- 作成日 : 2025年6月24日
委託契約書の清算条項とは?記載内容や清算の種類を解説
委託契約における「清算条項」は、契約終了時の金銭や成果物の取り扱いを定める重要な項目です。
この記事では、清算条項の基本から、盛り込むべき内容、ケース別の注意点まで、契約トラブルを防ぐためのポイントを解説します。
目次
委託契約の清算条項とは?
委託契約は、特定の業務を外部の専門家や企業に依頼するビジネスにおいて非常に一般的な契約形態です。サービスの開発、コンテンツ制作、コンサルティングなど、多岐にわたるシーンで利用されます。契約の開始時だけでなく、契約の終了時をスムーズかつ公平に進めるためには、契約書の中に「清算条項」を設けることが極めて重要になります。
清算条項とは、契約期間の満了や中途解除など、契約が終了する際に、未払いの報酬や費用、成果物の取り扱いなど、契約履行に伴って生じた債権債務をどのように整理・確定するかを定める条項です。この条項が曖昧だと、契約終了時に「言った、言わない」のトラブルになったり、不当な清算を強いられたりするリスクが高まります。
清算条項は、委託者、受託者の双方にとって、契約終了時の予見可能性を高め、不要な紛争を避けるための「出口戦略」と言えるでしょう。
清算条項の目的と重要性
清算条項の主な目的は以下の通りです。
- 契約終了時の金銭的な処理の明確化: 未払い報酬、実費精算、違約金などをどのように計算し、支払うかを定めます。
- 成果物や関連資料の取り扱い決定: 作成途中の成果物、提供された資料、知的財産権などをどうするかを明確にします。
- 未履行の義務に関する整理: 秘密保持義務や競業避止義務など、契約終了後も効力をもつ可能性のある義務を確認します。
- トラブルの予防: 契約終了というデリケートな時期における双方の権利と義務を明確にすることで、紛争発生のリスクを低減します。
しっかりとした清算条項は、安心して契約を締結し、業務に集中するための基盤となります。
清算条項の内容
清算条項に盛り込むべき内容は、委託する業務の内容や契約形態によって異なりますが、一般的に以下の項目について具体的に定めることが推奨されます。
報酬の清算方法
最も重要な項目の一つです。契約が途中で終了した場合、どこまでの作業に対して報酬が発生するのか、その計算方法を明確に定めます。
- 履行割合に応じた支払い: 契約終了時点での業務の進捗度合い(履行割合)に応じて報酬を支払う方法。進捗度の測定基準を定めておくべきです。
- 発生費用+一定の手数料: 受託者が契約終了までに実際に発生した費用に、一定の手数料や利益を上乗せして支払う方法。費用の範囲や証明方法が重要になります。
- マイルストーンに応じた支払い: 特定の段階(マイルストーン)の達成をもって報酬の一部を支払うことを定めている場合、達成済みのマイルストーンに応じた支払いをどうするか。
- 契約終了理由による調整: 契約違反による解除の場合、損害賠償と報酬支払いの関係をどうするかなども検討が必要です。
「行った作業分は支払う」といった抽象的な表現ではなく、「契約解除時点において、〇〇の成果物が〇〇%完成していると認められる場合、報酬総額の〇〇%を支払う」のように、可能な限り具体的な基準を設けることが望ましいです。
費用の精算方法
業務遂行のために受託者が立て替えた交通費、宿泊費、資料購入費、外注費などの実費について、清算方法を定めます。
想定される費用項目をリストアップし、それぞれについて清算のルールを定めておくとより丁寧です。
成果物・資料等の取り扱い
契約に関連して作成された成果物や、委託者から提供された資料、その他の物品の取り扱いを定めます。
- 完成成果物の帰属・引き渡し: 完成している成果物を委託者に引き渡すか、その際の条件は何か。
- 作成途中の成果物: 未完成の成果物や、そのために作成された中間資料をどうするか。破棄するのか、委託者に引き渡すのか、委託者が利用できるのか。
- 提供資料の返還: 委託者から提供された機密情報を含む資料などを、契約終了後に返還するか、破棄するか。その際の証明は必要か。
- 物品の取り扱い: 委託者が受託者に業務のために貸与したPCや機材などの物品の返還。
特に、作成途中の成果物について、委託者がその後の業務で利用したい意向があるのか、受託者としてはそこまでの作業に対する対価をどう求めるのかなど、双方の立場から検討が必要です。
秘密保持義務
委託契約においては、業務を通じて知り得た相手方の機密情報を保護することが不可欠です。清算条項とは別に「秘密保持条項」が設けられていることが一般的ですが、清算条項やその他の契約終了後に関する条項において、秘密保持義務が契約終了後も有効であること、その期間などを再度確認的に定めることがあります。
知的財産権の帰属・利用
業務の過程で新たな知的財産(著作権、特許権など)が発生した場合の取り扱いを定めます。特に、契約が途中で終了した場合に、作成途中の成果物に含まれる知的財産権や、それを利用する権利をどうするかは重要な論点です。
- 権利の帰属: 発生した知的財産権が委託者、受託者のどちらに帰属するか。
- 利用許諾(ライセンス): 受託者に知的財産権が帰属する場合でも、委託者がその成果物や関連する知的財産を継続して利用できるか(無償か有償か、期間は限定されるか)。
- 作成途中の成果物に関する権利: 契約終了時点での未完成の成果物に関する知的財産権や利用権限をどう整理するか。
損害賠償
契約違反によって契約が解除された場合など、一方の行為によって損害が発生した場合の取り扱いを定めます。清算条項の中で、契約終了に伴う損害賠償請求の可否や、請求期間、上限額などに言及することがあります。ただし、損害賠償については別途独立した条項を設けるのが一般的です。
その他
上記のほか、必要に応じて以下の項目を盛り込むことがあります。
- 契約終了後の連絡窓口: 契約終了後も精算や引き継ぎのために必要な連絡先を定めます。
- 経過措置: 契約終了後も一定期間継続する必要のある義務(例:保守、サポートの一部)について定めます。
清算の種類とケース別の注意点
「清算の種類」という分類が法的に明確に定められているわけではありませんが、ここでは契約が終了する「原因」に着目し、それぞれのケースにおける清算の注意点を解説します。
1. 契約期間満了または業務完了による清算
最も円満なケースです。契約書に定められた期間が経過した、または委託された業務全体が当初の計画通り完了した場合です。
- 注意点: 契約内容通りに業務が完了しているか、仕様を満たしているかを確認する「検収」が重要になります。検収に合格した上で、最終的な報酬支払いや実費精算が行われます。成果物の引き渡しや、提供資料の返還なども滞りなく行う必要があります。清算条項では、この場合の検収手続きや最終支払いサイトなどを定めておくと良いでしょう。
2. 契約の中途解除による清算
契約期間中に、何らかの理由で契約が解除されるケースです。理由が契約違反、合意解約、都合による解除(契約に規定がある場合)などによって、清算の内容は大きく変わります。
- 契約違反による解除の場合: 違反した側に対する損害賠償請求の可否が大きな論点となります。清算条項では、履行割合に応じた報酬支払いに加えて、相手方の損害をどのように算定・清算するのかを定める必要があります。未完成の成果物や費用についても、契約違反との関連で取り扱いを検討します。
- 合意解除の場合: 当事者双方が話し合い、合意の上で契約を終了するケースです。清算内容は基本的に当事者の合意によって自由に定めることができます。清算条項では、合意解除の場合には別途協議の上清算内容を定める旨を規定しておくか、ある程度の基準(例:そこまでにかかった合理的な費用は支払う)を設けておくことが考えられます。
- 都合による解除(やむを得ない事由など): 契約にあらかじめ定められた条件(例:経営状況の変化、法改正など)を満たした場合に解除できるケースです。この場合も、解除理由に応じて報酬や費用の精算方法を定めておくべきです。履行割合に応じた支払いが基本となることが多いですが、解除の時期によって受託者に予期せぬ損害が生じる可能性があるため、その補償についても検討が必要です。
3. 一部履行・一部中止による清算
当初予定していた業務の一部のみが履行され、残りが中止となった場合の清算です。プロジェクトの途中で仕様変更があり、一部作業が不要になった場合などがこれにあたります。
- 注意点: どこまでの業務が完了したのか、その価値をどう評価するのかが難しいケースです。清算条項では、業務の中止や範囲変更が発生した場合の報酬調整方法(例:未実施部分の報酬を減額、追加作業が発生した場合は別途協議)を具体的に定めておくことが望ましいです。履行割合に応じた支払い、あるいは実際にかかった時間や費用に基づく精算などが考えられます。
どの種類の清算においても、精算の対象期間(いつ時点までの債権債務を清算するのか)、精算額の計算方法、支払い期日、精算手続きの期限などを明確に定めることが重要です。
清算条項を定める上での注意点
清算条項は、万が一の事態に備える非常に重要な条項です。作成または確認する際には、以下の点に注意しましょう。
具体性と明確性を確保する
最も重要なのは、曖昧な表現を避け、具体的な計算方法や手続きを定めることです。「協議の上定める」「合理的な費用を支払う」といった抽象的な文言だけでは、いざという時に解釈のずれが生じ、トラブルの原因となります。可能な限り、「完成度〇〇%につき報酬総額の〇〇%を支払う」「実費は領収書と引き換えに全額を支払う」「〇〇日以内に成果物を返還する」のように具体的に記述しましょう。
想定されるリスクとシナリオを考慮する
契約がどのような状況で終了する可能性があるか(順調な完了、委託者の都合による中止、受託者の遅延、予期せぬトラブルなど)を事前に想定し、それぞれのシナリオにおいて清算がどうあるべきかを検討します。特に、委託者としては途中でプロジェクトを中止する可能性、受託者としては途中で契約を解除されるリスクなどを考慮し、自社にとって不利にならない、かつ現実的な内容を目指します。
相互の合意形成を重視する
清算条項は、一方的に有利な内容にならないよう、委託者・受託者の双方が納得できる内容を目指すべきです。契約締結前に十分に話し合い、懸念事項や希望を伝え合い、双方にとって公平な条件を定めることが、良好な関係を維持し、将来的なトラブルを防ぐ鍵となります。一方的な条項は、後々無効と判断されるリスクや、相手方の不信感を招く可能性もあります。
他の条項との整合性を確認する
秘密保持条項、知的財産権条項、損害賠償条項など、他の条項と清算条項の内容に矛盾がないかを確認します。例えば、知的財産権の帰属に関する条項と、作成途中成果物の利用に関する清算条項が矛盾していると、混乱が生じます。契約書全体として、内容が一貫していることが重要です。
弁護士等の専門家へ相談する
特に複雑な契約内容や、高額な取引、あるいはリスクの高いプロジェクトに関する委託契約の場合、清算条項を含む契約書全体のリーガルチェックを弁護士に依頼することを強く推奨します。専門家のアドバイスを受けることで、自社に不利な条項を見落としたり、法的に問題のある条項を含めたりするリスクを大幅に減らすことができます。
委託契約書には清算条項を記載しトラブルを防ぎましょう
委託契約における清算条項は、単なる形式的な条項ではなく、契約終了時のトラブルを未然に防ぎ、双方の権利と義務を明確にするための非常に重要な条項です。
この記事で解説したように、報酬や費用の清算方法、成果物や資料の取り扱い、そして契約終了の原因に応じた注意点などを具体的に定めることで、予期せぬ事態が発生した場合でも、冷静かつスムーズに対応することが可能になります。
委託契約を締結する際は、業務内容や報酬額だけでなく、万が一の「出口」である清算条項についても、十分に理解し、自社にとって適切かつ明確な内容になっているかをしっかりと確認しましょう。必要であれば、弁護士などの専門家の知見を借りることも検討し、安心できる契約を締結してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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