- 更新日 : 2025年12月5日
ジレンマはなぜ起きる?ビジネスで頻発する理由と解決策を徹底解説
ビジネスの現場では、「働き方を変えたいのに業務量が減らない」「新しい取り組みを進めたいのに関係者が動かない」など、どちらを選んでも何かを失うように感じるジレンマが日常的に発生します。
本記事ではこうしたジレンマがなぜ起きるのか、そしてなぜ簡単に解決できないのかという背景を解説していきます。判断基準のぶつかり合いや関係者の価値観の違い、そもそもの前提の誤りなどの観点から確認しましょう。
目次
ビジネスにおけるジレンマとは?
ビジネスのジレンマは、正しい答えを選ぶ行為というより、関係者が納得できる落としどころを見つけていく過程として受け止められています。ジレンマに向き合った上での判断は、単なる選択では終わらないからです。
ビジネスでは、どちらも大切に思える選択肢がぶつかり、判断に迷う瞬間があるでしょう。トレードオフが優先順位を決めて片方を選ぶ構造だとすると、ジレンマは選んだ後も心に引っかかりが残るところに難しさがあります。
引っかかる要素が残る要因として、どちらも正しいと感じる一方でどちらにも欠点があり、スパッと結論を出せない状態となるからです。社内の意見や顧客の期待が交差すると、合理性だけでは割り切れず、判断に時間がかかることもあるでしょう。
ジレンマが簡単に解決できない3つの理由
ジレンマが解決しにくい背景には、選択肢そのものの難しさだけでなく、関係者の価値観や前提条件が揃わないまま議論が進んでしまう構造があります。
表面上は二択に見えても、実際には判断基準や前提を問い直すところから始めないと、納得感のある答えにたどり着きにくくなります。
どちらも正しい選択肢だからこそ判断が揺れ動く
どちらを選んでも得られるものと手放すものが混ざっていると、簡単には踏み切れません。売上を追うか、品質を守るか。スピード重視か、慎重な検証か。どちらにも筋が通っているからこそ、人は迷います。
決めた後もやっぱり逆の方が良かったかもと頭の片隅に残り続け、判断そのものが負担になると思考が止まり、先送りが癖になることさえあるでしょう。迷いが長引くほど、意思決定のスピードも精度も落ちてしまいます。
関係者の価値観がずれて議論が平行線をたどる
立場ごとに大事にしているものが違うため、話し合いがかみ合わないことがあります。現場はスピードを求め管理部門はリスクを避けたい、営業は顧客を優先し、開発は技術的正確性を守りたい場合などです。
基準が揃わないまま議論を続けると、正しい答えを探す議論ではなく自分の正しさを通す議論に変わります。それぞれの落としどころが見つからないと、合意形成に時間がかかり、決断が遅れてしまいます。
気づけば、誰も納得していない中途半端な結論に落ち着くことも珍しくありません。
二者択一に見えても、問題の本質は見えていない前提にある
AかBかの構造は一見シンプルですが、裏には暗黙のルールや前提が隠れている場合があります。今のやり方を変えない前提や期限は動かせない前提を疑わないまま議論しても、堂々巡りになるだけです。
問いを少し変えて、そもそも今の制約は本当に外せないのか?と掘り下げると、第三の選択肢や別のやり方が見えてくる場合があります。選択肢ではなく前提を疑うことが、行き止まりに見える状況の突破口になることがあります。
ジレンマが組織で問題化する3つの理由
組織でジレンマが放置されると、意思決定の停滞や人間関係の摩耗といった影響が少しずつ積み重なっていきます。気づかないうちに疲弊が広がり、離職やチーム崩壊につながるリスクも生まれてしまいます。
いつまでも決まらない問題が続く
決められない状態が続くほど組織はじわじわ疲れていきます。企画を進めるのか、採用を止めるかといったテーマが会議のたびに持ち越され、議題だけ増えていくような状況はイメージするだけで頭が痛くなるものです。
議論が前に進まないまま数週間、あるいは数ヶ月が過ぎると、関係者の頭には誰に合わせれば正しいのか本当の優先順位は何なのかという疑問が残ります。
決まらない状態が長引くほど、メンバーの集中力は削られ最悪の場合、離職や異動という形で静かに代償が表れることがあります。
対立を放置すると組織がギクシャクする
価値観や部門の主張がぶつかったまま整理されないと、組織の判断基準がバラバラになります。利益・安全性・スピード・品質などの方針が曖昧なままでは意思決定のプロセスだけが増え、各部門の消耗につながっていくでしょう。
判断基準がバラバラな場合、仮に方向性が決まったとしても不満や温度差が生じてしまい、納得感につながりません。
違和感が残ったままで進んでいくと、言葉には出ない不満として蓄積していきます。挑戦よりも波風を立てない沈黙が選ばれ、誰もリスクを引き受けない組織文化が根づいていってしまうでしょう。
ストレスが限界になって、辞職につながる
ジレンマが続く職場では、正解がない状態に置かれ続ける疲れが生じます。最初は軽いモヤモヤ程度でも上司によって方針が違ったり、会議のたびに判断が覆ったりすると、何を信じて働けばいいのかという迷いがストレスへと変わります。
ストレスから眠りが浅くなったり出社前の憂うつ感が強くなったりすると集中力も落ち、ミスが増える自分にさらに落ち込む、という悪循環に入りやすくなるでしょう。
やがて意見を出すより沈黙でやり過ごすほうが安全だと感じるようになり、チャットのやり取りや表情の変化といった小さなサインが周囲にも見えるようになります。そして限界を迎えた瞬間、退職という形で静かに離れていく恐れがあります。
現場でよく起きる6つのジレンマとそれぞれの解決策
働き方や組織運営の中には、どちらも正しい部分があるため選べない状況が出てきます。制度・方針・理想だけでは進まず、現場とのギャップや優先順位の迷いが積み重なるほど、判断は難しくなるでしょう。
ジレンマが放置されると、改革・育成・改善の取り組みが途中で止まり、結局なにも変わらない状況を生み出してしまうことがあります。
働き方を変えたいのに仕事量が減らないジレンマ
制度として週休3日や残業削減を掲げたとしても、現場のタスクがそのままなら働き方は変わりません。制度だけ変えて仕事の棚卸しをしないと、働き方改革のための追加作業が増えて、むしろ残業が増えるといった皮肉な状況が生まれてしまいます。
結果、従業員は疲れやすくなり、改革は本当に必要なのかという空気が社内に漂い始めます。改革は負担だという認識が生まれると取り組む意味が揺らいでしまうため、上層部との温度差ができてしまい、現場はついていけません。
人を育てたいのに時間が取れないジレンマ
育成の重要性を理解していても、目の前の締め切りやクレーム対応などがあると、どうしても日々の運用作業が優先となるでしょう。OJT制度を整えても、実際は進捗確認だけで終わり、フィードバックや学びの時間が確保できない場合も少なくありません。
今すぐ働ける人がほしいという現場の声が強く、育成が後回しになるケースはよくあります。育成を後回しにしてきた積み重ねが、数年後に人材が育っていないという形で跳ね返ってきます。
経験者を採用する場合はコストが上がりますし、育成したくても育成する時間を確保できないというギャップがジレンマをより深くしています。
新しい挑戦を進めたいのに現場がついてこないジレンマ
経営層が新規事業・DX・仕組み化を掲げても、現場の仕組みや文化が時代に追いついていない状況では進めません。説明不足のまま変化を求めると、なぜそれをやるのかが曖昧な状態で現場は迷います。
新しい挑戦がリスクとして受け取られるほど、社員は慎重になり、動きが鈍くなる傾向があります。やる理由よりやらない理由が増えていくと、計画だけ前に進み実装は止まるでしょう。
温度差が積み重なると、挑戦そのものへの信頼が薄れ改革が空回りしやすくなり、変わりたい組織と変わらない現場の距離が広がってしまうのです。
経費を減らしたいのに品質は落としたくないジレンマ
会議ではコスト削減しつつ品質維持という理想が語られます。現実には安価な外注先に切り替えた結果、ブランドカラーがずれ、クレームに発展する場合があります。
品質にこだわり続ければ予算だけが膨らみ、利益が圧迫されていく問題も発生しかねないため、両立を目指すほど判断基準が揺れやすく意思決定が遅くなるでしょう。
放置すれば止まる・迷う・戻るの無限ループに陥り、前に進めなくなってしまうため、簡単には片付けられないテーマです。
すぐに成果を出したいのに長期の投資も必要なジレンマ
株主から四半期の数字を求められながら、中長期視点の研究や新規事業にも取り組む必要があります。短期成果を優先すれば市場評価は維持できますが、未来の伸びしろを削る可能性があるでしょう。
一方で長期投資に振り切ると、今期の実績不足として経営や株主の評価が揺らぎます。方向性が決まりきらないまま両方の期待に応えようとすると、事業戦略が曖昧になりがちです。
意思決定が遅れ、動きが小さくなるとどちらの成果も出ないという最悪の形に近づいてしまいます。投資は数字以上に覚悟の問題であると言えるでしょう。
メンバーの希望とチーム全体の最適解がずれるジレンマ
個人には働き方・やりたい仕事・キャリアの希望がありますが、全員の希望をそのまま採用すると、業務の偏りや不公平感が生まれやすくなります。
逆にチームとしての最適解だけを優先すると、メンバーは我慢する状態が続き、やがて疲れてしまうでしょう。疲労の積み重ねがモチベーション低下や離職につながるケースは少なくありません。
調整すればするほど答えが曖昧になり、どこに線を引くべきか迷う瞬間が増えていきます。
だからこそ、単なる調整業務ではなく、組織の信頼構築と密接に関わると意識する必要があります。
ジレンマを戦略的資産に変えるための4つのステップ
ジレンマを感情的な迷いから再現性のある意思決定プロセスに変えるための流れを解説していきます。状況整理から合意形成・視点転換・そして仕組み化まで段階的に進めることで、悩みを一度きりの出来事ではなく組織の学習資源に変えていけるでしょう。
① 対立している2つの軸を見える化し全体像を整理する
何と何が対立しているのかの軸をはっきりさせます。ホワイトボードに短期の利益や長期のブランド価値を書き出すだけで、議論の方向が揃い始めます。コスト・スピード・顧客満足・現場負担など、実際の言葉に置き換えるほど迷いが減るでしょう。
関係者や影響範囲を整理し、誰の視点が抜けているか確認すると抽象的だった迷いが、どの優先軸を採用するかという具体的な議題に変わります。最初の可視化が、判断の出発点になるのです。
② 判断基準と優先順位を揃えて対立を一度整える
議論を続ける前に、今回は何を優先して決めるのかを決めます。例えば短期利益よりも長期顧客維持を優先するのか、速度よりも安全性を取るのかなどです。
曖昧なまま進めると、会議は必ず感情的になります。共有ドキュメントで基準・期限・守る条件を書き、合意しておくと議論が止まりません。全員が100%納得しなくても、基準を設定し判断を握るという土台づくりが、迷走しない意思決定の仕組みになります。
③ 前提をズラして第三の選択肢を生む
Aを選ぶかBを選ぶかという構図だけが正解ではありません。時間を2段階に分けて実施するか対象者を限定して試す、別部門と共存策を探るなど、前提を一度疑ってみると選択肢が増えます。
小規模な検証をおこなえば、致命傷を避けながら可能性を試せるでしょう。全部かゼロかではなく、どこまでなら両立できるかを探す視点が突破口になります。思い込みを外した瞬間、ジレンマからの気付きを得られるでしょう。
④ 出てきた気付きを仕組みに変えジレンマを資産とする
議論や試行で得た基準・ルール・判断のプロセスは、暗黙知にせず仕組みに残しましょう。チェックリストやガイドラインに落とし込めば、次に同じ迷いが起きても時間を浪費しません。成功例も失敗例も並べて、理由つきで記録することがポイントです。
定期的にレビューし、状況に合わせて更新していくことで制度は育ちます。ジレンマをその場限りの悩みで終わらせず、組織の知として積み上げていくと企業としての強みにつながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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