- 更新日 : 2024年11月14日
電子契約の原本は何を指す?書面や写しとの違い、安全な保管方法を解説
電子契約の原本とは、契約の当事者同士が合意したのちに電子署名を施した最初のデータです。電子契約のデータは修正や削除ができず、まったく同じものを複製できます。そのため紙の書類と異なり、電子契約の原本と写しを厳密に区別する必要はありません。本記事では、電子契約における原本の扱い方や保管方法について詳しく解説します。
目次
電子契約の原本となるもの
電子契約における原本とは、契約を交わす当事者同士が合意して、電子署名を交わした最初のデータを指します。ただし、電子契約では、原本とそれ以外を明確に区別しておく必要性はありません。データをコピーしても、電子署名やタイムスタンプのハッシュ値は変わらず、改変されていないことが証明できるためです。
電子契約については以下の記事でくわしく解説しています。
電子契約と紙の契約書の原本の違い
電子契約でも紙の契約書でも、電子署名や記名押印などによって最初に作成されたものが原本である点は共通しています。それぞれの違いを以下で紹介します。
紙の契約書の原本
紙の契約書の場合、当事者同士が記名押印や署名捺印をしたものが原本です。記名は手書きのほか、会社名と住所・氏名を1つにしたハンコでも可能です。筆記用具や印鑑のインクが直についていることや筆圧によって、契約書の原本がどれかを判断しやすいでしょう。
紙そのもののやり取りとなるため、内容の確認や記名押印などを行うには、持参や郵送など物理的な移動が必要です。同じように記名押印したものを双方が1部ずつ持ち、紙のままで保管しておかなければなりません。
電子契約の原本
電子契約の場合、双方が電子署名を施したデータが原本です。電子署名とは、暗号技術を用いて電磁的に署名する方法で、いつ署名したかが秒単位まで記録されるタイムスタンプが同時に施されます。電子署名前のオリジナルの状態から内容が改変されていないことが保証され、同一のものをいくつでも複製できます。そのため、厳密にはどのデータが原本なのかの区別はつきにくいです。ただし、内容が改変されないことから、原本とそれ以外を明確に区別する必要性はありません。
電子契約では、インターネットを通じて同じサーバー上にあるデータに電子署名を施すため、持参や郵送は不要です。そのため、契約の手順をスムーズかつ効率的に進められます。電子契約の保管はそれぞれの当事者が行う必要があり、紙ではなくデータ形式で保管しなければなりません。
電子契約の原本と写しの違い
「写し」とは書面やデータを複製したもの全般を指します。電子契約の場合は、電子署名後ダウンロードしたデータをコピーしたものが写しにあたります。ただし、電子契約では改変不能で同一のデータをコピーできるため、原本と写しの違いを明確にする必要性はありません。
電子契約の原本の保管方法は?
電子契約の原本は、電子契約サービスのクラウド上や自社のサーバーなどに保管されることが一般的です。以下では、電子契約の保管方法について知っておきたい点を解説します。
電子データのまま保管
電子契約は「電子取引」に分類されるため、その証をデータのままで保管しなければなりません。電子取引とは、データのやり取りを電磁的に行うことです。メールにデータを添付して送付したり、オンラインのクラウド上でデータをやり取りしたりする場合も、電子取引に含まれます。
電子契約の場合は、電子契約サービスの利用や、WordやPDFなどをメールで送るといったやり取りが一般的です。いずれも電子取引に該当するため、紙に出力するのではなくデータのまま保管しなければなりません。
電子帳簿保存法の要件を満たして保管する
取得した電子契約のデータが、電子帳簿保存法の要件を満たしているかどうかもチェックする必要があります。電子帳簿保存法のデータ保存における主な要件は以下の通りです。
- 真実性の確保(改変されていない・訂正削除の履歴が残る)
- 可視性の確保(ディスプレイへの表示やプリントアウトが可能)
- 検索性の確保(取引年月日・金額・取引先で検索可能)
- システムの概要書の備え付け(自社で開発した管理システムを使っている場合)
電子契約サービスを利用する場合は、元のファイルを改変することなく、電子署名の際にタイムスタンプが付与されるため、真実性は確保しやすいでしょう。しかし、電子契約サービスを用いずWordやPDFなどによって作成したデータで電子契約を行う場合は、タイムスタンプを施したり、改変不可能または履歴が残るシステムを使ったりしなければなりません。
このほか、可視性や検索性の確保、概要書の備え付けなどの要件は、自社で環境を整えることで満たす必要があります。
紙の契約書を電子化する場合でも原本は保管する
電子契約の導入に伴い、過去に締結した契約書もデータ形式で保管したいと思う方もいるかもしれません。紙の契約書を電子化するとしても、原本は保管しておくことをおすすめします。以下では、原本を残すべき理由と電子化の注意点を見ていきましょう。
紙の契約書の原本は残す
紙の契約書は、スキャンしてパソコンに取り込み電子化することで保管可能です。電子帳簿保存法では「スキャナ保存」も可能とされており、要件を満たすことでデータによる保存が認められています。
ただし、スキャンすることで書類そのものの保存要件は満たせるものの、契約書の原本と同等の法的効力は認められない場合があります。そのため、契約書をスキャンして電子化しても、紙の原本は残しておく方が望ましいでしょう。
紙の契約書をPDF化する場合の注意点
一般的に、紙の契約書の後文には「本書2通を作成し、甲乙各自が記名押印または署名捺印の上、それぞれが1通ずつを保有する」という旨の記載があります。この場合は「本書」つまり紙の契約書そのものが原本です。一方、PDF化した契約書は「原本の写し」にすぎず、法的な効力が認められない場合があります。
とくに民事訴訟の証拠として提示する場合には、紙の契約書をスキャンしたPDFデータは「写し」として扱われ、原本と同一の証拠価値が認められない可能性があります。不測の事態に備えるためにも、契約書を電子化したあとも紙の原本は保管しておきましょう。
電子契約の原本の提出が必要となるケース
電子契約では原本とそれ以外を区別しておく必要性はありません。ただし、「原本」を求められる場合もあります。以下では、電子契約の原本が求められる2つの場合に、どのように対応すればよいかを紹介します。
訴訟において提出が求められる場合
民事訴訟においては証拠を「原本」として提出した場合、証拠の取り調べのために、裁判所から文書の原本の提出を求められます。電子契約の原本は契約成立の証として最初に作成されたデータであり、クラウド上や自社サーバーに保管されているものです。そのため、そのデータをプリントアウトして提出するという対応となるでしょう。
証拠として提出する電子契約については、法律で明確に定められているわけではありません。しかし、実際にプリントアウトしたものが証拠として採用された例もあるため、以上の対応で問題ないと考えられます。
税務調査において提出が求められる場合
税務調査においては取引が適正で正しく税務申告しているかを確認するために、原本の提出を求められる場合があります。税務調査では、一般的に国税庁管轄の職員が来社して書類や入力データなどの確認を行います。そのため、クラウド上や自社サーバーに保管されている電子契約のデータを、速やかに表示して確認してもらえる環境を整えておくことで対応できるでしょう。
電子契約を安全に保管できるシステムとは?
電子契約の内容を確認したり、求めに応じてすぐに提出したりするためには、電子契約システムを使うと便利です。マネーフォワードクラウド契約では、新たに電子契約を締結できるだけでなく、他社の電子契約サービスを使った電子契約や紙の契約書の管理も可能です。契約数の上限はなく、数が増えることで課金が必要となることもありません。電子契約や契約書を安心・安全に管理するために、ぜひマネーフォワード クラウド会計のご利用を検討してください。
電子契約の原本は契約に際して最初に作成されたデータのこと
電子契約の原本は、契約者同士が電子署名を行い作成した最初のデータです。しかし、電子契約の場合はまったく同じデータを容易に作成できるため、原本と写しを明確に区別しておく必要性は低いといえます。保管はデータのままの状態で、電子帳簿保存法の要件を満たさなければなりません。訴訟や税務調査などで提出を求められることもあるため、電子契約システムを使うなどして適切に保管しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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