- 更新日 : 2024年7月17日
コンフォートレターとは?役割や記載内容、注意点などを解説
IPOを達成するには、引受審査に通過しなければいけません。引受審査前に監査人から主幹事証券会社に提出されるのがコンフォートレターです。
引受審査に関係する過程ですので、IPOを目指す企業はこの流れについて理解しておくことが大切です。
本記事では、コンフォートレターの概要や機能、記載内容や注意点などを分かりやすく解説します。
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コンフォートレターとは
まずは基礎知識として、コンフォートレターの定義や役割など、基本的な内容について解説します。
コンフォートレターの定義
日本証券業協会の「有価証券の引受け等に関する規則」の第2条7号によると、コンフォートレターとは、株券等または社債券の発行者に関する調査の報告書であり、監査人が作成するものです。またこれは、「『監査人から引受事務幹事会社への書簡』要綱」にならって作成されます。
なぜIPOを目指す企業にとって重要なのか?
同規則第12条5号によると、コンフォートレターは主幹事証券会社による引受審査前に提出されます。
IPO達成の要件は大きく分けると主幹事証券会社の引受審査と証券取引所の上場審査に通過することですが、コンフォートレターは主幹事証券会社の引受審査前に必要となります。
そのため、IPOを目指す企業は自社に関するコンフォートレターを作成しなくてはなりません。
実際に作成を行うのは外部監査ですので、IPOを目指す企業は初期の準備段階で適切な監査機関を選定することが大切です。
また、近年では監査を引き受ける監査法人が見つからないケースも増えています。こうした状況に陥らないためにも、できるだけ早い段階で準備を始めることが重要です。
また作成にあたっては、監査法人への報酬だけでなく、書類の印刷代などの費用もかかります。相談の段階で、内容と費用を確認するようにしましょう。
コンフォートレターの機能
金融商品取引法第17条・21条を要約すると、「証券会社は、金融商品取引業者または目論見書使用者として、 虚偽の記載を知らず、相当な注意をしたにもかかわらず認知できなかったことを証明できなければ、損害賠償の責任を負わなければならない」とあります。
主幹事証券会社は、コンフォートレターが提出されると引受審査を開始します。
デューデリジェンスの段階で「相当な注意」を払ったことを証明する義務は主幹事証券会社にあります。
コンフォートレターを受領せず、公開した財務情報に虚偽があり、投資家に損害が生じた場合は、主幹事証券会社が責任を問われます。
コンフォートレターの作成時期
IPOの流れを簡単に説明すると、次のとおりです。
- 監査人決定
- 主幹事証券会社決定
- 社内体制の確立(会計規則や社内規則の整備)
- 上場申請書類作成
- 引受審査
- 上場審査
コンフォートレターは、引受審査前に監査人が作成し、主幹事証券会社に提出します。
引受審査が行われるのは直前期ですが、社内体制や資本政策の決定などの準備期間を含めると、引受審査を開始するまでに2年程要します。
また引受審査では、内部管理体制や予実管理など、さまざまな点からの審査があり、ヒヤリングや資料の確認なども行われます。
審査をスムーズに進めるためにも、事前に必要な資料を用意し、記載された内容を十分理解しておくことがポイントです。
上場のためには、必ず引受審査を突破する必要があります。事前に監査人とコミュニケーションをとりながら、対策をしっかり行いましょう。
IPOの流れや必要な審査については、以下の記事で詳しく解説しています。こちらもぜひ参考にしてください。
コンフォートレターの記載内容や書き方
コンフォートレターに記載する内容は、日本公認会計士協会の「監査人から引受事務幹事会社への書簡について」に規定されています。
①日付、宛先および打切日
日付は払込期日または受渡期日の前日です。宛先は発行会社と主幹事証券会社の各社長の連名となります。打切日は主幹事証券会社に対する監査人の責任がなくなる日であり、それ以降の内容に対して監査人は責任を負いません。
②書簡の前文
「上場準備会社の有価証券報告書に関して、監査法人が主幹事証券会社から依頼された内容について報告を行う」ことを表明するものです。
③届出書等に含まれている監査報告書等
届出書等に監査報告書や四半期レビューの報告書が含まれている場合は、記述する必要はありません。現在監査中のため、監査に対する意見の表明ができない旨を記述します。
④調査事項、実施した調査手続きおよび調査結果
調査の対象となった事項を記述します。対象となるのは、内部統制の情報や株主総会議事録、取締役会議事録などで確認できる情報です。
⑤事後の変動の調査とその結果
新規証券を発行する際(IPO時のファイナンス)の財務状況は新規証券の発行条件に影響を及ぼすため、通常、主幹事証券会社から監査人に調査が依頼されます。
記載する内容は、特定の財務項目が「減少」したかどうかです。
⑥調査手続きの十分性
監査人は自身が実施した調査手続きが、以下の点について「監査人が意見を述べる立場にない」ことを記述します。
- 目的達成に十分だったか
- 記載内容が妥当か
- 法令等に適合しているか
- 届出書等の開示状況が十分か(重要な事実開示が省略されていないか)
⑦書簡の目的と利用制限
書簡の目的は、主幹事証券会社が行う調査に必要な資料を提供することのみであり、それ以外の目的では行わない旨を記述します。
また、書簡の全部または一部を引用、転載、複製、翻訳してはならないことを記述します。
⑧発行会社と監査人との間の利害関係
発行会社(IPOを準備している会社)と監査人の間に何ら利害関係がない旨を記述します。
コンフォートレターの注意点
本章では、コンフォートレターを作成する上での注意点を2点解説します。
調査対象に関する記載内容
コンフォートレターの調査対象に含まれるものと含まれないものがあるため、注意する必要があります。
調査対象に含まれる情報は主に以下のとおりです。
- 財務諸表等の財務情報
- 主幹事証券会社が監査人に依頼した調査内容
- 内部統制の管理下にある資料等から入手された情報
- 株主総会議事録等で確認できる情報
一方で、調査対象に含まれない情報は以下のとおりです。
- 非財務情報(従業員数、生産計画、土地建物の面積等)
- 監査対象の会計記録に関係ない内容
- 内部統制の管理下にない財務情報
事後変動の調査に関する記載内容
主幹事証券会社から事後変動の調査を依頼された監査人が留意すべき点は、以下のとおりです。
①調査の対象
発行会社(IPOを準備している会社)が連結財務諸表提出会社の場合には、個別財務諸表ではなく、連結財務諸表に基づく調査を行います。
ただし、会計基準が国際会計基準や米国会計基準などの場合は、月次連結財務諸表も年度決算と同一の会計基準に基づいて作成されている場合に限定して調査できます。
②調査の対象となる財務項目と金額
調査の対象は、主幹事証券会社が選定します。
一般的には純資産の減少の有無、売上高、利益金額の減少の有無などが調査対象です。
③調査手続の選択
変動調査では、次の調査方法を採用しなければなりません。
株主総会及び取締役会の議事録の閲覧
発行会社の責任者に対する質問
直近の月次連結財務諸表または月次連結試算表の閲覧
④事後の変動についての記述
「減少」に関する記述で「少額」「相当」「著しく」等の表現はできません。
しかし、「10%を超える減少」など定量的な表現であれば問題ありません。
まとめ
本記事では、コンフォートレターの概要や役割、記載内容などについて解説しました。
コンフォートレターは、引受審査前に監査人がIPOを目指す企業の財務情報に関して作成し、主幹事証券会社に提出する調査報告書を指します。
引受審査の前提となるため、IPOを目指す会社が作成するものではありませんが、監査人を選定する以上、内容や流れを理解しておくことは大切です。
記載する内容や注意点を把握し、初期の段階で監査人を選定するなど、IPOに向けて早い時期から準備を進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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