- 更新日 : 2025年4月2日
インサイダー取引とは?対象となる行為や罰則、防止策などをわかりやすく解説
インサイダー取引とは、株価に影響する事実を知る上場企業関係者が、事実の公表前に自己の利益や損失回避を目的として有価証券等を売買することです。家族や友人との話で何気なく重要事実を口にしたことから行われる場合もあります。
本記事では、インサイダー取引の概要、対象者や行為、企業での防止策についてわかりやすく解説します。
目次
インサイダー取引とは
インサイダー取引とは、重要事実を知った上場企業関係者が、事実の公表前に自己の利益や損失回避を目的に有価証券等の売買を行うことです。金融商品取引法で禁止されている不正取引の代表格です。
では、なぜインサイダー取引は禁止されているのでしょうか。法律上の定義を踏まえて解説します。
法律におけるインサイダー取引の定義
金融商品取引法第166条によると、インサイダー取引の定義は以下のように整理できます。
上場会社の役職員など会社関係者が、その会社における業務等に関する重要事実を自身の職務等に関して知った場合、重要事実が公表される前に、当該上場会社の株式を売買すること。
インサイダー取引とみなされるポイントは、「会社関係者が、重要事実を職務上知ったときに、事実の公表前に売買をする」ことです。上記すべてに当てはまると、インサイダー取引とみなされます。
インサイダー取引が禁止されている理由
会社の内部にいる人間しか知り得ない情報(重要事実)は、株式の価格に大きな影響を与える可能性があります。したがって、重要事実を先に知って行うインサイダー取引は、以下の理由で禁止されています。
- 一般の消費者が不利な立場で取引を行うことになる
- 金融証券市場の信頼性や公平性、健全性が損なわれる可能性がある
インサイダー取引は金融商品取引法違反です。違反すると、各種罰則が適用されます。
インサイダー取引の規制対象となる有価証券
インサイダー取引として規制される有価証券や取引は、次のとおりです。
- 当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買
- 特定有価証券等の有償による譲渡
- 合併や分割による承継
- デリバティブ取引
上記「特定有価証券等」には、次の証券等が挙げられます。
- 社債券
- 優先出資証券
- 株券
- 新株予約権証券
- 投資証券
- その他政令で定める有価証券など
インサイダー取引の規制対象となる重要事実
インサイダー取引の要件は「重要事実の公表前に有価証券等を売買すること」です。「公表」とは、証券取引所の適時開示情報伝達システム(TDnet)を通じて「適時開示情報閲覧サービス」に情報が掲載された時点を指し、この時点でインサイダー取引規制は解除されます。
「重要事実」は企業の業績や経営に関する未公表情報で、株価に大きな影響を与える可能性があるものです。これには企業の意思決定による「決定事実」、意思に関係なく発生する「発生事実」、決算情報、子会社の重要事項などが含まれます。
これらの情報が公表前に取引されると、インサイダー取引規制に抵触するおそれがある点に注意が必要です。ここでは、規制対象となる重要事実について詳しく解説します。
上場会社等の決定事実
上場企業が経営上の重要な決定を行った場合、その内容は「決定事実」とされ、公表前に取引を行うことはインサイダー取引に該当する可能性があります。
重要な決定事項には、新製品の開発や販売の決定、大規模な設備投資、M&A(合併・買収)計画、資本業務提携の締結などが該当します。これらの情報は株価に大きく影響を与えるため、公表前に知った者が取引を行うとインサイダー取引規制の対象となります。
なお、意思決定が社内で確定していない段階であっても、市場に重大な影響を及ぼすと判断される場合は「決定事実」として扱われることが一般的です。
上場会社等の発生事実
「発生事実」とは、上場企業の意思決定によらずに発生する事象であり、株価に大きな影響を与える可能性があるものを指します。例えば、大規模な自然災害や火災による事業への影響、訴訟や行政処分の発生、経営陣の不祥事、公的機関による調査開始などが発生事実に該当します。
企業側の意思とは無関係に発生する事象であっても、市場の信頼を損なうリスクがあるため、これらの情報を知った者が公表前に株式を取引することはインサイダー取引に該当する可能性があります。
そのため、発生事実については、金融商品取引法に基づき、企業が迅速かつ正確に情報開示を行うことが必要です。
上場会社等の決算情報
決算情報は、企業の業績を示す重要指標であり、未公表のものはインサイダー取引規制の対象です。四半期・年度決算における売上高や利益などの数値は投資判断に大きく影響するため、事前に知った者による公表前の取引は法律で禁止されています。
また、決算情報には、業績の急変や利益予想の大幅修正なども含まれ、これらの情報が適時開示される前に関係者が取引を行うと、インサイダー取引に該当する可能性があります。そのため、企業は決算情報の管理を徹底し、不正な情報流出を防ぐ対策が必要です。
子会社に関する重要事実
上場企業の子会社が事業運営上の重要な決定を行った場合も、親会社の株価に影響を与える可能性があるため、インサイダー取引規制の対象です。これには、子会社の上場、重要な資本提携、新規事業の開始、大規模なリストラ、財務状況の急変などが挙げられます。
また、子会社の経営判断が親会社の価値に直結する場合、その情報を知った者が公表前に取引を行うことは違法となる可能性があります。
このように、親会社と子会社の関係性や情報管理体制が厳しく求められるため、グループ企業全体で適時開示のルールを遵守することが重要です。
規制対象となるその他の重要事実
インサイダー取引の規制対象となる「重要事実」には、法律で明示されたものだけでなく、投資家の判断に大きな影響を与える情報も含まれる場合があります。これは「バスケット条項」と呼ばれ、未公表の状態で取引を行うとインサイダー取引に該当する可能性があります。
例えば、政府の大型プロジェクトへの採用、新技術の開発成功、主要取引先の経営破綻など、株価に影響を与えるが法律上明示されていない事象が挙げられます。
インサイダー取引の規制対象者
インサイダー取引の規制は、未公表の重要事実を知った者による不公正な取引を防ぐために設けられています。この規制は、「会社関係者」だけでなく、「情報受領者」も対象です。
ここでは、それぞれの対象者について詳しく解説します。
会社関係者
インサイダー取引の規制対象は、上場会社等に係る業務等に関する重要事実を知った会社関係者です。対象は金融商品取引法で規定されています。会社関係者でなくなった期間が1年以内の者も、法律上「会社関係者」とみなされます。
インサイダー取引の規制対象となる「会社関係者」は、次のとおりです。
情報受領者
情報受領者とは、以下第一次、第二次情報受領者のように、会社関係者から未公表の重要事実を伝えられた者を指します。金融商品取引法では、公表前にこの情報を利用した取引はインサイダー取引に該当します。
- 第一次情報受領者
会社関係者から直接重要事実を伝達された者
例:役員が知人にM&A計画を伝え、その知人が株式を購入した場合 - 第二次情報受領者
第一次情報受領者から間接的に情報を得た者
例:SNSで拡散された未公表情報を知り取引した場合
第二次情報受領者は原則として規制対象外ですが、共謀(共同正犯)や未公表情報と認識した上で取引を行った場合は処罰の対象となることがあります。
インサイダー取引に該当する事例
インサイダー取引に該当する行為は、大きく次の2種類に分けられます。
- 重要事実を知った者が事実の公表前に有価証券を売買するケース
- 他人の利益もしくは損失回避のために重要事実を伝達する、もしくは取引を勧めるケース
それぞれにおいて、規制されている具体的な行為を見ていきましょう。
重要事実を知った者が事実の公表前に有価証券を売買するケース
金融商品取引法では、重要事実を知った会社関係者や業務上情報を受け取った者が、事実が公表されない期間中に株式等を売買すること(同166条)や公開買付や売付けを行うこと(同167条)が禁止されています。
対象となるのは、以下のような事例です。利益が出ていなくても、未公開の重要事実を知って株式の買付けを行った時点で、インサイダー取引となります。
- 自社に大幅な利益増や損失計上があることを同僚から聞き、持株会で購入していた自社株を、事実の公表前に売却した
- 数ヶ月前に退職した社員が、自社の今期売上高がかなり上昇することを在籍中に知り、退職した会社の株式を購入した
- 近況報告がてら自社Aと取引先Bが業務提携する旨の重要事実を家族に話した結果、家族がA社株式の買付けを実施した
- ある飲食店の従業員が、店に来ていた上場会社社員が、食事中に自社が合併する話をしているのを聞いた。従業員は、事実の公表前に上場会社株の買付けを実施した。
他人の利益もしくは損失回避のために重要事実を伝達する、もしくは取引を勧めるケース
会社関係者が、他人の利益供与もしくは損失回避のために情報を伝達する、もしくは取引を勧めることも禁止です(金融商品取引法167条の2)。以下のようなケースが該当します。
- 利益を得させる目的で、ある会社を子会社化する企業の株式買付を知人に推奨した
- 利益を得させる目的で、公開買付が行われる事実を知人に伝え、知人は公開買付前に株式の買付けを行った
- 利益を得させる目的で、勤務先が自社株の取得を行うことを決定した旨を友達に伝え、自社の株式購入を推奨した
インサイダー取引にどこまで該当するのか
インサイダー取引は、未公表の重要事実を利用した不公正な取引を防止するため、金融商品取引法によって厳しく規制されています。しかし、どのような行為が具体的にインサイダー取引に該当するのか、判断が難しいケースも少なくありません。
ここでは、インサイダー取引に該当するかどうかを判断する重要なポイントについて解説します。
公表前に取引を行ったか
インサイダー取引に該当するかどうかを判断する上では、取引の時点が重要です。重要事実が公表される前に株式等を売買した場合、インサイダー取引とみなされる可能性があります。
たとえ利益を得ていなくても、未公表の重要事実を知りながら取引を行った時点で規制の対象となります。
情報の入手経路が適法か
未公表の重要事実をどのように知ったかは、インサイダー取引の重要な判断基準です。直接的な会社関係者でなくても、その情報が未公表の重要事実であると認識しながら取引した場合、規制の対象となることがあります。
例えば、第三者からの情報を基に取引を行った場合であっても、その情報が未公表の重要事実であると認識していれば、インサイダー取引とみなされる可能性が高いでしょう。ここで重要なのは、情報の入手経路そのものではなく、取引者がその情報の性質を理解した上で行動したかどうかという点です。
未公表の重要事実と知りながら取引に及んだ場合、規制の対象となると考えられます。
未公表情報の伝達・推奨も規制対象
インサイダー取引は、自ら取引を行うだけでなく、未公表の重要事実を他人に伝達したり、取引を推奨したりする行為も規制の対象です。これにより、未公表情報の不正な拡散が防止され、公正な市場の維持が図られます。
また、情報の伝達者と取引実行者の双方が責任を問われるため、未公表情報の不正利用を効果的に抑止する仕組みとなっています。情報を知った者だけでなく、それを伝える側にも法的責任が発生する点はこの規制の重要な特徴です。
インサイダー取引がバレる理由
インサイダー取引は、日本取引所自主規制法人による売買審査により発覚します。売買審査とは、簡単に言うと「法令上の重要事実が公表された上場銘柄に対して実施される審査」です。
売買審査では、次のような点が調査されます。
- 株価や売買高の推移
- 売買シェアの偏向性
- 売買した顧客情報
- 売買審査結果や売買委託者のデータ
- 重要事実を公表するまでの経緯
疑わしい取引は、売買調査を経て証券取引等監視委員会へ報告され、インサイダー取引と認定されます。
インサイダー取引規制に違反した場合の罰則
インサイダー取引が告発されると、立件を経て逮捕される可能性があります。有罪となった場合の刑罰は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金です。2つの刑罰が併科される場合もあります。さらに、同法198条の2により、インサイダー取引で得た財産はすべて没収です。
インサイダー取引を行った結果、会社からの懲罰も受けることになります。減給、降格など、最悪の場合は懲戒解雇です。それだけでなく、会社の信用を失墜させ損害を与えたことにより、自社から高額な損害賠償を請求される可能性もあります。
インサイダー取引の防止策
企業内でのインサイダー取引を防止するには、以下のように社内ルールや法規制の周知徹底を図ることが大切です。
- 自社の株式売買やインサイダー取引に関するルールの周知
- インサイダー取引や重要事実についての社内研修
たとえ家族や友達との会話であっても、重要事実を軽々しく話すことは、インサイダー取引の元となり得ます。インサイダー取引を未然に防ぐためには、社内ルールや法規制を繰り返し周知し、社員のインサイダー取引に関する意識を高めることが大切です。
さらに、次のような社内制度の整備も必要です。
- 株式取引の承認制を導入する
- インサイダー取引に関する誓約書を提出させる
- 未公開の会社情報漏えいや不正利用への情報管理を実施する
- 重要事実は適時かつ適切に開示する
インサイダー取引を防ぐために必要な対策を
インサイダー取引は、未公表の重要事実を利用した不公正な取引であり、金融商品取引法で厳しく規制されています。違反すれば、刑事罰や罰金のほか、企業内での懲戒処分や社会的信用の喪失にもつながります。
防止のためには、社内ルールの明確化、定期的な研修、情報管理体制の強化が不可欠です。未公開情報の適切な管理を徹底し、社員一人ひとりが意識を高めることで、インサイダー取引のリスクを最小限に抑えることができます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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