• 作成日 : 2025年12月11日

合同会社は厚生年金の加入義務がある?手続きや保険料の金額・計算方法まで解説

合同会社(LLC)を設立する際、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入は非常に重要な課題です。株式会社と同様に法人格を持つ合同会社は、たとえ社長一人であっても、原則として厚生年金への加入義務が発生します。

この記事では、合同会社における厚生年金の加入条件、役員(代表社員)や従業員の手続き、さらには加入しない場合のリスクについてわかりやすく解説します。

合同会社は厚生年金への加入義務がある?

合同会社は、法律により厚生年金および健康保険(以下、社会保険)への加入が義務付けられている「強制適用事業所」に該当します。

健康保険法および厚生年金保険法において、株式会社や合同会社などの法人は、常時使用する従業員の人数にかかわらず、すべて強制適用事業所と定められているためです。

強制適用事業所
  • 株式会社、合同会社、合名会社、合資会社、一般社団法人、NPO法人などの法人事業所(役員や従業員の人数に関わらず、1人でもいれば対象)
  • 常時5人以上の従業員を使用する、特定の業種※を除く個人事業所
任意適用事業所
  • 上記以外の個人事業所で、従業員の半数以上が同意し、事業主が申請して認可を受けた事業所

※農林水産業、サービス業(弁護士、税理士、飲食店、理美容業など)は、個人事業主の場合、常時5人以上でも強制適用にはなりません。

なお、令和7年年金制度改正法において、2029(令和11)年10月から特定17業種の要件が撤廃となり、常時5人以上雇用している個人事業所は業種問わず、原則、社会保険の適用対象となります。

このように、合同会社は設立した時点で「法人事業所」に該当するため、社長(代表社員)が1人しかいない場合でも、強制適用事業所となります。

参考:適用事業所と被保険者|日本年金機構

合同会社が厚生年金に加入する条件

合同会社が厚生年金に加入する条件は、その法人から役員報酬または従業員への給与(労働の対償としての報酬)を支払う人が1人でも存在することです。

法人が強制適用事業所となるため、その事業所に使用される人(役員や従業員)が報酬を受けていれば、被保険者となる要件を満たします。個人事業主の場合は「常時5人以上の従業員」という基準がありますが、法人の場合はこの人数基準がありません。

つまり、合同会社を設立して法人登記が完了し、社長(代表社員)が自分自身に対して「役員報酬」を支払うことを決定した時点で、その社長自身が被保険者となり、会社は社会保険の加入手続きを行う義務が発生します。

合同会社の社会保険料の負担割合

厚生年金保険料および健康保険料(介護保険料含む)は、算出された保険料の総額を、会社(事業主)と被保険者(役員・従業員)が半分ずつ負担(労使折半)します。

例えば、ある役員の標準報酬月額から計算された社会保険料の総額が月額8万円だった場合の負担金額は、以下の通りです。

  • 会社(合同会社)の負担:4万円
  • 被保険者(役員)の負担:4万円

会社は、役員に報酬を支払う際、個人の負担分である4万円を天引きし、会社の負担分4万円と合わせて、合計8万円を翌月末までに納付します。

合同会社の社会保険料の金額の計算方法

合同会社の社会保険料は、毎月の報酬(役員報酬や給与)を、あらかじめ定められた等級区分(標準報酬月額)に当てはめ、その等級の金額に保険料率を乗じて計算されます。

報酬額の細かな変動に都度対応する事務負担を軽減するため、この制度が採用されています。標準報酬月額は、毎年1回、4月・5月・6月の報酬平均額を基に見直されます(定時決定)。また、年の途中で報酬額が大幅に変動した場合は、随時改定が行われます。

毎月の給与だけでなく、賞与(ボーナス)からも「標準賞与額」として、別途、月々の保険料と同じ料率で社会保険料が徴収されます。

参考:厚生年金保険料額表|日本年金機構

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合同会社の役員(社員)は厚生年金に加入できる?

合同会社の役員(代表社員や業務執行社員)も、法人から労働の対償として役員報酬を受けている限り、厚生年金の被保険者となります。

法律上、法人の代表者や役員も「法人に使用される者」として扱われ、定期的に報酬を受けている実態があれば、一般の従業員と同様に被保険者の要件を満たすと判断されるためです。

合同会社における「社員」という言葉は、一般的な「従業員」とは異なり、出資者であり会社の経営者(役員)を指します(株式会社でいう「取締役」や「代表取締役」に近い立場です)。これらの役員(社員)が、会社から経営の対価として「役員報酬」を受け取っている場合、その人は厚生年金の加入対象となります。

役員報酬と厚生年金保険料の関係

厚生年金保険料の金額は、毎月の役員報酬の額を基に算出される「標準報酬月額」によって決定されます。

保険料は、実際の報酬額そのものではなく、「標準報酬月額」というキリの良い金額の等級表(例:報酬が月額29万円〜31万円の人は「30万円」とする)に当てはめて計算します。この標準報酬月額に、定められた保険料率(健康保険料率+厚生年金保険料率)を乗じて保険料が計算される仕組みです。

この社会保険料の総額を、会社と役員個人で半分ずつ負担(労使折半)します。会社は、役員個人の負担分を役員報酬から天引き(控除)し、会社の負担分と合わせて納付します。

参考:標準報酬月額・標準賞与額とは?|こんな時に健保|全国健康保険協会

役員でも社会保険に加入できないケース

役員報酬が0円の場合や、勤務実態がほとんどない「非常勤役員」の場合は、社会保険の被保険者とならないケースがあります。社会保険の被保険者となるには、法人との間に「常用的使用関係」があり、かつ「労働の対償として報酬を受けている」ことが前提となるためです。

  • 役員報酬が0円の場合: 保険料の算定基礎となる報酬が存在しないため、被保険者資格を取得できません。この場合、その役員は個人として国民年金・国民健康保険に加入する必要があります。
  • 非常勤役員の場合: 役員報酬が支払われていても、出勤日数や業務執行への関与度が著しく低く、「常用的使用関係」にあると認められない場合は、被保険者とならないことがあります。ただし、「非常勤」の明確な定義はなく、報酬額や業務内容などを総合的に勘案して、年金事務所が実態に基づき判断します。

一人合同会社(LLC)の厚生年金の扱いは?

社長(代表社員)一人のみの合同会社(通称:一人合同会社)であっても、法人である以上、厚生年金の強制適用事業所であり、社長自身も加入義務があります。

「法人事業所は人数にかかわらず強制適用」という原則は、一人合同会社でも例外ではないためです。法律上は「法人(会社)」と「個人(社長)」は別人格として扱われ、社長が会社から役員報酬を受け取る限り、それは「法人に使用されて労働の対償を得ている」とみなされ、社会保険への加入が必須となります。

節税対策として法人成り(合同会社設立)を選ぶケースは多いですが、個人事業主時代にはなかった社会保険料の負担(特に会社負担分)が発生することを、資金計画に織り込んでおく必要があります。

役員報酬ゼロの場合の社会保険の扱いは?

一人合同会社の社長が、自身の役員報酬を0円に設定している場合、その社長は社会保険(厚生年金・健康保険)に加入できません。

保険料の算定基礎となる報酬が存在しないため、被保険者資格を取得できないからです。役員報酬をゼロにすれば、会社(法人)としては社会保険料の負担は発生しません。

ただし、社長個人は社会保険の被保険者ではなくなるため、個人として居住地の市区町村で「国民年金」および「国民健康保険」に加入する義務が生じます。

役員報酬を低く設定するリスクは?

社会保険料の負担を抑える目的で、役員報酬を著しく低額に設定する場合も注意が必要です。

役員報酬がゼロでなくても、社会保険料(標準報酬月額の最低等級)を計算できないほどの著しく低額な報酬(例:年間数万円程度)の場合、実態として加入が認められない可能性があります。

また、役員報酬を低く抑えると社会保険料の負担は減りますが、その分、法人に利益が残るため法人税の負担が増える可能性があります。逆に役員報酬を高く設定すれば、社会保険料の負担は増えますが、役員報酬は法人の経費(損金)となるため法人税の節税に繋がります。

社会保険料の節約と、法人税・所得税の節税は、トレードオフの関係にあるため、両方のバランスを考慮した役員報酬の金額設定が重要です。

合同会社で従業員を雇った場合の厚生年金の条件は?

合同会社で従業員を雇った場合の厚生年金の条件は、雇用形態によって異なります。

正社員の加入条件

合同会社で正社員(常時使用される従業員)を雇用した場合、その従業員は原則として全員が厚生年金の被保険者となります。

正社員は「常用的使用関係」にある労働者であり、強制適用事業所に使用される者として、法律上の被保険者要件を満たすためです。年齢制限(70歳未満)などの一部例外を除き、試用期間中であっても入社日(資格取得日)から加入対象となります。

パート・アルバイトの加入条件

パートタイマーやアルバイトであっても、1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事する正社員の「4分の3以上」である場合は、社会保険への加入義務があります(通称「4分の3基準」)。

例えば、正社員の所定労働時間が「週40時間・月20日」だった場合、週30時間以上(40時間の3/4) かつ 月15日以上(20日の3/4)の両方を満たすパート従業員は、本人の希望に関わらず社会保険に加入させなければなりません。

参考:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構

4分の3基準未満でも加入が必要なケース(特定適用事業所)

従業員数(厚生年金の被保険者数)が51人以上(2024年10月以降)の合同会社(特定適用事業所)では、4分の3基準を満たさないパート・アルバイト等でも、以下の要件をすべて満たせば社会保険の加入対象となります。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上
  2. 月額賃金が88,000円以上(※残業代、賞与、通勤手当などは除く)
  3. 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
  4. 学生ではない(※夜間学生や定時制学生は除く)

設立間もない合同会社がすぐに該当することは稀ですが、事業拡大に伴い従業員数が増えた際には注意が必要です。

合同会社が厚生年金に加入する具体的な手続きは?

合同会社を設立し、役員報酬の支払いや従業員の雇用が発生(適用事業所となった)した場合、原則としてその事実が発生した日から5日以内に、管轄の年金事務所(または事務センター)に必要な届出書類を提出します。

主なステップは以下の通りです。

1. 必要書類の準備

主に「法人(商業)登記簿謄本(履歴事項全部証明書)のコピー」と「法人番号指定通知書のコピー」が必要です。

  • 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
  • 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届(加入する役員・従業員全員分)
  • 健康保険 被扶養者(異動)届(扶養家族がいる場合)
  • 添付書類:法人登記簿謄本のコピー(原則90日以内発行のもの)、法人番号指定通知書のコピー など

2. 新規適用届の提出

まず、合同会社(事業所)自体が社会保険の適用を受けるために「新規適用届」を提出します。これにより、会社に「事業所整理記号」と「事業所番号」が割り当てられます。

3. 被保険者資格取得届の提出

次に、加入対象となる役員や従業員全員分の「被保険者資格取得届」を提出します。この書類には、加入者の氏名、基礎年金番号、そして保険料計算の基となる「報酬月額」を記載します。

提出先は、事業所の所在地を管轄する日本年金機構の事務センターまたは年金事務所です。提出期限は、適用事実が発生した日から5日以内です。

5日以内という期限は非常に短いため、合同会社設立の登記手続きと並行して、社会保険の手続き準備を進めておくことが重要です。

参考:新規適用の手続き|日本年金機構

合同会社が厚生年金に加入しないとどうなる?

加入義務があるにもかかわらず合同会社が厚生年金に加入しない場合、年金事務所による加入指導や立入検査の対象となり、最終的には法律に基づく罰則(6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金)が科される可能性もあります。

未加入が発覚した場合の最も大きな金銭的リスクは、過去(最大2年間)に遡って社会保険に強制加入させられ、その期間の保険料を一括で追徴されることです。

社会保険料の徴収時効は2年と定められています。遡及加入となった場合、会社は「過去2年分の会社負担分」と「過去2年分の従業員(役員)負担分」の両方を、一括で納付しなければなりません。

従業員負担分は本来給与から天引きすべきだったものですが、すでに退職した従業員から過去の保険料を徴収するのは現実的に困難です。結果として、2年分の保険料の全額を会社が負担することになり、キャッシュフローを深刻に圧迫するケースが少なくありません。

合同会社も厚生年金の加入手続きを速やかに行いましょう

厚生年金の加入は、合同会社を運営する上で避けては通れない法律上の義務です。

たとえ一人合同会社であっても、社長が役員報酬を受け取る限り、強制適用の対象となります。従業員を雇う場合も、正社員はもちろん、パート・アルバイトも4分の3基準などの勤務条件次第で加入が必要です。

手続きの遅れや未加入は、最大2年間の遡及徴収という深刻な経営リスクに直結します。合同会社の社会保険手続きは、会社設立の登記が完了したら、5日以内を目安に速やかに行い、適正な事業運営をスタートさせることが重要です。不明な点は、社会保険労務士や管轄の年金事務所に相談しましょう。


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