- 作成日 : 2024年12月9日
【利益供与】子会社と親会社の具体例と判断基準、会計処理を解説
利益供与とは会社が取引先や資本関係にある会社に対して利益を供与(提供)することです。利益供与は法律で厳しく制限されているため、決まりを守らず行ってしまうと重大なトラブルに発展する恐れがあります。
本記事では、利益供与の定義や子会社と親会社間での利益供与の問題点、具体例についてご紹介していきます。
目次
利益供与とは?
利益供与とは企業が特定の個人や企業に対し、無償または不正に便宜を図り、利益を提供する行為を指します。
会社法に基づき親会社が子会社や役員、株主に対して不適切な利益供与を行うことは禁止されており、これらに該当する行為は税務上の問題や企業ガバナンスに抵触する可能性があります。
利益供与の概要とその目的
利益供与の多くは子会社や取引先との関係を強化する、企業全体の税負担を軽減するなどの目的で行われますが、不正な利益供与は法律で厳しく制限されています。
適切な範囲であれば合法的な取引の一部として認められる場合もありますが、無償提供や値引き、その他財産上の利益供与などが過剰であると違法とみなされる可能性が高いでしょう。
子会社と親会社の利益供与とは?
子会社とは親会社によって経営支配されている企業であり、親会社はその経営や財務に一定の影響力を持っています。親会社と子会社間の取引における利益供与とは、親会社が子会社に対して、またはその逆に、通常の市場条件を超えて利益を供与する行為を指します。
例えば、無償で資産を譲渡したり、著しく低い価格でサービスを提供したりする行為は利益供与に該当します。
会社法ではこうした不適切な利益供与が企業ガバナンスや税務に悪影響を与える可能性があるため、厳しく規制しています。また、脱税を目的としてこのような行為が発覚した場合、法人税法のもと税務調査の対象になる可能性もあるため、注意が必要です。
子会社と親会社の利益供与は何が問題なのか
親会社と子会社の間で行われる利益供与には、会社法や税務上の問題が生じる可能性があります。
ガバナンス面
まず、会社法では利益供与が他の株主や債権者に不利益をもたらす行為とみなされ、企業ガバナンスの観点から不適切とされます。特に、親会社が子会社に資金や資産を無償または著しく低い価格で提供する場合、これが他の株主の利益を損なう行為とみなされ、問題となることがあるでしょう。
税務上の問題
税務上の観点からも利益供与が発生すると不正な節税手段とみなされるリスクがあります。例えば、子会社から親会社への無償提供や過度な値引きは、税務署から移転価格税制に基づいて指摘を受ける可能性があり、追徴課税の対象になることもあるでしょう。
上記の理由から、親子会社間の利益供与は慎重に取り扱う必要があります。
子会社から親会社への利益供与とみなされる具体例
子会社から親会社への利益供与とみなされる具体例として、以下のような取引が挙げられます。
1. 無償での資産提供
子会社が親会社に対して無償で資産やサービスを提供する場合、利益供与とみなされる可能性があります。
例えば、子会社が所有する不動産を親会社に無償で貸与する場合は、親会社が通常支払うべき賃料相当額が不正に減少するため、他の株主や債権者に不利益をもたらす行為とみなされることがあります。
2. 過度な値引きによる販売
子会社が親会社に対して市場価格よりも著しく低い価格で商品やサービスを販売する行為も、利益供与とみなされるケースがあります。
このような取引は、税務上の移転価格税制において問題視されることが多く、不当な節税目的として指摘されるリスクがあります。
親会社から子会社への利益供与とみなされる具体例
親会社から子会社への利益供与とみなされるケースとして、以下のような取引が挙げられます。
1. 無償または低利での資金提供
親会社が子会社に対し無償もしくは市場利率より大幅に低い利率で融資を行う場合、不当な利益供与とみなされることがあります。子会社は通常の金融機関から借り入れる際にかかる利息を免れるため、他の株主や債権者の利益を損なう可能性があります。
2. 不当な高額の取引
親会社が子会社から市場価格よりも高額で商品やサービスを購入する行為も利益供与に該当する可能性があります。このような取引は子会社の利益を不自然に引き上げ、財務の健全性を損なう恐れがあるため、税務上の観点からも問題視されています。
子会社と親会社の利益供与にならないケース
親会社と子会社間の取引がすべて利益供与に該当するわけではありません。以下でご紹介する事例のように、利益供与や不当な行為ではないケースも複数存在しています。
完全子会社の場合
親会社が100%出資している完全子会社との取引は、他の株主が存在しないため利益供与とみなされることがほとんどありません。親会社と完全子会社は利益が直接共有される関係にあるため、特別な利益が発生しても第三者に不利益を与えることはないためです。
ただし、税務面では取引内容が妥当であることが求められ、移転価格税制などに注意が必要です。
市場価格で取引を行う場合
市場価格に基づいて親子企業間の取引が行われる場合も利益供与とはみなされません。例えば、親会社が子会社から製品を購入する際に市場価格で取引を行うことで、公正な条件が担保されます。これにより、第三者に不利益が及ぶことはなく、税務上も適正な取引として認められるため、利益供与の問題は回避できます。
適性な契約に基づく取引の場合
親会社と子会社が双方の利益を守るため適正な契約に基づいて行う取引も利益供与には該当しません。例えば、取引条件を文書で明確にし、各取引の目的や条件を正確に記載することで、税務署や監査法人に対しても説明が可能になります。このような適正な契約を前提とすることで、不自然な利益移転とみなされるリスクを避けられます。
子会社の再建支援の場合
子会社が経営危機に陥った際に親会社が再建支援を行うケースも、利益供与とみなされないことが多いです。この支援は通常、子会社の存続を目的としたものため、利益の意図的な移転ではありません。
ただし、支援内容が通常の商習慣を逸脱している場合や、他の株主の利益が損なわれる場合には注意が必要です。
子会社と親会社の利益供与とみなされた場合はどうなるか
親会社と子会社間で利益供与とみなされた場合、違法行為として罰則やリスクが発生することがあります。ここからは違法と判断されたケース、罰則、リスクへの対応策についてご紹介します。
違法な利益供与のケース
会社法や税法に違反する形で利益供与が行われた場合、不適切な利益の移転と判断され、第三者への影響が問題視されます。特に他の株主や債権者の利益を損なう場合は、取引が不当とされ、税務調査が入る恐れもあります。
罰則
違法と認定された場合、法人税の追徴課税や罰金が科される可能性があります。また、親会社の経営陣や経理担当者が法的責任を問われる場合もあり、企業の信頼性が大きく損なわれるリスクも考えられます。
リスク対応策
利益供与とならないよう取引は市場価格で行い、適正な契約を締結することが重要です。また、第三者の監査を受けるなど、公正な取引であることを示す体制を整えることで、違法性の指摘や罰則リスクを抑えられます。
子会社と親会社の利益供与に関する会計処理のポイント
子会社と親会社間で利益供与が発生する場合、適正な会計処理が求められます。ここからは、その考え方や注意点をポイントごとにご紹介します。
公正価値での評価
親子間取引においては、市場での公正価値で評価を行い、他の株主や債権者に不利益が及ばないようにする必要があります。特に無償や値引きが絡む取引は、公正価値を基に処理を行うことで利益供与とみなされるリスクを軽減します。
取引の透明性確保
利益供与を疑われないように契約書を明確にし、取引の詳細を帳簿に正確に記録することが重要です。第三者による監査の導入も、会計処理の信頼性を高める方法の一つでしょう。
定期的な監査と見直し
親子間取引は企業統治や会計基準に基づいて定期的に見直しを行うことが重要です。状況に応じて処理の方法も変更する必要があるかもしれません。
子会社と親会社であっても法律や取引内容に注意しよう
親会社と子会社は普通の企業間よりも結びつきが強く、通常よりも有利な条件で取引が行われることも少なくありません。適切な内容の範囲であれば問題ありませんが、不正な取引や利益供与と判断された場合、加算税の支払いや法律上の罰則が課せられる可能性もあります。
通常の取引であれば利益供与と判断されるケースはほぼありませんが、中には判断が難しいものもあるので、専門家のサポートを利用しつつ適切に処理しましょう。
また、親会社と子会社間では連結決算を行いますが、ミスや間違いがないよう、連結決算に特化した会計システムを使用しましょう。マネーフォワード クラウド連結会計であれば、経理業務の効率化が図れ、ミスや不正の防止にもつながります。
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