が1,000万円以下でなければ受けることができません。
  • 社会保険上の扶養:
    配偶者の年間収入見込みが130万円未満(または106万円の壁に該当しない)場合、被扶養者になることができます。

夫婦とも共働きで収入がある場合の扶養者はどっち?

共働きで夫婦ともに収入がある場合、税法上は、夫婦それぞれが自分の控除を申告します。子どもの扶養控除については、原則としてどちらか収入の多い方の扶養親族とすることが一般的ですが、重複して控除を受けることはできません。

社会保険上も、子どもはどちらか一方(通常は収入の多い方)の被扶養者となります。

子どもは何歳まで扶養に入れる?

子どもを扶養に入れる場合、税法上と社会保険上で年齢の扱いが異なります。

  • 税法上の扶養:
    扶養控除の対象となるのは、その年の12月31日時点で16歳以上の子どもです。
    子どもがアルバイトをしている場合、年収123万円(19歳以上23歳未満の場合は188万円)を超えると扶養親族から外れます。
  • 2025年税制改正で創設された特定親族特別控除
    扶養親族のうち、19歳以上23歳未満の親族(配偶者除く)を「特定親族」と呼びます。2025年税制改正で創設された「特定親族特別控除」(所得控除の一つ)の対象になります。特定親族になるための所得要件は「58万円超から123万円以下(給与収入のみの場合は年収123万円超から188万円以下)」です。19歳以上23歳未満の親族はこれまでも税法上の扶養親族(特定扶養親族)でしたが、特定親族特別控除の創設で所得要件が緩和され、より多くの収入を得た場合であっても扶養者が所得控除を受けられるようになりました。
  • 社会保険上の扶養:
    年齢制限は原則ありません。子どもが19歳以上23歳未満の場合は年間収入150万円未満、それ以外の場合は年間収入130万円未満で、かつ扶養者の年間収入の2分の1未満(別居の場合は扶養者による仕送り額より少ない)であれば被扶養者として認定されます。ただし、子どもが就職して自分で会社の健康保険に加入した場合や、アルバイト収入が130万円以上(19歳以上23歳未満の場合は150万円以上)になった場合は、扶養から外れる手続きが必要です。

親を扶養に入れる場合

親(義父母も含む)を扶養に入れることも可能です。

  • 税法上の扶養:
    親の合計所得金額が58万円以下で、生計を一にしていれば扶養親族にできます。別居して仕送りをしている場合も対象です。親が公的年金受給者の場合、65歳未満なら年金収入118万円以下、65歳以上なら168万円以下が所得58万円の目安です。
    なお、その年の12月31日現在の年齢が70歳以上の場合は「老人扶養親族」に該当し、扶養控除の額がより多くなります。
  • 社会保険上の扶養:
    親の年間収入見込みが130万円未満(60歳以上なら180万円未満)で、扶養者によって生計が維持されている必要があります。

    • 同居の場合:親の収入が扶養者の収入の2分の1未満であること。
    • 別居の場合:親の収入が、扶養者からの仕送り額より少ないこと。

人事担当者が注意すべき扶養手続きのタイミング

従業員の扶養状況は、ライフイベントのたびに変更される可能性があり、人事担当者はそのタイミングを把握しておく必要があります。

扶養の変更手続きが遅れたり漏れたりすると、年末調整のやり直し(税金の追徴)が発生したり、社会保険の資格を遡って修正し、保険料の調整や、場合によっては医療費の返還が必要になったりするケースもあります。

入社時・採用時の確認

従業員が新しく入社した際は、必ず「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出させます。

同時に、社会保険の被扶養者がいるかどうかを確認し、「健康保険 被扶養者(異動)届」の提出を案内しましょう。この時、税法上と社会保険上の条件の違いを簡単に説明できると親切です。

年末調整での確認

年末調整は、従業員の扶養に関する状況を最終的に確認するタイミングです。

「去年の申告書から変更ありませんか?」と聞くだけでなく、「お子様が今年アルバイトを始めませんでしたか?」「配偶者のパート収入は123万円を超えそうですか?」と具体的に確認することで、申告漏れを防ぎやすくなります。

扶養から外れる(削除)手続き

扶養に入れる時よりも、「扶養から外れる時」の手続き漏れは、後で問題になりがちです。

  • 子どもが就職した
  • 配偶者のパート収入が基準額(106万円/123万円/130万円)を超えた
  • 扶養していた親が亡くなった

これらの事実が発生したら、速やかに扶養から外す(削除)手続きが必要です。特に社会保険は、資格がないまま保険証を使い続けると、後日、協会けんぽや健康保険組合から医療費の返還を求められる事態にもつながります。

定期的なアナウンスの実施

従業員は、扶養の条件や手続きの必要性を忘れてしまいがちです。

入社時や年末調整時だけでなく、「4月(子どもの就職シーズン)」「10月(社会保険の適用拡大などの時期)」などに、「ご家族の状況に変わりはありませんか?」と社内報やメールで定期的にアナウンスすることも、トラブル防止に役立つでしょう。特に社会保険の適用拡大については、2025年の年金関連法改正で、今後の企業規模の要件の変更・撤廃や賃金要件の撤廃などが決定されていますので、情報収集をこまめに行い、従業員へのアナウンスを確実に行いましょう。

扶養者に関する手続きの方法は?

従業員が家族を扶養に入れる(または外す)場合、企業の人事・総務担当者を経由して、所定の届出書を提出するのが一般的です。

税法上の扶養手続き(扶養控除等申告書)

「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」によって行います。

提出時期
  • その年、最初に給与の支払いを受ける日の前日まで(中途入社時は入社時)
  • 毎年、年末調整の時期(翌年分)
  • 年の途中で扶養状況に変動があった場合(結婚、出産、家族の所得増加など)

社会保険上の扶養手続き(被扶養者(異動)届)

「健康保険 被扶養者(異動)届」(国民年金の第3号被保険者届も兼ねています)によって行います。

提出時期:

原則として、扶養の事実が発生した日(子どもが生まれた日、配偶者が退職した日など)から5日以内に、企業の人事・総務担当者経由で日本年金機構(または健康保険組合)に提出します。

必要な添付書類:

扶養の事実を証明するため、続柄確認書類(住民票など)や、収入証明書類(退職証明書、非課税証明書、仕送り証明など)の添付が求められる場合があります。

扶養者とは養う人。税金と社会保険の違いを理解しよう

扶養者とは、経済的に家族や親族を支える(養う)人のことです。そして、養われる側が「被扶養者(社会保険)」や「扶養親族(税法)」となります。

この「扶養」には、「税法上」と「社会保険上」の2つの異なる制度がある点を押さえておきましょう。それぞれ、対象となる親族の範囲や、収入の条件が異なります。

人事労務の担当者としては、従業員から「扶養者とはどっち?」「妻は扶養に入れる?」といった質問を受けた際に、この2つの違いをふまえて正確に案内することが求められます。入社時や年末調整時、従業員のライフイベントのタイミングで、扶養状況を適切に確認し、手続きをサポートしていきましょう。


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