- 作成日 : 2025年12月23日
養老保険で節税できる?法人・個人別に活用法を解説
養老保険は、一定期間内に死亡または満期を迎えた際に保険金が支払われる「貯蓄型の生命保険」です。個人の老後資金や教育費の準備、法人の退職金や福利厚生など、さまざまな目的で活用されています。
本記事では、養老保険の仕組みや個人・法人での活用方法、節税効果、保険以外の節税策などを解説します。
目次
養老保険とはどんな保険?加入できる人は?
養老保険は、死亡時にも生存時にも保険金が支払われる「貯蓄型の生命保険」です。保障と貯蓄を両立できる保険として、個人・法人ともに活用されています。ここでは養老保険の仕組みと、誰が加入できるのかを解説します。
養老保険は貯蓄と保障を両立した生命保険
養老保険は、契約期間中に満期を迎えるか、死亡した場合に保険金が支払われる仕組みを持ちます。生存すれば「満期保険金(生存保険金)」が、死亡すれば「死亡保険金」が支払われ、いずれかの給付が確実に得られるのが特徴です。満期金と死亡保険金は同額で設定されることが一般的で、満期が5年・10年・20年など一定期間に限定されている点が、終身保障の終身保険との違いです。
保障と貯蓄を兼ね備えているため、掛け捨ての定期保険に比べて保険料が高めに設定されていることが多いですが、満期まで継続すれば支払った保険料の多くが戻る仕組みになっています。
【個人の加入】自営業者や会社員も契約できる
養老保険には個人でも加入できます。契約者と被保険者が本人、受取人が本人または家族という形で、自分自身のために保障と貯蓄を兼ねた保険として利用されます。会社員だけでなく、自営業者(個人事業主)も加入が可能で、自身の生活保障や老後資金の準備に活用できます。
ただし、支払った保険料は事業経費にはできず、確定申告時に生命保険料控除として所得控除を受ける形になります。控除の上限額は限られますが、わずかでも所得税や住民税の軽減効果が期待できます。
【法人の加入】福利厚生や退職金準備として活用できる
法人契約の養老保険も存在し、契約者が法人、被保険者が役員や従業員となる形で利用されます。法人が契約する場合、保険金の受取人の設定によって、支払保険料の経理処理が大きく変わります。
満期保険金や死亡保険金を法人が受け取る場合、保険料は全額資産計上され、契約期間中に損金算入することはできません。一方で、福利厚生目的として従業員の遺族を死亡保険金の受取人、法人を満期金の受取人とする契約形態では、保険料の一部(通常50%)が福利厚生費として損金に算入できます。
このように法人契約の養老保険は、節税策としてだけでなく、退職金や福利厚生制度の一部としても活用されており、税務上の扱いには注意が必要です。
参考:No.5360 養老保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日前契約分)|国税庁
No.5363 養老保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)|国税庁
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【個人の場合】養老保険への加入は節税になる?
養老保険に個人で加入すると、所得控除として「生命保険料控除」を受けられます。ただし、控除額には上限があり、大きな節税効果を期待するのは難しいのが実情です。ここでは、節税につながる仕組みと効果について説明します。
生命保険料控除により一定の所得控除が受けられる
個人が養老保険に加入すると、支払った保険料の一部が「一般生命保険料控除」として所得控除の対象になります。年間の保険料が8万円以上であれば、所得税で最大4万円、住民税で最大2万8千円が控除されます。所得税率が10%の人なら、約4,000円程度の節税効果が見込めます。
また、2025年の税制改正により、23歳未満の子どもを扶養している家庭は、2026年分の所得税に限り控除上限が6万円まで拡大される特例が導入されます。これにより、最大で約9,000円程度の減税が可能になります。
自営業者でも利用できるが、経費計上はできない
自営業者やフリーランスが養老保険に加入することは可能ですが、保険料は事業経費にはなりません。あくまで個人の支出とみなされ、確定申告の際に生命保険料控除として所得から差し引かれます。この点で、節税効果は「事業経費で税金を直接減らす」といった方法に比べて小さいといえます。
節税目的よりも保障と貯蓄の副次的効果と捉えるべき
養老保険は「保障と貯蓄」を両立できる保険ですが、節税を主目的に加入する商品ではありません。むしろ、老後資金や教育費など目的ある資金を確実に積み立てられる点に主眼を置き、生命保険料控除による節税は“おまけと捉えるのが現実的です。iDeCoや小規模企業共済などと組み合わせれば、より大きな節税効果が期待できます。
【法人の場合】養老保険への加入は節税になる?
法人が養老保険に加入することで一部の保険料を損金処理できるケースはありますが、その効果は契約形態によって大きく異なります。かつては節税目的で多く使われていた養老保険ですが、近年の税制改正によりその活用は厳しく制限されており、現在では主に福利厚生や資金準備の手段として位置づけられています。
契約形態によって損金算入の可否が異なる
法人が養老保険に加入する際、保険料の損金算入が認められるかどうかは、「保険金の受取人」の設定によって決まります。基本的な契約形態とその税務処理は次の3つです。
- 保険金の受取人が法人の場合
満期金・死亡保険金とも法人が受け取る契約では、支払保険料は全額が「資産」として処理され、損金にはなりません。つまり、保険期間中に節税効果はなく、解約時や満期時に初めて課税対象となります。 - 受取人が被保険者や遺族の場合
保険料はその従業員への給与とみなされ、法人側では損金処理が可能です。しかし、従業員にはその分の給与課税が発生するため、企業全体としての節税効果は限定的です。 - 死亡保険金を遺族、満期金を法人が受け取る場合(福利厚生プラン)
この形式では、保険料のうち50%を福利厚生費として損金算入でき、残りの50%は資産計上となります。福利厚生と節税を両立できる手法として、多くの企業が採用していますが、役員のみ対象とすることはできず、一定の要件(全従業員の加入など)を満たす必要があります。
2019年の通達改正で節税保険は大きく制限された
2019年の法人税基本通達の改正により、法人保険を利用した過度な節税スキームは厳しく規制されました。解約返戻率が50%を超える保険商品については、保険料の一部しか損金算入できないルールが導入され、損金割合は保険期間や返戻率に応じて細かく制限されるようになっています。
これにより、以前のように「高額な保険料を全額損金処理して税負担を軽減し、後に返戻金を受け取る」という活用法は困難になりました。実質的に、養老保険を「節税目的で導入する」という選択肢はほぼなくなったといえます。
参考:No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれない場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)|国税庁
No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
現在は節税よりも福利厚生や資金計画が主な目的
現在、法人における養老保険の活用は、節税ではなく「福利厚生の一環」や「役員・従業員の退職金準備」、「解約返戻金を利用した将来の資金積立」が主目的となっています。一部損金処理が可能な契約形態であっても、制度の要件や税務上の制限を正確に把握し、無理のない範囲で導入する必要があります。
節税効果はあくまで限定的であり、経営上の実益を重視した保険活用が求められています。契約設計にあたっては、税理士や保険の専門家の助言を得ることが重要です。
養老保険の節税以外のメリットは?
養老保険には節税以外にも、貯蓄や保障、資金活用など複数の実用的なメリットがあります。ここでは、保険としての本質的な価値や、生活・事業の安定にどう役立つかを見ていきましょう。
満期金と死亡保険金の両方が受け取れる安心感
養老保険は「満期まで生存すれば満期金」「期間中に死亡すれば死亡保険金」が確実に支払われる仕組みです。このため、貯蓄型保険として教育資金や老後資金の積立に利用されるケースが多く、目的を持った資金準備に向いています。終身保険と異なり契約期間が決まっているため、計画的な活用がしやすいのも特徴です。
万一の際の保障と相続対策にも役立つ
死亡保障がついているため、契約者に万が一のことがあっても、遺族に保険金が支払われます。死亡保険金には相続税の非課税枠(法定相続人の数×500万円)が適用されるため、遺族の生活を支えるだけでなく、相続対策の一助にもなります。公的な遺族年金と合わせて、一定の生活基盤を確保できる点も見逃せません。
解約返戻金の活用で急な資金需要にも対応可能
養老保険は解約返戻金が積み上がる保険です。この返戻金は「契約者貸付制度」を使って一定額まで借り入れることができるため、急な資金需要が発生した場合の備えになります。一般的に低金利で借り入れができ、返済すれば再度利用も可能です。
【個人向け】保険以外におすすめの節税策は?
個人事業主やフリーランス、サラリーマンであっても、保険に頼らずに節税できる制度は複数あります。所得控除や税額控除を活用することで、合法的に税負担を軽くすることが可能です。ここでは、実行しやすく節税効果の高い手段を紹介します。
小規模企業共済(自営業者・役員向け)
個人事業主や法人の役員が退職金を準備するための制度で、掛金は全額が所得控除の対象となります。毎月1,000円〜7万円まで自由に設定でき、年間最大84万円まで控除可能です。節税しながら老後資金を積み立てられ、受取時も退職所得扱いとなるため、税率が大幅に下がる可能性があります。資金は事業廃止・退任時に一括または分割で受け取れます。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは誰でも加入できる年金制度で、掛金は全額が所得控除の対象です。会社員や自営業者、公務員も利用可能で、年収に応じた控除効果があります。運用益も非課税で、60歳以降に受け取る際には退職所得控除や年金控除の対象となります。老後資金形成と節税を両立できる有力な手段です。
ふるさと納税(寄附金控除)
自己負担2,000円を除いた寄附額が、所得税および住民税から控除される制度です。上限内で寄附すれば実質的に税金を減らしつつ、各自治体から返礼品を受け取れるため、節税と地域貢献が同時に叶います。サラリーマンも利用しやすく、ワンストップ特例制度を使えば確定申告が不要な場合もあります。
医療費控除・配偶者控除などの見直し
1年間の医療費が一定額を超えた場合や、配偶者の年収が一定以下である場合には、所得控除が適用される制度があります。見逃しやすい部分ですが、確定申告の際に正しく申請すれば節税に繋がります。
【法人向け】保険以外におすすめの節税策は?
法人が節税を検討する際には、生命保険だけでなく、税制上の優遇を受けられる各種制度も活用することで、より効果的な対策が可能です。ここでは、使いやすく、かつ税務上も安心な節税策を紹介します。
小規模事業共済
国の支援機関である中小機構が運営する「小規模企業共済」は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主などが将来の退職に備えて積み立てを行える制度です。
1. 掛金は途中変更ができ、全額が所得控除の対象に
掛金は月額1,000円~70,000円の範囲で500円刻みで設定でき、加入後に増額・減額することも可能です。確定申告では、支払った掛金の全額を所得控除として申請できるため、大きな節税効果が期待できます。
2. 共済金は一括・分割の自由な方法で受け取り可能
共済金は退職や廃業時に受け取る仕組みで、満期や満額といった制限はありません。受取り方法は「一括」「分割」あるいはその併用から選択でき、一括受取りなら退職所得、分割受取りなら公的年金等の雑所得として扱われ、税制上のメリットもあります。
3. 低利率で利用できる貸付制度を用意
契約者はこれまでの掛金額を上限として、事業資金として使える貸付制度を利用できます。金利が低く、即日融資に対応している点も特徴です。
経営セーフティ共済(倒産防止共済)
中小企業が取引先の倒産による連鎖倒産を防ぐための制度で、支払った掛金は全額損金算入が可能です。最大800万円まで積み立てることができ、加入から12ヶ月経過すれば、積立額の10倍まで無担保・無保証で借入も可能です。さらに解約時には解約手当金として返戻されるため、資金繰りの調整にも役立ちます。ただし、2024年の制度改正により短期解約時の損金算入が制限されるため、中長期の運用が前提となります。
中小企業退職金共済(中退共)
従業員の退職金準備として活用できる制度で、毎月の掛金が全額損金扱いとなります。福利厚生の充実に加え、制度加入によって採用面でもプラスの評価が得られる場合があります。1人あたり月額5,000円〜30,000円で設定でき、長期雇用にもつながる施策です。
役員報酬や決算賞与の活用
利益圧縮の基本として、適切な役員報酬や決算賞与の支給も有効な節税策です。役員報酬は期首に設定すれば損金にでき、業績連動型の賞与も届出を行えば損金処理が可能です。決算直前に未払賞与を計上することで、資金支出を翌期に先延ばししながら当期の利益を減らすことができます。
養老保険を自分に合った形で活かそう
養老保険は、節税効果よりも「貯蓄と保障の両立」を目的に設計された保険です。個人では老後資金や教育費の準備、法人では退職金や福利厚生として活用できます。契約形態によって税務上の扱いが異なるため、目的を明確にして加入することが大切です。また、養老保険だけに頼らず、iDeCoや小規模企業共済などの制度も活用すれば、より効率的な資産形成と節税が実現します。自身や企業の将来を見据え、最適な組み合わせで計画的に活用していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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