• 作成日 : 2025年12月9日

営業プロセスマネジメントとは?導入のメリットと組織力を高める秘訣を解説

「特定の営業担当者の成績に売上が左右されてしまう」「新人営業がなかなか育たない」「営業活動の状況がブラックボックス化している」。これらは、多くの中小企業が抱える営業組織の課題ではないでしょうか。こうした課題を解決し、組織全体の力で安定的に成果を出し続けるための仕組みが「営業プロセスマネジメント」です。

本記事では、営業プロセスマネジメントの基本的な考え方から、導入によって得られる具体的なメリット、成功させるためのステップ、そして組織力を高める秘訣まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。

営業プロセスマネジメントとは?

営業プロセスマネジメントは、営業担当者個人のスキルや経験といった属人的な要素に頼るのではなく、営業活動の各段階(プロセス)を組織として管理・改善していくマネジメント手法です。まずは、その基本的な考え方と重要性について理解を深めましょう。

営業プロセスマネジメントの基本的な考え方

営業プロセスマネジメントの根幹にあるのは、受注という「結果」だけでなく、そこに至るまでのアポイント獲得、初回訪問、提案、クロージングといった一連の「プロセス」に着目するという考え方です。各プロセスを細分化して「見える化」し、それぞれの段階でどのような行動が成果に繋がっているのかを分析・評価します。これにより、成功パターンの発見や課題の特定が容易になり、組織全体で共有・実践することが可能になります。

プロセスマネジメントが営業に必要な理由

現代の市場は変化が激しく、顧客のニーズも多様化・複雑化しています。かつてのような一人のスーパー営業マンの活躍だけでは、継続的に成果を上げ続けることが難しくなっています。組織として、顧客情報や成功ノウハウを蓄積・共有し、チーム全体で最適なアプローチを模索することが不可欠です。プロセスマネジメントを導入することで、営業活動が標準化され、担当者が変わっても一定の品質を保った対応が可能になり、組織全体の営業力が底上げされます。

結果(KGI)とプロセス(KPI)の管理の違い

営業プロセスマネジメントを理解する上で重要なのが、KGIとKPIという2つの指標です。KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)は「売上高〇〇円達成」といった最終的な目標を指します。一方、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)は、そのKGIを達成するための中間的な指標のことで、「月間訪問件数〇件」「新規アポイント獲得数〇件」などが該当します。結果だけを追うのではなく、結果に繋がる行動(プロセス)をKPIとして設定・管理することが、目標達成の確度を高める鍵となります。

営業プロセスマネジメント導入のメリット

営業プロセスマネジメントを導入することで、企業は具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。ここでは、組織の成長に直結する5つの代表的なメリットをご紹介します。

営業活動の属人化を防ぎノウハウを共有

優秀な営業担当者のノウハウやナレッジは、個人の頭の中に留まりがちです。プロセスマネジメントによって営業活動の各ステップが可視化されると、誰がどのような行動で成果を上げているのかが明確になります。その成功パターンを組織の「型」として標準化し、全体で共有することで、特定の個人に依存しない、安定した営業体制を構築できます。これにより、担当者の退職による売上ダウンのリスクも軽減できます。

営業課題の早期発見と迅速な改善

プロセスごとに数値データ(KPI)を追うことで、「アポイントは取れるが、提案後の失注が多い」「初回訪問から次のステップに進む確率が低い」といった、ボトルネックとなっている課題を客観的に把握できます。問題点が具体的なプロセスで特定できるため、原因の分析や改善策の検討がしやすくなります。これにより、迅速かつ的確な対策を講じ、PDCAサイクルを効果的に回すことが可能になります。

営業担当者の早期戦力化と育成コスト削減

標準化された営業プロセスは、新人や経験の浅い営業担当者にとって、具体的な行動指針となります。何をどのような順番で行えばよいかが明確になるため、迷いなく業務に取り組むことができ、早期の戦力化が期待できます。また、育成する側も、標準プロセスに基づいて指導できるため、教育の効率化と均質化が図れ、結果的に人材育成にかかる時間とコストの削減に繋がります。

顧客満足度の向上

営業プロセスが標準化されると、担当者によるサービス品質のばらつきが少なくなります。どの担当者からでも一定水準以上の提案や情報提供を受けられるため、顧客は安心して取引を進めることができます。また、組織として顧客情報を管理・活用することで、より顧客のニーズに寄り添った的確な提案が可能となり、結果として顧客満足度の向上、そして長期的な信頼関係の構築に繋がります。

正確な売上予測

各営業プロセスの進捗状況や、それぞれの段階での成功確率(転換率)をデータとして蓄積することで、将来の売上を高い精度で予測できるようになります。例えば、「今ある商談のうち、〇件が来月には受注に至るだろう」といった見通しが立てやすくなります。正確な売上予測は、適切な人員配置や投資計画など、安定した経営判断を行うための重要な基盤となります。

営業プロセスマネジメント成功の5ステップ

営業プロセスマネジメントは、ただ導入すればよいというものではありません。正しいステップを踏んで、自社に合った形で定着させることが成功の鍵です。ここでは、導入を成功に導くための基本的な5つのステップを解説します。

ステップ1:営業プロセスの可視化

最初のステップは、現状の営業活動を洗い出し、一連の流れを「見える化」することです。トップ営業マンや現場の担当者にヒアリングを行い、「誰が」「いつ」「何を」「どのように」行っているのかを具体的に把握します。顧客との出会いから受注、そしてアフターフォローに至るまでの全ての工程を、フローチャートなどを用いて整理するとよいでしょう。この段階では、良し悪しを判断せず、ありのままの姿を把握することが重要です。

ステップ2:課題の特定と目標設定

可視化された営業プロセスを基に、各段階での課題を特定します。例えば、「リード獲得数が少ない」「商談化率が低い」「クロージングに時間がかかりすぎている」など、数値データも参考にしながらボトルネックとなっている部分を洗い出します。次に、それらの課題を解決するための具体的な目標、つまりKGI(最終目標)と、それを達成するためのKPI(中間目標)を設定します。目標は、具体的で測定可能なものにすることがポイントです。

ステップ3:理想的な営業プロセスの設計

特定した課題を解決し、設定した目標を達成するために、最も効果的・効率的だと考えられる「理想的な営業プロセス」を設計します。各ステップで達成すべきこと(ゴール)と、そのために必要な行動(アクション)を具体的に定義します。この際、現場の意見を十分に反映させ、現実離れしたプロセスにならないように注意することが重要です。成功している営業担当者の行動を参考に、組織としての「勝ちパターン」を構築しましょう。

ステップ4:組織への浸透と実行

設計した新しい営業プロセスを、組織全体に浸透させ、実行に移すステップです。なぜこのプロセスが必要なのか、その目的やメリットを丁寧に説明し、メンバー全員の理解と納得を得ることが不可欠です。マニュアルの作成や研修の実施などを通じて、具体的な行動レベルまで落とし込みます。最初は戸惑うメンバーもいるかもしれませんが、マネージャーが積極的にサポートし、チーム全体で取り組む姿勢を示すことが定着の鍵となります。

ステップ5:評価と継続的な改善

プロセスを実行した後は、必ずその結果を評価します。設定したKPIが達成できているか、各プロセスの進捗は順調かなどを定期的にモニタリングします。思うような成果が出ていない場合は、その原因を分析し、プロセス自体を見直す必要があります。市場や顧客の状況は常に変化するため、一度作ったら終わりではなく、PDCAサイクルを回し続け、常により良いプロセスへと改善していく姿勢が重要です。

営業プロセスマネジメントで活用できるフレームワーク

営業プロセスを設計・分析する際には、先人たちの知恵が詰まった「フレームワーク」を活用すると効率的です。ここでは、営業活動の各場面で役立つ代表的なフレームワークを3つご紹介します。

BANT条件

BANT条件は、法人営業において商談の確度を見極めるためによく用いられるフレームワークです。Budget(予算)、Authority(決裁権)、Needs(必要性)、Timeframe(導入時期)の4つの頭文字を取ったもので、これらの情報をヒアリングすることで、その案件に注力すべきかどうかを判断する材料になります。特に、多くの案件を抱える中で、リソースを効率的に配分したい場合に有効です。

SPIN話法

SPIN話法は、顧客が自ら課題に気づき、購買意欲を高めることを目的としたヒアリングのフレームワークです。Situation(状況質問)、Problem(問題質問)、Implication(示唆質問)、Need-payoff(解決質問)の4つの質問を順番に行うことで、顧客の潜在的なニーズを引き出し、自社の商品やサービスがその解決策であることを自然に認識させることができます。大型商談やコンサルティング型の営業に適しています。

MEDDIC

MEDDICは、特に複雑で高額なBtoB商談を成功に導くためのフレームワークです。Metrics(測定指標)、Economic Buyer(決裁権者)、Decision Criteria(決定基準)、Decision Process(決定プロセス)、Identify Pain(課題の特定)、Champion(擁護者)の6つの要素を確認し、案件の状況を客観的に評価します。受注までに多くの関係者が関わるような案件で、失注リスクを管理するのに役立ちます。

営業プロセスマネジメントのよくある失敗と対策

多くのメリットがある営業プロセスマネジメントですが、導入方法を誤ると形骸化してしまう恐れもあります。ここでは、よくある失敗例とその対策について解説します。

目的が曖昧なまま管理を始めてしまう

「とりあえずプロセスを管理しよう」というように、目的が曖昧なまま始めてしまうと、単なる報告業務が増えるだけで、現場の負担感を増大させてしまいます。「売上を安定させる」「新人育成の期間を半減させる」など、何のためにプロセスマネジメントを行うのか、その目的を明確にし、組織全体で共有することが最初の重要なステップです。目的が明確であれば、メンバーもその必要性を理解し、主体的に取り組むことができます。

現場の意見を無視したプロセスを作る

経営層や管理職だけで理想的なプロセスを設計し、現場に押し付けてしまうケースも失敗に繋がります。実際の営業活動を知らないまま作られたプロセスは、現実的でなかったり、非効率だったりすることが多く、現場の反発を招きかねません。プロセスの設計段階から現場の営業担当者を巻き込み、彼らの意見や知見を積極的に取り入れることで、実用的で納得感のあるプロセスを構築することができます。

ツール導入が目的化してしまう

営業プロセスマネジメントを支援するSFA(営業支援システム)などのツールは非常に有効ですが、ツールを導入すること自体が目的になってしまうことがあります。大切なのは、自社の課題を解決するためにツールを「どう活用するか」です。まず自社の営業プロセスを確立し、その上で、そのプロセスを効率的に運用するために必要な機能を持つツールは何か、という視点で選定することが重要です。

営業プロセスマネジメントを効率化するツール

営業プロセスマネジメントを効果的に運用するためには、ITツールの活用が不可欠です。ここでは、代表的なツールとその役割についてご紹介します。

SFA(営業支援システム)の活用

SFA(Sales Force Automation)は、営業活動を支援するためのシステムです。商談の進捗状況、顧客とのやり取りの履歴、日々の活動報告などを一元管理できます。各営業担当者の活動がデータとして可視化されるため、プロセスの進捗管理やKPIのモニタリングが容易になります。マネージャーはリアルタイムで状況を把握し、的確なアドバイスを送ることが可能になります。

CRM(顧客関係管理)の活用

CRM(Customer Relationship Management)は、顧客情報を管理し、顧客との良好な関係を維持・向上させるためのシステムです。顧客の基本情報に加え、購入履歴や問い合わせ履歴などを一元管理することで、顧客一人ひとりに合わせたきめ細やかなアプローチが可能になります。営業部門だけでなく、マーケティング部門やカスタマーサポート部門と顧客情報を連携させることで、全社的な顧客満足度の向上に繋がります。

請求書送付業務の自動化による効率化

営業活動の最終段階である契約・請求プロセスも、マネジメントの対象です。特に、請求書の作成や送付といった作業は、営業担当者や経理担当者にとって意外と時間のかかる業務です。SFAやCRMと連携できる請求書発行システムを導入すれば、見積書からワンクリックで請求書を作成したり、定期的な請求を自動化したりできます。これにより、営業担当者はコア業務である顧客との対話に、より多くの時間を割けるようになります。

ツール選定のポイント

SFAやCRMなどのツールには様々な種類があります。選定する際は、価格や機能の多さだけで選ぶのではなく、「自社の営業プロセスに合っているか」「現場の担当者が直感的に使えるか」「他のシステムと連携できるか」といった視点が重要です。まずは無料トライアルなどを活用し、実際の使用感を確かめてから導入を決定することをおすすめします。

営業プロセスマネジメントで持続的な組織成長を実現する

営業プロセスマネジメントは、単に営業活動を管理・標準化するだけの手法ではありません。プロセスを通じて成功体験や失敗体験を組織の資産として蓄積し、チーム全体で学び、改善を続けていく文化を醸成するものです。

個人の能力に依存した不安定な状態から脱却し、組織全体の力で安定的に成果を出し続ける体制を構築すること。それが、変化の激しい時代を勝ち抜き、企業が持続的に成長していくための重要な基盤となります。この記事を参考に、ぜひ自社の営業活動を見直し、組織力を高める第一歩を踏み出してください。

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