- 作成日 : 2025年9月22日
飲食店のランニングコストの内訳と目安は?利益を残すための削減術
飲食店を経営していると、「毎日忙しく働いているのに、なぜか手元にお金が残らない」と感じることはありませんか。その原因は、お店を運営するために毎月かかっている「ランニングコスト」の把握が曖昧になっているからかもしれません。
安定した利益を生み出すお店作りは、このランニングコストを正しく理解し、適切に管理することから始まります。この記事では、ランニングコストの内訳から、業態ごとの目安、そしてコストを削減するための具体的な方法まで、わかりやすく解説していきます。
目次
飲食店経営にかかるランニングコストとは?
ランニングコストとは、お店を継続して運営していくために、毎月決まって発生する費用のことです。開業時にかかる初期費用(イニシャルコスト)とは区別されます。このランニングコストは、その性質から大きく「変動費」と「固定費」の2種類に分けられ、それぞれの特徴を理解することがコスト管理においてとても大切です。
売上に連動して変わる「変動費」
変動費は、その月の売上や来客数に応じて金額が変わる費用です。お客様が増えれば増えるほど、この費用も大きくなる傾向にあります。
売上に関わらず発生する「固定費」
固定費は、たとえお客様が一人も来ず、売上がゼロだったとしても、毎月一定額がかかる費用です。経営者にとって、この固定費をいかにまかなうかが常に頭を悩ませる問題となるでしょう。
飲食店のFLコスト(原価・人件費)の考え方
ランニングコストの中でも、とくに重要とされるのが「FLコスト」です。これは、Food(食材費)とLabor(人件費)の頭文字をとったもので、この2つのコスト管理が、飲食店の利益を左右すると言っても過言ではありません。
FLコストの目安は売上の60%以内
一般的に、健全な飲食店経営におけるFLコストの合計は、売上の60%以内に抑えるのが理想とされています。
食材費であるFコストの目安は、売上の30%前後です。ただし、これは業態によって大きく異なります。たとえば、ドリンクはフードに比べて原価が低い傾向にあるため、お酒がよく出る居酒屋やバーでは、全体の原価率を抑えやすいでしょう。その分、フードメニューの原価率を少し上げて品質を高め、顧客満足度を向上させるという戦略もとれます。
人件費であるLコストも、同様に30%前後が目安です。こちらも、オーナー自身が厨房に立つのか、あるいは正社員中心で店を回すのかによって変わってきます。オーナーの人件費(役員報酬)をどこまで計上するかも、事前に決めておくべきでしょう。
このFLコストの合計が65%、70%と上がっていくと、売上からFLコストを引いた「売上総利益(粗利)」が著しく減少します。残った粗利の中から家賃や光熱費など、他のすべての経費を支払わなければならないため、利益を出すのは非常に困難になります。
FLRコストという考え方
最近では、FLコストにRent(家賃)を加えた「FLRコスト」という指標も重視されています。家賃も固定費の中で大きな割合を占めるため、この3つの合計で売上の70%以内に収まっているかどうかが、経営状態を判断するひとつのバロメーターになります。開業時の物件選びがいかに重要かを示す指標とも言えるでしょう。
飲食店のランニングコストのシミュレーション
「うちの店のコストは、果たして適正なのだろうか?」そんな疑問に答えるために、具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。ここでは、席数20席ほどの個人経営の飲食店が、1日の売上10万円を達成した場合を想定します。
- 1日の売上:10万円
- 月間営業日数:25日
- 月間売上:250万円
費用の項目 | 金額(円) | 売上比率 |
---|---|---|
食材費(F) | 750,000 | 30% |
人件費(L) | 750,000 | 30% |
家賃(R) | 250,000 | 10% |
水道光熱費 | 125,000 | 5% |
その他経費 | 250,000 | 10% |
ランニングコスト合計 | 2,125,000 | 85% |
営業利益 | 375,000 | 15% |
このシミュレーションでは、月の営業利益が37.5万円となります。しかし、これはあくまでモデルケースです。もし、仕入れ価格の高騰などで原価率が3%上がって33%になった場合、食材費は82.5万円となり、利益は30万円に減少します。逆に、シフト管理の工夫で人件費率を28%に抑えられれば、人件費は70万円となり、利益は42.5万円に増えます。
このように、わずか数パーセントのコスト変動が、最終的な利益に数十万円単位のインパクトを与えます。日々の売上一つひとつも大切ですが、それと同じくらいコストの構造を意識しましょう。
飲食店ランニングコストを抑える方法
利益を増やすためには、ランニングコストをいかにして抑えるかが大きなポイントです。ここでは、明日からでも始められる具体的な削減方法を紹介します。
変動費を抑える工夫
変動費は日々の努力が直接数字に反映されやすい費用です。まず、フードロスを徹底的に削減することから始めましょう。食材の在庫管理をシステム化したり、ABC分析を用いて売れ筋商品と死に筋商品を把握し、仕入れを最適化したりする方法があります。使いきれなかった食材は、まかないや日替わりメニューに活用するなどの工夫も大切です。
次に、仕入れ先の見直しも検討しましょう。複数の業者から見積もりを取る、共同仕入れを利用する、地元の農家から直接仕入れるなど、品質を落とさずにコストを下げる方法を探します。
水道光熱費の節約も、地道ながら効果があります。節水コマの設置やこまめな消灯はもちろん、空調設備のフィルターを定期的に清掃するだけでも、消費電力は変わってきます。長期的な視点では、最新の省エネ型厨房機器への入れ替えや、電力・ガス会社の切り替えも大きな削減につながるでしょう。
固定費を抑える工夫
固定費は一度見直すと、その効果が継続するのが特徴です。人件費については、お客様の来店が少ないアイドルタイムにはスタッフの人数を減らすなど、客数予測に基づいた効率的なシフト作成が基本となります。「人時売上高」という、従業員1人が1時間あたりに稼ぐ売上高を指標に、生産性を管理するのも良い方法です。
また、意外と見落としがちなのが、BGMや有線放送、予約管理システムなどの月額サービスです。より安価で機能が十分なサービスに乗り換えるだけで、年間数万円のコストを削減できることもあります。
飲食店の売上を上げて利益を増やすには
飲食店でのコスト削減は大切ですが、そればかりに目を向けて料理の質やサービスレベルが低下してしまっては本末転倒です。利益を最大化するためには、コスト管理という「守り」と同時に、売上を上げるという「攻め」の努力も欠かせません。
客単価を上げる工夫
お客様一人あたりの利用金額を上げるための工夫をしましょう。単純な値上げではなく、付加価値を伝えることが大切です。たとえば、松竹梅のように3段階の価格帯のコースメニューを用意すると、中間の価格帯が選ばれやすくなる心理効果(アンカリング効果)が期待できます。
また、「とりあえずビール」のお客様に、少しこだわりのクラフトビールをおすすめしたり、料理に合うワインを提案したりすることも客単価アップにつながります。
回転率を上げる工夫
限られた席数で売上を最大化するには、お客様の回転率を上げることが求められます。とくにランチタイムが主戦場の店舗では死活問題です。仕込みの段取りを改善したり、厨房内の動線を整理したりして、注文から料理提供までの時間を1分でも短縮する努力をしましょう。また、ランチメニューを数種類に絞ることで、お客様が悩む時間を減らし、調理効率も上げられます。
リピーターを増やす施策
新規顧客の獲得には、広告費など多くのコストがかかります。安定した経営のためには、一度来てくれたお客様に、また来たいと思ってもらうことが何よりも大切です。ポイントカードやLINE公式アカウントなどを活用し、リピーター向けのクーポンや限定情報を発信して、お客様との関係を育てていきましょう。
また、お客様の顔と名前、前回注文したメニューなどを覚えておき、次の来店時に「〇〇様、いつもありがとうございます。今日は△△はいかがですか?」と声をかける。こうしたアナログなコミュニケーションが、お客様の心に最も響くリピート促進策なのかもしれません。
ランニングコストの見直しが、利益を生む店づくりに
飲食店経営において、ランニングコストを正確に把握することは、人間ドックで自分の健康状態を知るのと同じくらい大切なことです。どこにどれだけのお金がかかっているのかを「見える化」することで、初めて具体的な改善策を立てられます。どんぶり勘定のままでは、どこから手をつけていいのかさえわかりません。
日々の売上に一喜一憂するだけでなく、FLコストをはじめとする経費に目を向け、削減できるところはないか、その費用は本当に売上につながっているのかを常に自問自答する姿勢が求められます。
コスト管理と売上向上の両輪をバランスよく回していくことが、どんな状況でも利益をしっかり残せる「強い飲食店」を作るために重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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