- 作成日 : 2025年7月17日
抱き合わせ販売とは?独占禁止法と事例を解説
事業を行う上で、複数の商品を組み合わせる「セット販売」は一般的な販売戦略ですが、その一形態である「抱き合わせ販売」が独占禁止法に抵触し、排除措置命令や課徴金といった経営リスクを招く可能性があります。
この記事では、抱き合わせ販売の定義、独占禁止法上の位置づけ、違法となる具体的な要件、過去の事例、そして事業者が留意すべき点について分かりやすく解説します。
目次
抱き合わせ販売とは?
抱き合わせ販売とは、ある主たる商品(物品又は役務)を販売する際に、顧客の意思にかかわらず、別の従たる商品(物品又は役務)をセットで購入させる販売方法です。公正取引委員会は、人気商品と不人気商品をセット販売する行為などを典型例として挙げています。顧客の自由な商品選択が実質的に阻害される点が問題となります。
セット販売との違い
「セット販売」自体が直ちに違法となるわけではありません。適法なセット販売と違法な抱き合わせ販売の境界は、主に以下の点を総合的に考慮して判断されます。
- 顧客の選択の自由:単品購入が合理的選択肢として可能か。
- 商品の組み合わせの合理性:機能的補完性や技術的結合など、セット提供に合理性があるか。
- 競争制限的な効果の有無:主たる商品の市場力を利用し、従たる商品市場の競争を不当に制限していないか。
- 不要品の強制の有無:顧客が不要なものを購入させられていないか。
実質的に顧客にセット購入を強いる状況になっていないかが重要です。
抱き合わせ販売が問題視される理由
抱き合わせ販売が規制されるのは、主に以下の理由によります。
- 消費者の不利益:不要な商品購入を強いられ、自由な選択機会を奪われる。
- 競争者への不当な影響:(市場閉鎖効果):主たる商品の市場力を利用し、従たる商品市場の競争を阻害するおそれがある
消費者の不利益:不要な商品購入を強いられ、自由な選択機会を奪われる。
競争者への不当な影響(市場閉鎖効果):主たる商品の市場力を利用し、従たる商品市場の競争を阻害するおそれがある。
独占禁止法とは?
独占禁止法(正式名称:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)は、事業者間の公正かつ自由な競争を促進し、一般消費者の利益を守り、国民経済の健全な発達を促すことを目的としています。
独占禁止法が規制する「不公正な取引方法」
独占禁止法は「不公正な取引方法」を禁止しており、抱き合わせ販売もこれに該当する場合があります。これは、公正な競争を阻害する「おそれ」がある行為を規制するもので、実際に競争が著しく制限された結果が生じていなくても違反と判断される可能性があります。
抱き合わせ販売と「一般指定第10項」
抱き合わせ販売は、「不公正な取引方法」の一つとして、一般指定の第10項(抱き合わせ販売等)で具体的に規制されています。この条文が、抱き合わせ販売の違法性を判断する際の法的根拠となります。
抱き合わせ販売が独占禁止法違反となる要件
抱き合わせ販売が独占禁止法違反となるかは、主に以下の3つの要件を総合的に検討して判断されます。
1:主たる商品と従たる商品が「別個の商品」であること
主たる商品と従たる商品が、それぞれ独立して取引の対象となり得る「別個の商品」であることが必要です。判断は、それぞれの商品の需要の有無、機能・効用の違い、取引の実情などを総合的に考慮して行われます。例えば、カメラ付き携帯電話機のように、組み合わせることで新たな機能・価値が生まれる場合は、別個の商品とは評価されにくいことがあります。
2:従たる商品の購入を「強制」すること
顧客が主たる商品を購入する条件として、従たる商品の購入を事実上余儀なくされる「強制」の事実が必要です。明示的な要求だけでなく、単品購入を著しく不利にする価格設定や納期設定なども実質的な強制と評価される可能性があります。
3:取引に「不当性」があること
その行為が「不当」でなければなりません。主に、従たる商品の市場における競争者の事業活動を困難にさせたり、新規参入を妨げたりするなどの「市場閉鎖効果」を生じさせるか否かが判断基準となります。市場閉鎖効果の有無は、抱き合わせ販売を行う事業者の市場における地位、行為の期間や対象範囲、従たる商品の市場状況、競争者の状況などを総合的に考慮して判断されます。
抱き合わせ販売で問題となった事例
【事例1】人気ゲームソフトと他のソフトの抱き合わせ(ドラゴンクエスト事件)
人気ゲームソフト「ドラゴンクエストⅣ」に他の在庫ゲームソフトを抱き合わせて販売した卸売業者の行為が、小売業者の自由な商品選択を妨げ、公正な競争を阻害するとして排除措置命令を受けました。特定商品の「人気」が実質的な市場力として機能し得ることを示す事例です。
【事例2】OS・表計算ソフトと他のアプリケーションソフトの抱き合わせ(マイクロソフト事件)
マイクロソフト社が市場支配的なOS「Windows」や表計算ソフト「Excel」に、ワープロソフト「Word」などを抱き合わせて販売した行為について、公正取引委員会はワープロソフト市場などの競争を阻害するおそれがあるとして勧告しました。プラットフォーム事業者の市場力に対する規制当局の関心は依然として高いと言えます。
【事例3】人気車種とオプションサービスの抱き合わせ(自動車販売事例)
人気車種の販売において、オプションサービスや特定のクレジット契約などを事実上の販売条件とする事例が問題視されています。トヨタモビリティ東京の事例では、人気車種の購入希望者に対し、オプション契約等をしなければ販売しないといった趣旨の対応をした疑いで公正取引委員会から警告を受けました。
【事例4】医療用機器と専用消耗品の抱き合わせ
ASPJapan合同会社が販売する内視鏡洗浄消毒器において、自社製の専用消毒薬しか使用できない仕組みを導入した行為が、消毒薬市場の公正な競争を阻害するとして排除措置命令を受けました。機器側で他社製消耗品の使用を技術的に排除する行為は、抱き合わせ販売として違法と判断される可能性が高いことを示しています。シスメックス株式会社の血液凝固測定装置と専用試薬の組み合わせについても、確約計画が認定された事例があります。
独占禁止法違反と判断された場合
独占禁止法違反だと判断された場合は、下記のようなペナルティが下されます。
公正取引委員会による排除措置命令
違反行為を排除し競争秩序を回復するため、抱き合わせ販売行為の中止や再発防止策などを命じられます。命令に従わない場合、罰則が科される可能性があります。
課徴金納付命令とその影響
違反行為によって事業者が不当に得た利得を剥奪し、将来の違反を抑止するための金銭的制裁です。課徴金額は、違反行為期間中の対象商品・サービスの売上額等に一定の算定率を乗じて計算されます。
取引先からの差止請求・損害賠償請求
不利益を被った取引先や競争事業者は、民事訴訟を通じて差止めや損害賠償を請求できます。
企業の社会的評価の低下とビジネスへの影響
独占禁止法違反の事実は報道等で公になり、企業のブランドイメージや社会的信用が著しく低下します。顧客離れ、資金調達への悪影響、従業員の士気低下など、事業活動に長期的な悪影響を及ぼす可能性があります。
抱き合わせ販売で失敗しないための注意点
自社の商品やサービスが抱き合わせ販売と判断されないよう、以下の点に注意しましょう。
自社の販売方法が「強制」や「不当性」を伴わないかチェックする
セット販売を企画・実施する際は、顧客に対する実質的な「強制」や、従たる商品市場における「市場閉鎖効果」を伴う「不当性」がないか慎重に確認します。公正取引委員会の指針や過去の事例を参考に、自社の販売方法を定期的に見直す体制が望ましいです。
「合理的」なセット販売とは何か
顧客にとって明確なメリットがあり、商品の組み合わせに客観的に見て合理的な理由(技術的結合、品質保証、消費者の利便性向上、コスト削減による価格メリットなど)が認められる場合は、適法なセット販売と判断されやすくなります。
専門家(弁護士)への事前相談の重要性
抱き合わせ販売の適法性判断は専門的で難しいため、不安がある場合や新しい販売戦略を検討する際は、事前に独占禁止法に詳しい弁護士に相談し、法的リスク評価を受けることが有効です。
社内コンプライアンス体制の構築と研修の実施
独占禁止法に関する社内規程や行動マニュアルの整備、定期的な研修の実施、相談窓口の設置、内部監査体制の確立などを通じて、コンプライアンスを企業文化として根付かせることが重要です。
抱き合わせ販売は独占禁止法で規制されています
抱き合わせ販売は、顧客の選択の自由を奪い、公正な競争を歪める可能性があるため、独占禁止法で規制されています。違法性の判断は、①別個の商品か、②購入を強制しているか、③不当性(市場閉鎖効果など)があるか、を総合的に考慮して行われます。市場で有力な事業者は特に注意が必要です。
合理的な理由のあるセット販売は適法と評価されることもありますが、判断に迷う場合は専門家への相談が不可欠です。独占禁止法の遵守は、リスク回避だけでなく、企業の持続的な成長と企業価値向上にもつながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
民法90条とは?公序良俗違反となる暴利行為や判例をわかりやすく解説
民法90条は、公序良俗に反する法律行為を無効とする民法の条文です。公序良俗とは「公の秩序」と「善良の風俗」をまとめた総称であり、社会的な妥当性を欠く法律行為は民法90条をもとにその効力を否定することができます。 本記事では民法90条に定める…
詳しくみる電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)とは? 条文や要件をわかりやすく解説
電子契約を導入するにあたっては、その法的根拠を理解する必要があります。それは電子署名法および各種の関係法令です。今回は電子署名法の概要や、電子署名の「真正性」を担保する認証業務の仕組みについて解説します。 電子署名法(電子署名及び認証業務に…
詳しくみる個人事業主が下請法の対象となる取引は?改正内容もわかりやすく解説
下請法は、親事業者と下請事業者との公正な取引を確保するための法律です。 フリーランスなどの個人事業主も下請法の保護の対象となることがあり、違反行為があると親事業者に罰則が科される恐れがあります。 2025年に改正案が決定しており、新たな規制…
詳しくみる特定商取引法とは?概要や実務上の注意点をわかりやすく紹介
「特定商取引法」では特定の取引に適用されるルールを定め、クーリングオフ制度などにより消費者保護を図っています。 そこで通信販売や訪問販売など、同法で定められた特定の営業方法を行っている企業は同法の内容を理解する必要があります。当記事でわかり…
詳しくみる民法改正により連帯保証人制度が変わる?注意点を解説!
2020年の「民法大改正」で保証制度、特に連帯保証人に関する規定が大きく変更されました。今回の改正の目的は自身が債務者でないにもかかわらず、債務を背負うおそれのある連帯保証人を保護することです。どこがどのように変わったのか、具体例を挙げなが…
詳しくみる2022年施行の特許法改正のポイントは?業務への影響も解説
自社の独自技術やサービスを他社に真似されたり、無断で使用されたりしないために、特許権や商標権などで保護することができます。特許権に関わる特許法は、時代の変化に合わせて定期的に改正されています。今回は、2022年に施行された改正特許法等の施行…
詳しくみる