- 作成日 : 2025年3月25日
下請法の違反事例は?公正取引委員会による調査や罰則について解説
下請法とは、立場や資本力が優位な発注者による資本力の小さい受注者に対する不正な取引を防止する法律です。下請法は、取引内容と資本金の規模を判断基準として適用されます。
本記事では、下請法の概要や親事業者に発生する義務、よくある下請法違反の事例、公正取引委員会から調査の連絡を受けた場合の対応も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
下請法とは
まずは下請法について見ていきましょう。下請法は、資本力が大きく立場の優位な親事業者によって、資本力の小さな下請事業者(受注者)へ不当な取引がなされることを防止するための法律です。立場が弱くなりがちな中小零細企業や個人事業主を守る法律といえるでしょう。
下請法では、下請取引を次の2つの側面で定めています。
- 取引の内容
- 発注する側と受注する側の資本金
以下では、詳細について解説します。
取引内容と資本金の規模により適用される
下請法の適用となる取引は、次の通りです。
- 製造委託:他社にものの製造や加工業務について発注する取引
- 修理委託:他社へものの修理を委託する取引
- 情報成果物作成委託:他社にプログラムやデザイン、コンテンツなどの作成を委託する取引
- 役務提供委託:他社に運送や倉庫保管、情報処理などの顧客向けサービスを委託する取引
資本金の規模は、次の通りです。
親事業者 | 下請事業者 | 委託内容 |
---|---|---|
資本金3億円超 | 資本金3億円以下 | 製造委託 修理委託 情報成果物委託(コンピュータプログラムの作成に限る) 役務提供委託(委託運送、倉庫での物品保管、情報処理サービスの委託) |
資本金1千万円超~3億円以下 | 資本金1千万円以 | |
資本金5千万円超 | 資本金5千万円以下 | 情報成果物委託(コンピュータプログラムを除く) 役務提供委託(運送・情報処理・倉庫保管を除くサービスの委託) |
資本金1千万円超~5千万円以下 | 資本金1千万円以下 |
「超」「以下」という言葉については、正しく理解しておく必要があります。
- 5千万円超:5千万円は含まれない
- 3億円以下:3億円が含まれる
どこに属するのか正確に理解するためにも、言葉の理解も深めておきましょう。
下請法により親事業者に発生する義務
下請法により親事業者に発生する義務は、次の4つです。
- 発注内容の書面交付
- 支払期日の設定
- 取引内容の記録と保存
- 遅延利息の支払い
それぞれ詳しく見ていきましょう。
発注内容の書面交付
1つめが、発注内容の書面交付の義務です。親事業者は下請事業者に対し発注内容を記した書類を交付する必要があります。
支払期日の設定
2つめの義務が、支払期日の設定です。納品日またはサービス提供日から60日以内で下請代金の支払期日を定める義務を負うことになります。
取引内容の記録と保存
3つめが、取引内容の記録と保存の義務です。親事業者は取引内容を記載した書類を作成したうえで、保存(2年間)しなければなりません。
遅延利息の支払い
4つめが、遅延利息の支払い義務です。下請代金を支払期日までに支払わなかった場合、下請事業者に遅延利息を支払う義務が生じます。
よくある下請法違反の事例
下請法では、下請取引の公正化および下請事業者の利益保護のため、次の11項目の禁止事項が親事業者には定められています。
<親事業者の禁止事項>
- 受領拒否
- 下請代金の支払遅延
- 下請代金の減額
- 返品
- 買いたたき
- 購入・利用強制
- 報復措置
- 有償支給原材料等の対価の早期決済
- 割引困難な手形の交付
- 不当な経済上の利益の提供要請
- 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し
ここでは、上記の禁止事項に対してよくある違反例を紹介します。
受領拒否
受領拒否とは、責任が下請事業者にないにもかかわらず、発注した商品を親事業者が納品時に受け取らない行為を指します。
<事例>
親事業者は下請け業者に部品の製造を委託しており、下請事業者は依頼にしたがって受注部品を完成させていました。しかし、親事業者が生産計画を変更したことを理由に納期の延期を通知し、最初に決めていた納期において部品を受け取らなかった事例です。
下請代金の支払遅延
下請代金の支払遅延とは、物品受領後やサービス提供後の定められた日(60日以内)までに、下請代金を支払わないことです。
支払期日までに下請代金の支払いがなければ、 従業員への賃金支払いができなくなったり、材料代の支払いが困難になったりすると倒産に追い込まれる可能性もあるでしょう。それを防止する意味で、支払遅延が禁止されています。
<事例>
親事業者はコンピュータプログラムの作成を下請事業者へ委託していました。しかし、次のような支払制度を採用していたため、結果的に給付受領後60日経過後の支払いとなってしまい下請法違反となった事例です。
- 毎月末日検収締切
- 翌々月25日支払
買いたたき
買いたたきとは、下請代金の設定が一般的な市場価格から大幅に低い金額にされることです。下請代金が通常支払われる対価に比べて著しく低い場合、下請事業者の利益を損なう恐れがあります。それを防止することが目的です。
<事例>
機械部品の製造を下請事業者に委託していた親事業者は、単価の決定にあたり下請事業者に次のような見積もりを提出させました。
- 1個
- 5個
- 10個
そのうえで、10 個製作する場合の単価として、通常1個製作する場合の対価を大幅に下回る単価で1個あたりを発注し下請法違反となった事例です。
割引困難な手形の交付
割引困難な手形の交付とは、下請代金への支払いにおいて、一般的な金融機関では割り引くことが困難な手形を交付することで下請事業者の利益を不当に害する行為です。
<事例>
親事業者は下請事業者に対して衣料品製造を委託しており、手形期間が90日(3ヶ月)を超える手形を交付しました。繊維業においては、90日を超える手形期間の手形が割引困難な手形とされており、下請法違反に該当します。
不当な経済上の利益の提供要請
不当な経済上の利益の提供要請とは、下請事業者に対して取引継続などをちらつかせることで、親事業者のために金銭や役務などの経済的利益を提供させることです。
<事例>
親事業者は、衣類製造を委託している下請事業者に年度末の決算対策として、協賛金を指定口座に振り込ませ下請法違反となった事例です。
親事業者に下請法違反の疑いがある場合、公正取引委員会の調査が行われる
親事業者に下請法違反の疑いがある場合、公正取引委員会による調査が行われます。公正取引委員会による調査内容は、以下の通りです。
- 下請法が適用される取引についての報告の要求
- 事務所への立ち入り調査
公正取引委員会による報告の要求および検査は拒否できません。もし報告を拒否したり、虚偽報告や検査妨害を行ったりした場合は、刑事罰の対象となるため注意しましょう。
公正取引委員会から調査の連絡を受けた事業者の対応方法
公正取引委員会から下請法違反で調査する旨の連絡を受けた事業者がとるべき対応方法について解説します。調査連絡を受けた場合は、以下の対応をとりましょう。
- 事実確認や社内調査を行う
- 弁護士への連絡する
- 調査へ対応する
- 対外的発信も検討する
まずは、指摘された取引内容を調査し、事実確認を行いましょう。取引に関与した従業員などから事情聴取を行うほか、どの程度の違反であるのかなどを確認してください。
どのように対応すべきかについては、専門家に意見を求めることが重要です。法律の専門家である弁護士にも助言を求めましょう。
調査当日は、下請法の対象となった取引担当者や責任者を同席させ、調査官の指示に従って調査協力してください。検査を拒否したり、妨害・忌避したりする行為は刑事罰の対象です。
下請法違反による処分が予想される場合、事実が報道される可能性が高いため対応状況を対外的に発信することも検討しましょう。適切な情報開示が株主や取引先との信頼回復につながります。
下請法違反が発覚した場合の罰則
下請法違反が発覚した場合の罰則について解説します。違反が発覚した場合、公正取引委員会は違反親事業者に対して違反行為の是正、指導などを行います。
勧告した場合は、原則として次の内容が公表されることになるため注意しましょう。
- 事業者名
- 違反事実の概要
- 勧告の概要 など
下請法違反が公表されると、対外的な信頼にも大きな影響を与えます。違反の可能性が疑われる場合には、その後の対応についても協議しておくことが重要です。
また、下請法違反に対する罰則は両罰規定であるため、次のような違反があった場合は代表者・行為者個人だけでなく、会社も罰せられることになります。
<罰則事由>
- 書面の交付義務違反
- 書類の作成および保存義務違反
- 立入検査に対する拒否、妨害、忌避
- 報告徴収に対する報告拒否、虚偽報告
下請法についての理解を深めて違反に注意しよう
下請法とは、立場や資本力が優位な発注者による資本力の小さい受注者に対する不正な取引を防止する法律です。下請法によって親事業者には、発注内容の書面交付や支払期日の設定などの義務が発生するため注意しましょう。
下請法では、11項目の禁止事項が親事業者には定められています。知らない間に違反していたとならないように、各内容をしっかりと理解しておくことが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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