• 作成日 : 2025年5月7日

下請法で注文書をあとから交付するのは違法?書面交付義務や口頭発注の罰則も解説

注文書をあとから発行すると、下請法に違反しないか気になる方もいるでしょう。原則として注文書や発注書はすぐ発行する必要がありますが、例外のケースもあります。

この記事では下請法での書面発行にどのようなルールがあるか、あとから交付することに問題はないかを解説します。下請事業者に業務を委託する方は、ぜひ参考にしてください。

下請法における書面交付義務とは?

下請法とは、取引において弱い立場になりがちな下請事業者を保護するために制定された法律です。下請法第3条では書面交付義務を定めており、条件に該当する場合は発注内容を明記した書面(3条書面)を作成し、交付しなくてはなりません。

3条書面として、注文書や発注書を兼用して利用するケースが一般的です。

注文書や発注書はいつまでに交付すべき?

下請法では、3条書面を「直ちに」交付するよう定めています。直ちにとは「すぐに」「即時に」の意味で、発注側の事業者は契約が成立してからすぐに書面を交付しないと、下請法違反です。

3条書面をすぐに交付しなかった場合、最大50万円の罰金が科されてしまう恐れがあります。このため、契約実務では注文書・発注書・3条書面を兼用してあらかじめ準備しておき、委託と同時にすぐ交付できるような体制にしていることが一般的です。

あまり一般的ではないものの、3条書面と注文書や発注書を別々に交付するケースもあります。この場合、3条書面を先行してすぐに交付していれば、注文書や発注書はあとから交付しても問題ありません。

注文書や発注書なしでの口頭発注は違法?

口頭発注とは、書面の取り交わしを行わず、口頭で発注することです。民法第522条では、たとえ口頭であっても、契約内容について双方が合意しているなら、契約は成立すると定められています。

ただし、下請法が適用される取引では、必要事項を記載した書面を発注側が交付することが必須です。口頭のみで書面を交付せずに発注をすると、法律違反とみなされる恐れがあります。

また、口頭発注では、以下のようなトラブルが発生する恐れもあります。

  • 注文内容の聞き間違い・言い間違い
  • 受注処理の遅延
  • 取引内容や条件に関する発注者・受注者での認識の違い

下請法を遵守するためにも、口頭発注で起こりやすいトラブルを回避するためにも、注文内容を記載した書面を交付することが望ましいです。

下請法に関しては、以下の記事でさらに詳しく解説しています。より深く知りたい方はご参照ください。

下請法で注文書をあとから交付するのは違法?

注文書をあとから交付すると違法になるのか、複数のケースを解説します。

実際の発注日のあとから注文書を交付する場合

注文書を実際の発注日のあとで交付したとしても、必ずしも違法にはなりません。下請法では、注文書・発注書の交付タイミングに関する規制はないためです。

ただし、下請法第3条で定められている書面に関しては、すぐに交付することが必須です。よって3条書面を交付せずに、あとで注文書を発行・送付した場合は下請法違反です。

また、3条書面を発注書や注文書と兼用している場合も、すぐに交付しなくてはならず、あとから交付するのは下請法違反となります。

口頭発注のあとから注文書を交付する場合

口頭発注をすること自体は、下請法に違反する行為ではありません。口頭ではスピーディーに注文できるため発注忘れを防止でき、メールなどとは異なり相手の意思をその場で確認できます。

取引内容に関してお互いに同意していれば、原則として口頭のやり取りのみでも契約を成立させることが可能です。

ただし、下請法では3条書面を交付することが義務付けられているため、口頭発注をしたあとすぐに書面を交付しなくてはなりません。

また、口頭発注は「言った、言わない」の問題が発生しやすい面もあります。トラブルを防止するためにも、取引内容を明記した注文書を交付する必要があります。

発注内容をあとから変更して注文書を交付する場合

発注内容を変更して注文書を交付する場合、下請法違反になる恐れがあります。具体的には、以下の例です。

  • 下請事業者に責任がないにも関わらず、発注内容を変更する
  • 下請事業者の利益を不当に害する目的で、発注側が発注内容の変更や取り消しをする

一方で、注文書の内容にミスがあったため、訂正して発行したい場合もあると思います。この場合は、できるだけ新しい注文書を再作成しましょう。注文書は修正ペン・修正テープなどで修正すると文書自体の効力がなくなってしまうためです。

再発行が不可能な場合、ミスをした箇所に二重線を引いたうえで訂正印を押し、余白部分に正しい内容の記入をします。訂正印は、その書類で使用されたものと同一の印鑑である必要があります。

下請法で注文書をあとから交付した場合の罰則は?

下請法において、注文書をあとから交付した場合などに関して、罰則が定められています。

注文書をあとから交付した場合の罰則

発注側が3条書面をすぐに交付しなかった場合、あるいは3条書面と注文書・発注書を兼用した書面をすぐに交付せずあとで交付した場合、下請法第3条違反となります。

下請法第3条に違反すると、発注側の事業には最大50万円の罰金が科されます。また、発注側である法人のみでなく、法人の代表者や代理人、その他の使用者にも罰金が科される点にも注意が必要です。

禁止行為が発覚した場合の罰則

下請法では、発注側の事業者に関する禁止行為を定めており、これらが発覚した場合にも罰則が定められています。具体的な禁止行為は、以下のとおりです。

  • 注文した物品などの受領の拒否
  • 下請代金の支払い遅れ
  • 事前に定めた下請代金の減額
  • 受け取ったものの返品
  • 買いたたき
  • 物や役務の強制購入・利用
  • 報復措置
  • 対価の早期決済
  • 割引が難しい手形の交付
  • 金銭・労務の提供要請
  • 費用負担のない注文の変更あるいはやり直しの強制

上記の禁止行為が発覚すると、公正取引委員会から勧告をされてしまいます。勧告のあとに公正取引委員会のホームページで企業名や行為の内容などが公表され、企業の信頼を失いかねないため、注意が必要です。

下請法の適用を受けるかの判断基準

自社の取引が下請法の適用を受けるか、気になる方もいるでしょう。下請法の対象かどうかは、取引内容、発注側事業者や下請事業者の資本金によって決まります。

取引内容発注側の事業者の資本金下請事業者の資本金
  • 製造委託
  • 修理委託
  • 情報成果物作成委託(プログラム作成)
  • 役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理)
3億円超3億円以下
  • 情報成果物作成委託(プログラム作成を除く)
  • 役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理を除く)
5,000万円超5,000万円以下

たとえば製造委託であれば、発注側の企業の資本金が3億円超、下請事業者の資本金が3億円以下の場合、下請法の対象です。プログラム作成を除く情報成果物作成委託の場合、発注側の企業の資本金が5,000万円超、下請事業者の資本金が5,000万円以下の場合、下請法が適用されます。

下請法では注文書だけでなく見積書も必要?

見積書とは、売り手側が金額や納期の概算を示す書類です。下請法に関して、注文書・発注書だけでなく、見積書も必要なのか疑問に思う方もいるでしょう。

見積書は義務ではないがあったほうが良い

下請法では、見積書に関する規定はないため、発行をしなくても下請法違反にはなりません。ただし、以下の理由から、見積書は作成することが望ましいです。

  • 3条書面を作成しやすくなる
  • より良い条件の取引を選択できる
  • 金額や仕様に関する認識の誤りを防止できる

3条書面では委託内容を記載する必要がありますが、見積書があると具体的な内容を記載でき、委託内容も明確になります。

複数の業者から見積書を取り寄せることで、発注側はより良い条件の取引を選びやすくなるのもメリットです。納期や金額などを比較し、最適な業者を選べます。

また、見積書を発行することで、委託内容に関する認識の相違を防止できます。口頭の合意だけでは、納期や仕様に関する誤解が発生する可能性がありますが、見積書として残すことで未然に防止可能です。

見積書も保存義務がある

見積書も注文書や発注書と同様、「証憑書類」の1つです。証憑書類とは、取引が実際にあったことを客観的に示す証拠となる書類を意味します。

証票書類は一定期間の保存義務があり、法人の場合は原則として7年、赤字決済の場合は10年保管する必要があります。下請法とは関係なく、見積書は保管する義務があることを忘れないようにしましょう。

下請法で注文書をあとから発行する場合は注意が必要

下請法では3条書面を発行する義務はありますが、注文書に関する規定はありません。よってあとから交付したとしても、必ずしも下請法違反にはなりません。

ただし、3条書面と注文書や発注書を兼用している場合は、契約成立後にすぐ発行しないと下請法違反になるため、注意が必要です。3条書面の発行義務に違反すると、最大50万円の罰金が科されます。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事