• 作成日 : 2025年9月25日

バイトの採用手続き完全ガイド|経営者が知るべき流れと必要書類

アルバイトの採用が決まった後、適切な手続きを漏れなく行うことは、法律を遵守するうえで不可欠なだけでなく、新しい従業員との信頼関係を築く第一歩です。手続きに不備があると、後々労務トラブルに発展しかねません。

この記事では、中小企業や飲食店の経営者の方が、アルバイトの採用決定から入社当日までに行うべき手続きの流れ、準備すべき書類、そして円滑に進めるためのポイントをわかりやすく網羅的に解説します。

バイトの採用手続き 採用決定から入社までの5ステップ

アルバイトの採用が決まってから入社するまでには、いくつかのステップがあります。慌てずに済むよう、以下の5つのステップで全体の流れを把握しておきましょう。

Step 1:採用を連絡し、初出勤日を決める

まず、採用決定を本人に電話やメールで連絡します。その際、今後の手続きの流れや初出勤の希望日について話し合い、具体的な日程を決定します。この最初のコミュニケーションを丁寧に行うことが、入社への安心感につながります。初出勤日までに必要な書類や持ち物についても、この段階で伝えておくと親切です。

Step 2:必要書類を案内し、準備を依頼する

雇用契約や保険手続きに必要な書類を本人に準備してもらうよう、リストを渡して依頼します。書類によっては、役所で取得したり、親権者に署名を依頼したりと時間がかかるものもあります。「いつまでに」提出が必要かを明確に伝えることが重要です。

Step 3:雇用契約を結ぶ

初出勤日、もしくはそれ以前に雇用契約を結びます。アルバイトを雇う際は、法律により賃金や労働時間などの労働条件を明記した書面(労働条件通知書)を交付する義務があります。

後の「言った、言わない」といったトラブルを防ぐため、実務では、労働条件通知書と雇用契約書を一体化した様式を用い、双方が署名押印して合意内容を明確に残す方法が一般的です。「労働条件通知書兼雇用契約書」という形式にすることで、双方が内容に合意したことの明確な証拠を残せます。

Step 4:社会保険・労働保険の手続きを進める

従業員の労働条件に応じて、社会保険(健康保険・厚生年金)や労働保険(労災保険・雇用保険)の加入手続きを行います。とくに労災保険は、アルバイトであっても一人でも雇用すれば加入義務が生じます。手続きには期限があるため、速やかに行う必要があります。

Step 5:入社当日のオリエンテーションを行う

初出勤日には、契約手続きだけでなく、お店のルールや業務内容についてのオリエンテーションを行います。店内の案内、スタッフへの紹介、挨拶などもこの時間に行い、新しい仲間を温かく迎え入れる雰囲気作りを心がけましょう。

バイトの手続きで必須となる書類一覧

アルバイトを雇用する際には、会社が準備する書類と、本人に提出してもらう書類があります。どちらも法律で定められた重要な書類ですので、漏れなく準備しましょう。

会社が準備する書類

  • 労働条件通知書(雇用契約書): 賃金や労働時間、休日といった労働条件を明記した書類です。法律で交付が義務付けられています。労働条件通知書兼雇用契約書として、会社と本人の双方が署名・捺印し、1部ずつ保管するのが一般的です。
  • 服務規律や就業規則に関する誓約書: お店のルールや服務規律を守ることを誓約してもらう書類です。
  • 身元保証書: 従業員が会社に損害を与えた場合に、身元保証人が連帯して賠償責任を負うことを約束する書類です。必須ではありませんが、トラブル防止のために求める企業が多いです。

従業員に提出してもらう書類

  • 住民票記載事項証明書: 氏名、住所、生年月日などを確認するために提出を求めます。プライバシーに配慮し、本籍地の記載がないもので問題ありません。
  • 給与振込先の届出書: 給与を振り込むための銀行口座情報を記入してもらう書類です。通帳やキャッシュカードのコピーを添付してもらうのが一般的です。
  • 年金手帳・基礎年金番号通知書: 雇用保険や社会保険の加入手続きに必要です。
  • マイナンバー(個人番号): 税金や社会保険の手続きに不可欠です。利用目的を明確に伝え、厳重に管理しなくてはなりません。
  • 源泉徴収票(該当者のみ): 年の途中で入社し、前職がある場合に提出してもらいます。年末調整に必要です。
  • 健康診断書(必要な場合のみ): とくに深夜業に従事する場合など、法律で義務付けられているケースがあります。

高校生や学生アルバイトの特有の必要書類

  • 親権者(または後見人)の同意書: 18歳未満の労働者と労働契約を結ぶ際は、親権者または後見人の同意書が必要です。トラブル防止のためにも、必ず署名・捺印済みの同意書を提出してもらい、事業場に備え付けましょう。
  • 年齢証明書(住民票記載事項証明書など): 同様に、18歳未満の労働者については、その年齢を証明する書類(住民票記載事項証明書など)を事業場に備え付けることが法律で義務付けられています。
  • 学生証のコピー: 学生であることを確認するために提出を求めます。

バイトの手続きにおける雇用契約の重要ポイント

数ある手続きの中でも、雇用契約の締結は最も重要です。法的な義務を果たすとともに、従業員との認識のズレを防ぐための要点を解説します。

労働条件通知書の交付は義務

アルバイトを含むすべての労働者に対し、企業は労働条件を明記した書面を交付する義務があります(労働基準法第15条)。2024年4月からは、労働条件の明示事項が追加され、有期契約の場合は更新上限の有無や内容、無期転換申込権に関する事項なども明示が必要になりました。口頭での約束だけでなく、必ず書面で交付しましょう。

出典:令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます|厚生労働省

明示すべき労働条件

労働条件通知書には、必ず記載しなければならない「絶対的明示事項」があります。

  • 労働契約の期間
  • 就業の場所、従事すべき業務の内容
  • 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇など
  • 賃金の決定、計算・支払いの方法、締切り・支払いの時期
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

これらの項目が漏れていると法律違反となるため、厚生労働省が提供するテンプレートなどを参考に、確実に記載してください。

契約書を交わすタイミングと方法

雇用契約は、原則として業務を開始する前に締結します。初出勤日に時間を設け、一つひとつの項目を丁寧に説明しながら進めるのが理想です。十分に内容を理解してもらったうえで署名をもらうことが、後のトラブルを防ぎます。近年では、電子契約サービスを利用してオンラインで締結することも可能です。業務効率化やペーパーレス化につながるでしょう。

バイトの手続きで必要な保険関連の知識

従業員を一人でも雇用すると、事業主は労働保険(労災保険・雇用保険)の適用事業所となります。また、労働条件によっては社会保険(健康保険・厚生年金)への加入も必要です。

労災保険は全員が加入対象

労災保険は、業務中や通勤中のケガ、病気などに対して給付を行う制度です。労災保険は、契約形態にかかわらず、賃金を受け取る労働者(正社員、パート、アルバイトなど)は原則として対象になります(ただし、業務委託や個人事業主など「労働者」に該当しない場合は対象外)。

従業員を雇い入れた時点で、労災保険の保険関係は自動的に成立します。その後、事業主は10日以内に『保険関係成立届』を提出する義務があります。

雇用保険の加入条件

雇用保険は、失業した際などに給付を受けられる制度です。以下の2つの条件を両方満たすアルバイトは、加入義務があります。

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  2. 31日以上の雇用見込みがあること

学生アルバイトは原則として適用除外ですが、夜間学生や通信教育課程の学生などは加入対象となるケースがあります。

社会保険(健康保険・厚生年金)の加入条件

社会保険の加入は、正社員の4分の3以上の労働日数および労働時間があるかどうかが一つの基準です。具体的には、1週間の所定労働時間および1カ月の所定日数が、同じ事業所で働く正社員の4分の3以上である場合に加入義務が生じます。

さらに、従業員数101人以上の企業(2024年10月からは51人以上の企業)では、以下の条件をすべて満たす短時間労働者も加入対象となります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 賃金の月額が8.8万円以上
  • 2カ月を超える雇用の見込みがある
  • 学生ではない

出典:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構

バイトの手続きを円滑に進め、早期離職を防ぐコツ

法的な手続きをこなすだけでなく、少しの配慮を加えることで、新しいアルバイトの不安を取り除き、スムーズな受け入れができます。これは、結果として早期離職の防止にもつながります。

採用連絡から入社まで丁寧なコミュニケーションを心がける

採用が決まっても、入社日までに期間が空くと、採用された側は「本当にここで大丈夫だろうか」と不安になるものです。採用連絡の際に今後の流れを丁寧に説明する、手続き書類を送付する際に一言手紙を添えるなど、こまめなコミュニケーションを心がけましょう。不安を解消し、入社への期待感を高めることができます。

手続きの目的と流れをわかりやすく説明する

多くの書類への記入や提出を求められると、アルバイト本人は「なぜこんなに必要なのか」と戸惑うかもしれません。雇用契約や保険手続きが、法律上の義務であると同時に、本人を守るためにもあることを伝えましょう。手続きにかかるおおよその時間も事前に伝えておくと、相手も心の準備ができます。

入社初日は温かく迎え入れる雰囲気作りを

新しい職場での初日は、誰でも緊張するものです。店長や経営者から「一緒に働けるのが楽しみだ」といった前向きな言葉をかけたり、他のスタッフにきちんと紹介したりして、新しい仲間を温かく迎え入れましょう。

「これからよろしく」という一言だけでも、新人は「仲間として受け入れられた」と感じ、安心できるものです。働きやすい雰囲気を作ることが、スムーズな人間関係の構築と、結果として長く働いてもらうことにつながります。

適正なバイト手続きが健全な店舗運営につながる

この記事では、アルバイトを雇用する際の手続きについて、採用後の流れから必要書類、各種保険、円滑に進めるコツまでを解説しました。これらの手続きは、法律で定められた事業主の義務であると同時に、従業員の権利を守り、安心して働ける環境を提供するためのものです。

一見、煩雑に思えるかもしれませんが、一つひとつの手続きを丁寧に行うことが、労務トラブルを未然に防ぎ、従業員との良好な信頼関係を築く土台となります。適正なバイト手続きを徹底することが、従業員の定着率を高め、ひいては健全で安定した店舗運営の実現につながるのです。


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