- 作成日 : 2022年9月22日
2021年5月公布の改正で商標法や意匠法はどう変わった?
2021年5月14日に「特許法等の一部を改正する法律案」が国会で成立し、同月21日に公布されました。
コロナ禍でニューノーマルとなったリモートワーク、浸透するデジタル化などにも広く対応できる制度を取り入れると同時に、重要なポイントとなるのが商標権や意匠権の侵害を 従前より問いやすくなったことです。以下で詳しく解説します。
商標法・意匠法とは
そもそも、商標法や意匠法とはどのような法律なのでしょうか。まずは両者の共通点、相違点を確認しておきましょう。
商標法
私たちがCMや店頭で見かける商品やサービス(以下、商品)には、名前が付けられています。商品を選択する際、「○○社の✕✕なら有名だし良さそう」と判断することもあるでしょう。しかし、○○社と縁もゆかりもない会社が勝手に「✕✕」という商品名で同じような商品を販売すると、○○社の売上はもちろんのこと、消費者との信頼関係にも響きかねません。
そこで、商品などに付けられる表示(=商標)を勝手に他人が使用できないよう規制し、「商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り」「需要者の利益を保護する」ために作られたのが商標法です。商標として法の保護を受けるためには、その表示が商標としての要件を満たした上で、特許庁で登録を受ける必要があります。
商標とされる要件はいくつかありますが、例えば普通名称(同業者が一般的に使用している名称)は登録できません。住宅販売会社が自社の商品に「ハウス」と名付けても、住宅の名前としてはあまりにも一般的過ぎるため、商標とは認められないのです。
一方で住宅とは無関係の商品を指定すれば、商標登録が認められる場合があります。加工食品を指定商品とした「ハウス食品」は、その実例です。
商標は表示は名称だけではありません。図形や立体的形状(人形など)、最近では「動き」や「音」の他、「色彩」なども商標登録が可能になっています。
意匠法
「意匠」とはいわゆるデザインのうち、特に市場に向けて量産される工業製品のデザインを指します。同じ機能でもより洗練されたデザインにすることで消費者の購買意欲を高める効果が期待できるため、勝手に他者がデザインを真似できないよう意匠法によって保護する必要があるのです。
意匠は商標と同様に、意匠と認められる一定の要件を満たし、登録を受けて初めて「権利」となります。要件としては、視覚的に何らかの美感を生じさせることや、容易には創作できないものであることなど、デザインならではのものが挙げられます。
自社オリジナルのキャラクター人形など、登録しようとする対象が商標と意匠のどちらにあたるのかの線引きが難しい場合があります。法の目的には「産業の発達に寄与する」とありますが、意匠法では「さらに意匠の創作を奨励」する目的があること、また要件として新規性が求められていること(意匠法3条1項)など商標法と異なる点がいくつかあります。
対象物の何を保護するかによって登録先を決める方法もありますが、両方に登録するという選択肢もあります。いずれにせよ登録の際は専門家(弁理士)のアドバイスを受けることをおすすめします。
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従来の商標法・意匠法の課題
商標法、意匠法ともに登録されれば登録対象の専有権を得られます。商標であれば、他者が登録商標によって指定される商品を模倣、あるいは類似した商標を使用した場合にその使用・販売の差止や損害賠償の請求ができるようになるのです。
これらの請求権は、模倣品を海外から輸入する行為に対しても行使できます(商標法・意匠法各第2条参照)。ただし、改正前の規定ではその行使に一定の制限がありました。
占有権の侵害は侵害者が業として、すなわち事業として模倣品や類似品を販売・輸入したことが要件となっており、「個人が海外の事業者から自分が使用する目的で模倣品を輸入する」行為は「業として」ではないとされていたのです。
しかしインターネットによって海外との取引が拡大し、個人でも容易に輸入が行えるようになると、海外事業者が輸入業者を通さず模倣品を「個人使用目的」とし、小口の個人輸出を大量に行うケースが増えました。実質的に事業といえるにもかかわらず「個人輸入」を隠れ蓑にし、税関をすり抜ける手口が横行するようになったのです。
今回の商標法・意匠法の改正は、このような事情が背景にあります。
商標法・意匠法の改正点
2021年に公布された「特許法等の一部を改正する法律」は、2022年4月1日に施行されました(一部規定は2021年10月1日施行)。改正の重要なポイントは、前項の課題を解決すべく商標法・意匠法において「輸入」の定義を新設あるいは追加したことです。
具体的には、商標法では第2条7項で「この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする」と定義されました。また、意匠法では第2条1号で従来「輸入」としか記載されていなかった部分に「輸入(外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為を含む。)」との定義が追加されました。
この改正により、個人が個人使用目的で海外から購入したものであっても、海外の業者が「日本国内に他人をして持ち込ませる行為」すなわち輸入の定義に当てはまり、模倣品であれば商標権や意匠権の侵害行為と認められるようになったのです。
ちなみに上記の改正は商標権と意匠権だけで、特許権や実用新案権は改正されていないことに注意してください。
その他、特許等の審判における口頭審理にウェブ会議システムを導入したり、商標・意匠の国際出願の際に一部の通知が電子化されたりするなど、今回はコロナ禍社会への対応のための改正も行われています。
改正による影響
今回の改正により、税関における水際対策の効率が高まることが期待されます。
税関の重要な業務に、輸入品の知的財産権侵害をチェックする認定手続(関税法69条の12)があります。この手続きを行うには、ある商品が輸入されることで知的財産権を侵害されるとする者が税関長に申し立てる必要があります。ところが、これまでは小口の輸入件数の増加に加え、当該輸入が「業として」かどうかの判断もしなければならず、税関の負担は増えるばかりでした。
今回の改正で「輸入」の定義がなされたことで、今後は輸入品の中に模倣品があれば、目的が個人使用の個人輸入であれ、知的財産権侵害品として輸入を差し止めることが可能になりました。この点は、これまで模倣品の流入で被害を受けてきた企業にも良い影響をもたらすでしょう。
商標法・意匠法改正ポイントは模倣品の国内流入防止
これまでは「業として」の輸入行為にしか問えなかった知的財産権侵害行為が、今回の商標法・意匠法改正によって個人輸入にも問えるようになりました。
インターネットによって海外との取引を誰でも行える現代社会では、今後も新たな知的財産権を脅かす手法が出てくる可能性があります。国だけでなく、知的財産権を扱う企業も監視の目を緩めないことが大切です。
よくある質問
2021年5月に公布された商標法・意匠法の改正では、何が変わりましたか?
「輸入」の定義が「外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為を含む」と新設または追記されました。詳しくはこちらをご覧ください。
商標法・意匠法とは、どのような法律ですか?
知的財産権である商標や意匠を、登録を前提として保護するための法律です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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