• 作成日 : 2025年6月30日

FLR比率が高いと何が問題?飲食店の適正値の目安や改善方法

飲食店の利益が思うように残らないと感じたら、まず見直すべきはFLR比率です。FLR比率とは、食材費・人件費・家賃の合計が売上に対して占める割合のこと。売上があってもこの比率が高いと利益は残りません。この記事では、FLR比率が高いことの問題点と、業態別の適正値、改善のための実践的な管理方法までを解説します。

FLR比率とは?

FLR比率(エフエルアールひりつ)は、飲食店経営における財務の健全性を示す重要な指標です。FLRとはFood(食材費)、Labor(人件費)、Rent(家賃)の頭文字を取ったもので、これら3つのコストの合計が売上に対してどのくらいの割合を占めているかを示します。

なお、人件費については、社会保険料や交通費を含めた広義のものか、これらを含めない狭義のものかという点については、自社で人件費を定義して、継続的な比較をしていくと良いでしょう。

FLR比率の計算式

FLR比率の計算式は以下の通りです。

FLR比率(%)=(食材費+人件費+家賃)÷ 売上高 × 100

比率が高いほどコストがかさみ、利益が残りにくくなります。

例えば、売上が300万円でFLR合計が210万円であれば、比率は70%となり、一般的には許容範囲とされますが、これが80%を超えてくると危険水域です。なぜなら、残り20%から光熱費・広告費・税金・利益を確保しなければならず、資金繰りが厳しくなるためです。

FLR比率は、飲食業特有の構造に即した管理指標として広く活用されています。多くの経営者が「売上さえ伸びれば利益が出る」と考えがちですが、FLR比率が高ければ、売上が増えてもコストも増え、結果として利益が改善しないこともあります。

売上とコストのバランスを示すこの比率に注目することが、健全な経営の第一歩です。

  • 食材費(Food):料理やドリンクの仕入れ費用
  • 人件費(Labor):従業員給与、社会保険料、交通費など
  • 家賃(Rent):賃貸料、共益費、自己物件なら固定資産税

FLR比率が高いと何が問題?

FLR比率が高いということは、売上の大半が食材費・人件費・家賃に使われており、残りで他の費用や利益をまかなわなければならない状態です。これは、数字の上で売上が立っていても、実質的に儲かっていない構造を意味します。

特に比率が85%を超えると、残る15%に光熱費や通信費、広告費、雑費、税金、借入返済、そして利益までを収める必要があり、黒字を維持するのは非常に困難です。

FLR比率が高いと直面する経営リスク

以下のようなリスクが、具体的に経営を圧迫します。

  1. 損益分岐点が高くなる
    売上が少し下がっただけで赤字に転落しやすくなります。一定の固定費が毎月発生する中で、変動費だけで吸収できる余地が少なく、急な売上変動に耐えられません。
  2. 設備投資・成長戦略が取れなくなる
    広告、店舗改装、新規出店などに必要な原資が残らず、現状維持が精一杯になります。長期的な視点での戦略的投資が困難になり、競合に差をつけられる要因にもなります。
  3. 資金繰り悪化とスタッフ離れ
    特に人件費の割合が高いと、労務コストが経営に与える影響は大きくなります。ボーナスや昇給が困難になれば、スタッフのモチベーション低下や将来性への不安から離職の要因にもなり、人材定着にも支障をきたします。

FLR比率が高い具体例

実際の数字で、どの程度の比率が「危険水準」なのかをみてみましょう。

【例1】改善余地のある高めのFLR比率

月間の売上が300万円で、食材費が100万円、人件費が90万円、家賃が30万円の場合

FLR比率 =(100+90+30)÷300 × 100 = 73.3%

70%をわずかに超えており、一般的には「改善可能」な水準です。人件費の適正化や、原価率の見直しによって70%以内に収めることが現実的です。

【例2】危険水準にあるFLR比率(80%超)

月間の売上が280万円で、食材費が115万円、人件費が95万円、家賃が30万円の場合

FLR比率 =(115+95+30)÷280 × 100 = 85.7%

このケースでは、売上のうち約240万円がFLRコストに消え、残りの40万円ですべての残コストと利益をまかなう必要があります。毎月のキャッシュフローはひっ迫し、余剰資金も蓄積できないため、急な支出や売上減に対応できません。改善しない限り、赤字体質が常態化します。

FLR比率の適正値と業態別の目安

FLR比率の一般的な適正値は「70%以下」とされています。これは、飲食店が利益を安定して確保するために、食材費・人件費・家賃の合計コストを売上の7割以内に抑えるという基準です。残りの30%は、光熱費、通信費、広告宣伝費、雑費、借入返済、そして利益に充てられます。

例えば、FLR比率が75%を超えると、毎月の利益は極端に少なくなり、想定外の支出や売上減少に耐えられない体質になってしまいます。そのため、継続的に黒字経営を実現するには、FLR比率を70%未満に維持することが理想です。

しかし、FLR比率の「理想的な数値」は業態によって大きく異なります。高級レストランのように原材料と人件費が高い業態では、どうしても比率が高くなる傾向があります。一方で、ファストフードやテイクアウト業態は効率重視の設計がされており、比率を低く抑えることが可能です。

以下は業態ごとの一般的なFLR比率の目安です。

業態別FLR比率の目安

業態食材費 (F)人件費 (L)家賃 (R)FLR比率目安
レストラン30~35%25~30%10~15%65~75%
カフェ24~35%25~36%10~15%60~76%
居酒屋28~35%25~32%10~15%63~77%
ファストフード40~45%20~25%~10%70~80%
ラーメン店30~35%25~30%~10%65~75%
弁当(持ち帰り)38~42%18~22%~10%66~82%

この表はあくまでも目安ですが、オーナーが自店のコスト構造を評価する際の参考になります。自店舗が居酒屋業態でFLR比率が78%だった場合、それは業界平均よりも高く、改善が必要である可能性が高いことを意味します。

また、立地条件によってもR(家賃)の比率は変動します。都市部の一等地では家賃比率が高くなりがちで、その分F(食材費)やL(人件費)を圧縮する必要があります。逆に郊外店舗では、家賃が低く抑えられる分、他のコストに余裕が出ることもあります。

FLR比率の適正値を理解することは、収益改善における第一ステップです。業界全体の動向だけでなく、自店の業態・規模・立地に合った目標値を設定することが、現実的で成果の出やすい改善につながります。

Food:食材費を見直してFLR比率を改善する

食材費はFLR比率の中で大きな割合を占めます。以下の方法でコントロールが可能です。

  • 仕入れ先の見直し
  • メニュー構成の見直し
  • 食材ロスの削減

具体的にみていきましょう。

仕入れ先の見直し

仕入れ先の選定は、食材費を左右する最も大きな要因です。長年同じ業者と取引している場合でも、定期的な価格の見直しは欠かせません。食品の市場価格は季節や需給バランスにより変動しますが、既存の取引先では値下げの交渉がしづらくなることもあります。

複数業者から相見積もりを取り、価格と品質のバランスが良い供給先を選びましょう。さらに、地元の農家や漁師など、中間流通を省いた直接取引に切り替えることで、輸送コストやマージンの削減が期待できます。

また、特定食材の仕入れ価格が上昇しているときは、代替食材の提案を受けられる仕入れ先かどうかも見極めましょう。価格だけでなく、対応力や提案力のある業者は、経営の安定に大きく貢献します。

メニュー構成の見直し

FLR比率を下げるためには、「どの料理が利益を生んでいるか」を把握し、戦略的なメニュー構成に変えることが有効です。メニューごとの原価率を分析し、粗利益率の高いメニューを中心に販売を促進する必要があります。

このために有効なのが「メニューエンジニアリング」です。例えば、以下の4分類で分析します。

  • スター商品:売れていて、利益も高い
  • パズル商品:利益は高いがあまり売れない
  • プランナー商品:売れるが利益は低い
  • ドッグ商品:売れずに利益も低い

この分析を基に、スター商品を目立つ位置に配置したり、パズル商品をおすすめとして提案するなどの工夫を行うことで、自然と利益率の高いメニューが売れる仕組みをつくれます。

また、同じ食材を複数メニューで活用できるよう設計することで、食材の回転率を上げ、ロスも防げます。

食材ロスの削減

見落とされがちですが、ロス(廃棄)の削減も食材費削減に直結します。特にロスが多くなりやすい店舗では、仕入れ金額以上に「使えなかった食材のコスト」が利益を圧迫します。

ロス削減の第一歩は、在庫管理の徹底です。冷蔵庫の中にある在庫をスタッフ全員が把握し、使い切れるよう調理工程を調整することが必要です。また、先入れ先出し(FIFO)を徹底し、仕入れた順に使うことで、食材の期限切れを防げます。

さらに、仕込みや調理の段階で発生する切れ端の再利用も有効です。例えば、野菜の皮や端材をスープやまかないに活用することで、廃棄量を抑えながら効率的な調理が実現します。

ロス率は、「ロスした食材原価 ÷ 仕入れ原価 × 100」で算出可能です。この指標を定期的に記録することで、改善の効果を数字で確認できます。

Labor:人件費の管理でFLR比率を最適化する

人件費の調整は、サービス品質を維持しつつコストを削減するための工夫が求められます。

  • シフトの最適化
  • 複数業務への対応力(多能工化)
  • 教育体制の整備

無理な人件費削減はサービス低下につながるため、バランスが必要です。

シフトの最適化

人件費を適正化する第一歩は、シフト設計を需要に応じて調整することです。特に飲食店では、曜日や時間帯によって来店数が大きく変動するため、それに合わせた人員配置が重要です。

例えば、ランチタイムは2人、ディナータイムは4人といったように、ピーク時間帯に合わせて柔軟にシフトを組むことが求められます。売上データや客数の傾向を分析しながら、必要最小限のスタッフで最大のサービスを提供できる体制を整えましょう。

また、パート・アルバイトの比率を適切に調整することもコスト管理に直結します。正社員の固定コストを抑え、変動的な労働力で柔軟に対応する仕組みをつくることが、人件費の最適化につながります。

複数業務への対応力(多能工化)

いわゆる「多能工化」は、スタッフが複数の業務を担当できるようになることで、人員配置の柔軟性を高める取り組みです。例えば、ホールスタッフがドリンクや簡単な調理補助も担当できるようになれば、少人数でも円滑に店舗を回すことが可能になります。

このような体制をつくるには、まずはスタッフの業務内容とスキルを棚卸しし、業務ごとの担当範囲を明確にすることから始めましょう。役割分担を固定せず、スタッフ全員が基本業務をカバーできるようにすることで、突発的な欠勤や繁忙期にも柔軟に対応できます。

柔軟な人員体制は、結果的に過剰な人件費の発生を防ぎ、FLR比率の安定化にも貢献します。

教育体制の整備

スタッフ教育は人件費削減の“攻め”の施策とも言えます。十分にトレーニングされたスタッフは、業務のスピードと正確さが増し、短時間でより多くの業務をこなせるようになります。これはシフトの効率化にも直結し、結果的に労働時間を減らすことにつながります。

また、オペレーションの標準化やマニュアル整備を行えば、新人の育成スピードも速まり、即戦力化が早まることで教育コストも圧縮できます。さらに、教育環境が整っている職場はスタッフの定着率も高まり、採用・離職に伴うコストも抑えられます。

小さな人材投資が、長期的には人件費全体の最適化に貢献します。

Rent:家賃と立地の関係を見直す

家賃の高さは立地条件と連動しています。以下のような対応が考えられます。

  • 移転も選択肢に
  • 家主と家賃の交渉を行う
  • 店舗スペースの活用

家賃は固定費であるため、長期的視点での判断が必要です。

移転も選択肢に

長期的にみて家賃が売上に対して過剰な場合は、店舗の移転も視野に入れるべき選択肢です。家賃の目安は、売上の10%前後とされていますが、それを大きく上回る場合、立地に見合うだけの集客や単価が維持できていない可能性があります。

特に、飲食店の商圏は1km圏内が中心であるため、少し離れた立地に移ることで家賃が大幅に下がるケースもあります。売上減少リスクと比較しながら、家賃差額が生む収益効果を試算してみましょう。

また、移転によってキッチン動線やスタッフ導線の効率が改善されれば、人件費の間接的な削減にもつながります。

家主と家賃の交渉を行う

コロナ禍以降、テナント側からの家賃交渉は以前よりも現実的な選択肢になっています。長年契約している店舗であれば、貸主との信頼関係を活かして、減額や据え置きの相談をしてみるのも一つの手です。

交渉の際には、以下のような資料を準備しておくと説得力が高まります:

  • 月次の売上推移と利益率
  • 地域の相場家賃との比較データ
  • 現在のFLR比率とその内訳

すぐに減額が難しくても、共益費の見直しや契約条件の緩和、短期的な家賃免除など、柔軟な形でコストを抑える余地が生まれることもあります。

店舗スペースの活用を最大化する

家賃を下げられない場合でも、支払っている家賃に対してどれだけ売上を生んでいるかを改善することは可能です。店舗内のスペースを見直し、売上に直結する座席数・回転率を高める工夫をすることで、同じ家賃でも生産性を上げられます。

例えば、稼働していない奥の席を無駄にせず、少人数の予約用に活用する、あるいはテイクアウトやデリバリー向けの仕込みスペースとして使うなど、スペースの再設計も有効です。

また、空き時間に料理教室やイベントスペースとして貸し出すなど、副収入を得られる活用法も検討する価値があります。家賃の固定性に対して、売上の柔軟性を高めるアプローチです。

FLR比率を定期的にチェックする仕組みづくり

FLR比率は、一度計算して終わりではなく、月次や週次で継続的にチェックする仕組みが重要です。数字の変化を追いかけることで、改善施策の効果や新たな問題点を把握しやすくなり、早めの対応が可能になります。

「今月はFLR比率が上がっているのはなぜか?」「先月の食材費削減は効果があったか?」といった問いに答えられる体制を整えることが、安定経営につながります。

Excel・スプレッドシートでの月次管理

まず最も手軽に始められるのが、ExcelやGoogleスプレッドシートを使った月次記録です。テンプレートを用意し、毎月の売上・食材費・人件費・家賃を入力するだけで、FLR比率を自動計算できます。

この方法のメリットは以下の通りです:

  • 初期コストゼロで導入可能
  • 自店舗に合ったカスタマイズがしやすい
  • 月ごとの推移がグラフ化できる

さらに、Googleスプレッドシートならクラウドで共有できるため、オーナーが出先でも確認でき、複数人で管理が可能になります。

POSシステムやクラウド会計との連携

より高度な管理を目指す場合は、POSレジやクラウド会計ソフトとの連携を活用する方法があります。これにより、日々の売上や経費データを自動集計し、リアルタイムでFLR比率に近い情報を把握できます。

例えば、

  • POSレジの売上データ → 自動で集計
  • 給与管理ソフト → 人件費を自動反映
  • 会計ソフト → 食材仕入れ・家賃支出を連携

これらの連携により、集計ミスや入力の手間が大幅に削減され、精度の高い管理が可能になります。導入にはコストがかかるものの、中長期的な経営管理を視野に入れるなら非常に有効です。

比率チェックを“習慣化”するポイント

FLR比率のチェックは、仕組みだけでなく運用の習慣化が重要です。以下のような体制を整えると継続しやすくなります。

  • 毎月の売上締め後に必ず記録(〇日と決める)
  • 店長やマネージャーが責任を持つ役割分担
  • 先月との比較と、改善点をメモ欄に記録
  • 3か月ごとにグラフを利用してトレンド分析

また、FLR比率だけでなく、各構成要素(F・L・R)の比率もあわせて記録することで、どの項目が原因で上昇・下降しているかを明確にできます。

FLR比率は、“気がついたときに見る”のではなく、毎月チェックするルーティンをつくることで改善サイクルが回り始めます。特別な仕組みよりも、まずは「見える化」して「振り返る時間を持つ」ことが最も効果的です。

FLR比率の理解と管理が店舗の収益力を高める

FLR比率は、飲食店をはじめとする接客業において、収益構造の健全性を示す指標です。高い比率は利益の圧迫要因であり、継続的な見直しと改善が求められます。

食材費・人件費・家賃をバランス良く管理し、数値の見える化と改善の習慣化を図ることで、店舗の収益力と持続可能性を高められます。


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