- 更新日 : 2025年12月11日
合同会社の社会保険加入は義務!加入しない場合のリスクや罰則、例外なども解説
合同会社(LLC)を設立した際、社会保険に加入しないという選択肢を検討される方がいるかもしれません。しかし、その判断は法的なリスクを伴う可能性があります。
本記事では、合同会社における社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入義務の基本的な条件、加入しなくてもよい例外ケース、そして社会保険に未加入の状態を続けた場合のデメリットや罰則について詳しく解説します。役員報酬や従業員の状況別に、必要な手続きも併せて確認していきましょう。
目次
合同会社の社会保険加入は法律上の義務!
原則として、合同会社(LLC)は社会保険への加入が法律で義務付けられており、加入しないという選択はできません。
健康保険法および厚生年金保険法において、株式会社や合同会社などの法人は、事業主や従業員の意思に関わらず、「強制適用事業所」として社会保険への加入が義務付けられているためです。
社会保険とは、主に「健康保険(医療保険)」と「厚生年金保険(年金保険)」の二つを指します。これらは、病気やケガ、老齢、障害、死亡といったリスクに備えるための公的な保険制度です。
- 常時従業員を使用する国、地方公共団体、または法人の事業所
- 常時5人以上の従業員を使用する個人の事業所(一部の業種を除く)
上記以外の事業所で、従業員の半数以上が同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けた事業所
したがって、「合同会社だから」「小規模だから」といった理由で社会保険に加入しないことは、原則として認められません。
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合同会社が社会保険に加入しないとどうなる?
社会保険に加入しない場合、法律に基づき、最大過去2年分の保険料の追徴課税(遡及適用)や延滞金の発生、さらには刑事罰の対象となる可能性があります。
1. 最大2年分の保険料を遡って一括請求
未加入における最大のリスクは、指導や検査の結果、加入義務があると判断された場合、最大で過去2年間に遡って社会保険料を一括で納付するよう命じられることです。
社会保険料は会社と従業員で折半(労使折半)しますが、遡及適用の場合、従業員がすでに退職していたとしても、会社は「会社負担分」と「徴収できなかった従業員負担分」の両方を一括で納付しなければなりません。
2. 高率の延滞金の発生
納付すべき保険料を期限までに納めなかった場合、納付期限の翌日から納付するまでの日数に応じて、高率の延滞金が課されます。未納期間が長引くほど負担は雪だるま式に増えていきます。
3. 懲役または罰金(刑事罰)の可能性
度重なる加入指導や立ち入り検査を拒否したり、虚偽の報告を行ったりするなど、悪質なケースと判断された場合、刑事罰の対象となります。健康保険法第208条や厚生年金保険法第102条には、届出義務違反などに対して「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が定められています。
4. 従業員からの損害賠償請求
従業員が本来受けられるはずだった保障(傷病手当金や将来の年金)を受けられなかったとして、信頼を失うだけでなく、損害賠償請求訴訟に発展するリスクがあります。会社が加入義務を怠ったとして、従業員が被った不利益の補填を求められる可能性があります。
合同会社が社会保険に加入しなくていい例外的なケースは?
社会保険の加入義務が発生しない例外的なケースも存在します。
以下に、合同会社が社会保険に加入しなくてもよい、または加入対象者が限定される主なケースを解説します。
1. 役員報酬がゼロの場合
代表社員や業務執行社員といった役員の役員報酬が0円である場合、その役員は社会保険の被保険者とはなりません。
社会保険料は、毎月の「標準報酬月額」を基に計算されます。役員報酬がゼロであれば、保険料の算定基礎となる報酬が存在しないため、被保険者資格を取得できません。
ただし、これはあくまでその役員個人が加入対象外となるだけです。他に役員報酬を受け取っている常勤の役員がいれば、その人は加入必須です。
社会保険の加入基準を満たす従業員(パート・アルバイト含む)を1人でも雇用すれば、その従業員は加入させなければならず、事業所としても「新規適用届」の提出が必要になります。
2. 一人合同会社で役員報酬がゼロの場合
合同会社の構成員が役員のみで、かつその役員全員の役員報酬が0円である場合、社会保険の加入対象者がいないため、実質的に加入手続きが不要となります。いわゆる「一人合同会社」や「役員のみの合同会社」で、事業がまだ本格稼働しておらず報酬を支払っていない時期に見られるケースです。
しかし、これは加入義務を免除されているわけではなく、加入対象者がたまたまいないという状態に過ぎません。将来的に役員報酬を1円でも支払うことを決定したり、新たに従業員を雇用したりした時点で、速やかに社会保険の加入手続きを行う義務が発生します。
3. 非常勤の役員や基準未満のパート・アルバイトのみの場合
勤務時間や日数が一定の基準を満たさない非常勤の役員や、パート・アルバイト従業員のみで構成されている場合、社会保険の加入対象外となることがあります。
社会保険の被保険者となるのは、原則として「常時使用される」労働者や役員です。労働時間が極端に短い場合は、この要件を満たさないと判断されるためです。
ただし、パート・アルバイトであっても、以下の基準を満たす場合は加入義務が発生します。
パート・アルバイト等の社会保険加入基準
| 区分 | 要件 |
|---|---|
| 従来の基準 | 1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、同じ事業所で働く正社員の概ね4分の3以上であること。 |
| 短時間労働者 (適用拡大) | 上記4分の3未満でも、以下のすべてを満たす場合
|
※従業員数(社会保険の被保険者数)の要件は段階的に拡大しており、2024年10月からは「51人以上」の企業が対象となります。
合同会社がこの「従業員数51人以上」の基準を満たすことは稀かもしれませんが、従来の「4分の3基準」は常に適用されます。したがって、「非常勤のみだから加入しない」と自己判断するのは危険です。
合同会社が社会保険に加入する手続きと流れは?
合同会社の社会保険加入手続きは、事業所を管轄する年金事務所(または健康保険組合)に、会社設立(または加入義務発生)から原則5日以内に、必要な届出書類を提出して行います。
これは健康保険法および厚生年金保険法に基づく、事業主の届出義務であり、迅速に行う必要があります。
1. 必要書類の準備
主に「新規適用届」「被保険者資格取得届」「被扶養者(異動)届」の3点と、添付書類が必要です。
参考:1-1 事業所を設立し、健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき|日本年金機構
2. 提出先と期限
提出先は事業所の所在地を管轄する「年金事務所」で、期限は事実発生(会社設立、従業員雇用など)から原則5日以内です。
提出方法は、窓口持参、郵送、または電子申請(e-Gov)が利用可能です。期限が非常に短いため、会社設立の準備と並行して進めるのが理想です。
3. 保険料の納付
決定された標準報酬月額に基づき、毎月の役員報酬や給与から保険料(従業員負担分)を天引きし、会社負担分と合わせて翌月末までに納付します。
届出が受理されると、適用通知書や保険証(健康保険被保険者証)、納付書などが送付されてきます。保険料の納付は、毎月送られてくる納付書で行うか、便利な口座振替を利用します。
合同会社が負担する社会保険料の目安は?
合同会社が負担する社会保険料は、会社(事業主)と従業員(役員含む)が原則として折半(半分ずつ負担)します。これを労使折半と呼びます。
保険料額は、毎月の役員報酬や給与(交通費なども含む)を一定の等級に区分した「標準報酬月額」に、定められた「保険料率」をかけて算出されます。
社会保険料の主な内訳と負担割合
合同会社が負担する主な社会保険料は「健康保険料」「厚生年金保険料」です。40歳以上の役員・従業員がいる場合は「介護保険料」も加わります。
| 保険の種類 | 保険料率の目安※ | 負担割合 |
|---|---|---|
| 健康保険料 | 約10%(都道府県による) | 会社と従業員で折半 |
| 厚生年金保険料 | 18.3%(全国一律) | 会社と従業員で折半 |
| 介護保険料 (40歳~64歳が対象) | 約1.6%(全国一律) | 会社と従業員で折半 |
| 子ども・子育て拠出金 | 0.36%(全国一律) | 会社が全額負担 |
※保険料率は2025年現在の目安です。健康保険料率は加入する組合(協会けんぽ等)や都道府県により毎年見直されます。
合同会社の社会保険加入は法的義務
「合同会社だから社会保険に加入しない」という選択は、役員報酬がゼロであるなどのごく一部の例外的なケースを除き、法律上認められていません。
加入義務を果たさず未加入のままでいると、最大2年分の保険料の遡及請求や高額な延滞金、社会的信用の失墜など、経営上の重大なリスクを負うことになります。
会社設立時や従業員を雇用した際には、法律で定められた義務として、速やかに適切な社会保険の加入手続きを行い、法令を遵守した健全な企業運営を心がけましょう。
社会保険の手続きや、自社が加入対象となるかの個別のケース判断に不安がある場合は、社会保険労務士(社労士)や管轄の年金事務所に相談することをお勧めします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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