- 作成日 : 2026年1月19日
ストックオプションの会社法上の発行手続きとは?株主総会決議や条文、税制適格の要件を解説
結論から言うと、ストックオプションは会社法において「新株予約権」と定義されており、導入には会社法第238条等の条文に基づいた厳格な発行手続きが必要です。特に非公開会社では、既存株主の利益を守るために株主総会の特別決議が原則必須となります。
本記事では、ストックオプションの会社法上の定義から、発行フロー、税制適格要件(最大3,600万円等)、登記手続き、そしてM&A等の出口戦略まで詳しく解説します。
目次
会社法におけるストックオプションの定義は?
ストックオプションという法律用語はなく、会社法上は「新株予約権」の一種として扱われます。
会社法第2条第21号において、新株予約権とは「株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利」と定められています。ビジネス用語としての「ストックオプション」は、この新株予約権を役員や従業員等に付与する制度全体を指す言葉です。
発行にあたっては、会社法第238条に基づき「募集事項」を決定し、適切な機関決定(株主総会や取締役会)を経る必要があります。
- ストックオプション:従業員等に自社株を購入する権利を与えるインセンティブ制度の通称。
- 新株予約権:会社法上の法律用語。あらかじめ定めた価格で株式を取得できる権利。
報酬としての位置づけと職務執行の対価
役員にストックオプションを付与する場合、原則として「職務執行の対価」として会社法上の報酬規制を受けます。
取締役等に対するストックオプションの付与は、会社法第361条における「報酬等」に該当するため、定款に定めがない場合は株主総会の決議が必要です。金銭報酬とは異なり、非金銭報酬(株式報酬等)として扱われるため、その具体的な内容(新株予約権の総数や算定方法など)を明確にする必要があります。
会社法におけるストックオプションの主な種類は?
ストックオプションは「権利取得にお金がかかるか(有償・無償)」と「税制優遇があるか(適格・非適格)」で分類されます。
無償ストックオプション(税制適格・非適格)
無償ストックオプションとは、権利そのものの取得に金銭の払込みを要しない新株予約権を指します。
会社法上は、払込金額を0円とする新株予約権の発行となります。主に社内の役職員へのインセンティブとして利用されます。さらに税務上の要件を満たすかどうかで以下の2つに分類されます。
- 税制適格ストックオプション:一定の要件を満たすことで、権利行使時の課税が繰り延べられる(給与所得課税されない)タイプ
- 税制非適格ストックオプション: 権利行使時に給与所得として課税されるタイプ
有償ストックオプション
有償ストックオプションとは、発行時に公正な価格(時価)で新株予約権を購入させる仕組みです。
ベンチャーキャピタル等の投資家向けや、業績条件付きインセンティブとして利用されます。公正な評価額に基づいた金銭の払い込みを伴います。上場意欲の高いオーナー経営者などが、あえて有償で引き受けるケースなどもあります。
税制適格ストックオプションの要件は?
税制適格ストックオプションとは、一定の要件を満たすことで、権利行使時の課税が繰り延べられる優遇措置です。
通常、権利行使時に生じた利益(時価との差額)は給与所得として最大約55%課税されますが、税制適格であれば、株式を売却するまで課税されず、売却時に譲渡所得(約20%)として課税されるため、手取り額が大きく異なります。
租税特別措置法に基づく主な要件
税制適格と認められるためには、以下の要件を全て満たす必要があります。特に「年間権利行使価額」の上限緩和(スタートアップ特例)は重要な変更点です。
- 対象者
当該株式会社の取締役、執行役、使用人(従業員)であること。
※外部協力者(社外高度人材)への付与を可能にする制度もあります。 - 無償発行
無償で発行されるものであること。 - 権利行使期間
決議の日から2年を経過した日から10年を経過する日(設立5年未満の非上場会社は15年を経過する日)まで。 - 権利行使価額
契約締結時の1株あたりの価額(時価)以上であること。 - 権利行使限度額
権利行使価額の年間合計額が 1,200万円以下であること。
※設立5年以上20年未満等の要件を満たす株式会社等は最大3,600万円まで上限が引き上げられています。 - 譲渡制限
譲渡禁止であること。 - 株式の管理等
証券会社等と管理等信託契約等を締結し、株式を管理すること。ただし、譲渡制限株式については、発行会社による株式の管理も可能。
参考:租税特別措置法 | e-Gov 法令検索、ストックオプション税制|経済産業省
ストックオプションの発行手続きと決議の流れは?
会社法第238条に基づき、以下の3ステップで手続きを進めます。
1. 募集事項の決定と決議機関
まず、誰にどのような条件で新株予約権を発行するかという「募集事項」を決定します。
会社法第238条に基づき、以下の項目を決定する必要があります。
- 新株予約権の内容と数(行使期間、行使価額など)
- 新株予約権の払込金額(無償か有償か)
- 割当日
- 払込期日
ここで重要になるのが「本源的価値」の概念です。
本源的価値とは、「株価(時価)」と「権利行使価額」の差額部分(含み益)を指します。税制適格ストックオプションでは、原則として付与時の時価以上に行使価額を設定する必要があるため、付与時点での本源的価値はゼロとなるように設計します。
2. 株主総会の特別決議(非公開会社の場合)
非公開会社では、原則として「株主総会の特別決議」が必須です。
非公開会社(全ての株式に譲渡制限がある会社)で新株予約権を発行すると、将来的に株式数が増え、既存株主の持分比率が薄まる(希薄化)リスクがあります。そのため、既存株主の保護として以下の決議が求められます。
- 特別決議の要件:議決権の過半数を有する株主が出席し、その3分の2以上の賛成が必要。
- 委任による簡略化:募集事項の決定を株主総会決議によって取締役会(または取締役)に委任することも可能です(会社法第239条)。この委任を受ければ、個別の発行ごとの株主総会開催は不要となり、機動的な発行が可能になります。
- 公開会社の場合:取締役会決議のみで決定可能です(有利発行を除く)。
3. 割当て・契約・登記申請
募集事項の決定後、対象者と割当契約を締結し、発行日から2週間以内に登記申請を行います。
無償ストックオプションの場合、報酬としての側面が強いため、会社法第361条に基づく「報酬決議」も併せて必要になるケースが一般的です。
登記を怠った場合、会社法第976条に基づき100万円以下の過料(罰金のようなもの)に処される可能性があるため、期日管理は厳守しなければなりません。
ストックオプションの登記手続きと期限は?
新株予約権を発行した日から2週間以内に、本店の所在地において変更登記を申請しなければなりません。
会社法第911条および第915条に基づき、登記事項に変更が生じた場合は速やかな登記が義務付けられています。この期限を過ぎると、過料が科される可能性があるため注意が必要です。
主な添付書類
登記申請には、株主総会議事録や新株予約権の引受けを証する書面などが必要です。具体的な添付書類は以下の通りです。
- 株主総会議事録:募集事項の決議を証する書面
- 取締役会議事録: 割当て決議等がある場合
- 新株予約権引受証(または総数引受契約書):引受けの事実を証する書面
- 定款:必要に応じて添付
登録免許税
新株予約権の発行登記にかかる登録免許税は、9万円です(会社法区分等の例外を除く)。これは資本金の額に関わらず一律の金額となるケースが一般的です。
ストックオプションの導入前に知っておくべき会社法の注意点は?
ストックオプションの導入前に知っておくべき会社法の注意点も解説します。
1. 既存株主への影響
発行枠(プール)は発行済株式総数の10%〜15%程度に抑えるのが一般的です。
ストックオプションの発行は株式の希薄化(ダイリューション)を招き、既存の株主の持分や1株当たりの価値が相対的に減少します。会社法は特に第三者に対して有利な条件(無償など)で発行する場合を「有利発行」とし、厳格な説明責任と特別決議を求めています。投資家との投資契約書において発行上限が制限されている場合も多いため、法務確認と同時に株主間契約の確認も必須です。
2. 退職時の取り扱い
設計時に最も揉めるポイントの一つが、退職時の扱いです。
一般的に、新株予約権割当契約書には「権利行使前に退職した場合は、新株予約権を喪失する(または会社が無償で取得できる)」旨の条項を入れます。これを定めておかないと、退職者が将来的に株主となり、経営に関与するリスクが残ります。会社法上の手続きだけでなく、契約書(設計図)の作り込みが重要です。
3. 上場しない場合の出口戦略
必ずしもIPO(株式上場)だけがゴールではありません。上場しないままM&Aによってイグジットを目指す場合でも、ストックオプションは有効です。
M&Aの際、買い手企業によってストックオプションが買い取られる、あるいは買い手企業のストックオプションに転換されるなどの取り扱いが行われることが多いため、一般的には権利者の利益は維持されます。
ストックオプション関連の主な会社法条文一覧
実務で参照されることが多い条文を整理しました。
- 第236条(新株予約権の内容):新株予約権の定義や設計内容
- 第238条(募集事項の決定):発行条件の決定プロセス
- 第239条(募集事項決定の委任):株主総会から取締役会への委任
- 第240条(公開会社における特則):取締役会での決定権限
- 第309条(株主総会の決議):特別決議の要件
- 第361条(取締役の報酬等):役員報酬としての決議要件
ストックオプションの導入時は会社法にもとづく設計を
ストックオプションの導入は、会社法の手続き(株主総会、特別決議、登記)、税法の要件(税制適格、本源的価値の評価)、そして金商法など複数の法律が複雑に絡み合います。
- 非公開会社は株主総会の特別決議が必須
- 税制適格要件(最大3,600万円枠など)を正しく理解する
- 発行後2週間以内の登記を忘れない
手続きの不備は、将来のIPO審査やM&A交渉において大きな支障をきたします。導入検討の際は、弁護士・公認会計士・司法書士といった専門家と連携し、条文に則った適法かつ効果的な設計を行うことを強く推奨します。
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