- 更新日 : 2025年6月9日
IPOに向けた社内規程(社内規定)の重要性、作成ポイントを解説
IPOに向けた社内規程の整備は、上場審査をクリアする上で重要なプロセスです。また、法令遵守やガバナンス強化によって対外的な信用力が高まることで、企業価値の向上も期待できます。本記事では、社内規程の重要性や作成のポイントを解説します。
目次
IPOにおける社内規程(社内規定)とは
IPOにおける社内規程とは、上場に向けて整備すべき社内ルールや規則を指します。上場企業には、そうでない企業よりも高い水準での法令遵守やガバナンス強化などが求められます。そのためIPOを実現したい企業は、暗黙となっているものも含めてルールを明文化し、全社員に周知させる必要があります。
また適切な社内規程の運用は、企業の透明性や持続可能な成長を支える基盤となります。
IPOにおける社内規程の重要性
本章では、以下3つの観点で社内規程を整備する重要性を解説します。
- 上場審査基準を満たすため
- 法令遵守を徹底するため
- 信頼性や業務生産性の向上による企業価値の向上を図るため
上場審査基準を満たすため
IPOを目指す企業は、証券取引所の上場審査をクリアする必要があります。日本取引所グループが作成している「新規上場ガイドブック」の「3.上場審査の内容」には、上場審査の実質基準の1つとして以下の項目が明記されています(一部編集)。
“新規上場申請者における内部牽制機能や経営活動の効率性を確保する上で必要な経営管理組織(社内諸規則を含む)が適切に整備・運用されていること”
上記はプライム市場に関する記述ですが、他の市場も同様です。「社内諸規則を含む」と記載されていることからも、社内規程の整備は上場審査をクリアする上で不可欠であるといえます。
参考:日本取引所グループ「新規上場ガイドブック(3.上場審査の内容)」
法令遵守を徹底するため
IPO後に上場企業としての地位を維持するためには、法令遵守が不可欠です。法令に違反すると投資家や消費者などからの信用を失い、事業の継続が困難となる恐れがあるためです。
また、金融商品取引法第24条の4の4などの規定により、原則として上場企業には、財務報告における内部統制の有効性を評価し、報告書として作成・公開することが義務付けられています。
金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」では、「内部統制は、社内規程等に示されることにより具体化されて、組織内の全ての者がそれぞれの立場で理解し遂行することになる。」と定められています。
つまり、上場後の内部統制報告に対応するためにも、社内規程の整備は不可欠なのです。
出典:e-Gov「金融商品取引法」、金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」
信頼性や業務生産性の向上による企業価値の向上を図るため
明確な社内規程を作成することは、企業の信頼性を高めると同時に業務の効率化にも寄与します。例えば、規程によって業務手順や責任範囲が明確化されることで無駄なトラブルや手戻りが減少し、生産性が向上します。
また規程がしっかりと運用されている企業は、外部からの信頼も得やすくなります。投資家や取引先に対して透明性と統制の行き届いた経営をアピールできるため、企業価値の向上につながるでしょう。
このように、社内規程の整備は上場や法令遵守のためだけでなく、企業の持続的成長を支える重要なツールとなります。
IPOにおける社内規程の種類
IPOで必要となる社内規程は、一般的に7種類に大別されます。本章では、各社内規程の概要と具体的な内容をお伝えします。
基本規程
基本規程は、経営の基本方針を定めたものです。企業の目的や基本的な運営方針を明文化し、社内規程の体系を統括する役割を持ちます。主なものとして、下記が該当します。
組織関連規程
組織関係規程は、企業の組織構造や役割分担を明確化するためのものです。意思決定や責任の所在を明確にし、組織としての効率的な運営を可能にする役割を持ちます。主なものとして、下記が該当します。
- 組織規程
- 稟議規程
- 職務分掌規程
- 職務権限規程
- 内部監査規程
業務管理規程
業務管理規程は、日常業務の具体的な手続きやルールを定めたものです。業務の標準化と効率化を促進し、従業員が適切に業務を遂行するための指針となります。主なものとして、下記が該当します。
経理関連規程
経理関連規程は、財務報告や資金管理に関するルールを定めたものです。正確な財務情報を作成し、投資家や規制当局に対して適切に情報を開示する上で不可欠です。主なものとして、下記が該当します。
総務関連規程
総務関連規程は、企業の総務業務を効率的に管理するための規程です。重要書類の適切な保管や管理および企業運営の円滑化が図られます。主なものとして、下記が該当します。
- 文書管理規程
- 印章管理規程
人事関係規程
人事関係規程は、従業員の雇用、評価、報酬などに関するルールを定めたものです。公平で透明性のある人事制度を整備するために必要です。主なものとして、下記が該当します。
コンプライアンス規程
コンプライアンス規程は、企業が法令遵守を徹底し、不祥事を防ぐための規程です。上場準備および上場後の経営において、社会的信用を維持する目的で必要になります。主なものとして、下記が該当します。
- コンプライアンス規程
- インサイダー取引防止規程
- ハラスメント防止規程
- リスクマネジメント規程
- 反社会的勢力対応規程
IPOにおける社内規程の作成ポイント
最後に、社内規程を作成する際に重視したい5つのポイントを解説します。
ポイント1:法律や上場基準に基づいて作成する
社内規程は、上場審査における重要な評価項目の一つであるため、関連法令や証券取引所の上場基準に則った内容であることが求められます。特に金融商品取引法や会社法、内部統制評価基準、コーポレートガバナンス・コードなどの規定に基づいて作成することで、上場企業として適格な社内規程となるでしょう。
ポイント2:会社の実態に即した内容にする
規程が実際の業務運営とかけ離れている場合、従業員の混乱や運用上の問題を引き起こす可能性があります。そのため、会社の規模、業種、業務フローを反映させた内容でなければなりません。例えば、職務分掌規程や稟議規程などは、各部署の役割や意思決定プロセスに即した具体的なルールを定めるべきです。
ポイント3:各規程間の整合性をとる
社内規程は、複数の規程が相互に連携し、企業全体の統制が取れるように設計する必要があります。各規程間で矛盾があると、相反するルールが同時に存在してしまい、運用に支障を来す可能性があります。
そのため、関連規程を横断的に検討し、一貫性のある内容にすることが重要です。
ポイント4:管理責任者の責任・権限や運用手続きなどを明確化する
規程の運用をスムーズに進めるためには、各規程における管理責任者を明確に定め、その責任と権限を記載することが必要です。また、運用に関する具体的な手続きを規程に明示することで、実務レベルでの混乱を防ぎます。これにより、規程が現場でしっかりと機能するようになるでしょう。
ポイント5:定期的な実績チェック、規程の改訂を図る
社内規程は作成して終わりではなく、定期的な見直しが求められます。IPO準備の進行や上場後の事業環境の変化に応じて内容を適宜更新することで、常に実態に即した規程運用を維持できます。また内部監査などを通じて、規程の実効性を定期的にチェックすることも大切です。
まとめ
上場審査基準をクリアするためには、IPO準備過程で社内規程を整備することが不可欠です。また社内規程の整備は、企業の信頼性や生産性を高め、企業価値の向上につながる可能性もあります。本記事の内容を、ぜひ社内規程の整備にお役立てください。
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