- 更新日 : 2025年11月13日
分離発注とは?コスト削減の仕組みとデメリットを解説
建設工事のコストを抑えたいと考え、「分離発注」という方式を耳にしたことがあるかもしれません。分離発注とは、施主(発注者)がハウスメーカーや工務店などに一括で依頼するのではなく、設計、大工、電気、水道といった専門業者とそれぞれ直接契約する方法です。
分離発注方式は中間マージンを削減できる可能性がある一方、施主側の管理業務が大幅に増える点に注意が必要です。工事全体のスケジュール調整や業者間のトラブル対応など、すべてを自身で担う覚悟が求められるでしょう。
本記事では、分離発注の基本的な仕組みから、メリット・デメリット、向いているケース、さらには公共工事や補助金との関連まで、わかりやすく解説します。
目次
そもそも分離発注とは?一括発注との違いは?
分離発注は、施主が各専門工事業者と個別に直接契約する方式です。一般的な一括発注が1つの窓口(ハウスメーカーなど)に全て任せるのに対し、分離発注では施主が自ら複数の契約を管理する点が大きく異なります。
分離発注の仕組み
建築工事は、設計、基礎工事、大工工事、屋根工事、電気設備工事、水道設備工事など、多くの専門的な工事から成り立っています。
通常(一括発注)は、施主がハウスメーカーや工務店といった「元請け」と契約を結びます。元請けは、これらの各専門工事を下請けの専門業者に手配し、工事全体の管理を行います。
一方、分離発注では、施主がこの「元請け」の役割を担います。施主自身が、設計事務所とは設計・監理契約を、大工とは大工工事の契約を、電気工事業者とは電気工事の契約を、といった具合に、必要な専門業者と個別に契約を結んでいきます。
分離発注と一括発注との違い
分離発注と一括発注の大きな違いは、契約の相手方と管理業務の工数です。
一括発注では、窓口が一本化されるため、施主の手間はかかりません。トラブルが発生した際の責任も元請けが負います。その代わり、元請けの管理費用や利益(中間マージン)が工事費用に含まれます。実務状は誰がどの範囲を負うかは契約条項によることが多いため責任の所在を契約実務上明確にしておくことが重要です。
対して分離発注は、中間マージンがかからないため、コストを抑えられる可能性があります。しかし、施主がすべての業者を選定し、スケジュールを調整し、品質を管理する必要があります。
| 比較項目 | 一括発注 | 分離発注 |
|---|---|---|
| 契約先 | ハウスメーカー、工務店など1社 | 設計事務所、大工、電気業者など複数社 |
| 中間マージン | 発生する(元請けの管理費・利益) | 発生しない |
| 施主の管理業務 | 少ない(窓口が一本化) | 非常に多い(全業者の調整・管理) |
| 責任の所在 | 元請け1社に集中 | 施主と各専門業者に分散 |
分離発注のメリットはコスト削減だけ?
分離発注のメリットは、コスト削減の可能性に加え、品質・透明性の確保や要望の伝えやすさも挙げられます。専門業者と直接やり取りすることで、中間マージンがなくなり、施主の意図が伝わりやすくなるためです。
中間マージンの削減によるコストダウン
分離発注のメリットは、コストダウンの可能性でしょう。一括発注では、元請けとなる建設会社や工務店が、下請け業者を手配・管理するための経費や利益として「中間マージン」を工事費に上乗せします。分離発注では、施主が直接専門業者と契約するため、この中間マージンが発生しません。
質の高い工事が期待できる
各専門業者の仕事ぶりを施主が直接確認できるため、品質への関心が高まり、結果として質の高い工事が期待できる場合があります。また、どの工事にいくらかかっているのか、各業者からの見積もりを直接受け取るため、費用の内訳が明確になります。一括発注の「一式」見積もりでは見えにくい部分が透明化されるでしょう。このため業者選定、管理次第では質の高い工事を期待することができます。
要望やこだわりを伝えやすい
施主が各専門業者と直接コミュニケーションを取るため、細かな要望やこだわりを伝えやすくなります。「元請けに伝えたはずなのに、現場の職人さんに伝わっていなかった」といったミスマッチを防ぎやすくなる点もメリットです。自分の希望する特定の専門業者に直接依頼したい場合にも適しています。
分離発注のデメリットや主なトラブルとは?
分離発注をする際は、各工事の管理業務の負担や、専門知識の必要性、責任の所在の曖昧化といったデメリットがあります。複数の業者間の調整や品質・原価管理をすべて施主が行う必要があり、トラブル時の対応も複雑になりがちです。
施主の管理業務が大幅に増加
分離発注では、施主が実質的な現場監督の役割を担います。
- 複数の業者間のスケジュール調整
- 工事の進捗管理
- 現場の安全管理
- 各工事の品質チェック
- 原価管理(予算と実績の照合)
これらすべての管理業務を施主自身が行わなければならず、膨大な時間と労力が必要になります。
建築に関する専門知識が不可欠
各工事業者が提示する見積もりが適正か、行われた工事の品質が妥当か、次の工程に進んで問題ないか。これらを判断するには、建築に関する高度な専門知識が不可欠です。知識がないまま進めると、かえって割高になったり、品質に問題が生じたりする恐れもあります。
トラブル発生時の責任の所在
工事に問題(トラブル)が発生した際、責任の所在が曖昧になりがちです。例えば、壁紙の仕上がりが悪い場合、それが壁紙業者の施工の問題なのか、その下地を作った大工の問題なのか、原因の特定が難しくなることがあります。一括発注であれば元請けが責任をもって対応しますが、分離発注では施主が自ら原因を究明し、各業者と交渉しなければなりません。
分離発注はどのような人に向いている?
分離発注は、時間と労力をかけてでもコスト削減を最優先し、かつ建築知識が豊富な人に向いています。施主自身が工事全体を管理する能力が求められるためです。
分離発注が向いているケース
以下のような人は、分離発注を検討する価値があるかもしれません。
分離発注を検討する価値があるのは、まずコスト削減を最優先する人です。リスクを理解した上で、中間マージンの削減に挑戦したいと考える人に向いています。また、工事費の内訳をすべて把握したい、費用の透明性を重視する人にも適しているでしょう。さらに、建築に関する専門知識が豊富で、専門家と対等にやり取りができ、品質や工程を自ら管理できる能力も求められます。
業者選定や現場管理に十分な時間を割ける人、そしてデザインや施工方法に強いこだわりがあり、希望する専門業者に直接依頼したい人にも適した方式といえます。
分離発注が向いていないケース
一方で、手間やスケジュール管理を業者に任せたい人には、一括発注をおすすめします。仕事や家事で忙しく、現場管理に時間を割けない人には分離発注は基本的には向いていません。
また、トラブル時の窓口を一本化したい、つまり問題が起きた際にすべて任せられる安心感を優先する人も一括発注が適しています。加えて、建築の知識に自信がなく、プロの視点から幅広くアドバイスを受けたい人にも、分離発注は推奨しにくい方式です。
分離発注は住宅ローンや補助金に影響する?
分離発注を選択した場合、金融機関によっては住宅ローンを受けにくくなる可能性があり、補助金利用時も注意が必要です。完成建物の品質が予想しにくくなると判断されたり、補助金の申請手続きが複雑になったりする場合があるからです。
住宅ローン審査への影響
金融機関によっては、分離発注の案件に対して融資を慎重に判断する場合があります。理由としては、施主の管理能力によって完成する建物の品質が不安定になるリスクや、工事が途中で頓挫するリスクを一括発注よりも高いと見積もることがあるためです。住宅ローンを利用して建築を考えている場合、分離発注に対応している金融機関を事前に探す必要があります。
補助金(子育てグリーン住宅支援事業等)の利用
国土交通省が管轄する「こどもエコすまい支援事業」や「子育てエコホーム支援事業」は、すでに申請受付を終了しています 。2025年度は、これらの後継事業として「子育てグリーン住宅支援事業」が実施されています 。
この「子育てグリーン住宅支援事業」においても、分離発注で補助金を利用することは可能です 。ただし、分離発注(施主が複数の事業者に補助対象工事を発注すること)で申請するにはルールがあります 。
注意点として、工事を請け負う施工業者のうち1社が「代表事業者」となり、他の事業者を代表して交付申請の手続きや補助金の還元を一括して行う必要があります 。
特にリフォーム工事で分離発注を利用する場合、代表事業者以外の業者が行う工事については、施主(工事発注者)が代表事業者に対して責任を負う形になります 。そのため、施主自身が「分離発注申請書」を作成したり、各施工業者から「分離発注工事証明書」を取りまとめて代表事業者に提出したりするなど、通常より複雑な手続きが求められます 。
住宅ローンの取扱いは金融機関によって異なります。分離発注では支払先が複数に分かれるため、つなぎ融資や分割実行の可否等の条件を事前確認することをお勧めします。
公共工事における分離発注とは?
公共工事においては、法令に基づき、工事の種類や金額によって分離・分割して発注することが原則とされる場合があります。これは、中小企業の受注機会の確保や、適正な競争を促す目的があるためです。
公共工事における原則
会計法や地方自治法施行令では、工事を内容によって分離・分割して発注することが求められるケースがあります。これは、特定の巨大企業だけが受注するのではなく、多くの事業者に機会を与え、公正な競争を促進するための措置です。
民間(住宅など)の分離発注が「施主のコスト削減」を主目的とすることが多いのに対し、公共工事の分離発注は「機会均等」や「適正競争」といった公共の利益を目的としています。
国土交通省の指針
国土交通省も、公共工事の品質確保や入札契約の適正化に関する指針の中で、工事の特性に応じた適切な発注方式(分離発注を含む)の検討を促しています。ただし、過度に細かく分離発注すると、かえって工事間の調整が複雑化し、非効率や品質低下を招く恐れもあるため、バランスが求められます。(関連ワード:国土交通省)
参照:公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針|国土交通省
分離発注を請け負う工事には建設業許可が必要?
分離発注方式で工事を請け負う場合、専門業者の側には工事内容や金額に応じて建設業許可が必要です。建設業許可は「建設工事の完成を請け負う事業者」に求められるため、工事を発注する施主自身が自宅などを建てるために分離発注を行う場合には、許可は必要ありません。
ただし、契約するそれぞれの専門業者(大工、電気、水道など)は、請け負う工事の種類や金額(例:税込500万円以上の工事など)に応じて、建設業許可を取得していなければなりません。
具体的には、税込500万円未満(建築一式は1,500万円未満又は木造150㎡未満)は許可が不要となります。ただし、元請が5,000万円超(建築一式は8,000万円超)の下請契約を締結する場合は特定建設業許可が必要となります。そのため、施主側には、契約前に業者が適切な建設業許可を持っているかどうかを確認する責任があります。
分離発注まとめ
分離発注とは、施主が専門業者と直接契約する方式であり、一括発注と比べて中間マージンを削減できる可能性があります。この方式により、費用の透明性が高まり、施主の細かな要望が現場に伝わりやすくなるメリットも期待できるでしょう。
しかし、その反面、施主自身が工事全体のスケジュール管理や品質管理、原価管理、さらにはトラブル対応まで、すべての責任を負う必要があります。成功させるには、建築に関する高度な専門知識と、膨大な時間・労力を投じる覚悟が不可欠です。
分離発注のデメリットやリスクを十分に理解した上で、自身の知識、時間、管理能力が適しているか慎重に判断する必要があるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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